『新妹魔王』の上栖綴人×アニメスタジオGoHandsが贈る『やりすぎた魔神殲滅者の七大罪遊戯(ニューゲーム)』とは!?
『新妹魔王の契約者』『はぐれ勇者の鬼蓄美学』などの作品で知られるライトノベル作家・上栖綴人先生。2018年10月2日に、最新作となる『やりすぎた魔神殲滅者の七大罪遊戯(ニューゲーム)』(以下、やりすぎ)が、講談社ラノベ文庫より発売となります。
実は本作では、『K』『生徒会役員共』などの作品で知られるアニメスタジオ・GoHandsがイラストを担当。熾天使の降臨をきっかけに、異能の力に目覚めた人々が暮らす【異世街】「裏吉祥寺」を舞台に展開される迫力の異能バトル、上栖先生の作品ではお馴染みとなりつつある、ちょっと(?)セクシーなサービスシーン、早くもコミカライズ化が決定するなど、見どころを数えていくとキリがない、アニメファンにとっても大注目の作品です。
今回はそんな『やりすぎ』の発売を記念し、著者である上栖綴人先生にインタビューする機会を得ました。最新作『やりすぎ』についてはもちろん、過去の作品から先生ご自身についてのエピソードなど、多岐に渡るお話を聞く事ができました。少々、ここではとても載せられないギリギリの話題がちらほらと飛び出す一幕もありますが、是非ご一読ください!
「七つの大罪」全ての力を内包した、圧倒的な強さをもつ主人公
──まず、『やりすぎた魔神殲滅者の七大罪遊戯』とは、どういった作品なのでしょうか?
上栖綴人先生(以下、上栖):現在のライトノベル業界では、いわゆる「異世界モノ」というジャンルが人気を集めていますが、そこから一歩先に進んだ形として、「異世“界”」ではなく、現代の中にできた「異世“街”」を舞台にした物語を作ってみようという発想から生まれた作品です。
「七つの大罪」というのも要素として入れているのですが、「七つの大罪」を題材にすると、7人のキャラクターがそれぞれに罪を持っていて……という形が多いですよね。そこで本作では、主人公の強さというのを表現する時に、「七つの大罪」の力を全てもっている形にすれば、他と異なる魅力を出せるのではないかと考えました。
──本作にもそれぞれの罪に対応したキャラクターが登場しますが、それらは全て主人公から与えられたものということですか?
上栖:厳密に言うと少し違うのですが、主人公がもっている七つの大罪の力を仲間たちと共有するような形になっています。というのも、主人公がもっている力があまりにも強すぎるんですね。その負担を減らすという意味でも仲間たちが力を受け持っています。その上で、不幸な事故が重なり、偶然にもヒロインである「鴻崎唯」が、“色欲”の担当になってしまうと(笑)。
──本作の特徴でもある【異世街】は、世界の中でどういった位置づけになっているのでしょうか?
上栖:作中では「異能特区」という言葉を使っていますが、行政特区のような形をイメージしてもらえばいいのかなと。隔離のための処置ではありますが、日本の新しい街として前向きなアピールにも使われていて、異能力欲しさに日本中や海外からも人が集まり栄えています。ただ、あまりにも集中しすぎるとまずいので、移住には特殊な手続きが必要で、作中では、生きる世界を変える「転世届け」と、新しい人生を歩む「転生届け」の2種類の手段が存在しています。
──「七大罪遊戯」と書いて「ニューゲーム」と読むタイトルもなかなか変わっていますよね。
上栖:我ながら結構無茶はしたなと(笑)。「七つの大罪」を題材にするので、「7大罪」という単語は入れたいと思っていたのですが、そこに何を付け足すかで悩みました。主人公達が気ままな新たしい生活を始めるという意味で「ニューゲーム」というのは思いついたのですが、カタカナにしてしまうどうにも締まりが悪くて。『はぐれ勇者』や『新妹魔王』でも、漢字にカタカナのルビをふるということはやっていましたから、ちょっと無理矢理にでも「ニューゲーム」と読ませてみようかなと(笑)。
──タイトルは先生が考えられたのでしょうか?
上栖:何度か担当さんに投げたりもしたのですが、なかなか納得のいくものが出来なくて。最初に決まっていたタイトルは『裏吉祥寺の餓狼旅団』だったんですが、ちょっと地味だし今風でもないなと。作家仲間にも相談にのってもらった結果、主人公の圧倒的な強さを表現するのにちょうどいい「やりすぎた」を組みあわせれば、「やりすぎた主人公のニューゲーム」として、作品の方向性も伝わりやすくなるのではと考えました。
──『新妹魔王の契約者』や『はぐれ勇者の鬼畜美学』など、ここ数年の先生の作品は「○○の△△」というタイトルがつく傾向がありますが、これは意図的に統一しているのでしょうか?
上栖:そのタイトルの付け方を最初にやったのは『はぐれ勇者の鬼蓄美学』なのですが、「○○の△△」にこだわるというよりは、何かパワーワードのようなものを入れたいということは考えていますね。『はぐれ勇者』の時は「鬼畜美学(エステティカ)」、『新妹魔王』の時は「新妹魔王」を先に思いついて、そこに何をつけるかということを考えていました。
今回の場合は、『裏吉祥寺の餓狼旅団』からえげつない回数の変遷がありましたね。ただ、100個以上考えた候補はどれも作家仲間から「ピンと来ない」と言われて、担当編集さんに、「すいません、作家仲間からOKが出ませんでした」とメールを送ったりもしました(笑)。
アニメスタジオがライトノベルのイラストを手がける、前例のないことへの挑戦
──少し話が戻りますが、そもそも本作はどんな経緯で作られたのでしょうか?
上栖:知り合いの作家から講談社ラノベ文庫さんを紹介していただき、最初の打ち合わせの際に、僕の方で温めていた2つの企画の内の1つが『やりすぎ』でした。基本的に講談社ラノベ文庫さんは、著者が書きたい者を書かせてくれるレーベルなので、その時から内容は大きく変わっていないと思います。
企画が決まった後も、僕の方から「こうしたチャレンジができないか」ということを何度も提案していて、これまで担当さんが講談社ラノベ文庫で担当してきた中でも一番カロリーが高かったんじゃないかというくらい(笑)、かなり尽力していただいています。
──この段階でコミカライズ化が決まっているという作品も珍しいですよね。しかも同時にスタートとなると。
上栖:文庫の方を盛り上げる上で、コミックも同時に走らせられないかということはこちらから提案させていただいたのですが、それを実現してくださったというのは、本当にありがたかったですね。
──イラストをイラストレーターさん個人ではなく、アニメスタジオのGoHandsさんが担当されているというのも、本作の特色ですよね。
上栖:イラストを決める打ち合わせの中で、GoHandsさんの作品が好きだという話題が出たのですが、講談社さんは、元々『生徒会役員共』などの作品でGoHandsさんとのつながりがあったので、もしかするとお願いできるかもしれないという流れになりまして。
そこから、様々な方の尽力もあり、引き受けていただけた形になったのですが、ライトノベルではアニメーターさんが個人でイラストを担当することはあっても、アニメスタジオが会社として受けるというのはほぼ前例がないんですね。今回それが実現できたというのは、個人的にも前からファンだったスタジオさんということもあり嬉しかったです。OKだという話を担当さんから聞いた時は、最初信じられなかったくらいで(笑)。
──GoHandsさんが手がけた作品の中で、特に印象に残っているものはありますか?
上栖:『K』という作品が発表された時は、すごく興奮しました。映像のインパクトはもちろん、原作・脚本を担当した「GoRA」は、最初の頃は7人の覆面作家集団として正体が伏せられていて、後になってライトノベル業界を代表する錚々たるメンバーが参加していたことが明されましたよね。ライトノベル作家が中心になった企画した作品が、これだけの規模の盛り上がりが作れたということにすごい可能性を感じましたし、僕自身もワクワクしました。GoHandsさんのことは、それまでも知ってはいたのですが、存在を強く意識するようになったたのは、やはり『K』がきっかけだったと思います。
──「餓狼旅団」などのグループ同士が抗争している本作の世界観というのは、少し『K』にも通じるものがあるのかなと感じました。
上栖:僕自身としてはあまり意識はしてなかったのですが、確かに通じる部分もいくつかあるかもしれませんね。ただ、『K』ではかなりの大勢のキャラクターが登場しますが、映像やコミックに比べて、小説は多人数のキャラクターの描きわけというのが難しいという面があります。口調の差別化にも限界がありますし、仮に出すことができても掘り下げができず、ただの置物になっているキャラが出てしまう。
なので人数に関しては、絞るところは絞ろうと考えていました。主人公たちが所属している「餓狼旅団」は6人で、これもライトノベルのメインキャラクターとしては多い方なのですが、自分の中でこれ以上増やすのは厳しいかなという判断はありましたね。
もっとも作家さんの中には、膨大な数のキャラクターを書き分けられている、川上稔さん(※代表作『境界線上のホライゾン』など)のようなものすごい方もおられますが(笑)。
──今回、舞台を吉祥寺に設定したのには理由はあるのでしょうか?
上栖:どこを舞台にしようか考えた時、新宿は他の作品がいくつも思いつくし、横浜は『文豪ストレイドッグス』なら、池袋は『デュラララ!!』でと、もういろいろな地域で作品の旗を立てられているなと(笑)。かといって、吉祥寺にこういう作品の旗を立てるのは、そこに住んでいるであろうセレブな方々に叩かれそうという怖さもありますが、僕の中の吉祥寺のイメージって『ろくでなしBLUES』で、ヤンキーがいる街なんですね。なので全く親和性はないわけでもないのかなと。
あとは吉祥寺ってずっと長い間、住みたい街のランキングでナンバーワンなんですよね。僕自身もオタクなので、ああした場所にいる人達に対して「リア充爆発しろ」的な感情もありましたが、何回も足を運んでいく内に、やっぱり栄えているだけはある面白い街だなということを感じました。駅前でも北と南で全然雰囲気が違ったり、昔ながらの商店街もあり、舞台としてもいろいろなことができそうだなと。
ただ、そんな大きな街ではないので、吉祥寺だけに限定するとかなり範囲が狭まってしまうんですね。なので、本作の「吉祥寺」は、現在の吉祥寺を中心に武蔵野市や西東京市など、東京の4市3区に跨がる範囲を統合した地域となっています。
──その範囲内に住んでいる人にとっては、「ここも吉祥寺になってる」という驚きがあるかもしれません(笑)。
上栖:その人達も異能力に目覚めているかもしれないですね(笑)。ただ作中では、目覚めた異能力は吉祥寺から出てしまうと使えなくなってしまうんですが。
──本作の主人公である「小鳥遊士狼」について教えてください。
上栖:本作の主な舞台は【異世街】という異能力が得られる街なのですが、主人公である士狼は本物の異世界での戦いを経験しており、他のキャラクターとはそもそもの力の根源が異なります。その上えで最初にも触れた、「七つの大罪」の力を全て保持しているという、最強系の主人公としては少し変わった独自性も持っています。年相応の面もありながら、落ち着いている部分は落ち着いていて、優しさと冷酷さを兼ね備えた、『はぐれ勇者』の暁月や『新妹魔王』の刃更とはまたタイプの違うキャラクターですね。
──「裏吉祥寺の歩く下半身」というあだ名もなかなかにインパクトがありますよね。
上栖:実は先にあだ名の方を思いついて、後からそう呼ばれても違和感がない設定として考えたのが、「能力を暴走させる恐れのある女の子の力をエッチなことをして抑えている」という、「色抑」周りの設定でした。もっとも普通下半身は歩くものなので、「頭痛が痛い」的な矛盾のある表現にもなってしまっていますが(笑)。
僕の作品は基本的にお色気的なサービス要素が強めなので、七つの大罪の「色欲」は絡めたいと元々考えてはいたのですが、主人公をあまりに色狂いにさせるのもな……という、いろいろな思惑がカオスな感じに混じり合った結果、ああしたキャラクターになっています。
──異世界の戦いを終えて戻ってきたというのには、先生のファンの中には『はぐれ勇者』の主人公・暁月を連想される人も多いのかなと。
上栖:『はぐれ勇者』と違うのは、主人公の位置づけでしょうか。あちらはキャラクター全員が異世界帰りで一つの学校に集まっているのに対し、『やりすぎ』では現実世界に異世界があり、主人公は他のキャラクター達とは明確に違う存在として独自化させています。暁月が同じ条件の中で抜きん出た存在なのに対して、士狼はそもそもの土台が違っているわけです。
以前に行った料理屋でとあるシェフの方が「ブランドの成功と確立は、差別化ではなく独自化によってもたらされる」といったことを仰られていて。あまりのカッコよさに、「いつか自分の本でも使いたい!」と思っていたのですが(笑)、その言葉にも少し影響を受けていますね。
──メインヒロインである「鴻崎唯」についていかかでしょうか?
上栖:まず今までのヒロインと違うタイプとして、委員長キャラをやろうというのを最初に考えたのですが、同時にあまりに真面目すぎるのは面白くないなと思ったんですね。なので、「基本は優しくて主人公を肯定してくれる娘だけど、時には主人公に対してツッコミも入れる、従順な大人しいだけの娘ではない」キャラクターにしようと。そこから、「裏吉祥寺の歩く下半身」に合わせて「1000人に1人の委員長」というキャッチフレーズを考えついて、設定を固めていきました。
あと余談なんですが、僕の作品は必ずメインヒロインが巨乳なんですよね。『新妹魔王』の時の初代編集さんに初めてお会いした時、巨乳派か貧乳派かを尋ねられ、巨乳派と答えたのですが、「今までの経験上、巨乳派は真面目な秀才タイプ、貧乳派は天才タイプ」的な作家の性格診断をされた記憶があります(一同爆笑)。
──巻き込まれ体質というか、読者にとっては感情移入しやすい対象でもありますよね。
上栖:そうですね。主人公を経験豊富なタイプに設定する場合は、狂言回しをさせ辛いという側面が出るので、ある程度そのあたりの役割も担ったキャラクターにもなっています。ただ、主観がヒロインに寄りすぎてしまうのもよくないので、あくまで主人公である士狼を観測するという役割の中で、読者の視点へ近くなるように留めています。
自分の中では、口調であったり心情だったりを、結構かわいく書けたかなという実感があって、今回描いた中で一番手応えを感じられたキャラクターだったかもしれません。他の作家さんに読んでもらった時も一番人気で、メインヒロインに対してそうした手応えをもてたというのは大きいですね。
ライトノベル作家としてのルーツを探る
──そもそもの話になりますが、どうしてライトノベル作家を目指されたのでしょうか?
上栖:元々本が好きで、小学校高学年あたりからライトノベルも読み始めていて。その頃は『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』が出ていた頃でしたね。ただ、当時なりたかったのは、小説家ではなくコンシューマゲームのシナリオライターでした。そこから高校に入ってから読んだ『無責任艦長タイラー』で「ライトノベルも良いな」と思うようになり、小説を書き始めたのがきっかけです。
そこから大学に入ると、いわゆるPC向けの美少女ゲームもプレイするようになり、その2次創作小説を書いたりしていたのですが、実はとあるメーカーさんのコンテストに応募したところ、それが大賞を受賞しまして。
それでそのメーカーさんから、「ウチでやってみないか」というお誘いを受けたのですが、その頃は家に引きこもりながら書いていたのもあって、「もしボツでも食らったら、心が折れてしまうんじゃないか」と、メンタルに自信がなかったんです。なのでそのお誘いは辞退させていただいて、新卒で広告代理店の飛び込み営業みたいな仕事をやっていました。
──ええ!? そちらの方がよほど精神的に追い込まれそうな……。
上栖:ああ、メンタルを鍛え直そうってことです(笑)。実際、それでかなり鍛えられたんですけどやっぱり長続きはしなくて、その後は編集プロダクション(※出版社の下請けとして、書籍の制作を請け負う会社)で働いていました。だからどっちかというと、そちら(インタビューする側)の人間なんですよ(笑)。文字起こしとかもよくやってました。
──そこからどうしてもう一度作家の道を?
上栖:編集者としての仕事をやっていく内に、「そういえば昔はライトノベル作家になりたかったな」という夢があったのを思い出して、やっぱりそっちもやってみたいなと。なので日中は編集の仕事をやり、家に帰ってからはひたすら小説を書く……という生活を送っていました。
そうして書き上げた『眼鏡HOLICしんどろ~む』がノベルジャパン大賞の優秀賞を受賞し、HJ文庫からデビューが決まりました。その後は、結構長い間編集と作家の2足の草鞋を履いていたのですが、編集者時代に思い出深いのは……(編集注:あまりに爆弾発言だったため伏せさせて頂きました)の時。あの案件は今思い出してもヤバかったですね(笑)。
──すいません、それ絶対書けない奴です(笑)。
上栖:(笑)。けど、作家業をこなしながらでも成果は上げられていましたし、僕自身は作家より編集の方が適正があると思ってるんです。ただ懸念していた通り、メンタルが絶望的に編集向きじゃなかった(笑)。『はぐれ勇者』あたりで作家業の方が忙しくなってきたのもあり、現在は基本的には専業作家としてやっています。
──そうしてHJ文庫でデビューを果たされたわけですが、現在の作風が確立されたのは、やはり『はぐれ勇者』のあたりでしょうか?
上栖:そうですね、それ以前は自分が面白そうだと思うことや、作品を尖らせることばかり考えていて、あまり「読者が求めているもの」というのを重視していなかった気がします。特に変わったのは、「全てのキャラクターの中でも主人公を一番深く掘り下げる」という、主人公の設定作りの部分ですね。
あとは、『はぐれ勇者』を出す前、僕は2作目のシリーズも打ち切りで終わってしまっていたんです。ところが、同期や先輩の作家さん達はまだ受賞作の連載が続いていて、当時のHJ文庫で3作品が打ち切られる、いわゆる“3アウト”をとられた作家が一人もいなかった。そうした事情があったので、実際にどうなったかはわからないのですが、当時は「これがコケたら俺はもう後がないんじゃないか」という心理状況でして。HJ文庫で売れているジャンルは何で、どんな作品が求められているかというレーベルの分析は、徹底的に行いました。
既にその前のシリーズからお色気要素というのは入れていたのですが、主人公のキャラクター性も含めた現在の方向性を確立したのは、間違いなく『はぐれ勇者』の時だったと思います。
──確かに、近年のライトノベルのヒット作を見返すと、主人公のもつ魅力というのがとくに重要になっているように感じます。
上栖:主人公の魅力で言うと、実際『はぐれ勇者』では主人公の暁月がダントツで一番人気だったんです。一方で『新妹魔王』の時は、刃更がオーソドックスなタイプだったのもあり、各ヒロインに人気が集中していました。ただ、暁月みたいなタイプは、ヒロインの存在感も食ってしまうという難しさもあるんです。
なので『やりすぎ』の士狼は、自分自身とヒロインの魅力の両方を立てるような、暁月と刃更の中間くらいの位置づけを意識しています。それでいてヒロインのクオリティは、『新妹魔王』の時以上のものにする。これまでのシリーズよりも一歩先に行ったキャラクターメイキングができたかなと思います。
サービスシーンを描く際の知られざる苦労とは?
──上栖先生の作品といえば、ギリギリのラインを攻めるサービスシーンも特徴かと思うのですが、これまで編集部からNGが出たことというのはあるのでしょうか?
上栖:それはありますよ(笑)。『新妹魔王』の時に、ちょっとマニアックなシーンを入れようとして「上栖さんがそういう趣味だったら考えますが……」的な、遠回しにやめてもらいたいという要望が担当さんから来ていたので、取り下げた記憶があります。
ただ、やっぱりこうした作品って、読者の方も慣れてきますから、どうしてもシリーズが進むごとにより過激にならざるを得ないんですよね。なので、後半の方は、序盤なら確実にNGが出たであろうシーンもあっさりOKが出るようになっていました(笑)。
実は『新妹魔王』の1巻の時、今後の展開も考えて、当時同時期に出していた『はぐれ勇者』の新刊より描写を抑えめにしたんです。すると、読者の方からその点のご指摘を結構いただき、これはしまったな……と(笑)。
その後『新妹魔王』は、突き抜けるところまで突き抜けましたし、講談社ラノベ文庫には『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』という作品もありますから、『やりすぎ』ではそちらのファンにも満足いただけるよう、序盤からかなり飛ばしています。さすがに『新妹魔王』の最終巻とまではいきませんが(笑)。
──その『新妹魔王』の方は、今年4月にメインストーリーが完結を迎えましたが、現在の心境はいかがですか?
上栖:すごくほっとしているというのが正直な心境ですね。やっぱりシリーズが長くと、もっと面白いものを書かないといけないというプレッシャーもあり、筆が遅くなってしまうこともあったのですが、以前から決めていたラストシーンに無事辿りつくことができたのは良かったのかなと。作家としてももうそこそこのキャリアになってはいるのですが、アニメ化したタイトルをきちんと閉じる経験ができたというのは、改めて一つの自信になりました。
──ライトノベルでは、打ち切りではなく、きちんとした形で完結でできる作品というのはそう多くない印象を受けます。
上栖:ライトノベルに限った話ではなく、漫画とかでも打ち切りにならず、きちんとしたエンディングを迎えられる作品が限られますからね。まずそれだけ長く続けさせてもらえることがありがたいですし、読者の方々がついてきてくれているおかげですから、その応援にはなるべく答えたいなという想いは持っています。
そういう意味では、『新妹魔王』の場合はそれぞれのヒロインにすごくファンがついてくれていたので、メインヒロイン一人に絞るのではなく、最終的にヒロイン全員と結ばれる形にしたという経緯がありましたね。
──アニメの『新妹魔王』の時は、アフレコも見学されたのでしょうか?
上栖:最初の頃だけ見学させていただいたのですが、なかなか大変でした。実は僕、ああしたサービースシーンって、素面じゃまず書けないんですが、下戸なのでお酒も飲めない体質でして。なのでわざと睡眠不足になって、深夜のラブレター的な、ちょっとおかしいテンションで書くようにしているんです。それを素面の状態で、目の前で音読される時の気まずさたるや……(一同爆笑)。アフレコが終わった後とかは、ちょっとキャストさんと目を合わせられなかったです。
ただ、後半になるにつれ女性キャストの方々は大分慣れてきて、それを聞く男性キャストの方が気まずい雰囲気になっていたという話は後から耳にしました(笑)。
個人的に嬉しかったのは、アフレコを見学させていただいていた時、尺の都合で台本を変えないといけなくなったことがあったのですが、個人的に気に入っていた迅(※『新妹魔王』の主人公・刃更の父親)のセリフもカットされそうになったんです。自分としては「尺の問題だし仕方ない」と諦めたんですが、その時に迅を演じていた藤原啓治さんが、「カットしちゃうの?これやりたかったんだけどな」ということを仰ってくださり、結果セリフが残ることになったというエピソードがありまして。すごくキャラクターのことを理解してくださっていて、ありがたかったですね。
編集と作家、2つの立場を知るからこその強み
──今回、講談社ラノベ文庫からは初めての出版となると思うのですが、レーベルが変わると作品の作り方というのも変わってくるのでしょうか?
上栖:僕自身の創作スタンスという意味であれば、根幹となる部分はあまり変わらないですね。その上で、講談社ラノベ文庫ならどういった作品が売れているのか、どういった話を好む読者が多いのかという分析は行っています。
根っこの部分は残しながら、これまでのシリーズの面白さを踏襲しつつ、これまでになかった要素を足していった……という作り方になるでしょうか。『はぐれ勇者』や『新妹魔王』の時もそうですが、今の僕にできる限りの集大成として作っています。
──これまでお話させていただいて、作品作りも含めて、物事をすごく理詰めで考えられている方だという印象を受けました。
上栖:それが正しいかはわからないのですが、自分なりにかなり考えながらやっているつもりです。「人智を尽くして天命を待つ」という言葉がありますが、その中の運否天賦の割合を減らすために、いかに積み上げができるかというところが、著者の頑張りどころだと思っていて。僕の場合ですと、タイトルは練りに練りますし、どんなことをすればユーザーさんに刺さるのかといったことは常に考えています。
──クリエイターの中でも、どちらかというとプロデューサー寄りな視点を持たれているなと。
上栖:そうしたセルフプロデュースタイプの作家さんも知り合いにも多いですし、僕の場合はやっぱり編集を経験していますから、その視点を持てたというのも大きいのかなと思いますね。
そういえば、10年くらい前のHJ文庫の授賞式の時、新人を代表してスピーチをしたのですが、「編集と作家の両方の視点を持てるのが僕の武器なので、生かしていきたい」といった初々しいことを言っていたのを今思い出ししました(笑)。まぁその受賞式でよく覚えているのは、担当編集さんに連れられて、とあるベテラン作家さんのところに行った時に──(以下略)。
──それもたぶん書けない奴です(笑)。
上栖:なんか使えない話ばっかりですみません(笑)。
──そうした経験を経て作られた『やりすぎ』ですが、特に苦労したり力を入れたというポイントはありましたか?
上栖:一番苦労したのは、最初の頃にもお話しましたがタイトルですね。候補も最終的に200近くは考えたと思います。これまではタイトルが決まるまでだいたい三ヶ月くらいのことが多かったのですが、今回は半年近くかかりましたね。
力を入れたポイントでいうなら、キャラクターメイキングでしょうか。やっぱりサービス系の作品なので、そのサービス的な行為が必然となるような設定が必要で、『はぐれ勇者』の時は主人公の性格、『新妹魔王』の時はサキュバスをヒロインの一人に設定したりしていたのですが、それなら今回は「七つの大罪」の色欲かなと。
ただ、講談社さんにはメリオダス(※漫画『七つの大罪』の主人公)がいますから、そこと正面からぶつかっても逆立ちしても勝てんだろうと(一同爆笑)。なので「七つの大罪」全ての力をもっているという点で差別化を図っています。他にもヒロインの造形であるとか、登場人物の設定作りを魅力的するという点には力を入れていますね。
──それでは、最後に本作の発売を楽しみにしている読者に向けて、メッセージをお願いします。
上栖:重ね重ねになりますが、やはりGoHandsさんがイラストを担当してくださるというのが、一番の注目ポイントかなと。僕自身もファンである憧れのスタジオに引き受けていただけたのは大変光栄ですし、上がってきたイラストのクオリティがどれも本当に高いので、そこは是非とも一度ご覧になっていただきたいです。今回はいろいろな幸運が重なった結果ではあるのですが、これが今後ライトノベルができることの枠が広がるきっかけになってくれたらいいなとも思っています。
同時に、やはりGoHandsさんにお願いした以上、「アニメ化しないともったいない!」という想いもあるので、なんとかヒットさせてアニメ化までもっていきたいなと(笑)。もちろん、そうやって生み出していただいたキャラクター達のドラマ部分も頑張って作っていますし、爽快バトルとサービス要素満点の濃厚な内容となっているので、是非ともお買い上げいただき、でもちょっとエッチなのでこっそり楽しんでいただければと思います(笑)。
──ありがとうございました。
約2時間にも渡る、非常に長丁場の取材となった今回のインタビュー。ところどころにちょっと危険な(?)話題もありましたが、最新作の魅力や制作秘話から、過去作の裏話、創作のスタンスまで、大変貴重なお話をいくつもお聞きすることができました。
そんな熱い想いで作られた『やりすぎた魔神殲滅者の七大罪遊戯』は、10月2日に発売予定。既にコミカライズ化も決定、PV映像の公開もスタートしており、かなりプロモーションにも力が入った作品となっています。
もちろん作品の内容も、燃えあり笑いありお色気ありの、これまでの上栖先生の作品が好きなファンであれば、間違いなく満足できるクオリティとなっていますので、この機会に是非ともご一読ください。
[取材・文/米澤崇史]
作品概要
熾天使が降臨し、異能で溢れた世界初の【異世街】裏吉祥寺。そんな街で唯一、本当の異世界に召喚されていた小鳥遊士狼は、背徳の禁忌を犯す事で魔神を殲滅し『七つの大罪』全ての力を得て帰還。異能グループ《餓狼旅団》の最高幹部筆頭になり気ままな日々を送っていた。だがある日【千年に一人の委員長】と評判の少女、鴻崎唯が男達に追われるのを目撃! 助けた拍子に、士狼の【禁断の色欲】が唯へと刻まれてしまい——「大丈夫だよ。委員長の色欲は俺が鎮めるから」「あの小鳥遊くん……何で無駄に良い笑顔なの?」二つの運命が絡み合う時——世界は新たな最強を知る! 『新妹魔王の契約者』の上栖綴人が描く【最強】×【禁忌】の異世街黙示録!!