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『ペンギン・ハイウェイ』石田祐康監督インタビュー

『ペンギン・ハイウェイ』石田祐康監督インタビュー|魅力的なお姉さんにはあの作品の影響が隠されていた?

森見登美彦さん原作の『ペンギン・ハイウェイ』がついに劇場アニメとして、この夏8月17日から全国の映画館で公開されます。「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」とはまた違った、独特な世界観がある本作。そんなビッグタイトルのアニメ化を手がけるのは、新鋭のアニメ監督である石田祐康さんです。

石田監督はこれまで『フミコの告白』や『rain town』などの自主制作アニメで話題となり、『陽なたのアオシグレ』で商業デビュー。『ペンギン・ハイウェイ』では、初の長編アニメ作品の監督を勤めることになります。

今回は、そんな石田監督へ行ったインタビューをお届け。ご自身のアニメのルーツを探りつつ、『ペンギン・ハイウェイ』に込めた想いに迫りました。

自分が体験した“現象”を体験してほしい

──まずは、監督として制作を終えた感想からお伺いできればなと。

石田祐康監督(以下、石田):元々アニメが好きなので、アニメで得た感動を自分なりに再現したくてアニメを作っていました。そうしたら、あれやこれやと「あれ作ってよこれ作ってよ」となって(笑)。僕はちょっと巻き込まれ型なところがあって、いつの間にか大事(おおごと)になっていたんです(笑)。

大事かどうかはとりあえず置いておいて、根っこには単純なアニメ好きというところがあって、その思いで『ペンギン・ハイウェイ』を作りました。その思いをちゃんとそのまま商業規模になっても忘れずに作れたかなと思います。

まあ、まずは終えられて良かったと一息ついたところですね(笑)。

──ご自身の感動など、作品で伝えたかったのはどんなところですか?

石田:僕が今までアニメを観ていて感動したポイントは何個もあるんです。人それぞれにアニメに求めている楽しみどころは違うと思います。キャラクター愛だったり、ストーリーだったり。

僕が1番感じた感動というのは、“現象”みたいなもので、キャラクターやストーリーといったひとつだけの要素ではないんです。

ひとつの絵とかひとつの音楽とかでもなく、全てを通した体験みたいな。アニメーションという動く絵と音楽とのコラボレーションによって起こる感動や鳥肌が立つ感じ。作品を観ていて、「すごく贅沢な時間だな」と夢中になっている感じです(笑)。

そういう現象が自分の中にぼんやりとあって、それを再現したくて、人に伝えたくて、アニメを作っているんです。

どこまで伝えられるかは、観てもらわないことには分からないので、「どうなんだろうな……?」と、そわそわしています。

──しかも今回は、石田監督初の原作ものです。

石田:これまで作ってきたオリジナル作品は、まさに今言ったような現象をなんとか形にしたくて取り組んでいました。だから、キャラクターやストーリーを無理やり作った部分もあるんです。

だけど今回は、オリジナルだからこそ、やりやすかったんですよ。ただ、長編で原作ものとなると、その現象を個人的なもので再現するだけではダメなんです。原作を尊重できないし、観てもらう人に2時間も楽しんでもらえない。

僕の使命は確実に2時間観てもらえる、映画として観てもらえる、原作を読んだ人にも「ちゃんと原作を尊重してもらってるんだな」と、みんなにちゃんと愛してもらえる作品を作ることでした。

だから、僕が言っている現象を両立させるのはかなり難しいんですよ。オリジナルだと枷がないから好きにやれるんですけど、今回は違います。現象を作る感覚は元からありましたが、もうひとつのストーリーを成立させるというのを勉強しながら制作していました。

スタッフのみなさんに「これやったら全然話繋がらないよ」「2時間もたないよ」と意見をもらいながら、今の自分が出来る限りの両立をさせたという感じです。

──なるほど。

石田:原作者の森見登美彦さんにもお会いして、最初に許可をいただきました。「やるからには、ちゃんと自分の作品にもしたいです」と。

それは具体的に説明をすると今言ったような話で、その感覚を込めることが自分の作品にするということだと思っていました。そういう映画的な感動を呼び起こしたい。

だけど、同時にちゃんと作品を尊重したかったから森見さんに聞いたんですよ。「自分の作品にもしますが、ここだけは絶対に守って欲しいというところを聞きたい」と。それさえ聞ければ、外すことなく尊重もちゃんとできるだろうと。

そこで、守って欲しいことは「アオヤマ君の天才少年」ということだったんです。

この作品はアオヤマ君の天才少年というキャラクター像が軸にあって全ての世界が構成されているというお話だったんです。軸がブレれば他もブレてきます。絶対に守りたかった。

僕もそれは外さないように守りつつ、余白部分で原作でやってないことをやらせてもらったりしています(笑)。

──いろんな苦労もあったというお話も出てきましたけど、やっぱり楽しかったんじゃないですか?

石田:そうですね。なかなか今までにない長期の制作期間ですから、しんどいタイミングとか、苦労することもあったんですけど。やっぱり、やればやるだけ良くなっていく感じと、「勉強になるな〜」というのはすごく思いました。自分の中で肥やしになる感じがすごくありましたね。

長編をやれるということだけでもありがたいですよね。長尺のコンテを描いて、意見をもらって、こうすればもうちょっと良くなるのではというフィードバックをもらい、さらに描いていくわけなんです。

そうすると、短編オリジナルで自由にやっていただけでは得られないような勉強がすごくできました。本当にやって良かったですね。

『ラピュタ』『千年女優』『エヴァ』、影響を受けた作品たち

──作品のお話もお伺いします。特に魅力的だったのが、お姉さんでした。何か意識したところはあるんですか?

石田:もう意識したい放題ですね(笑)。先程お話した現象とは別に、アニメを見るもうひとつの取っ掛かりに、ヒロインがあったんです。ヒロインに心惹かれたらそのアニメは観るという。

それも紆余曲折あったんですよ。例えば4〜5歳の時期に『天空の城ラピュタ』(※1)を観ると、大きな城やビームを撃ちまくるロボット兵、飛び回る飛行機械群!。漫画では見られないアニメ的なダイナミックな動き。そこでヒロインのシータは観ていないんですよ(笑)。

でも、中学生になって濃ゆい大人なアニメを観始める時期になると、妙にヒロインに心を持っていかれることが多くて。例えば、今敏監督の『千年女優』(※2)。

※1:天空の城ラピュタ
1986年に公開された、宮崎駿監督による劇場アニメ。スタジオジブリ初の制作アニメでもある。不思議な石を持つシータと機械工見習いのパズーが、空に浮かんでいるという幻の城「ラピュタ」を目指すストーリー。現在でも人気があり、たびたび地上波でも放送されている。

※2:千年女優
2002年に公開された、今敏監督による劇場アニメ。制作はマッドハウス。引退した女優・千代子のインタビューがきっかけとなり、彼女の過去、出演映画、現実が次第に混ざり合っていく……といった摩訶不思議なストーリー。今敏監督はそのほかにも『パプリカ』(2006年)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)、『妄想代理人』(2004年)などの衝撃作で話題を呼んだ。

──うわぁ、いい作品ですね!

石田:分かりますか(笑)。主人公の千代子さん(藤原千代子)がすごい魅力的で。少女時代の可憐さがなんとも! 作品内に出てくるおじさんキャラと心同じく「ちよこさ〜〜ん!!」って(笑)目で追ってしまう。作品自体の面白さもさることながら、このヒロイン像がよかった。

ちょっとまた毛色が違うし、ヒロインでもないんですけど、『青の6号』(※5)のミューティオも好きでした。

人間でもないんですけど、見た目がすごく可愛らしくて。潜水艦で戦うゴテゴテの作品と世界観でありながら、その子の描かれ方が可憐だったんです。それだけでも作品に釘付けになるというか。

あの当時は、大量の作品を観ていたんですけど、ヒロインに惹かれだしたのはそのころですね。

話がめちゃくちゃ遠回りになってしまった(笑)。それ以降ずっとあるんですよ、“ヒロイン良ければすべて良し”みたいな勢いが。

※3:青の6号
1967年に「週刊少年サンデー」で連載されていた小澤さとるさんの漫画。1998年にはGONZOによりOVAとしてアニメが製作された。第二次世界大戦の20数年後、潜水艦の海中航路が発達した世界を舞台に、潜水艦・青の6号とテロ組織・マックスの戦いが描かれる。

※4:ミューティオ
『青の6号』の主人公である速水鉄(CV:郷田ほづみさん)に懐く水生のミュータント。声は長沢美樹さんが担当。

──“ヒロイン良ければすべて良し”ですか(笑)。

石田:そうです。中学生の中頃から、それまでメカばかり描いていたのに加えて、そういう綺麗な女性や可愛い女の子を描くようになりまして。

その延長線上でお姉さんも描いてたんです。今回は、お姉さんにちょっと夢中になってしまって……(笑)。

さらに言うと、中学の時に『新世紀エヴァンゲリオン』(※5)に遅れてハマったんですが、最初に描いたキャラクターというのが、綾波レイでも惣流・アスカ・ラングレー(※6)でもなく葛城ミサトさん(※7)なんですよ(笑)。

完全にヒロインとは言えなくても、ああいう年上の綺麗なお姉さんに惹かれる感覚もあったんです。

その延長線上で、自分の中で抱くそういう感覚をフル回転させて、お姉さんのカットがチェックで来るたびに丹精に吟味していましたね。

※5:新世紀エヴァンゲリオン
1995年に放送されたTVアニメ。コミックや劇場アニメなども製作され、20周年以降も変わらずの人気があるビックタイトルとなっている。主人公・碇シンジが汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして、謎の敵・使徒と戦う物語が繰り広げられる。

※6:綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー
『新世紀エヴァンゲリオン』の登場キャラクター。碇シンジと同じくエヴァンゲリオンのパイロットでもある。作品のヒロイン的なキャラクター。

※7:葛城ミサト
『新世紀エヴァンゲリオン』の登場キャラクター。碇シンジの世話係でありながらも、エヴァンゲリオンをサポートする特務機関NERV(ネルフ)の職員でもある。碇シンジが「ミサトさん」と呼んでいたこともあり、ファンにも定着。

──やはり過去の作品の感動がフィードバックされている部分があったわけなんですね。

石田:そうなりますよね(笑)。それをそっくりそのままコピーのごとくやりたいというわけではなく、自分なりに受けた感動を、もらった恩を返したいぐらいの気持ちです。違う形でお客さんに対して恩を返したいなという感じなんですかね。

同時に単純にちょっとおせっかいなところがあって、「これ本当にいいからちょっと観てよ」と(笑)、「お姉さんって、本当にいいもんですよ」みたいな感じに、フェチとエゴの塊は入っています。

自分が好きだった作品って大抵そういうところがある気がします。「これ完全に監督とか作り手たちのエゴでしょう」みたいなところが絶対にある(笑)。

──分かります(笑)。僕は『ペンギン・ハイウェイ』を観た男性はみんなお姉さんに恋するんだろうなと思いました。

石田:それは良かった(笑)。それを聞きたかったですね。伝わったようで、それはありがたいですね。

自分の100%を超える瞬間

──蒼井優さんにインタビューをさせていただいた時、「監督にはアニメがあって本当に良かった!」と仰っていたんです。「アニメを作るために生まれてきたような人だ」と。

石田:そうなんですか(笑)。

──やはりご自身にとってもアニメは人生みたいなものがあるんですか?

石田:蒼井さんにそこまで言われるとは予想していなかったんですけど(笑)。確かに、思い返してみればそうかもしれないですね。

漫画だったりイラストだったり他の媒体を選ぶ機会、タイミングはいくらでもあっただろうに、アニメを選んだのは自分の中では本当に分かりやすく明確に理由があって。本当にさっきの話なんですよね。

イラストをたくさん描いていて確かに楽しかったですけど、イラストだと例の現象を再現できない。漫画でもできない。それぞれの良さはもちろんあるんですけど、あの強力な現象は静止画だと自分では作れなかったんです。

そんな時にアニメを作れる機会が高校生の時にあったんです。やってみたらハマってしまって。何も迷うことなくアニメの道を選んだんです。

音楽と映像が組み合わさることによって体験できる、鳥肌が立つような感動、もしくはじっくりと作品世界に浸ることのできる体験というのが本当に好きで、迷わなかったですね。

その感動を再現したいがために作った高校生の時の作品。当時はそれを作れた自分を自分で褒めましたよね(笑)。

──(笑)。

石田:自分が感じたかったあの現象が、ちゃんとできてる!と。このまま絶対やっていこうと思いました。

だから、蒼井さんに言われるのも納得はしますね(笑)。迷わなかったですから。

本当にそれまで子供の頃からずっとアニメを観続けていた体験が、体感がちゃんとそこに生きているなと。良い意味で本当に繋がっている感じがありますね。

──日常でもアニメのことを考えてしまいますか?

石田:考えますね。これアニメに再現できるかなとか。音楽を聴いていて、「この音楽でこんな映像をつけたらさぞ気持ちいいぞ」とか、「これは鳥肌が立つ!」とか(笑)。

寝る前に音楽を聴くんですよ。そういう時に暗闇の中で音楽に合う映像を思い浮かべるんです。寝る前の妄想タイムですね(笑)。

音楽がセットになると、映像を想像しちゃうんですよ。中学生とか高校生の時にひとつの遊びとしていつもやっていました。後々はこの音楽を使って許諾を得て、これで作ってやろうぐらいの勢いで考えていましたね。

そういうのがあったり、他の作品を観ていて「自分だったら、もっとこういう風にする」みたいなことも考えます。日ごろからそういう感じです。

──『ペンギン・ハイウェイ』も音楽から作ったところがあるんですか?

石田:これまでの作品はそういったこともありましたが、今回の『ペンギン・ハイウェイ』くらいの規模の作品になると、許諾取りなども含めてできないだろうなとは思っていました。

さらに今回は、それよりも先人が培ってきた作り方でやっていくことに注力した方が今回はよいだろうと考えていました。

その結果、自分には知らない世界が出来上がっていく感動を勉強できたんです。

「このシーンでこんな音楽が来るのか」といった、思いもしなかったコラボレーションによって生まれる感動があるんです。導入の仕方は違うけど、別の感動はありますよね。

最初から音楽ありきで映像を作るというのは、ある意味自分の脳内イメージが100%。そこからどういう風に実現できるか次第。正直出来上がったものが100%以上になるっていうのは、そうそうないんですよ。

でも、それが今回は自分の脳内イメージから足されていくイメージだから、やっぱり100%を超える瞬間というのはありますね。そういうものも込みで勉強でした。

──自分の想像していた感動を凌駕する感動がやって来るんですね。

石田:そうですね。その瞬間は確実にありますね。

だから、ちょっと怖い部分はあるんですよ。コントロールが効かないから、上手くいかないかもしれないという心配もあるんです。

でも、うまくいった! 想像以上に嬉しかったですね。ぜひみなさんにも本作を見て経験してほしいですね。

[インタビュー/石橋悠]

映画『ペンギン・ハイウェイ』

監督は、「フミコの告白」で国内外の賞を多数受賞し、『陽なたのアオシグレ』でも第17回文化庁メディア芸術祭にてアニメーション部門の審査委員特別推薦作品に選出されるなど、アニメーション界で今最もその才能に注目が集まるクリエイターの一人、石田祐康氏。無限の可能性を秘めた少年の瞳を通して描かれる“果てしない世界の謎”と“冒険”。新世代の才能と、日本屈指の実力派スタッフ・キャストが集結し色鮮やかに描き出す、心弾む青春ファンタジー映画が、この夏誕生する。

8月17日(金)より、全国ロードショー!!

<ストーリー>
小学四年生の少年アオヤマ君は、一日一日、世界について学び、 学んだことをノートに記録する。利口な上、毎日努力を怠らず勉強するので、大人になったときにどれほど偉くなっているか、見当もつかない。

そんなアオヤマ君は、通っている歯科医院の“お姉さん”と仲がよく、“お姉さん”はオトナびた賢いアオヤマ君を、 ちょっと生意気なところも含めかわいがっていた。

ある日、アオヤマ君の住む郊外の街にペンギンが出現する。海のない住宅地に突如現れ、そして消えたペンギンたちは、 いったいどこから来てどこへ行ったのか…。

アオヤマ君はペンギンの謎を解くべく研究をはじめるのだった。そしてアオヤマ君は、“お姉さん”が投げたコーラの缶が、ペンギンに変身するのを目撃する。

ポカンとするアオヤマ君に、笑顔のお姉さんが言った。「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」“お姉さん”とペンギンの関係とは?

そしてこの謎は解けるのか?少し不思議で、一生忘れない、あの夏の物語。

<キャスト・スタッフ>
■出演:北香那、蒼井優
■原作:森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫刊)
■監督:石田祐康
■キャラクターデザイン:新井陽次郎
■脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
■音楽:阿部海太郎
■制作:スタジオコロリド

『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト

(C)2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
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