じんさん5年6ヶ月振りとなるサードアルバム『メカクシティリロード』インタビュー――このアルバムには“人は一人じゃ生きていけない”というテーマしかない
2018年11月7日に発売決定しているアーティスト・じんさんによるサードアルバム『メカクシティリロード』。セカンドアルバム『メカクシティレコーズ』のリリースから約5年6ヶ月ぶりとなる最新アルバムの発表ということもあり、ファンからの多くの期待と注目を集めています。
そんなじんさんに、インタビューを実施! それぞれの曲に込められた思いや楽曲の聴き所、収録中のエピソードなどを伺いました。じんさん独自の感覚や想い、そしてファンへの強い気持ちが感じられるインタビューとなっています。
じんさんの5年6ヶ月の空白に迫る
――セカンドアルバム『メカクシティレコーズ』からサードアルバム『メカクシティリロード』が出るまで、5年6ヶ月の年月が経ちましたね。
じんさん(以下、じん):元々『カゲロウプロジェクト』は友達関係に悩んでいる人たちに向けて作った曲だったんです。そういう人たちに作品を届けていく中で、自分が迷いながら作曲したくないという思いがあったんですね。ファンに対して、嘘をつきたくなかったんですよ。
――嘘をつきたくないというのは、具体的にはどのようなことでしょうか?
じん:例えば、自分は何もしたくないと思っている時に、「生きていて楽しい!」という曲を作りたくないんです。自分は今何も言いたくない、誰にも会いたくないという時に、誰かに何かを言ったり笑ったりするというのは嘘をついていることと同じだと思っていて。
そこから自分が考える正しさを出していきたいと思い、頑張って小説を書いてみたりもしました。最近になって音楽を一緒に作りたいと思える人達にも出会えて熱意をもらい、楽曲に取り掛かったという流れがあります。
――新しい形に取り込むというよりは、これまでできなかったことをやりたかったということでしょうか?
じん:そうですね。小学校の頃に作った模型と今の僕が作った模型とでは全然違うように見えるけれども、やっていることは全然変わらないということに近くて。過去に僕がやりたいと言った時に「でもこういうものだから」と流されたことがあり、その悔しさが今回のアルバムを作ったのかもしれないです。
このアルバムを作って思うのが、「ざまあみろ、やっぱりできるじゃないか!」ということ(笑)。過去作よりもさらにパワーアップした作品が作れるようになったと自負しています。
――じんさんのモチベーションが上がった最大の理由は何でしょう?
じん:やっぱり人との出会いですね。「この人たちと一緒に作ったらどうなるんだろう?」と思える人たちに会えたことが大きいです。
――『カゲロウプロジェクト』のテーマに“人と人との関係”があると思いますが、まさにこのアルバムはその関係から生まれたものだったんですね。
じん:人との関係もそうだし、このアルバムには“人は一人じゃ生きていけない”というテーマしかないんですよ。見た目は複雑なんですけど、基本的にシンプルなテーマの作品だと思っていて。自分に正直であれば、良いものが作れるという風に思えたんですね。我ながら良いテーマだと思います(笑)。
“リロード”という言葉に込められた想いとは
――今回のアルバムのコンセプトを教えてください。
じん:アルバム発売に先立って公開した「失想ワアド」という楽曲があるのですが、曲の中で「普通のことが難しいのは不思議だ」ということを歌っています。
僕にとってすごく難しく感じることが、ある人にとっては息をするように簡単な事で、「何で普通のことができないの?」って言われたりするんですけど。そういった価値観の違いを理解してもらうことが、すごく難しいと感じた経験があったんです。
「アディショナルメモリー」という曲も公開したんですけど、それは「(あなたと)友達になりたくなかった」ということを歌っているんですよ。とある人とお別れする時になって、「ああしておけば良かった、なんであの時に言えなかったんだろう」と後悔したり。
そういったテーマが全曲を通して入っていて、人との関わりあいというテーマに繋がっています。最初はこういった具体性というのは宿してなかったかもしれないです。
――とにかく楽曲を作りたいという思いが先にあったんですね。
じん:「今回のアルバムは人との関わりをテーマに作ります!」と宣言して作ったわけでもなく。実際に作ってみて、自分の中で燃えていた物の正体に気付いた感じです。今振り返ってみると、今回の曲を作りたいと思ったことも、色んな人との出会いがあったおかげだと感じますね。
――『メカクシティリロード』というタイトルの意味を教えてください。
じん:単純に言葉がカッコイイから……というのは、さすがに理由が浅すぎますね(笑)。「リロード」という言葉には、「もう一度装填する」とか「やり直す」という意味があります。前回のアルバムでやり残していた事がたくさんあったし、今回は絶対に未練を残さないものを作りたいというのがありました。
『メカクシティリロード』というタイトルは、クリエイティブな観点からのリベンジに近いですね。もう一度熱量の高い作品たちと向き合って、過去の自分と戦うような作品にしてみたかったというのもあります。
作品が持つ価値観や世界観、ストーリーにとって、「リロード」という言葉がどういう意味を持つのかは、各々で考えていただきたいです。
――じんさんにとって、今回のアルバムは重大な作品になりましたね。
じん:そうですね。本当に熱のこもった作品だし、僕にとってものすごく意味のある楽曲だと思えるので、皆さんには覚悟を持って聴いていただきたいです。
中二ではなく、“小学四年生っぽい”表現を目指したい
――今回のアルバムは『カゲロウプロジェクト』とどのような関係性を持つのでしょうか?
じん:他の物語で描けていなかった最新の哲学を、生々しい形で入れられたらと考えています。以前と比べて僕の表現の仕方も変わりましたし、音楽の精度や強さというものも際立ったと思うので。
それによって『カゲロウプロジェクト』が持っている各キャラクターの隠された思いが、ものすごい熱量を持って表現できたかと。特に今回は「未来」というテーマもあり、キャラクターたちがどんどん大人になっていくんですね。
――前回のアルバムから5年半経ってますもんね。
じん:ストーリー的に子どもたちが夏に戦うお話だったんですけど、未来といったポジティブなテーマを見つめ始めるという流れもあり、子どもをやめることにも繋がります。大人になるにつれ、物語の主人公ではなくなっていく感覚に近いんです。
楽曲を公開した時、ファンに対してものすごく生々しく響いている印象があって。その反応を見て、今回のアルバムが『カゲロウプロジェクト』を牽引してくれているコンテンツになったと安心できました。
――キャラクター達が大人になってしまうとなると、これまでにあった“中二病的”な格好良さというのは失われていくのでしょうか?
じん:僕の曲はよく中二っぽいと言われるんですけど、実は“小学四年生っぽい”と言われたかったりするんですよ(笑)。中二じゃなくて、もっと幼いと思われたいんです。
中二病的な表現を使うのはある意味メタファーで、大人になっていく様子を描こうとすると、どうしても中二っぽい感じになるんですね。
子どもが大人になり青春が終わっていく感じが、ファンの人達にはちゃんと響いてくれていて。大人になっていくエモーショナルが、深い部分で共感を得てくれていると思っています。
――なるほど。『カゲロウプロジェクト』が今後どのように展開していくのか楽しみですね。
じん:ファンの皆さんも大人になっていくにつれ、歌詞の読み方や捉え方がどんどん変わっていくと思います。大人になるということは、また新しい人が入ってくる可能性もあり、僕は今後も『カゲロウプロジェクト』は子どもたちの話を続けたいと思っています。
新しいキャラクターが出てくることによって、今まで描けなかった視点の『カゲロウプロジェクト』になっていくんじゃないかと思います。
あえて全てを語らず、想像の余地を残す曲作り
――リード曲の「アディショナルメモリー」はどのような曲なのでしょうか?
じん:ビビットに突き刺さる形で、情念を描きたかったんです。これは過去の作品では表現できなかったことのひとつでもありました。
――ピアノの映像とエレキギターをかき鳴らす音が交互に迫る演出が印象的でした。
じん:その演出は、自分の中でも上手く落とし込めた感覚がありましたね。以前と比べて新しい技術を習得したというよりかは、どのように音を表現しようか思い切り悩んだというのがあって。「アディショナルメモリー」はビビットな表現を過去よりも突き詰めて作りました。今までの楽曲と比べても、時間をかけて作った方だと思います。
あと、この曲にはアヤノというキャラクターが登場するのですが、そのキャラクターの内心を描くといった、今までの『カゲロウプロジェクト』の歌詞ではできなかった表現ができました。
――それはどのようなことでしょうか?
じん:今までは十のことを伝えたかったら十を言っていたんです。でも、今回の曲では十のことを伝えるために六ぐらいまでしか言ってないんですよ。ですが、曲が内包する情念はファンに伝わっているだろうなと。
突き刺さるような思いや後悔、主人公を取り巻く環境に渦巻いているモラトリアムというのが、強烈に見えているんじゃないかと思っていて。十言わないで六を出し、四は想像させたいんです。
――全てを言わないまま曲を作るというのは、難しかったのではないでしょうか?
じん:難しくて時間がかかるし、自分の中で1回冷ます期間も必要だったりもしました。アルバムの中でも、大きな後悔やモラトリアムを叩きつける曲を作ったという想いがあります。ストーリーも今まで描いていなかった局面を描く曲だったので、感情移入しやすいと思います。
ファンを裏切りたくないという気持ちがアルバムを完成させた
――今回のアルバムの「初回限定盤A」には、じんさんの描き下ろしストーリーのオリジナル漫画が封入されていますね。
じん:九ノ瀬遥というキャラクターがメカクシ団という仲間たちに対し、「友達とは何か」と尋ねて回るストーリーになっています。漫画家・沙雪先生が作画を担当していて、この方も5年間の中で出会った大事な友達と呼べる人なんです。彼との出会いが、今回のアルバムを作りたいと思うキッカケにもなっているんですね。
だから、なぜ特典が漫画なのかと言われれば、彼と一緒に作品を作りたくなったからというのが大きいです。僕と沙雪先生の表現が、皆さんの心を揺さぶるような作品を作ってくれたんじゃないかと。必読の内容になっています。
――「初回限定盤B」の方には、じんさんの弾き語りによるアコースティックバージョン4曲が入っているとのことですが、どんな曲が入るんですか?
じん:「失想ワアド」と「ロストデイアワー」、「リマインドブルー」、「忘れてしまった夏の終わりに」という曲が入ります。自分の声とシナジーが合っているというはもちろん、この4曲は弾き語りで聞くと気持ちが良いと思っているので。
――実際に歌ってみてどうでしたか?
じん:弾き語りは初めてで、完成した曲を自分で聞いてみても正解は見つかりませんでした。じゃあなぜ歌ったのかといえば、僕の歌を預けて良いと思えるような人たちと出会えたからなんですね。「こういう風に届けたらいいんじゃない?」と言ってもらえるのが嬉しかったので、やっぱり人との繋がりが大きかった気がします。
――2016年にTVアニメ『メカクシティアクターズ』第2期が発表されましたが、今回のアルバムは今後どのように作用していくのでしょうか?
じん:アニメも音楽と同じで、中途半端なものにしたくないという思いがあります。このチームでやりたいと思えるような出会いもあったので、ファンの皆さんには期待して待っていてもらえればと。
あと、これからは漫画でも音楽でも『カゲロウプロジェクト』として新しいものを皆さんにお伝えできることが出てくると思います。数年間時間をかけているとか、のんびり作っているように見えて、意外とサクサク作っているんですね(笑)。
時間をかけたのは良い作品を作るためで、今後はもっと早いスパンで作品を出していけると思います。楽しみにしてもらえると嬉しいです。
――ファンにとって、5年半待った甲斐があったということですね。
じん:子どもたちは今、戦ってると思うんですよ。そういう子たちにとって、このアルバムが諦めない気持ちを持てるキッカケになってくれればという願いがあります。この作品を聴いた人たちが笑顔になってもらえると嬉しいです。
自分の気持ちに嘘をつかないで済むものが出せるまで、長い時間をかけました。このアルバムを信じて聴いて欲しいです。
――ありがとうございました。
[文/島中一郎]
商品概要
じんサードアルバム『メカクシティリロード』
11月7日(水)発売
【初回限定盤A】【CD+漫画】【三方背スリーブケース仕様】
価格¥2,980+税別 / TYCT-69133
“じん”書き下ろしのストーリーに、“沙雪”が作画を手掛けるオリジナル漫画を封入。
【初回限定盤B】【2CD】【三方背スリーブケース仕様】
価格¥2,980+税別 / TYCT-69134/5
Disc2には、アルバム曲の中から“じん”の弾き語りによるアコースティックバージョン4曲を収録
【通常盤】【初回プレス分のみ三方背スリーブケース仕様】
価格¥2000+税別 / TYCT-69136
※通常盤初回プレス3方背スリーブケース仕様が終了
プロフィール
1990年10月20日生まれ
北海道利尻島出身。
作詞家、作曲家、小説家として活動。
2011年より動画サイトへ投稿を開始。
歌詞の世界観がストーリーとリンクした楽曲群「カゲロウプロジェクト」をスタートさせた。
自身が執筆した小説「カゲロウデイズ」シリーズの刊行や別視点からの物語を描いた、同作のコミックス版を連載、シリーズの関連書籍
累計900万部、音楽パッケージの累計は70万枚に上る。
アニメ版となる「メカクシティアクターズ」は世界同時配信される等、様々なメディアを巻き込みながら絶大な支持を集めている。
そして二度目となる「COUNTDOWN JAPAN 15/16」への出演。2017年12月には楽曲「失想ワアド」を動画投稿サイトにて発表。
2018年11月7日に、カゲロウプロジェクト2nd album「メカクシティレコーズ」以来、約5年6ヶ月ぶりとなる最新アルバム「メカクシティリロード」の発売が決定し、じんの今後の活躍から目が離せない。
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