『ニンジャバットマン』水﨑淳平監督✕脚本・中島かずきさんにインタビュー!「この人、頭おかしいから」「あなたにだけはいわれたくない」
世界から熱望されている日本のトップクリエイターたちが、世界中で愛される米国のキャラクターたちをベースに“悪vs正義”の時空を超えた壮大なバトルを描く、話題の戦国タイムスリップ・アクション・エンターテイメント『ニンジャバットマン』が6月15日(金)に公開となります。
今回、そんな本作で監督を務めた水﨑淳平さん、脚本を務めた中島かずきさんへのインタビューを実施。DCコミックスを代表するヒーロー『バットマン』を日本でアニメ化することに決まった経緯や、こだわり抜いたポイントまで、盛りだくさんの内容をお届けします。
※インタビュー記事に劇場公開後に公開可能情報の追加
※ネタバレがありますので、ご注意ください
『バットマン』が日本の戦国時代にタイムスリップ!?
――今回の『ニンジャバットマン』という企画のスタートは、どのような形でスタートしたのでしょうか?
脚本・中島かずきさん(以下:中島):いつ頃だったか、ワーナーさんからプロデューサーの里見さん(里見哲朗さん)の方に、「日本オリジナルのバットマンのアニメが作れないか」という打診があったそうなんです。それで僕と水﨑さん、それとキャラクターデザイナーの岡崎能士さんに、ほぼ同じタイミングで声がかかったという形でした。
DCコミックスさんからの「バットマンを日本のアニメのスタイルでつくりたい」というオーダーを「オレらにはつくれない、誰も見たことないバットマンを頼むよ」だと解釈して、オーダーに忠実にプロデュースしたのが「ニンジャバットマン」なのですけど、DCさんの寛容さには制作中何度も驚かされましたね
— 里見 哲朗 (@satomit) 2018年6月17日
――「忍者」を取り入れるということは、初めから決まっていたのですか?
中島:ええ、『ニンジャバットマン』というタイトルはありましたが、それがどういうものなのかは決まってなかった。戦国時代の日本にバットマンのようなヒーローがいたのかもしれない。現代のゴッサムのバットマンが忍術を覚えて戦うのかもしれない。
でも、どうせ日本独自で作れるのならパラレルワールではなくDCユニバースの本物のバットマンの物語を書きたい。だったら、現代のバットマンが戦国時代の日本にタイムスリップするのが一番面白いな。そういう仕事ならぜひやりたい。最初の打ち合わせの段階で、大体のプロットは完成したんじゃなかったかな。
――かなりのハイペースですね。『バットマン』という作品については、お二人はどれくらいご存知でしたか?
監督・水﨑淳平さん(以下、水﨑):凄く詳しいというわけではなくて、僕は89年公開の映画のティム・バートン版からスタートしたタイプですね。日本にメインカルチャーとして『バットマン』が入ってきたタイミングです。ガジェット好きの僕としては、バットモービルとかバットポットとか、そういうテクノロジーに凄く憧れたんですよ。ティム・バートン版の流線型のバットモービル、いいですよねぇ。
実は今回のお話しをいただいたのと同じタイミングで、近くのショールームに六分の一サイズのバットモービルが置いてあったんですよ。それが欲しいな、と思っていたタイミングでのお声がけだったの、「よっしゃ、経費で落とせる」と、こっそり喜んでました(笑)。
一同:(笑)。
中島:僕の場合は、子供の頃に見たTVシリーズのアダム・ウェスト版が最初ですね。だから「バットマン」っていうと、ポップでユーモラスな作品のイメージを持ってたんですよ。実は、バットマンはダークヒーロー的な存在だって分かったのは、それから7,8年後くらいでしたね。
『ダークナイト・リターンズ』は衝撃的でしたね。それまでのイメージから一転して、バットマンが反体制を掲げたビジランテ(自警団)のように描かれていたり、国家側に属するスーパーマンがそれを止めようとしていたりしていて。アメコミもここまで来ているんだと、驚いたのを覚えています。
水﨑:そうなんですよね。僕だってティム・バートン版から見始めたタイプとはいえ、アダム・ウェスト版のTVシリーズを知らなかったわけじゃないですから。あのカルチャーは横目に見ながら生きてきたので、『バットマン』には、ポップでユーモラスな身近なヒーロー、というイメージを持っていたんですよ。
――『バットマン』の魅力というのは、どういった部分だと考えていますか?
中島:バットマン/ブルース・ウェインは、たしかにシリアス寄りのヒーローなんですけど、それだけじゃないのがアメコミの面白さだと思うんです。そういう意味では、アダム・ウェスト版のような、ああいう陽気で楽しい雰囲気の『バットマン』があってもいいんじゃないかなと。キャラを変更するのではなく、作品全体のテイストとしての話ですが。
特にジョーカーは、今だと哲学的なヴィランのようなイメージがありますが、そうじゃない陽気な愉快犯であるジョーカーのいる世界だってあってもいいと思うんです。せっかく日本オリジナルで作るわけですから、そういう面白さの振り幅を表現できたら楽しいんじゃないかと考えて『ニンジャバットマン』を考えたわけです。
――監督の方はいかがですか。
水﨑:いやあ、全部いわれてしまいましたね(笑)。
一同:(笑)。
水﨑:付け加えるなら、『ダークナイト』シリーズにあるシリアスなカッコよさというのは好きなんですよ。クリストファー・ノーラン(監督)の作品は、「表現手法として『バットマン』をこう捉えました」という一つの正解だとは思うんです。だけど必ずしもそれが『バットマン』の本質ではないと思っていたので、『ニンジャバットマン』では、あえて陽気な作品を目指してみました。まあ、最初に呼ばれたのが僕に中島さんに、それに岡崎さんでしたからね。この顔ぶれが並べば、どんな作品を求められているのかは察しちゃいますよね(笑)
一同:(笑)。
中島:そうなんですよ。過剰な脚本家と、過剰な監督と、過剰なキャラクターデザイナーが呼ばれたわけですから。こういう作品にならないわけがないんです。(笑)
「この作品で、より日本を誤解してもらいたいと思っています」
――全編を通して、外国人が好きそうな日本のテイストがふんだんに盛り込まれているように感じたのですが、意識した部分はあるのでしょうか?
水﨑:意識したというよりも、『ニンジャバットマン』は明確に海外の『バットマン』ファン、海外のアニメファンに見てもらいたいと思って作っているんですよ。
中島:日本での公開は、おまけぐらいに考えていましたよね。(笑)。
水﨑:そういうこともあって、今回はちょっと露骨というか、ほかのアニメを作る時にはしないようなこともやっているんですよ。過剰なまでに、日本風、を押し出した感じにはなっていると思います。というのも、ハリウッド映画に出てくる日本って、実際に住んでいる僕らからすると間違っていることが多いじゃないですか。
――忍者とか侍というのは誤解されている部分がありますよね。
水﨑:だけど、あれってすごい面白いじゃないですか。『ニンジャバットマン』では、それをさらに拡大してしまおうと考えたわけです。僕ら日本人が自ら発信することで、より日本を誤解してもらったら楽しいんじゃないかなと思ったわけです(笑)。
――誤解されたままでいいんですね(笑)。
水﨑:「どうせ日本のことこう思ってるんでしょ?」というのを、自虐的にまで拡大した形ですね。とはいいつつも、最近は日本のことをしっかりと知ってくれている人も増えているんですよ。そういう人たちが見てくれたときに、「いや、流石にそれはないだろ!?」とツッコミを入れてくれることを見越して作った部分もあります。あえてお客さんからツッコミを入れてもらって、何度も見て笑ってもらえる作品になったら嬉しいな、と思っています。
中島:やるからには徹底的に拡大解釈したほうが、こういう作品は絶対に面白くなりますからね。日本のアニメーターの、それもかなり偏ったアニメーターたちの全力を尽くさせてもらいました(笑)。
打ち合わせも楽しかったですよ。誰かがアイデアを言ったら誰かがその上に乗っける。他人の意見を否定せずに自分の意見を出して、とにかく足していくんです。
水﨑:誰も引き算を知らないんですよね(笑)。だったらこうしよう、それならここはこうしちゃおう、の繰り返しで(笑)
中島:あの過剰さが我々の最大の武器ですよね。この作品ではそれを活かすことが出来ましたよ。
――まとめるのは大変じゃなかったですか?
中島:それは、水﨑さんの仕事ですから……。
水﨑:いや、実はそうでもなかったんですよ。みなさんプロなので、本当に出来ないことは始めから誰も口に出したりしませんでしたから。……ただまあ、一通り完成したシナリオを持ってワーナーさんを説得しにいくのは怖かったですねえ。(笑)
一同:(笑)。
オーダーどおりなんだから当たり前だと思われるかもしれませんけど。「自由に」とか「好きに」といわれてそのとおりにやって怒らないクライアントさんというのはとても希少なので、「ニンジャバットマン」が今のかたちで完成をむかえられたのはDCコミックスさんのおかげがとても大きいです。
— 里見 哲朗 (@satomit) 2018年6月17日
日本発のアメコミはロボに乗る!?
――ちなみに、打ち合わせをしていく中で、一番盛り上がったのはどんなところだったのでしょう?
中島:それはもちろん、あれですよ。里見プロデューサーが最初にいったんです。日本人がアメコミのヒーロー作るんだから、海外の人はロボットに乗せると思ってるはずだ」とね。(笑)
水﨑:まあ要するに東映版『スパイダーマン』(1978年)のアレ(レオパルドン)です。(笑)(註1)
一同:(笑)。
中島:「おっしゃる通りです」と僕たちも乗っかりまして、やることに決まっちゃいました。もうね、水﨑さんの目がキラキラしてるんですよ。「なら五城合体ですよね!」とかいい出すものだから、ワーナーさんに持っていく前にみんなで何回も確認したんです。「本当にいいんですね? あなたがいい出したことですからね!?」って(笑)。
――その結果があのキング・ジョーカー(お城ロボット)なわけですね。
中島:やるってなったからには、今度はバットマンがどうやってそれと戦うかを考えることになりまして。「じゃあ、猿が合体しましょう」と僕がいったんです。周りはみんなキョトンとしてましたね(笑)。
一同:(笑)。
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中島:ロボットといえば、その前にガジェットとかのメカ周りの話し合いも盛り上がりましたね。僕たちはとにかく全部出したいと思っていたので、バットモービルやらバットポットやら、とにかく出してしまおうと。
水﨑:その結果誰がいい出したのか、ガジェット自体を着てしまおうと。
中島:バイクがアーマーになるのはもはや日本の伝統ですからね。だったら本物にお願いしようと、荒牧伸志さんにデザインをお願いすることになりました。(註2)
水﨑:荒牧さんには初め、「バットポットのデザインをお願いしたいんです」とだけ伝えてあったんです。その後に改めてあった時に、「実はそれを着たいんですよ」という話を伝えまして。
中島:何の問題もなく、最高のものが出来上がりました。日本の伝統と叡智を結集した結果ですよね(笑)。
「ニンジャバットマン」ご覧いただけるとわかると思うのですけど、この「絶対NGなもの以外は全部OK」感がDCユニバースの豊かさになってるのだと思います。ふつうは「絶対OKなもの以外は全部NG」ですからね。
— 里見 哲朗 (@satomit) 2018年6月17日
(註1)レオパルドン:1978年放送の東映版『スパイダーマン』にて、スパイダーマンが搭乗する巨大ロボット。数ある『スパイダーマン』作品の中でも一際強い異彩を放っている、日本オリジナルの設定の一つ。
(註2)『機甲創世記モスピーダ』(1983年)や『メガゾーン23』(1985)など、バイクが変形するメカの先駆者であり第一人者。
――かなりいろんなキャラクターが作中には登場しますが、描き方として意識されたことはありますか。
中島:それぞれのキャラクターに関しては堺三保さんというアメコミに詳しい方が、設定考証を担当しているので、彼に教えてもらいました。
ゴッサムシティの有名なヴィランを戦国大名に置き換えるとなった時には、アメリカに向けた作品とはいいつつも、日本の人たちに面白がってもらえるようにと考えましたね。
明智光秀をトゥーフェイス、上杉謙信は女性説があるからポイズン・アイビー、独眼のデスストロークは伊達政宗とか、そういう配置をしていきました。ある種のお祭り映画でキャラクターが多くて深いところまでは書き込めていないんですけど、ちゃんと出ていることに意味をもたせる、ということには気を使いましたね。
土いじりのジョーカーが最高!
――実際に完成した作品をご覧になっての感想はどうでしたか?
中島:感動しました。その前に見たのがアフレコ用のコンテだったんですけど、物語の終盤に登場するジョーカーが農民になってるシーン、コンテだとかなりデフォルメされててアートアニメ的な雰囲気もあり、CGにするときに修正するのかなと思っていたら、そのイメージ通りのシーンになってて(笑)。
オールCGの作品で、ああいうのをぶっ込んでくるあたり流石だなと思いました。あの一連のシーンは、僕が脚本上で一番やりたいと思っていた部分だったんですよ。里見さんからは「長すぎるからカットして」といわれていたんですけど、「カットするなら僕は降ります」と、もう意地の張り合いでした(笑)。水﨑さんもそれを理解してくれていたので、妥協なく作っていただけて嬉しかったです。
水﨑:土いじりしてるジョーカーがまたね(笑)。
「土はいいぞ…」っていう台詞は、打ち合わせの初期から出ていたんですよ。それこそ、ロボットよりも先に。だから絶対にカットしたくなかったんですよ。お膳立てのシーンも含めて、凄く大事に作らせてもらいました。スタッフから何度も説得されそうになったんですけどね、なんとか守り抜きました。
中島:まあ、確かにちょっと長いんですよね。でもね、やりたかったんですよ(笑)。
一同:(笑)。
水﨑:完成してみて思ったのは、こういうバランスのいびつさっていうのは個性になるってことですよね。あの農民パートはあの長さじゃなくても成立はするなんですけど、なんともいえない雰囲気が感じられて、一見するとここでそのまま終わってしまうようにも思えるんですよね。
中島:とはいっても、不安がなかったわけじゃないんですけどね。アメリカで公開した時に、あのパートが面白かった、とたくさん声をいただけて、やっと安心しました。
水﨑:あそこ評判いいんですよね。アメイジングっていうのが、褒め言葉ならですけど(笑)。
――海外での反響もかなりよかったようですね。
中島:予想通りというかなんというか、いい意味でも悪い意味でも、「ふざけるなっ!」という声をたくさんいただいています。映画の評価を1から10で現すと、平均の5点が一番少なくて、1と10の評価に綺麗に別れてるんですよ。いやあ、予定通りですね(笑)。
アメリカでついに「ニンジャバットマン( Batman Ninja )」の配信がはじまりました。さっそく評価がまっぷたつに割れてますが、賛否どちらも「頭おかしい」「狂ってる」と同意見になってますね。はやく日本のひとにもご覧になってもらいたいです。
— 里見 哲朗 (@satomit) 2018年4月26日
『ニンジャバットマン』、アメリカで配信販売されて観たファンたちがつけた点が10段階評価で1と10だらけで、結果的に7点くらいになってるとか、アタマオカシイ展開になってる。( ^ω^ )
— Mitsuyasu Sakai/堺三保 (@Sakai_Sampo) 2018年4月30日
水﨑:海外のイベントで初めてお客さんの前で上映した時は不安でしょうがなかったですけどね。卵が飛んできても大丈夫なように、フライパンを用意しておこうかと真剣に考えたくらいです。良かったです、卵は飛んできませんでした(笑)。
中島:アーノルド・シュワルツェネッガーが知事選の時に生卵をぶつけられて、「次はベーコンも頼むよ」っていったエピソードがあるじゃないですか。だったら僕らはご飯でも持って行こうかなって話してたんですよね。こんな変人たちが作ってるならしょうがない、と諦めてもらおうと(笑)。だけど卵をぶつけられることもなく、ちゃんと狙った通りに盛り上がってもらえて、笑ってもらえて、本当に嬉しかったです。
水﨑:意外でしたよね。笑いのポイントが日本人とそんなに変わらなかったんですよ。
ワンダーコンでの『ニンジャバットマン』プレミア上映とトークイベント終わりました。
— 中島かずき (@k_z_ki) 2018年3月25日
4000人のファンが大いに楽しんでくれました。
一安心。
『ポプテピピック』の次は『ニンジャバットマン』を宜しく! pic.twitter.com/HD3PXyENGx
理想以上が集結した豪華声優陣
――お二人それぞれの視点から、キャスティングについて求めたことなどはあったのでしょうか?
中島:実は僕は、キャスティングにはノータッチなんですよ。気がついたら全て決まっていたんです。「こんな大御所を並べてしまってギャラは大丈夫なのか……」と後になって青ざめたぐらいです(笑)
水﨑:驚きましたよね、文句のいいようがない豪華声優陣が揃っていたんですから。僕たちは一切関わっていなかったので、理想を見せられているのだとばかり思っていましたから。そうしたら、それが本当にそのまま揃ってしまったわけですからね。
――キャスティングには関わっていないということですが、アフレコ現場を覗かれたりはしましたか?
水﨑:やはり、ベテランの方に揃っていただいたこともあって、驚くほど苦労がなかったんですよ。キャスト側はスケジュール調整など大変なこともあったと思うんですけど、少なくとも現場が滞るようなことはありませんでした。僕らは文字通りただ眺めているだけの、順調な現場でしたね。
中島:あったとすれば、コンテが完成した段階で台詞が足りなくなったことぐらいですかね。ジョーカーなんかはずっと喋りっぱなしですから、台詞を増やしたいと思うことも多くて。アフレコ現場でも高木渉さんたちに無理をいって、追加で差し込ませてもらいました。本当に、助かりましたよね。
――今回のジョーカーからは、かつて吹き替えを担当された青野武さんの雰囲気を強く感じました。その辺りに狙いはあったのでしょうか?
中島:基本的に、僕たちは高木さんが演じるジョーカーを大切にしようと思っていました。その結果ジョーカー特有の色気というか、青野さんの演じた雰囲気に近いものになったということなんでしょうね。
「この人、頭おかしいですからね」「あなたにだけはいわれたくない」
――実際に作品が完成してみて、お互いの凄さを実感したことなどはありますか?
中島:それはもう。だってこの人(水﨑さん)、頭おかしいですからね(笑)。
一同:(笑)。
中島:一番驚いたのが、「90秒も90分も一緒」といったことです。いや、一緒じゃないですよね(笑)。だけど水﨑さんは、「神風動画に期待されているのは90秒にある密度だから、90分でも同じことをやりきる」と一切妥協しなかったんですよ。その姿勢があったからこの作品は完成したし、それを体現することが出来る人なんだなと感心しましたね。
水﨑:ツッコミ待ちのようなのでいわせてもらうと、中島さん、あなたにだけはいわれたくない(笑)。
一同:(笑)。
水﨑:中島さんとは今回がはじめてのお仕事だったんですけど、もうね、最初の打ち合わせの段階で話の流れに置いていかれちゃうんですよ。
次から次へとアイディアが出てきて、まったくそれに割り込めないんです。極めつけは、ちょっとトイレにいっただけで、もう話が知らないところまでぶっ飛んでるんです(笑)。あまりにペースが早いものだから、次の打ち合わせの時、僕は何も飲みませんでした。トイレにいったら負けだと思ってましたからね。
それだけ中島さんは引き出しが多くて、しかも理由付けもスピーディなんですよ。僕もそれなりに早い自身があったんですけど、まったく叶いませんでした。
中島:いやいや、そんなことないですよ(笑)。
水﨑:あと中島さんの凄いところは、否定をまったくしないんですよ。何か別のアイディアが出た時に、「それは違う」ということをいわないんです。
中島:基本的に僕って、否定をしたくないんですよ。そうじゃなくて、どんどん意見を重ねていくのが好きなんです。打ち合わせでも、ライブ感というのを一番大事にしていて、そうやってワイワイ楽しみながら積み重ねをしていきたいんですよね。
ふつうスタッフを決めるときアクセル役とブレーキ役を組み合わせるところ、今回はアクセル役だけでチームを固めて、スタッフのみなさんがいつもどおり自然体でアクセルを全力で踏み続けた結果なので「ニンジャバットマン」は無理に過剰にしてるわけではなく単にブレーキを踏むひとがいないだけですね。
— 里見 哲朗 (@satomit) 2018年6月17日
水﨑:あと、話は変わりますが、映画の中でキャットウーマンが、「女の気の迷いを許せる男は素敵よ」というんですけど、この台詞がまた深くて。僕には絶対に思いつかない台詞だなって思いました。僕は女の気の迷いを許せないですから。きっと、いろいろな経験があってこそのことなんだなと。
中島:いや、脚本と脚本家の人生は同一ではないですからね(笑)。
水﨑:いえいえ、あんな台詞が思い浮かぶのは、やっぱり器が大きいからですよ。
中島:違うんです……。ただ、常にうまいこと言えないかと考えてるだけなんです(笑)。
一同:(笑)。
プロジェクトから降りることも考えていた
――「90秒も90分も同じ」ということですが、神風動画にとっても、『ニンジャバットマン』は挑戦だったのではありませんか?
水﨑:そうですねえ。僕もどこかで、「無理かもしれない……」という考えは、ずっと頭の片隅にありました。90分近くの作品を作るというのは、それぐらい僕自身にとっても賭けでしたね。途中で降りる可能性もあるんじゃないかと思っていました。
――実際にはやり遂げることが出来たわけですね。
水﨑:保険をかけておくのが社会人ですからね。打ち合わせの段階から、「最初の20分を一つの区切りにしたい」と伝えてあったんです。そこまで作ることが出来れば、ギブアップすることはないだろう、という風に考えていたんです。そういう考えもあったので、最初の20分にはいろいろ詰まった内容になっています。後はどうにかなりますよ。だって、その20分を何回か繰り返せばいいだけですからね(笑)。
一同:(笑)。
中島:だからいったでしょ。この人おかしいんですよ。90秒と90分が同じだって、本気で思っちゃってるんですもん(笑)。
水﨑:考え方としては、90秒と90分の間に、20分という中間地点を作ったんですよね。賢い判断だったと思います。15分の作品は何回か作ったことがあったので、あと5分ぐらいはどうにかなるだろうなと。結果として、90分の作品に仕上がりましたからね。
日本の強みはゼロからオリジナルを生み出せること
――海外での反響を受けて、日本のアニメの強みを再確認したようなことはありましたか?
水﨑:3DCGをセル画に落とし込む、という手法は、ある意味で挑戦だったかもしれません。キャラクターをCGで作って、それを背景にあわせてセル画調にするというのは、アメリカではあまり肯定的に捉えられていいないんですよ。『ニンジャバットマン』のプロモーションの時も、「CGかよ、がっかり」という反応が少なくなかったんです。日本ではそういう傾向はあまりないというか、それを取り入れたハイレベルな作品が日本には多いんですよ。
だから日本が誇る最高峰を作り上げて持っていけば、言葉尻だけで3DCGを否定していた人の意見を覆せるんじゃないかなと期待していたんです。手応えも感じていて、実際に意見も変わってきているようです。
中島:今回のように、海外のキャラクターを日本でアニメにする、という試みに関われたのはいい経験だったと思います。こうやって海外と日本のボーダーがなくなっていけば、いずれはもっと面白い時代が来るでしょうし、日本のアニメの技術は世界に誇れるものなんですから、これからも継続して発信していきたいですよね。
水﨑:技術もそうですが、日本は原作を生み出す発想力の高さは引けをとらないなと思うんです。作画技術は中国や韓国も迫ってきているんですけど、ゼロからオリジナルを作り出す力が強いのは、やっぱり日本なんですよ。これさえ失わなければ、日本のアニメ業界はまだまだ明るいんじゃないでしょうか。
――ありがとうございました。
作品情報
6月15日(金)新宿ピカデリー他 ロードショー
【STORY】
現代の犯罪都市ゴッサムシティの悪党たちがタイムスリップし、群雄割拠する戦国時代の日本。戦国大名となった悪党たちがこのまま自由に暴れ続ければ、日本だけでなく世界の歴史すらも変わってしまう!
絶望的な乱世で、現代テクノロジーからも切り離されてしまったヒーローは、世紀の歴史改変を阻止することができるのか? 日本と世界の未来をかけた、時空を超えた壮大なバトルの行方は!? 日本が世界に放つ、戦国タイムスリップ・アクションエンターテイメントがついに開幕!
【キャスト】
バットマン:山寺宏一
ジョーカー:高木渉
キャットウーマン:加隈亜衣
ハーレイ・クイン:釘宮理恵
ゴリラグロッド:子安武人
トゥーフェイス:森川智之
デスストローク:諏訪部順一
レッドフード:石田彰
ロビン:梶裕貴
ナイトウィング:小野大輔
ポイズン・アイビー:田中敦子
ペンギン:チョー
ベイン:三宅健太
レッドロビン:河西健吾
アルフレッド:大塚芳忠
【スタッフ】
監督:水﨑淳平
脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:岡崎能士
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:神風動画
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