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- 胃の上心臓
- 拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ロボットアニメ作品やTYPE-MOONの作品を主に追いかけている。
今年で放送から20周年を迎えたアニメ『カウボーイビバップ』。同作と言えば、先日亡くなられた石塚運昇さんがジェット・ブラック役として出演されていた作品。石塚さんの代表作のひとつと言える作品でしょう。
そんな『カウボーイビバップ』の“極上音響上映”イベントが、立川シネマシティで行われました。
このイベントは、アニメ第1クールと2クールを8月18日(土)と25日(土)の二週にわたって上映。その前に、“音”と“画”のふたつのテーマで制作スタッフによるトークショーが実施されました。本稿では8月18日の“音ビバップ”の模様をお届けします。
イベントには監督を務めた渡辺信一郎さんと音楽プロデューサーの佐々木史朗さん、そして脚本を担当した佐藤大さんが司会として登壇。亡くなられた石塚さんとの思い出話を交えつつ、制作当時の裏話の数々で集まったファンを楽しませました。
お馴染みのオープニングテーマ「Tank!」と共に渡辺監督と佐々木さんが登場。3名の着席したテーブルにはお酒が用意してあったのですが、これは石塚さんへの献杯のためのもの。石塚さんが「お酒が大好き」だったのでまずは献杯をしつつ、石塚さんに思いを馳せます。
スタッフ陣に訃報が入ったのはこのイベントの前日だったようで、渡辺監督もまだ戸惑っている様子。「昨日の今日なので心の整理がつかず上手く喋れない」と話していましたが、ここで『カウボーイビバップ』以前に石塚さんと出会った『マクロスプラス』について振り返って行くことになります。
この作品は河森正治さんの代表作『マクロス』シリーズのひとつで、渡辺監督も共同で関わられていました。本作での石塚さんは、主人公イサム・ダイソン(CV:山崎たくみさん)のライバルであるガルド・ゴア・ボーマン役。
当時29歳の渡辺監督は、「今のアニメの音響は良くない」「声優の演技も良くない」と話していたそう。監督自身で「今思うととんでもないクソ生意気な意見」とおっしゃっていましたが、その意見を受けて石塚さんをキャスティングしたのが音響監督の三間さん。
渡辺監督は、石塚さん演じるガルドの声を聞いて意識が変わったそうです。
監督はここで「アニメ作品には芝居のトーンを決定づける人が、基本的には一人いる」と語ります。その一人の芝居に影響されて周囲が合わせていく形になるそうで、『マクロスプラス』を決定づけたのは石塚さんの演技だったそうです。
また今回は“音ビバップ”ということで、『マクロスプラス』『カウボーイビバップ』共に楽曲を担当した菅野よう子さんも話題に。
『マクロスプラス』で最初にレコーディングした曲が“スペースカラオケ”のシーンだったなど、ファン垂涎モノのエピソードが飛び出したところで、話題は『カウボーイビバップ』に移って行きます。
“ジェットが作品で一番最初に喋るキャラクターになっている”という話題から、渡辺監督は先ほどの「アニメ作品には芝居のトーンを決定づける人が、基本的には一人いる」という原則に、一つだけ例外的な作品があったとコメント。
その作品こそが『カウボーイビバップ』で、石塚さんだけでなくスパイク・スピーゲル役の山寺宏一さん、フェイ・ヴァレンタイン役の林原めぐみさんと名だたる役者が勢揃い。その間で演技のせめぎ合いがあったそうです。
『カウボーイビバップ』の音楽の話題になると、一度聴いたら絶対に忘れられないオープニングテーマ「Tank!」が、当初は劇伴の一曲だったことが判明。
そうして他の音楽についての打ち合わせもきっちり行い、どんな曲が欲しいか事前に発注していたと語る渡辺監督。しかし菅野さんにはそのメニューを見てもらえず、頼んでいない曲ばかりが続々と上がってきたというエピソードは会場の笑いを誘っていました。
そんな菅野さんですが、脚本の佐藤さんがエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世(CV:多田葵さん)のセリフのモチーフで悩んだ際に、「菅野よう子だから」と言われて納得したことがあったのだとか!
なかでも笑いが巻き起こったエピソードが、譜面のほぼ無い音楽と言われる“ジャズ”について。菅野さんが「ミュージシャンが勝手に演奏するようなものは認められない!」と嫌っていたというのは驚きです。なんと『カウボーイビバップ』へも当初は参加したくなかったそうで、どうやって逃げるか考えていたのだとか。
本作のサントラは多数存在していますが、「アニメ史上こんな滅茶苦茶な音楽の作りをした作品はない」と言う渡辺監督。菅野さんの上げてくる頼んでいない楽曲の数々を「すべて使い切ってやる、絶対使ってやる」と決意していたそうで、音楽にインスパイアされて「この曲をかけるシーンを作ってやれ」と制作を進めたところがあるそうです。
この後は、さらに驚きのエピソードが出てきます。当時のサンライズとしては異色だった本作ですが、渡辺監督はこの作品にはいくつかの“ターニングポイント”があったと話します。
結果的には全く別物となった某作品と一緒にされそうになったことや、その別の作品の企画を見てエドの性別が女の子になったことがあったそう。
このほかにもサンライズで当時行われた本作の第1話上映会で、内容を変えろと言われても一切譲らず作品を作り続けたことや、テレビ東京での放送が急遽決定したため当時最新のアニメ誌に番組のことが一切載らなかったこと。
後に日本ゴールドディスク大賞を受賞するサウンドトラックが当初2000枚しか生産されなかったことなど、様々な苦難に見舞われながらも一切妥協しなかったことがわかりました。
イベントも終盤へと差し掛かると、渡辺監督は「自分の作品でメインキャラを頼んだ人は、イメージが固定されるためその後はなるべく使わない」と話します。
その唯一の例外が石塚さんだったそうで、「運昇さんが演じてくれるとわかって書けるセリフがあった」とコメントしていました。
渡辺監督はそんな石塚さんを映画のわかる人だったと評すると、声優陣に第1話を初めて見せた時のことを語ります。その際石塚さんは、「これは映画だよ」と一言くれたそうです。
そんな本作ですが、ここで再び“極上音響上映会”が開催されることが発表されました! 日程は9月15(土)と22日(土)とのこと。こちらはトークショーありませんが、極上の音響で本作を見るまたとないチャンスです!
今回のイベントに来られなかったという方は、こちらで石塚さんの演技を焼きつけましょう。
[取材・文/胃の上心臓]
拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ガンダムシリーズをはじめとするロボットアニメやTYPE-MOONを主に追いかけている。そして、10代からゲームセンター通いを続ける「機動戦士ガンダム vs.シリーズ」おじ勢。 ライトノベル原作や美少女ゲーム、格闘ゲームなども大好物。最近だと『ダイの大冒険』、『うたわれるもの』、劇場版『G-レコ』、劇場版『ピンドラ』がイチオシです。