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- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
今もなお、数多くの作品が作られている『Fate』シリーズの原点ともいえる『Fate/stay night』。その最終ルート[Heaven's Feel](以下、HF)は、劇場3部作で映像化。2019年1月からはその第二章にあたるエピソードが公開となります。
公開時期が少しずつ迫る中、アニメイトタイズでは本作のヒロイン「間桐桜」を演じる声優・下屋則子さんを軸に全6回に渡る連載インタビューを実施しました。連載を通して、「みんなが考える“間桐桜像”」を浮き彫りにしていきます。
連載も折り返しとなる第4回では、[HF]第一章の「花の唄」に引き続いて、第二章でも主題歌となる新曲「I beg you」を担当するAimerさんが登場。前後編でお届けします。
[HF]だけではなく、[Unlimited Blade Works]([UBW])や、『Fate/hollow ataraxia』などの作品の楽曲も担当し、今やTYPE-MOONの音楽には欠かせない存在とも言えるAimerさん。
そんなAimerさんと下屋さんの、異色とも言える組み合わせの対談は、「間桐桜」という存在について深く語り合う、非常に濃厚な内容となりました。
声優と歌手という、異なるスタンス・考え方の違いなど、大変貴重なお話を聞くことができました。
――おふたりは、以前から面識はあるのでしょうか?
下屋則子さん(以下、下屋):第一章の舞台挨拶の時にはじめてお会いしました。目の前で「花の唄」を歌われていたところを拝見させていただいて、とても感動したのを覚えています。
イベント後にお話させていただいたのですが、「生Aimerさんだ!」と内心はほぼファン目線でかなり興奮していましたね(笑)。
Aimerさん(以下、Aimer):第一章の完全生産限定版ブルーレイの特典などで、下屋さんがお話される映像を拝見させていただいていたのですが、舞台挨拶のときにお話させてもらった時も、すごく素敵な方だなと思っていました。
下屋さんがそういう方だからこそ、あの桜が表現できたんだろうなと、以前からずっと思っていたんです。なので、今回対談のお話をいただいた時はすごく嬉しかったですね。
――Aimerさんは、今回のような声優さんとの対談の経験はあるのでしょうか?
Aimer:いえ、声優の方と対談させていただくのは今回が初めてです。なので今日は、素人目線の話をしてしまうかと思いますが……。
歌を歌っていると、「自分自身がまったく別の人間だったら、こういう風には歌っていないだろうな。自分がこういう人間だから、この表現を選んだなんだろうな」と感じる瞬間というのがあるんです。
それと同じで、下屋さん自身の存在の影響というのが、桜にも出ているんだろうなと。
下屋:以前にどこかの記事で梶浦(由記)さんが、Aimerさんの歌声をイメージしながら「花の唄」を作ったと言っていた記事を読んだことがあって。
私自身も曲を聴いた時、「これはAimerさんにしか歌えない曲だ」と感じていたんです。私のお芝居についても、そういう風に言っていただけたのは嬉しいですね。
――第二章の主題歌となる「I beg you」が完成した、現在の心境を教えてください。
Aimer:最初に「I beg you」を聴いた方は「えっ」と驚かれるのではないかと思うんです。
「花の唄」とは方向性がまったく違っていて、誤解を恐れずに言うなら、ちょっと変態的な曲だなと。特に「花の唄」は王道的なバラードでしたから、普通は次がこういう曲にはならないと思うんですよね。
最初に梶浦さんからいただいたデモを聴かせてもらった時、まだ楽器での演奏がされていない、打ち込みのシンプルな音だったのもあって、よりエスニック的というか、独特の音楽性が伝わってきたんです。
私自身もそういう曲を歌ったことがありませんでしたし、まさか「花の唄」の後にこういう楽曲が来るとは想像していなかったので、とても衝撃的でした。
――僕も聴かせていただいたのですが、確かに最初に「花の唄」とのギャップに驚かされました。
Aimer:でも、今はこの曲の出来上がりがすごく気にいっているんですよ。私はCDが出る前に、必ず出来上がった音源を聴くんですが、今までで一番と言ってもいいくらい何度も聴き直しています。
歌うのが難しかったのもあって、今の自分にできる最大限を込められたかなという手応えも感じていて。自分でこういう風に感じることって、あんまりない経験なんです。
――ご自身の歌をあまり聴かないというアーティストさんもおられますが、Aimerさんは結構聴かれるタイプなんですね。
Aimer:いえ、私もリリースされたあとはあんまり聴かないんです(笑)。ただ、今回であれば[HF]の第二章が終わった時のエンドロールとして流れるわけじゃないですか。
その時に、(お客さんに)どういう風に聴いてもらえるんだろうと不安な気持ちがあって。「これで大丈夫だよね」と自分に言い聞かせるため、確認も含めてドキドキしながら聴いているんです。
ただ、その不安を差し引いても、今回は手応えを感じていますね。
――そういう感覚って、声優さんにもあるのでしょうか? インタビューさせていただいている今このタイミング(映画公開直前)なんかは、まさにそのタイミングなのではないかと思うのですが……。
下屋:[HF]に関していえば、映像であったり音響であったり、アフレコの時からさらにクオリティが断然違う、自分の想像を越えた出来になっていたので……。その衝撃が大きすぎて、自分のお芝居を確認する余裕がなかったというのが正直なところでしたね。
特にエンドロールでAimerさんの「花の唄」が流れた時は本当に心打たれました。
――たしかに。
Aimer:私からも、ちょっと下屋さんに聞いてみたいことがあって。
例えば、私が歌を歌う時って、「もうちょっとこうしてください」というディレクションを受けながら何テイクかを収録して、その中で一番いいと思えるものを選んでいくんです。
梶浦さんの時はとてもスムーズに決まるのですが、やっぱり自分とディレクションを担当する人の間で、どのテイクがいいのか意見が分かれる時もあるんですよね。
声優さんのアフレコでも複数回取ることがあると思うのですが、その中でどれが使われるか分かるものなのでしょうか?
下屋:どのテイクが実際に使われたか、事細かに教えていただくわけではないのですが、だいたいはOKをもらった時のテイクが使われているので、ある程度は分かることが多いです。
あとはアフレコは個々のシーンを何度も収録するわけではなくて、一度テストをやった後、本番を通しでやり、その後に録り直しの必要なシーンだけリテイクする……という形式が多いんです。
アーティストさんの収録と比べると、録っている本数自体は少ないかもしれません。ただ、シーンによっては、なかなかOKがでなくて、何テイクも録り直すこともありますね。
Aimer:通しで録るとなると、OKは出たけど、自分の中ではいまいちだったなと感じたりした時はどうするんでしょうか?
下屋:そういう時は、自分から「もう一度やらせてください」と自己申告する形になりますね。
もちろん、監督とかディレクターさんからの指示で録り直すということが多いのですが、自分から申告するというパターンもあります。
アフレコって他のキャストさんたちと集まって録るので、自分のところで何度もリテイクしていると皆さんを待たせてしまうんですね。
それはとても申し訳ないんですが、後悔のないようにしたいという想いがあるので、納得のいくお芝居が出来なかったときは申告させてもらいます。
Aimer:それはかなり緊張しますよね。完全に同じではないですけど、結構ライブに近いものがあるのかも。私だったら、通行人Aとかでも緊張して何も喋れなさそう(笑)。
下屋:それを言ったら、Aimerさんが大きな会場で歌われているパフォーマンスを見ていると、本当にすごいなと憧れます。
「Fate Night FES. 2018」でのライブも現地で見させていただいていたんですけど、本当に圧倒的な歌唱力で、華奢な身体からは想像できないパワフルな歌声に、ただただ感動していました。雪みたいなライティングや、スクリーンの映像もすごくきれいで。
Aimer:あれは士郎や桜と一緒にステージに立つことができたような形になったので良かったですね。
それに「花の唄」って、自分があまり歌わないタイプの、個人的な歌詞なんです。
私の曲って、いろいろな人が感情移入できるように、誰か特定の人物をイメージすることがあまりないんですが、梶浦さんの書かれた「花の唄」は本当に桜のための曲なんですよね。
壮大な物語や世界ではなく、一人の女の子の心情だけを歌っているので、私自身がすごく感情移入できたのもあり、歌うことができて、とてもいい経験をさせていただけたなと。
そういう意味では、今回の「I beg you」も桜ありきの曲になっていて、歌詞の中にパワーワードがたくさん並んでいます(笑)。
下屋:私も聴かせていただいたのですが、桜がくるくると回りながら踊っているような光景が自然と思い浮かびました。
「花の唄」からは想像できない曲調で、妖艶なメロディの中に衝撃的なワードが散りばめられていて。第一章の時とはまったく違うんですが、第二章を見終わった後に聴いたら、すごくしっくり来る曲だとも思うので、早く完成した映像の流れの中で聴いてみたいですね。
Aimer:楽曲を作るにあたって、[HF]第二章の未完成版の映像をいただいたのですが、その時にものすごく感動してしまって。
楽曲が完成した後、何回もラストシーン前の映像にあわせて、録り終えたばかりの「I beg you」を流して確認していました(笑)。
――セルフエンドロールを演出していたと(笑)。
Aimer:それくらいやって確かめないと、不安でしょうがなかったんです(笑)。
最初と最後はオケなしで、インパクトがある歌詞だったので自分の中でもどうなるか気になっていて、完成したものを劇場で見るのが楽しみですね。
――第二章で展開されるであろうストーリーラインを考えると、すごくしっくりくる曲だなと感じました。この2曲を連続して聴くだけでも、第一章から第二章の桜自身の心境の変化をダイジェスト的に感じ取れるという面もありますよね。
下屋:これは私の思い込みかもしれないんですけど、「I beg you」の中に、「花の唄」を連想させるようなメロディが入っているように感じたんです。
ギャップはあるのですが、まったく関係がないわけではなく、「花の唄」での桜とのせめぎあいのようなものも表現されているのかもしれないなと。
Aimer:それは気づきませんでしたね。今度、梶浦さんにも聞いてみます!(笑)
「花の唄」は、どういう気持ちでこの台詞を言ったのか? と、深く考えたりすると、怖くなる箇所もあるんですが、まだ「I beg you」と比べれば穏やかですよね。
仰られる通り、「I beg you」は、桜の二面性というのがすごく出ている曲だと思いますし、歌う時にもAメロとBメロ、サビなどのそれぞれのパートで、引き出されるものが全然違うんです。
例えば2サビの後には、しんしんとした静かさや悲しみを感じさせるようなパートがあったかと思えば、ラストでは一種の狂気が表現されているというか。あのあたりは、「笑い泣き」しているイメージで歌っていて、梶浦さんからも「泣いていいですよ」と言われていました。
もちろん歌の中での話で、実際に泣きながら歌うわけではないのですが、そうした表現をイメージして入れてくださいと。
よりシリアス寄せることもできたのですが、個人的に真顔から泣くよりも、それまで笑っていたところから泣き出す方が、狂気を演出できるのではと考えていたので、「明るい感じから泣く」ということを意識していました。
――確かに、笑いながら泣く、というのはすごく桜のイメージにしっくり来ます。
Aimer:映像も現時点までで出来上がったものを見させていただいて、第一章の時は、どちらかというと主題歌を担当させていただく歌手としての立場として見ていたのですが、第二章はほぼただのファンとしての視点になっていました(笑)。
特に第二章って、すごく士郎と桜の個人的な話になっていますよね。それにすごく感情移入してしまって……。
(下屋さんに対して)どうしてあんなに、心を打つような演技ができるんでしょうか?
下屋:そう言っていただけてとても嬉しいです。
第二章のラストでは、桜がとある台詞を言う場面があるのですが、そのシーンは演じていても一番葛藤した部分でした。
どうしてあの台詞を桜が言わなければいけなかったのか、彼女が今まで生きてきた人生を考えると、すごく辛くなってきて……。
あのシーンのアフレコの前には、奈須(きのこ)先生や須藤(友徳)監督ともお話をさせていただき、桜がどういう心境だったのかをできるだけ理解しようとしながら演じましたね。
Aimer:やっぱり、桜がどういう人間かを突き詰めて理解していかないと、演じるのも難しいということですよね。
下屋:そうですね。もちろん、台本のト書きとか、スタッフの方々からの説明もあるのですが、直接描かれていない、例えば慎二に対してどういう感情をもっていたかという部分なんかは、やっぱり自分で想像していかないといけないので。
私がAimerさんをすごいなと思うのは、「花の唄」以外にもいくつも曲を聴かせていただいているのですが、どの曲もすっと自然と歌詞が心の中に溶け込んでくるというか、心の中に響いてくるんです。
やっぱりそれって、歌詞に対する理解力の深さだったり、表現力の高さというのが影響しているのかなと、今お話していて思いましたね。
Aimer:そう言っていただけるのは嬉しいです。でも私は逆に、自分としては誰かの気持ちを理解しながら演技するようなアプローチはやったことがないので、お話を聞いていて「やっぱり声優さんってすごい」と思いましたね。
歌は演技とはまた違っていて、あくまで音楽という括りの中にあるので、自分は割と「音楽的であるか」というのを重視しているんです。
この曲なら優しく歌うのか、悲しく歌うのかとか、なるべく多くの人に聴いてもらうための、音楽性にあった歌い方というのがあって、それを自分の中で一番に考えているので、感情的なものを入れるのはそれができた後の話になってきます。
それも音の高さをどうするかとか、どちらかというと技術的なことを考えることが多いので、「この人はどういう気持ちなんだろう」と考えるのが先になることってあんまりないんです。
人の気持ちというのはすごく繊細で、それを理解するというのは、大変な労力がいるんだろうなと思いました。
[取材・文/米澤崇史 石橋悠]
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
●『Fate/stay night [UBW]』川澄綾子さん&下屋則子さんの溢れるセイバーと間桐桜への愛。声優インタビュー
作品タイトル:劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅱ.lost butterfly
公開日: 2019年1月12日(土)全国ロードショー
公開館:131館
少女の願いは静かに、爛れ、散りゆく――
それは、手にした者の願いを叶えるという万能の願望機――
「聖杯」をめぐる物語を描いたヴィジュアルノベルゲーム『Fate/stay night』。その最終ルート[Heaven's feel](通称・桜ルート)が全三部作で劇場版アニメ化される。
アニメーション制作は2014年にTVアニメ版[Unlimited Blade Works]を手掛けたufotable。キャラクターデザイン・作画監督として数々のTYPE-MOON作品のアニメ化を手掛けてきた須藤友徳が監督を務める。
2017年に公開された第一章[presage flower]は98万人を動員し、大きな話題に。興行収入も15億円を記録した。
第二章は、三部作の分岐点を描く最重要エピソード。その全三章で贈る[Heaven's feel]の運命の岐路――第二章[lost butterfly]が飛翔する。
俺の戦うべき相手は――まだこの街にいる。
少年は選んだ、自分の信念を。そして、少女を守ることを。
魔術師〈マスター〉と英霊〈サーヴァント〉 が願望機「聖杯」をめぐり戦う――「聖杯戦争」。10年ぶりに冬木市で始まった戦争は、「聖杯戦争」の御三家と言われた間桐家の当主・間桐臓硯の参戦により、歪み、捻じれ、拗れる。臓硯はサーヴァントとして真アサシンを召喚。正体不明の影が町を蠢き、次々とマスターとサーヴァントが倒れていった。
マスターとして戦いに加わっていた衛宮士郎もまた傷つき、サーヴァントのセイバーを失ってしまう。だが、士郎は間桐 桜を守るため、戦いから降りようとしなかった。そんな士郎の身を案じる桜だが、彼女もまた、魔術師の宿命に捕らわれていく……。
「約束する。俺は――」
裏切らないと決めた、彼女だけは。
少年と少女の切なる願いは、黒い影に塗りつぶされる。
原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
キャラクター原案:武内崇
監督:須藤友徳
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷敦・田畑壽之
脚本:桧山彬(ufotable)
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:松岡美佳
編集:神野学
音楽:梶浦由記
制作プロデューサー:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:アニプレックス
衛宮士郎:杉山紀彰
間桐 桜:下屋則子
間桐慎二:神谷浩史
セイバーオルタ:川澄綾子
遠坂 凛:植田佳奈
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン:門脇舞以
藤村大河:伊藤美紀
言峰綺礼:中田譲治
間桐臓硯:津嘉山正種
衛宮切嗣:小山力也
ギルガメッシュ:関智一
ライダー:浅川悠
アーチャー:諏訪部順一
真アサシン: 稲田徹