『劇場版 夏目友人帳~うつせみに結ぶ~』神谷浩史さん&井上和彦さんインタビュー│劇場版はTVシリーズが10年続くある意味ひとつの答え
『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』が2018年9月29日(土)より全国公開されます! 『夏目友人帳』は「月刊LaLa」(白泉社)で連載中の緑川ゆきさんによる人気コミック。単行本は現在23巻まで刊行され、シリーズ累計1300万部を突破。TVアニメは2008年より六期に渡って放映され、異例のロングシリーズ作品となっています。
TVアニメ化10周年を迎えた2018年、アニメ『夏目友人帳』の集大成ともなる劇場版がスクリーンに登場。シリーズ初の長編映画として、原作者監修による完全新作のオリジナルエピソードが描かれます。
今回は映画公開を記念して、夏目貴志役の神谷浩史さん、ニャンコ先生・斑役の井上和彦さんにインタビューを敢行。作品に携わってきた10年の想いや劇場版ならではの魅力についてなど、いろいろとお話をうかがいました。
神谷浩史さん、井上和彦さんのファンで、まだ『夏目友人帳』を観ていない人、記事で興味を持ち、『夏目友人帳』をこれから観る人は、ネタバレも含みますのでご注意ください。
【あらすじ】
人と妖の間で忙しい毎日を送る夏目貴志は、偶然昔の同級生・結城と再会したことで、妖にまつわる苦い記憶を思い出す。そんな頃、夏目は名前を返した妖の記憶に出てきた女性・津村容莉枝と知り合う。レイコのことを知る彼女は、一人息子の椋雄とともに穏やかに暮らしていた。彼らとの交流に心が和む夏目。
だが、親子の住む町には謎の妖が潜んでいるらしい。そのことを調べに行った帰り、ニャンコ先生の体についてきた妖の種が藤原家の庭先で、一夜のうちに木となって実をつける。どことなく自分に似た形のその実を食べてしまったニャンコ先生に、とんでもない異変が起きてしまう――。
神谷さんが分析「夏目って、実はわりと乱暴なところがある」
――まずは、本作の台本を最初に読んだ時の感想をお聞かせください。
夏目貴志役・神谷浩史さん(以下、神谷):(つぶやくように)2冊に(台本が)分かれてるなぁって……。
ニャンコ先生/斑役・井上和彦さん(以下、井上):(つぶやくように)1冊だったら重いなぁって……。
神谷:(冷静なトーンで)そうですね。
井上:ハッハッハッハッハ……(笑)。
神谷:内容はわりと自然に受け入れられるものでした。というのも、原作がある中で、今回は完全オリジナルストーリーということもあり、少し不安に感じる部分もあったんですよね。
テレビアニメやサウンドシアター(『SOUND THEATRE×夏目友人帳~集い 音劇の章~』のこと。2013年より公演され、これまでに3回上演されている)などで感じたことですが、(緑川ゆき)先生以外の方が書かれた脚本で、「『夏目友人帳』らしさのようなものをどうやったら表現できるんだろう?」と、けっこう苦労した部分があったんですよ。
だから、「今回の劇場版は、果たしてどうなるんだろう?」という不安は少しありましたが、脚本を読ませていただいて、何の違和感もなく、スッと入ってきました。オリジナルだということを忘れて読んでしまいましたね。
井上:「台本がすごく自然だし、無理なところが全然感じられませんでした。TVシリーズだと、時間の都合があるので、どうしても急いでしまうところや、端折ってしまうところが出てくると思うんですけど、今回の作品は心ゆくまで作り手側が納得のいく長さで作ったという感じがしましたね。
神谷くんも言っていましたけど、最初に脚本を読んだ時はスッと何の違和感もなく、「ニャンコ先生が3体になるのか。大変だな……誰がやるんだろう? 俺か!」と思ったこともありましたけど……(笑)。それも含めて楽しいし、優しいし、ほろっとするお話だなと思いました。
――今作では妖の木の実を食べたニャンコ先生が3つに分裂し、トリプルニャンコ先生として活躍しますが、3匹(1、2、3号)とも井上さんが演じられています。演じ分けはされたのでしょうか?
井上:演じ分けは……特にないです。
神谷:フフフ(笑)。
井上:ただ、1、2、3号というキャラクターの棲み分けがあるので、その辺はちょっとだけ意識しました。完成した作品を観てみると、ちゃんとキャラクター性が分かれていましたけど、演じている時はそれほど意識しなかったですね。
――声のトーンはご自身の中でも……。
井上:一番辛いところですね(笑)。最初(単体で行動する時)は喋らないし、体が重なって、やっと喋るという設定だったので、喋らないところをどう表現しようかなと思いましたね。やっぱり第一声は聞いている方がキュンとくるような……なんちゃって(笑)。
――第一声はキュンときました。とてもかわいかったです。
井上:「かわいいって思っていただけると、嬉しいな」と思いながら演じました。
――今作も感じたのですが、夏目(貴志)は人間に対しては少し遠慮していて、妖怪に対しては少し親しみがあるような印象を受けました。神谷さんは演じ分けを意識されていますか?
神谷:まさにその通りで、妖と対峙している時の方がわりと素に近い部分があるだろうし、人に対しては自分が変わり者であるという自覚を持ちながら、その人に変わり者ではないということをアピールしなくてはならないので、当然のことながら多少装っているところが出てくると思うんですよ。
その些細な違いだとは思うんですけど、それが映像的にも音声的にも、トータルな表現として伝わっているのであれば、それは意図してやっている部分なので、まさにその通りとしか言いようがないです(笑)。
――夏目は妖怪に対しての方が素の部分に近いですかね?
神谷:素の部分なのか、それとも装う必要がないからなのか。妖は夏目のことを変わり者という見方はしないので、妖の方が人間(夏目)に対して遠慮がないんです。でも、妖だから遠慮しないというわけではなく、人間に対してもちゃんと本心で話してくれるキャラクターに対しては、そのように接するんだと思います。
夏目って、実はわりと乱暴なところがあるので(笑)。面白いなと思うのは、夏目は一人称が「俺」なんですよね。こういうキャラクターだと、「僕」という印象が強いんですけど、基本的には「俺」なんです。
――確かに、「俺」ですね。
神谷:今作にも名前だけ出てきた、細谷佳正くんが演じている柴田克己(小学校時代の夏目の同級生)というキャラクターがいるんですけど、彼は過去に夏目と関わりがあって、けっこうキツい言葉で話してくるから、それに対して夏目も言い返すこともあるんです。対人、対妖ということではなくて、相手がどういう態度で接してくるのかによって、距離感が変わっているだけだと思います。
ただ、ほとんどの人間が妖に対しての理解を持っているわけではないので、そういうものがあいまいだった子供の時期に、大人たちから変な目で見られているという過去、ある意味トラウマですよね。そこは夏目が遠慮するという部分に繋がっているのかもしれません。
劇場版ならではの夏目タイム
――「劇場版ならではだな」と思うところはありますか?
井上:神谷くんも以前言っていたんですけど、せせこましくないっていう……(笑)。
神谷:フフフ(笑)。
井上:夏目タイムで、無理なく作品が描かれています。例えば、島本須美さんが演じている津村容莉枝が木の前で座っているところ。息子が亡くなってしまった時に、悲しみで膝をついてじっとするシーンがあるんですよ。次に立ち上がるまでの間がすごく長いんです。そういうところが劇場版らしいなと……。「今、立ちたくなる時間だ」という間、ちゃんと心の間として描かれているなと思いました。
――劇場版になっても、夏目らしい穏やかな空気が流れていますよね。
井上:TVではもしかしたら間を詰めなきゃいけない部分かもしれませんが、「劇場版では、きっちりと描いているな」という印象を受けましたね。
神谷:(井上)和彦さんがおっしゃっているとおりです。TVシリーズは今のこの世の中にマッチするものを作ろうとすると、どうしても1話で全てが完結するものを提供しなくてはいけない。そうしないと、今の視聴スタイルに合わなくなってきている事実が現実にあるので、本来だったらもう少し時間を割いて描かなきゃいけないエピソードでも30分というフォーマットに落とし込まなきゃいけないんです。
今回の劇場版は104分という尺ですけど、3回に分けてアフレコをしました。後でナレーション部分をひとりで録っていたんですけど、30分のアニメーションを録るよりも時間をかけて、たっぷり使わせていただきました。「その分疲労感があるかな」と思ったんですけど、全然疲れなかったんですよね。
井上:そうだね。
神谷:我々はずっと出番があったので、(アフレコ)スタジオ内にいましたけど、出番のない中級(妖怪)たち(を演じているキャストたち)は、(スタジオ外の)ロビーでどんちゃん騒ぎしていましたよね。
井上:盛り上がっていました(笑)。
神谷:盛り上がっていましたね(笑)。立派な差し入れをいろいろといただきまして、ロビーがちょっとしたパーティー会場みたいになっていて、外にいる人たちは存分に盛り上がっていましたよね。
井上:夏目組・犬の会(※)のようになってたね。
神谷:劇場版は自然と気持ちに寄り添う映像作りになっていたので、とても心地よい中でアフレコができたというのが劇場版ならではかなと思います。
※夏目の呼び出しあらば、犬のごとく馳せ参じようという妖が集まった飲み会サークル。劇場版ではヒノエ(CV:岡村明美)、三篠(CV:黒田崇矢)、中級妖怪(一つ目 CV:松山鷹志、牛顔 CV:下崎紘史)、ちょびひげ(CV:チョー)、河童(CV:知桐京子)が出演
『夏目友人帳』はずっと携わっていたいなと思う作品
――アニメ化10周年ということで、おふたりにとって『夏目友人帳』とはどんな作品でしょうか?
井上:僕はアニメが始まった時は、ここまで長く続くとは思っていなかったんです。楽しいし、すごく好きな作品だから続けばいいなと思っていて。(第二期が終わってから)2年半という時間が経ってしまい、ちょっと諦めかけた頃に第三期、第四期をやることになって、「やった!」って思いました。
人間って欲が出てくるもので、第四期まで続くと、「次はないのかなぁ?」となり、さらに間が空いて、第五期、第六期がありました。その間にもサウンドシアターやイベントをやらせていただいたので、間が空いたという感覚はそれほどなかったんですけど、ずっと携わっていたいなと思う作品だと思いますね。
神谷:たぶん第三期と第四期の打ち上げの挨拶で、「『夏目友人帳』という作品が自分の看板として何年もトップにきているのは作品に申し訳ない。こういう素敵な作品に巡り会えた以上は、もちろんこの看板は大切にするけれども、その年、その年ごとに代表作を明言できるような役者になっていないと、作品に対して失礼なんじゃないか」というようなことを言ったんです。でも、今はもうずっと『夏目友人帳』が僕の代表作のトップのままでもいいのかなって気もしているんですよね(笑)。
それは僕の本心で、第五期、第六期と続けられることになり、10年を迎えて、劇場版となった時に、「もうここまで来たら、僕の代表作は『夏目友人帳』でいいや」と思うようになりました。でも代表作のトップに掲げているからこそ、この作品に対して恩返しをしていかなければいけないなとも思っています。その方法というのは、まだちょっとわからないですけど、この10年で考え方が変わった気がしますね。
――心境が変化したんですね。
神谷:この『夏目友人帳』という作品が、僕のプロフィールの中から消えることは、おそらくないと思うんですけど、他の作品が少しずつ変わっていったり、その時その時で「今はこの作品に出ています」と言えるようなところにいられたら、もしかしてこの作品に対して恩返しになるのかなと……。
もしくは継続していくこと。この作品を緑川先生がご納得のいくエンディングにたどり着いた時に、僕がいて、和彦さんがいて、映像としてみなさんに最後までお届けするということができたら、もしかしたら恩返しかもしれないですね。
――最後にファンのみなさんにメッセージお願いします。
井上:楽しんでいただけるのはもちろんなんですが、『夏目友人帳』の持っている優しさをたくさん感じていただきたいですね。
僕は映画を観て、「面白かった~」で終わっちゃうタイプの人なんですけど、この映画を観ると、「生きるって、どういうことなんだろう?」とか、そういうことをちょっと考えるんです。だから、変な話ですけど、「自分がいなくなった時って、どうなるんだろうな?」とか、「ちょっと人の記憶の中に残りたいな」とか、そういったことを思うようになったんですよね。人それぞれだと思うんですけど、いろんなことを感じて、観ていただけたら嬉しいなと思います。
神谷:『夏目友人帳』をご存知の方には、「絶対的に自信がある劇場版ができたので、ぜひ劇場に足を運んでご覧ください!」としか言いようがないんですけど、全く知らない人もたぶん大勢いると思うんです。
『夏目友人帳』のアニメーションは放送開始から10年になりますが、作品を知らない方たちに、言うべきことがあるとすれば、「何でそんなに続いているのか?」という疑問に対して、劇場版はある意味ひとつの答えだと思っています。
劇場版を観て、何かを感じとっていただけたら本当に嬉しいし、そうでない方だったとしても、TVシリーズの過去何本もエピソードがありますので、紐解いていくと、絶対1エピソードぐらい自分の琴線に触れるエピソードが必ずあると思うんです。そうなった時に、実は全てのエピソードが急に輝いて見えるようになるんですよね。劇場版はその体験を提供できるきっかけだと思うので、劇場に足を運んで、好きな人と一緒に観てくれたら嬉しいです。
――ありがとうございました。
[取材・文:宋 莉淑(ソン・リスク) 撮影:鳥谷部宏平]
作品情報
● イントロダクション
「夏目友人帳」シリーズ初の長編オリジナルエピソードがスクリーンに登場!
緑川ゆきの代表作「夏目友人帳」(白泉社 月刊LaLa連載)は、優しさと切なさの溢れる描写が話題となり、漫画ファンを中心に支持を得てきました。
TVアニメ第一期は2008年に放送を開始、その後2017年の第六期まで継続され、 2018年秋、集大成ともなる劇場版がスクリーンに登場。
本作では、シリーズ初の長編映画として、原作者監修による完全新作のオリジナルエピソードが描かれます。確かな実力と多くの経験を積んだスタッフの手によって、待望の劇場アニメーションが誕生します
● スタッフ
原作:緑川ゆき/月刊LaLa(白泉社)連載
総監督:大森貴弘
監督:伊藤秀樹
脚本:村井さだゆき
妖怪デザイン・アクション作監:山田起生
サブキャラクターデザイン:萩原弘光
美術:渋谷幸弘
色彩設定:宮脇裕美
編集:関 一彦
撮影:田村 仁・川田哲矢
音楽:吉森 信
アニメーション制作:朱夏
製作:夏目友人帳プロジェクト
配給:アニプレックス
● キャスト
夏目貴志:神谷浩史
ニャンコ先生・斑:井上和彦
夏目レイコ:小林沙苗
夏目貴志(少年時代):藤村 歩
結城大輔:村瀬 歩
藤原塔子:伊藤美紀
藤原 滋:伊藤栄次
田沼 要:堀江一眞
多軌 透:佐藤利奈
西村 悟:木村良平
北本篤史:菅沼久義
笹田 純:沢城みゆき
名取周一:石田 彰
柊:ゆきのさつき
笹後:川澄綾子
瓜姫:樋口あかり
ヒノエ:岡村明美
三篠:黒田崇矢
ちょびひげ:チョー
一つ目の中級妖怪:松山鷹志
牛顔の中級妖怪:下崎紘史
河童:知桐京子
もんもんぼう:小峠英二(バイきんぐ)
六本腕の妖怪:西村瑞樹(バイきんぐ)
津村容莉枝:島本須美
津村椋雄:高良健吾