岩本薫、中村明日美子『BL進化論サロン・トーク~VOL.1』レポート

岩本薫先生、中村明日美子先生が登壇した『<溝口彰子BL研究20周年記念>フューチャーコミックスPRESENTS~BL進化論サロン・トーク~VOL.1』をレポート!

2018年4月14日(土)、東京・六本木にて、『<溝口彰子BL研究20周年記念>フューチャーコミックスPRESENTS~BL進化論サロン・トーク~VOL.1』が開催。

『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』(宙出版)の著者・溝口彰子さんが、同作で対談したクリエーターの中から、小説家・岩本薫先生、マンガ家・中村明日美子先生をゲストに迎え、「BLだからできることーー小説とマンガ、それぞれの地平から」というテーマをもとに、業界の変化やBL作品が生み出される過程などを語った貴重なトークの模様をご紹介します!

溝口さんは、BLと女性のセクシュアリティーズをテーマに博士号を取得し、BL論のみならず、映画、アート、ジェンダー・セクシャリティー、クィア領域研究倫理などについて論文や記事を執筆。

学習院大学大学院など複数の大学で講師も務め、2015年に発売された『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版)が初の著書となります。

その第2弾となる『BL進化論[対話篇]』では、今回のゲストのおふたりに加え、小説家・榎田尤利/ユウリ先生や漫画家・ヨネダコウ先生など、10名のBLクリエーターらと対談。BLの進化と社会との関係を考察した対話集となっています。

榎田尤利/ユウリ先生がつないだ縁で実現?

 
今回のトークショー開催について、株式会社フューチャーコミックス 代表取締役の石黒健太さんとあいさつを行った溝口さんの呼び込みで、岩本先生と中村先生が温かい拍手に包まれ登壇。

溝口さんが、トークショー初出演となる岩本先生から、事前に「溝口さんに、お初をとられたわ」という連絡があったことを明かすと、会場からは笑いが。普段から親交のある岩本先生と中村先生のなれ初め(!?)については、「岩本先生の何かお祝いの時だっけ?」と中村先生が話し始めると、「違うよ」とすかさず岩本先生から突っ込みが入ります。

実際は、『BL進化論[対話篇]』にも登場された榎田先生の単行本100冊刊行記念パーティーがきっかけで、3人でホテルに宿泊し、サプライズケーキでお祝いしたとのこと。

その際のエピソードを丁寧に語る岩本先生に対し「よく覚えてるね」と感心する中村先生、おふたりの気心知れたやりとりが展開されます。さらに、溝口さんと岩本先生、中村先生をつなげたのも、なんと榎田先生。クスリと笑えるエピソードに会場の雰囲気がほぐれたようでした。

今年は、岩本先生がデビュー20周年、中村先生は『同級生』(茜新社)シリーズ10周年ということもあり、まずはお2人のデビューについて話が及びます。

岩本先生は、元々グラフィックデザイナーとして働いており、作家と兼業していた時期も。デザイナーとしての「限界を感じた」時、子供の頃の夢だった漫画家を始めるには年齢的に難しそうと感じたため、「小説はどうかな?」と考え、当時高価だったワープロを購入し「やるしかない!」と始めたことを告白。

書き始めて3年くらいが経ち、誰かに作品を見てもらいたいということで雑誌『小説b-Boy』(ビブロス、現リブレ)に投稿、みごと新人大賞の期待賞を受賞しデビューすることに。

小説を書く前から、「堅気のふりをしながら、妄想はしてました」とBLの素養があったことを認め、中村先生はそれに対し、結果的に小説に生かせて良かったのではないかと分析していました。

一方、中村先生は雑誌『マンガ・エロティクス・エフ』(太田出版、現在休刊)で同性愛表現もある作品を描いていたところ、雑誌『OPERA』(茜新社)からの依頼があり、それがきっかけでBL誌へ。

自身が腐女子かどうかの線引きは「微妙なところだった」と答えつつ、『同級生』は王道ながら、LGBT問題など現実社会における要素を織り込んだ、「自分としては少し特殊な作品」であり、一方で『薫りの継承』(リブレ)などの作品では、「いま描いてみたい」と感じる、性癖の方向性を読者に問うような内容であることを語りました。

作品の裏話も盛りだくさん!

テーマである「BLだからできること」として、溝口さんは、女性のBL読者がBLにおける性癖や“萌え”を、同じ“萌え”を持つ女性読者や、“萌え”の提供者である女性作者らと共有、脳内で交流していることについて触れました。

“萌え”を享受する側であり、提供者でもある岩本先生は、自身の好きな内容を反映した作品が、執筆当時に共感を得られない場合も何年後かに人気ジャンルになることもあるという実例として、登場人物が人狼である『発情』(リブレ)シリーズの話題へ。

 
『ウルフガイ』(作:平井和正/画:坂口尚)シリーズの影響を受け、人狼が登場する作品を書きたかったものの、人狼は当時ニッチジャンルで担当編集者から反対されたこと、よって人狼が登場することを伏せ、エロを強調した販売戦略が取られたことなどが赤裸々に語られ、その後やって来たケモミミブームに驚いたこと、人狼を前面に出したセールスアピールに変化していったことなどを振り返っていました。

中村先生は『同級生』を描くにあたって、当時は男子校を設定にした作品の人気が落ち着き始めていたものの、自身としてはその設定にしたほうがBLへの展開が無理なく描けたこと、それ以前は耽美的な作品を描くイメージを持たれることも多く、柔らかいイメージの作品も投稿を続けていたが、掲載される機会がなかったため直球の恋愛模様を描こうと思ったこと、BLのお約束的な設定も踏まえつつ現実とのギリギリのラインを狙って描き始めたことなど、意識していることにも言及。

『同級生』の第一話は、実は「メガネ特集」での依頼だったことや、中村先生と担当編集者とのエピソードも飛び出し、笑いを誘っていました。

溝口さんは、『同級生』が現実社会に沿ったLGBT問題を含むことで、それまで意識していなかった読者に対しての問題提起になり得ること、岩本先生の作品は、作中で描かれる環境や社会など、外的要素がリアルな中で、夢や幻想という意味でのファンタジー要素が堪能できるハイブリッドな作品になっていることを絶賛。

岩本先生は照れながらも、リアル感とファンタジー感のバランスについては、あくまで自身の感覚によるところが大きく、どうすると良くなるなどの説明や技術として教えることは難しいと語りました。

また、『同級生』アニメ化、『ダブルミンツ』実写化というふたつのメディア化を経験した中村先生に、アニメ化と実写化で異なる点を質問。中村先生は、その違いとして、まず制作費を挙げていました。

 
意外なことに、中村先生の経験した例だと、実写よりもアニメ、アニメでもTV版より劇場版の方が制作費が高く、アニメでは制作費の差は、作画の背景に違いが出るのだとか。準備期間は同じくらいでも、制作期間は実写ではギュッと短期間に、アニメでは長期間の作業になるという違いも。岩本先生も興味深そうに相づちを打ち、漫画とアニメ、小説と実写というそれぞれの親和性や、作品によってアニメ化・実写化の向き不向きがあることにも話題が広がります。

小説原作のアニメ作品として、溝口さんは『間の楔』(吉原理恵子)を挙げ、過去に溝口さんが協力したクロアチアで開催されたアート・フェスティバル「クイア・ザグレブ」では、劇場版アニメ『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』(原案・監督:幾原邦彦/原案・漫画:さいとうちほ)と共に上映し、好評だったと思い返していました。

 
さらに、溝口さんは岩本先生の『タフ』(リブレ)などのドラマ化を熱望。ただし、BL作品を実写化するには俳優側のハードルが高く、出演者を見つけることが難しいとしながら、出演者確保のアイデアなどについても盛り上がっていました。

 
最後のトークテーマは、BLの今後について。中村先生は、BLを読んだことのない人でも楽しめるライトな作品と、これまでの決まり事を踏襲した作品の二極化に進むのではないかと予測し、岩本先生は、「作品に癒されます」というファンレターが増えたといい、女性の社会生活においてもBLの存在意義があるのではないかと持論を展開。

溝口さんは重ねて、『同級生』のような“胸キュン”でありながら現実社会に則した若い世代へのモデルとなり得る作品、『ダブルミンツ』などのような女性を排除した世界での男性同士の緊密なホモソーシャルを描き切ることで批評性を持ち男性読者にも訴える作品、岩本先生が描くような“奇跡の恋愛”を感じられるエンターテインメント性の高い作品は、それぞれに高い技術力を必要とするが、もしも今後、ゲイ男性のBLクリエーターが増えたとしても、女性作家による作品がなくなることはないと考えられると締めくくりました。

タメになる! 小説&漫画の創作解説

そして、後半からは岩本先生の『発情』シリーズ最新作『烈情 皓月の目覚め』のプロットと、中村先生の『同級生』シリーズ最新作「blanc(ブラン)」のネームと実際の原稿を元に、作品をどう完成させていくかを解説。

岩本先生のプロットは、キャラクターのセリフなども交えた比較的作り込んだ形で、「256ページが基本」のBL小説で展開が分かりやすいように章分けしていることや、クライマックスは書き急がないように時間を掛けていることなどに触れました。また、小説において、学生モノはプロットが通りにくくなっているなどの難点も含め、実践的な内容も明かされました。

プロットにセリフを入れることでキャラクターが作りやすくなることや、プロットの段階で完成形に近すぎると、執筆を始めた時にモチベーションが続かなくなること、また、クライマックスでは書き急ぎすぎると勢いだけになって読了感が物足りなくなってしまうなど、具体的な経験談も語られ、最後に「プロットは大事」とあらためて強調。

漫画と違い、文字だけで表現するため、プロットの段階で「攻めがカッコよくない」と担当編集者からダメ出しされることも多いそうです。中村先生も、漫画に置き換えて共感したり、小説ならではの手法の話に聞き入ったりしていました。

続く中村先生は、プロットを残す習慣がないということで、ネームをもとに解説。中村先生は、ネームから担当編集者に見せるそうですが、岩本先生のように文章で書いたプロットを見せる漫画家の方もいるということで、小説と同様にプロットの書き方は人それぞれだと分かります。

トーンの貼り方で空間の奥行きを表現したり、コマをまたいで吹き出しを入れることで重要度の高いセリフや時間のズレを表したり、足や口をアップにすることで互いのスレ違いなどを表現しているとのこと。表情の変化をじっくり見せたい時は同じ構図の横顔を並べる手法は、よしながふみ先生も多用しているそう。また、「ココぞ!」という大事な時や決定的な時に逆光を使ったりするというテクニックも。

これらを意識しながら作品を読むと面白さも増し、自身で創作する方にはとても参考になる内容となりました。

休憩中には、「ボーイズファン」の電子配信作品が読めるコーナーも人気でした。その後の質疑応答でも、両先生は技術面についてや、編集者から言われて覚えている言葉など、ファンの質問に回答。

約2時間30分に渡り、思わず笑ってしまうようなエピソードから頷いてしまう話までざっくばらんに語られたイベントは、盛況のうちに幕を閉じました。

[取材・文/小澤めぐみ]

 

営業職を経験後、記者・編集業務に携わりフリーへ。男性声優を中心に、漫画、アニメ、外ドラ、BLなど浅く広く好奇心は一人前。飲食、旅行、音楽、(ヘタだが)写真撮影、話を聞くことも好きで、近年の自粛生活は苦痛。最近のお気に入りは『薬屋のひとりごと』『異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。』。王道モノから西東問わず歴史モノなど“ファンタジー”や“ミステリー”が好物。今はもっぱら藤沢朗読劇中毒

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小澤めぐみ
営業職を経験後、記者業務に携わりフリーへ。主に男性声優、漫画、アニメなど浅く広く…今はもっぱら藤沢朗読劇中毒

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