『天気の子』新海誠監督&田村篤作画監督インタビュー|「もっと誇りに思っていい」ネットで話題になった“美少女ゲーム説”に隠された真意
上手い絵にあえて手を入れる
――そもそもなんですが、お二人の最初の出会いはどういうものだったんですか?
新海:僕らのスタジオ(コミックス・ウェーブ・フィルム)の制作プロデューサーの伊藤絹恵さんが、『天気の子』のプロジェクトがはじまったときに、「作画は田村さんが良いんじゃないか」と推薦してくれたんです。
なので最初に会ったのはスタジオです。その時は、初めましてみたいな感じでしたけど(笑)。
田村:そうですね(笑)。
――お会いしてどうでしたか?
新海:僕と同い歳ですと伊藤さんから聞いていて、勝手に近い感覚を共有しているんじゃないかなっていう気分はありましたね。お会いして、お話して、あーやっぱりそうかなっていう安心感はありました。
田村:そうですね、僕もそう感じました。
新海:話が通じるというか。
田村:同世代だから分かる感覚ってあるじゃないですか。僕は今までずっと年上の監督と仕事することが多かったので、感覚が違ってわからないことも多かったんですよ。世代の違いによって意識の違いみたいなものがありますよね。
それが今回、同世代ということで、「こういう感覚でこういうことを表現したいんだろうな」というものがなんとなくわかったんです。その感覚が新鮮だったというか、気分がわかりやすかったというか。そんなことはあったかもしれません。
――お二人で一緒に作業をされていて、「これは決まったな!」みたいな瞬間はありましたか?
田村:それは聞いてみたい……(笑)。
新海:決まったという感じとは違うかもしれませんが、田村さんの絵そのものがとてもマス向けだったことはありますね。
そもそも田村さんをはじめ、ジブリ出身の方はそういうものがある程度染み付いているのかなとも思うんですけど、田村さんのご自身のデザインそのものが、一般性を持っているのを強く感じて、この映画のためにはすごく良いなと思いました。
キャラクター原案は前作と同じく田中将賀さんなのですが、田中さんの絵は、シャープで、かっこよくて、可愛くて、ちょっとエッジの立ったような印象があります。その気持ちよさもすごくあるし、僕は田中さんの絵が好きだから、田中さんにいつもデザインをお願いしています。
それに加えて、今回は夏休み映画として、子供から大人まで見る、マスに向けた映画だっていう意識は最初からありました。それに相応しい、一般性みたいものを田村さんがデザインに付加して宿してくれたなと常に感じています。
作業中は、田村さんがアニメーターが描いたキャラクターを修正するわけですが、各原画マンの絵に田村さんの手が加わると、一段なんというか身近になったような感覚があったんですよ。そこは常に良いなーと感じ続けている制作期間でした。
――新海監督からどのような指示があったのでしょうか?
田村:細かいことはあったのもかもしれませんが、ほとんど任せてくださっていましたね。
新海:それはもちろん、コンテがあって、打ち合わせをして、作画打ち合わせをして、という工程があってのことですが、ある部分からは全て田村さんの領域だと僕は思っています。もちろん話し合うことはありますけどね。
田村:もちろん!「ここはもうちょっとこうしてください」っていうのは逐一あるんですけど、当然ながら新海さんが描きたいものを絵にするというのは大前提だと思っています。
新海さんが作るビデオコンテには、新海さんが描いたキャラクターもすでにいて、そこに描かれている表情や立ち振舞がすごく良いんですよ。
しかも、新海さんの絵っていうのは、僕が好きな感じの絵なんです(笑)。
新海:ありがとうございます(笑)。
田村:だから、そのニュアンスをなるべく活かしたいし、それをきちんとお客さんに届ける形にするのが僕の仕事かなと。それは心掛けたつもりです。
――新海監督のビデオコンテは過去作でもクオリティが高いと有名ですよね。
田村:原画マンが描くと、上手い絵になるんですけど、新海さんが描いている絵と違うときがあるんです。そうすると少し戻したくなるんですよ(笑)。
上手さよりも、新海さんの良さを出したいと言ったらいいんでしょうか。アニメーター的な上手さも大事なんだけど、それよりももっとそのカットで表現したい感じがあるんです。
せっかくビデオコンテで表現されてるのに、それが上手さによって無くなっちゃうと元も子もない。
アニメーターの上手さに固執しないよう気をつけたのが、僕個人の気をつけた点としては大きいのかも知れません。
――新海さんの味を無くさないようにしたと。
田村:そうですね。
新海:お手数をおかけしました……(小声)。
一同:(笑)。