極上の音楽体験がここにある。「早見沙織 Concert Tour 2019 "JUNCTION"」千秋楽レポート
2019年4月29日、東京国際フォーラムにて声優・アーティストの早見沙織さんが「早見沙織 Concert Tour 2019 "JUNCTION"」の千秋楽を開催した。
2010年、TVアニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」で「木漏れ日のコンタクト」をはじめて聴いた時、「この美しい声のアーティストは誰なのだろう?」と率直に思った。
少し調べてみると同作のヒロインであるアゲマキ・ワコを演じていた早見沙織さんだということが分かった。
気付けばあれから9年が経っていた。
優しく深みのある歌声。圧倒的なステージでの存在感。彼女がアーティスト活動をはじめることは必然だったのかもしれない。
2015年には「やさしい希望」でアーティストデビューを飾ると4年間でシングル5枚、アルバム2枚、ミニアルバム1枚を制作。
2018年12月19日にリリースされた「JUNCTION」では、全14曲中10曲の作詞・作曲を担当し、シンガーソングライターとしての手腕を発揮させた。
自身のルーツであるジャズやソウル、ファンク。70〜80年代の雰囲気がある楽曲に日本的な昭和歌謡のエッセンスを加えた楽曲が並ぶ「JUNCTION」は文句なしの名盤だ。
そんな楽曲を彼女の生歌と生バンドで聴けるコンサートは非常に贅沢になるに違いない。
そんな期待を胸に、会場へと足を向けた。
日常の情景を美しく切り取る才能
会場が暗転し、青いライトがステージを照らす中、千秋楽の開幕を告げるセッションが終わると、万雷の拍手が会場から降り注ぐ。
「JUNCTION」の一曲目に収録されている「Let me hear」がオープニングのナンバーだ。
彼女の生歌唱を見たのは2度目だが、半端じゃない。ただただ、赤いドレスに身を包んだ歌姫の歌声に酔いしれているうちに、「Secret」がはじまり、「やさしい希望」のイントロが鳴り響くと、会場からも大歓声が巻き起こる。
ステージの上手、下手を移動しながら、歌声を届けていく。
続いては竹内まりやさんが作詞・作曲を手がけた「夢の果てまで」。稀代のシンガーソングライターが作ったメロディと詩に早見沙織さんの歌声が乗る。
周囲を見渡すと、目を閉じ、肩を揺らしながら音楽に浸っている人が大多数。僕自身、早見沙織さんが作る世界観にはやくも引き込まれていた。
「広島、大阪、北海道、東京。最後ですから、皆さま思い残すことなく、堪能していただければと思います! それでは、次のブロック。楽しい曲どうぞ!」(早見沙織さん)
歌っている時とのギャップがいい意味で素晴らしい。早見沙織さんが発表してきた楽曲の全てから優しさが伝わってくるのは、根幹にある彼女だけの個性だろう。
そんな優しさが詰まった楽曲が「Jewelry」。既にクライマックス感がたっぷり。会場全体の手拍子を浴びながら、ステップを踏む早見沙織さんが印象的だ。
「SUNNY SIDE TERRACE」。僕はアルバムを聴いた時からこの曲が大好きだった。
もう代わりに
お見舞いしてやるわ
さっきから聞いてたら信じられないよね
クレンジングして
コーラルの恋取り戻そう
早見沙織さんが紡ぐ詩の世界観は、どこか映像が浮かび上がってくるようで、飾らずシンプルな言葉が並ぶ。「メトロナイト」もそう。彼女が切り取った世界は優しく、情熱的だ。
未発表曲に歌詞を付けました
紗幕が降り、大地や空など美しい情景が映し出される。
このパートでは「白い部屋」、「祝福」を続けて歌唱した。
早見沙織さんは「CDジャケットに自分が出ていなくてもいい」と語るほど、楽曲の世界観を大切にしている。つまり、生み出した作品をファンに伝えるためのベストな選択をしたいというのが彼女の見方だろう。
広大な景色の映像が流れる中で、ステージに立ち喉という楽器を使って、楽曲を仕上げていく様はまさに圧巻である。
「interlude: forgiveness」が終了すると、ステージ上にはグランドピアノが。
純白のドレスに着替えた早見沙織さんの弾き語りがはじまった。
「星になって」。
会場から鼻をすする音。ハンカチで目を押さえている人が目立ちはじめる。僕自身、この仕事をしていると時折、楽曲を聞き込み過ぎて、メモを取る手が止まることがある。
早見沙織さんのコンサートはその回数が非常に多い。
「琥珀糖」を堂々と弾き語った後に「緊張した(笑)」と笑顔でお喋りする早見沙織さん。
「今日、はじめてライブに来た人?」と東京国際フォーラムに投げかけると、半数近くが挙手する。
性別、年齢を問わず早見沙織さんの音楽に触れて、興味を持った人が東京国際フォーラムに足を運んだ。
ハイクオリティなアルバム「JUNCTION」は、それほどまでに破壊力がある超名盤だったのだ。
「時事ネタなんですけど、今日が平成最後のライブという感じですか?」会場の9割以上が手を挙げた。
「令和」に入る直前。平成最後のコンサートが早見沙織さんというのは、会場に集まったファンとって、一生忘れられない想い出になることだろう。
そして、話は未音源化の新曲へ。これまでの3公演は「ラララ」で歌詞がない状態だったが、この日のために書き下ろしたそう。
「curtain」というタイトルが付いた未発表曲について、「日常の節目、節目に寄り添ってくれる曲になったらいいなと思います」と語った。
今回のツアーからバイオリンとコーラスが4人加わった。
「それでは次の曲いきましょう」。早見沙織さんにはジャジーな楽曲がよく映える。
「ESCORT」から「little forest」へ。シンプルなアレンジに早見沙織さんとコーラスの声が交わる。
早見沙織さんの声という素材は極上の一級品だ。
シンプルな味付けでも十分美味しい。軸に彼女の歌声があることで表現の幅は無制限だ。
「Fly Me To The Moon」では1番と2番で大きくアレンジを変えてきた。
目を閉じてリラックスしながら聴く、「Fly Me To The Moon」から手拍子が鳴り響く「Fly Me To The Moon」へ。
音楽は自由だ。
歌を愛し、音楽に愛された早見沙織さんが表現しているのは、そうした縛られることなく、自然体でいることの大切さなのかもしれない。