『詩季織々』リ・ハオリン&竹内良貴インタビュー

『詩季織々』リ・ハオリン監督&竹内良貴監督がお互いの作品を称賛! 日本も中国も関係なく誰しもに届く作品となった本作の見どころとは!?

2018年8月4日(土)よりテアトル新宿、シネリーブル池袋ほかで公開される『詩季織々』。本作は2016年に公開され興行収入250億円超の大ヒットとなった『君の名は。』のコミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)と、中国のアニメスタジオHaoliners(ハオライナーズ)による作品です。

物語は「衣・食・住・行」4つの要素をテーマにした3つの短編により構成され、それぞれが中国の都市を舞台としていることも注目すべきポイント。

祖母とビーフンの思い出を巧みな描写で描く「食」の「陽だまりの朝食」。モデルの姉と服飾の学校に通う妹との日常を描いた「衣」の「小さなファッションショー」。失われゆく故郷と現在とが交錯する「住」の「上海恋」。

どの物語でも日常と登場人物の感情の動きが描写され、世界を超えて誰にも届く物語が紡がれます。

本稿では先日「上海恋」のリ・ハオリン監督と「小さなファッションショー」の竹内良貴監督を対象に行われた、合同インタビューの模様をお届けします。おふたりがそれぞれの作品に込めた想いやこだわりにご注目ください。

▲左から竹内良貴監督、リ・ハオリン監督

▲左から竹内良貴監督、リ・ハオリン監督

リ監督が『秒速5センチメートル』から受け取ったものとは

──リ監督は新海誠監督の『秒速5センチメートル』に多大な影響を受けられたそうですが、初めて『秒速』に触れた際の衝撃はいかほどのものだったのでしょうか?

リ・ハオリン監督(以下、リ):衝撃だった部分は主にふたつあって、ひとつは表現内容です。『秒速』はビジネス向けではなく叙情的、エッセイ的な表現となっていて、感情の表現を一番大事にしているところが印象的でした。

もうひとつは表現技法で、美術の面でかなり新しい表現を使っていて、この2点が一体化していることに心動かされました。今回の『詩季織々』でも、やはり『秒速』を意識している部分があります。

『詩季織々』は3つの物語がひとつになったもので、「陽だまりの朝食」に関しては担当したイシャオシン監督のエッセイが基になっています。

イシャオシン監督の物語の根底には自らの青春に向かう思い出を感情表現として見せるところがあったのですが、やはりCWFさんは美術に強い会社なので、非常にクオリティの高い映像が完成したと思っています。その点に関しては『秒速』とも共通している部分なのかなと。

──竹内監督は今回オリジナル作品として初監督だそうですが、自分の作品がスクリーンに流れると決まった時の心境はいかほどだったのでしょうか?

竹内良貴監督(以下、竹内):最初は配信という形で進んでいたのですが、途中で特別上映に変わったんです。プレッシャーですよね。一応CWFの作品として出すとなると、『君の名は。』の次じゃないですか……(笑)。比較対象がとてつもない作品なので、やばい、頑張らなければと思っていました。

──(笑)。竹内監督はそんな比較対象の『君の名は。』の新海誠監督をCGの面で支えて来られていますよね。「小さなファッションショー」ではどんなところでCGを用いられたのでしょうか?

竹内:一番使ったのはレイアウトの部分です。レイアウトというのは、まず画面の設計をするためにキャラクターの立ち位置を決めるんです。その作業にCGを使って、3D空間にカメラを置いてフレームを決めて作画で描いてもらったキャラクターをのせています。

このCGレイアウトの作業に関しては自分で全部組んでいるので大変でしたね。あとはやはり色々なスタッフが参加しているので、全員に対してわかるように説明するのも苦労しました。

僕は普段、そんなに話すタイプじゃないんですよ(笑)。だから気持ちを奮い立たせていましたね。

──今回の舞台は中国ですが、その世界観を描くことに苦労はありましたか?

竹内:キャラクターたちの取る細かい仕草が日本と同じようで違うところがあり、そういう部分は調べても中々出てこないんです。そういう部分はリ監督にチェックしてもらいながら制作を進めていました。それでも中国の方からすると「日本っぽいね」と言われるんですけど(笑)。

──今回の制作を終えてまた作品を作りたいというモチベーションは生まれましたか?

竹内:今は終わったばかりなのでまだですね(笑)。でも一度経験して色々な反省点から「次はこうしたい」と思える部分が出てきているので、機会があれば作ると思います!

初の大役を務めた竹内監督が苦労したポイントは……!?

──そんなおふたり渾身の作品である『詩季織々』の制作を進める上で、これまでとやり方や感じ方が違うなと感じた部分は?

リ:私の今までの作品は商業収入を意識した作りが多いです。今回もその点は気にしつつも、今まで制作した作品の中では最も純粋に自分の気持ちに従って制作しています。

それは『秒速』を見た時から心に秘めていた「新海監督と同じように純粋に作品を作りたい」「感情を表現したい」という強い想いがあったからで、その時と同じ心境で作品に向かいました。

竹内:スタッフの面で言うと、「小さなファッションショー」では外部の人たちにも協力をお願いしています。いつも一緒にやっているメンバーとはちょっと違う布陣だったので、そういう面ではやり方を変えた部分があります。

CWFはちょっと特殊な作り方や考え方をしているので、外部のスタッフに説明しても理解に時間がかかったりしたのですが、最終的には一緒にいい作品を作ろうと完成まで協力し合えたと思います。

──ではお互いの作品をご覧になった率直な感想をお願いします。

リ:「小さなファッションショー」で一番驚いたのは、男性の竹内監督が姉妹の心境を深く理解していたところです。女心の描写が凄く上手くて、自分ではあんなに細かく切実に表現できないのではと感心していました。

竹内:脚本はシナリオライターの方にお任せしていたので、その方が優秀だったんです(笑)。後はなるべくステレオタイプに考えないよう人物を描きました。

“女性だから”“男性だから”じゃないところでそのキャラクターの行動に対する考え方を設定して、そこにキャラクター性を付けていく。女性の気持ちと言うよりは、「人間としてこのキャラクターはこうだろう」という部分が描けていたからなのかなと。

リ:後は美術的に画面のクオリティを極限まで追求している部分があったかと思います。修正に修正を重ねて一番いい物を目指していると感じました。新海監督との制作現場ではもっともっとクオリティを追求されるのでしょうか。ちなみに今回の作品では何回くらい修正を重ねたのですか?

竹内:実は1カットあたりの修正は2、3回くらいなんです。それ以上に修正を重ねてしまうとよくわからなくなってしまうことがあるんです。結局一番最初が良かったなんてこともあって……。

リ:そうだったんですね。僕の担当した「上海恋」に関しては美術背景の部分で大きな修正はありません。ただし、作画の部分で何カットか修正を重ねています。

──竹内監督は「上海恋」はいかがでしたか?

竹内:舞台となった石庫門の描写に拘りを感じました。観光地ではないのであまり見る機会がないのですが、あそこまで細かく描かれているのはなかなか無いと思います。後はキャラクターの描写に共感できる部分が多々あって、今までの中国に対するイメージがかなり変わりました。僕たち日本人と変わらないんだなと。

リ:僕としてはその点は「アジア文化の共通性」だと考えていて、実際の作品でもヨーロッパや他のところと比べると直接気持ちを出すのではなく、間接的に感情を表現することが多いんです。

例えば「陽だまりの朝食」では直接「おばあちゃん大好き」と言う事はないですし、「小さなファッションショー」でも「応援している」と言葉にすることはない。直接言葉にしてる部分はないけれど、なんとなく気持ちが伝わると思っています。

そういったアジア文化の特徴を、この作品で世界のみなさんに知って貰えたらと願っています。

──今回の作品のテーマを“衣食住行”にしようと考えた理由は? また舞台を中国の各都市に定めたきっかけは?

リ:元々衣食住行は中国の日常生活の基本的な要素なんです。今回の作品には日常の細かい感情を表現する意図があったので、このテーマになりました。

また上海は僕自身の、湖南省はイ監督の出身地なので、このふたつの都市は舞台にしたかったんです。最後のひとつである広州については、ファッションの流行っている地域ということで白羽の矢が立ちました。

『詩季織々』の根底にある感情を表現するというコンセプト

──作品でも描かれていましたが、変わりゆく石庫門にはどんな想いが?

リ:現在の石庫門はどんどん壊されて原型が残っていないんです。ある程度形が残っているところもあるのですが、以前の時代にあった「家族」という意味合いが含まれていた石庫門はもうそこにはない。かつては多くの人が石庫門に住んでいて、大家族として一緒に生活していたんです。

これは自分の中にある温かい記憶なのですが、今は取り残されてしまい飾り物のようになってしまいました。観光地に変わってしまったところもあって、今回の作品を作るにあたっては、「元々の石庫門を残したい」という想いが根底にあったんです。

──最後にご自身の作品で特に自分の色を出した部分を教えてもらえますか?

リ:ストーリーの流れが時系列通りではないところです。思い出が何度もインサートされていくような描き方をしています。

「上海恋」の物語にはふたつの時間軸が存在していて、ひとつは主人公のリモ(CV:大塚剛央さん)が引っ越しの片づけに際して過去にヒロインのシャオユ(CV:長谷川育美さん)から貰ったカセットテープを見つけ、そのテープを聴くため実家のある石庫門に走る軸。もうひとつが2人が小さい頃から大人になっていく思い出の軸。

テープをやりとりしていた当時は聴くことができなかったシャオユの声を聴いて、ふたつの時間軸が交錯するんです。現在のリモが石庫門に近づくにつれ思い出に近づいていき、シャオユの声を聴いて現在と過去とが繋がる場面は注目して欲しいです。

竹内:ストーリーを持った作品をやるのは初めてなので、どんな色が出たのか何とも言えないところがあります。ただ、絵作りの部分ではレンズ感を大事にしています。

同じ映像を実写で作る場合とアニメで作る場合、それぞれ違った印象を受けるものになります。実写は現実をそのまま切り取るのに対して、アニメは記号的な表現で物語を伝えます。

今回はそのどちらの感じも欲しかったので、両者の中間ぐらいの表現を狙いました。実写っぽい感じもあるのですが、でもアニメになっている。

色々な人に見てもらいたかったので、抵抗なく見てもらえるよう受ける印象には気を配っています。

──ありがとうございました。

[取材・文・撮影/胃の上心臓]

『詩季織々』作品概要


監督:リ・ハオリン、イシャオシン、竹内良貴
キャスト:
『陽だまりの朝食』坂泰斗、伊瀬茉莉也、定岡小百
『小さなファッションショー』寿美菜子、白石晴香、安元洋貴
『上海恋』大塚剛央、長谷川育美、中務貴幸

2018年/日本/カラー
配給:東京テアトル

公式サイト
公式Twitter(@shikioriori2018)

(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
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