声優・飯田里穂さんニューミニアルバム『Special days』インタビュー 着飾っていない、ありのままの”飯田里穂”を詰め込んだ一枚に!
「自分の人生を芸能生活に捧げているようなもの」と以前語っていた飯田里穂さん。だからこそ、この2年間音楽活動が止まっていたことがつらかったのだと言う。
そんな中、これまでの想いを詰め込みつつ、これから先の音楽活動も期待してもらおうと作り上げた作品が、ミニアルバム『Special days』だ。90年代のJ-POPシーンのテイストを盛り込んだ1枚に仕上がっているので、ぜひじっくりと聴いてほしい。
活動が止まっていた2年間
――久しぶりのソロ活動になりますけど、2年間はどんなものでした?
飯田里穂さん(以下、飯田):決して何かが止まっていたわけではないし、動いてなかったわけではないんですけど、何か自分の中で「止まっているな、どうしよう……」という焦りはありました。
――待ってくれている人のことも想像しながら?
飯田:いつも考えていました。この業界って止まっちゃいけないと思っていて、何でもいいから前に進んでいる役割があると思っているんです。結構そう思いながら仕事をしているタイプだったので、一番やってはいけないことをやってしまっている感覚はありました。
でも、何もしていなかったわけではなくて、次のステップに行くにはどうしたらいいかというのを事務所と何回も相談していましたし、作戦も練っていました。ただ、決まっているけど発表できない期間ということもあり、それが2年という時間になってしまったので、応援してくれるファンの皆さんに一番に言いたいのに、それができないもどかしさは相当ありましたね……。
――どんなことを相談してたんですか?
飯田:音楽活動をするなら、やっぱりアニメの歌も歌いたいし、なりたいアーティスト像もあるし、一時ではなく長くお付き合いしてくれるところに巡り会いたいというのもありました。そこは本当に事務所のスタッフとも、どう動くべきかというのを話しましたね。
――長く一緒にやれるというところはやはり大事だった?
飯田:はい。飯田里穂の今までの芸能活動を思い返しても、一時の輝きよりもいろんなことをしてきたなと思うんです。そこで陽の目を浴びることがあったりして、そこからレベルアップして、また細く長く続けるというのが私の芸能生活なのかなと思ったので、5年後10年後、それこそ結婚や出産することがあっても、寄り添って考えてくれるようなところがいいよねっていうのは話していました。
――そんな中で、ご縁があってNBCユニバーサルにお世話になることになったんですね?
飯田:もちろん細かい話は会社同士であったと思うんですけど、私はお話が決まったところでご挨拶させてもらいました。そのときにプロデューサーの西村さんと、どんなコンセプトでやっていくかという話になって。西村さんも私のことを調べてくださっていたし、私も2年間で自分自身を見つめ直して、次また止まらないために何が自分に合っているんだろうっていうのを考えていたんです。
そこでなんとなく、無理をしていないということが、一番みんなが応援してくれるポイントなんじゃないのかなと思ったんですよね。私自身「私は飯田里穂です! 着飾ってます!」っていうのではなく、私はこういう人間だから、こういう表現の仕方をしてるし、そういうナチュラルさを見てほしいと思っていたので。
そしたら西村さんも、お渡ししていた『りほとなり。』というアーティストブックの、自転車に乗ってニコニコして立ってる私の写真を見て「たぶんりっぴーはこういう感じのほうがいいと思うよ。普通な感じでナチュラルなんだけど、実際には手に届かないお姉さんみたいな感じがいいと思う」と言ってくださって。私が考えてきたコンセプトと一緒だと思って、第三者から見てもそうなのかっていうところから、話がぽんぽんぽんと進みました。
――今回のアーティスト写真とかジャケットもナチュラルですもんね?
飯田:相当ナチュラルですよ、ナチュラルを極めました! 化粧もそんなにしていないし、髪の毛も風になびくままでしたし。
――で、音楽のチームが黒崎真音さんなどでもお馴染みの冨田明宏さんが担当されるとのことで。
飯田:どういう音楽にしていこうかっていう話もその日にしました。冨田さんもいらしてて、本当に冷静にこの業界の情勢を見極めながら話してくださったんです。かわいい声でかわいいアニソンを歌っても、これがデビューではないからねって。私もそこにハマりたいかと言われたら違うと思うし、その違和感はどこかでズレを生じさせるし、見てる人にもわかると思うんです。
かといって、一切笑わないカッコいい飯田里穂とかも何か違うよねって。それで、本心にあるものって絶対に出ちゃうから、それに一番近いものにしたほうがいいという話になったんです。
――それで今回の作品が、90年代サウンドのものになったんですか?
飯田:今のアニソン界にないもの。だけどみんなが共通して、あぁって納得するものって90年代のサウンドなんじゃないかということで、挑戦してみようと。世代の方ならじんわりと良いなと思うだろうし、若い子も両親が聴いてたりして、日本人としてリズムに残ってるものだから、新しさとして伝わるんじゃないかなって。
だから、新しいと懐かしいがうまく混ざりあったらいいなということで、それをコンセプトにやってみようと思いました。私自身も80年代~90年代の曲が大好きで、すごくよく聴くんですよ。音の数も少ないし、言葉もすごくストレートじゃないですか。そこからシンプルというもうひとつのコンセプトが浮かび上がってきたんです。それに「U. S. A.」(DA PUMP)も流行ったし(笑)。
飯田里穂、ミニアルバム全曲紹介
――選曲などにも参加したのですか?
飯田:がっつりやりました! ここから関わらせてもらえるんだ!っていう新鮮な気持ちで、デモを聴いて直感で選ぶというのをポルトガルでやってたんですよ! ちょうど仕事でポルトガルにいるときにデモが送られてきて、「もう時間がないので決めてください」と。ポルトガルの海辺をタクシーで走っている中、デモを聴くというスペシャルな選曲をしてました(笑)。
――(笑)。何か基準はあったのですか?
飯田:心にグッと来るかどうかでした。それは結構明確にわかって、あとはライブでも盛り上がれるようにとか、聴いてて飽きないようにとか、バランスを見て決めました。
――スタッフの意見も聞いて?
飯田:結構みんな一緒だったというか、冨田さんも「さすがりっぴー。良い曲を選びましたね」って褒める褒める(笑)。でも、私が選んだ曲がそのまま入れられるようにと、周りの方もやってくれていたんだと思います。私の意見を押し切ってこっちのほうが、というのは一曲もなかったです。
――1曲ずつ聴きますと「Special days」がリード&タイトル曲です。
飯田:最終的に「Amazing my love」とこの曲のどちらをリードにするかという話になったんです。新しいスタートで、しかもリード曲だと、そこでイメージがついちゃう気もして、いろいろ考えました。
――「Amazing~」だと、打ち込み形のサウンドでいくのかな?って思うところはあるかもしれないですね。
飯田:そうなんです! だとしたらちょっと違和感があると思ったので、「Special days」をリード曲にして、飯田里穂のアーティスト像をバッと出すのがいいなと思いました。
――この曲は、90年代のビーイングブームを彷彿させる楽曲ですけど、どのへんに引っかかりました?
飯田:この曲、陰か陽かで言ったら陽じゃないですか。だから、陽な曲を選んだという感じです。陰な人間ではないので。
――歌詞もストレートで、ファンのことを歌っていますね。
飯田:まさに。最初の話し合いで、私がどういった感じでお仕事をしているのか、どういう人生を歩んできたのかというパーソナルなことも結構話したので、そういうことも詰め込んでくれているんです。ずっと、すべてが出会いであり縁だと思って仕事をしているし、それで今まで仕事を続けられたと本当に思っているんです。
ファンのみんなにも「出会った」と思っているということもお話させてもらったら、作詞のPA-NONさんがそれを詰め込んでくれました。PA-NONさんと作曲の彦田元気さんがレコーディングに立ちあっていただいたですけど、「ファンの人と同じ目線に立って、ファンの人に向かって歌っているつもりで歌ってね、そういう思いを込めたから」と言われたので、その気持ちを込めました。
――MVは画面が4:3になってて、それも懐かしさがあって(笑)。
飯田:みんなにそれを言われるんです! 色みもレトロな感じで、スローモーションが入るのも90年代っぽさではあるんですけど、これもナチュラルとシンプルですよね。私がカッコよく歌っているというより、私の夏休みみたいな感じ(笑)。
スタッフさんも女性率が高めで、「今日一日、りっぴーと呼ばせてもらいます」と、いきなり距離を詰めて和ませてくださる感じだったので、リラックスした映像になりました。このMVにタイトルを付けるとしたら「夏休みの思い出」です(笑)。
――2曲目の「Amazing my love」も、90年代といえばこれ!なサウンドですね。
飯田:この曲のイメージは、夜雨が降っていて、電話ボックスの中で歌っているみたいな感じです。
――完全にトレンディドラマじゃないですか(笑)。
飯田:ネオンの光りに包まれるMV!みたいな。
――打ち込みサウンドっぽいけど、実は演奏もすごくカッコいいんですよね。
飯田:90年代を彷彿とさせつつも、アレンジ面では現代の感じに置いてかれないように細かい調整はしていただいていると思います。
――この曲は、ボーカルでカッコ良さも求められたのでは?
飯田:切ない大人な感じを求められました。作編曲の齋藤真也さんが、すごく面白い方で、ヘナヘナしながらディレクションするんですよ(笑)。「なんか、すごくカッコいいね~~」みたいな(笑)。
曲と全然違う和やかな雰囲気でした。オチサビで〈(stay with me)〉みたいな歌詞をウィスパー気味で歌ってるんですけど、最初は音符通りに音をはめていたんです。でも、なんかもうちょっとコテコテにしようという話になって、ちょっと音をずらしたstay with meになっていると思います。
――「JoinUs!!」はライブで盛り上がりそうな曲でした。
飯田:唯一の明るいアゲアゲナンバーですね。ライブ映えする曲と思って入れたのもありますけど、純粋にデモを聴いて「良い!」と思ったのが一番なんです。この曲は作詞の山本メーコさんがいらしてて、「イメージはアメリカのすごい色したチューイングガムをくちゃくちゃ噛んで、プーって風船を膨らませ。「わかりました!」とすぐにブースに入りました。
――テクニック的なことより、景色とかを伝えるほうが共有できたりするのが面白いですね。
飯田:私にとっては結構わかりやすかったです。だからもうノリノリで、ライブでみんなで歌っていることもイメージしてはっちゃけました。追っかけっぽいところはラップっぽくなっているんですけど、そこもきっとみんな歌ってくれるんだろうなって(笑)。
――それは、みんな頑張るしかないですね(笑)。
飯田:結構難しかったんですよ。早口言葉みたいになっているのでハードル高めです。あと、歌うにあたって、CV.飯田里穂みたいな感じで歌ってくれたらいいなって話もありました。
――キャラ的なイメージ?
飯田:はい。飯田里穂なんだけど、CV.飯田里穂っていう。
――唯一のバラード曲「after the rain」はメロディがすごくいいですね。
飯田:これはもうポルトガルで切ない涙を流しながらデモを聴いてましたね。「これはいい!」と、速攻で選んだ曲です。その時点では歌詞はなかったんですけど。
――歌ってみてどうでした?
飯田:一番レコーディングに時間がかかりました。切ない歌だったので切ない歌詞でくると思ったら、作詞・作編曲の丸山真由子さんが「恋から愛に変わるところ」という一番難しい題材で歌詞を書かれたんです。
それだけでも難しいのに、切ないメロディに乗せてハッピーな2人を歌う感じだったので、そこのすり合わせが自分の中でかなり難しくて、悩みながらやりました。あと、偶然にも雨の次の日に録りました。
――この曲にも出会いについて書かれていますね。〈偶然じゃない必然だって気付くこの恋の先まで〉と。
飯田:結構共通して出会いについては入っていますね。「一回目は偶然、2回目は必然、3回目は運命」だそうですよ。
――誰の言葉ですか?
飯田:『ダンガンロンパ3』の舞台をやってて、そのカンパニーの方が、この言葉を恩師から教わったんだと教えてくれたんです。「このカンパニーでみんなと一緒だったけど、次またどこかで出会ったらそういうことですよ」って挨拶で言っていて、確かに!って思いました。
――「聞こえてくるのは君の声」はつじあやのさんが作詞で、縁があったそうですね。
飯田:はい。小学6年生の頃『天才てれびくん』に出演していたことがあって、そこでつじあやのさんの「サンデーモーニング」をカヴァーしたんです。
この歌がすごく好きで忘れられなくて、去年のツアー「Re:rippi」で、15年ぶりに「サンデーモーニング」をカヴァーしたんです。で、「誰か、作詞をお願いしたい人はいますか?」と聞かれたので、つじあやのさんを提案したところ、念願が叶いました。
――つじあやのさんだから、もう少しほんわかした曲かと思ったら、わりと激しめでした。
飯田:本当は作詞・作曲をするのがつじさんなんでしょうけど、今回は作詞だけになってしまって。でもつじさんに作詞してもらったことで、だいぶ柔らかくなったんです。つじさんとお会いしたとき、最初の激しいデモが頭にあったので「女の子の応援歌みたいな歌を歌いたい」と提案させてもらったんです。
女の子の誰もが経験する「このヤロー、くそくらえー」みたいな気持ちで頑張れるような歌。もう前の彼のことなんか忘れて、私は今を楽しく生きるのよ!みたいな強気な女の子の歌を歌いたいと伝えたら、それをつじさんワールドで書いていただきました。
――〈今確かなことだけ食べて〉という表現もいいですよね。
飯田:そこが本当につじさんっぽいというか。普通に“忘れて”とか言わないところが本当に良い!と思いました。
――言葉の選び方がいいですよね。
飯田:出来上がった歌詞があまりにも素敵すぎて! 自分がこういう曲がいいと言ったものが、そのまま出来上がっていたので感動しすぎてノリノリで歌いました(笑)。すごく気持ちがこもりました。女性の方が聴いてくれたときに、何か共感してくれたり、元気づけられたらいいなと思います。
――最後の「Re:start」は飯田さん自身の言葉で思いを綴りましたね。
飯田:はい。かなり込めました。言葉にできない、伝えられないことってすごく多いなと思った2年間だったので、もうこのことは全部歌詞に込めよう!って。でも、想いは込めたんですけど、感謝とか、今こう思っているということだけではなく、今ここに来たからこそ、これからまだあるよ!っていう未来への期待も書きたかったんです。
だから一緒についてきてねっていう。いろいろ回り道もしたんですけど、結局みんなが待っていてくれている「ただいま」と言える場所があるから、私はまた戻ってこれるんだって思うし、失敗しても戻ってこられる場所があるから、これからも挑戦していけるんだなって思うので、それを歌詞に込めました。
――十分に伝わってきました。
飯田:それと聞いてほしいんですけど、この歌詞を書いているときが『ダンガンロンパ』の稽古期間中だったんですよ! 毎日役に入りこんで絶望について考えてたんですね。毎日何人も死んでいくみたい話の稽古を朝から夜までやっていた中、「歌詞を書いてください」みたいな感じで小突かれて(笑)。
歌詞は「希望に充ちたことを書く!」ってことしか決めてなかったので、なんか頭の中がわけわからなくなっちゃって、作詞が全然進まなかったんですよ! ホント大変でした! 今までで一番大変だったかもしれない。その気持ちをみんなにわかってほしい(笑)!
――絶望の中だから、より濃い希望エキスが入ってるんですね(笑)。
飯田:だからNBCフェスでリリースの発表をしたときのステージからの景色とか、あのときの感動を頭の中で必死に思い出して書きました。でもその10分後には絶望モードになるみたいな(笑)。でも、すごくリアルな歌詞が書けたなと思ってます。シンプルという意味でも、アルバム通して貫き通せたなって。
――そうして完成したミニアルバムのリリース後は、リリイべもあります。
飯田:応援してくださる方と実際に接するのも結構久しぶりになるので、楽しみです! 今までだとSNSやお手紙しかないので、生で会えるのは嬉しいなって思います。
――〈「何があっても味方」その言葉 聞こえて〉というの「Re:start」の歌詞もありましたし。
飯田:それもリアルなんです! 実際にファンの方に言われた言葉で。いろいろ発表できなかったときにも、何があっても味方だから頑張ってねって伝えてくれて、そこから切り取ってますから。
――やっとその方たちに会えますね。次のリリースも決まっていて、来年はツアーもあります。
飯田:そうなんです! 11月にシングルもTVアニメ『寄宿学校のジュリエット』とのタイアップも決まってて、その2枚を引っさげて、2月にツアーという感じになるので楽しみです。東京は神田明神ホールでやらせてもらうんですよ。『ラブライブ!』でゆかりもあるところなので、まさかそこでできると思ってなかったので、なんかいろいろすごいなって思ってます。
[取材・文/塚越淳一]
■飯田里穂「Special days」
2018年9月5日発売
[初回限定盤CD+Blu-ray] 3,200円(+税)
[通常盤] 2,500円(+税)