超実写映画『ライオン・キング』の監督を務めたジョン・ファヴロー氏にインタビュー|これからの世代に必要なものが“サークル・オブ・ライフ”にある
ついに8月9日(金)より公開中の“超実写版”『ライオン・キング』。1994年にアニメーション版が公開され、ディズニー・アニメーション作品の中で全世界観客動員数No.1の記録を持ち続ける超メガヒット作品です。
その超実写版の監督を務めるのは、日本でも大ヒットを記録したMCU作品の『アイアンマン』やディズニーの名作アニメーションを実写化した『ジャングル・ブック』を手がけたジョン・ファヴロー氏。
アニメイトタイムズでは、そんな監督にインタビューを実施! “ディズニーの大作”とも言える『ライオン・キング』を今実写化した理由や、独特な撮影方法、ムファサとシンバの関係についてたくさん語っていただきました。
また、監督は日本のアニメ作品にインスピレーションを受けることもあるそうで、実写化もされたある大人気アニメにハマっているのだとか……! ぜひ最後までご覧ください。
自然界の美しさを大切にした映画初の撮影方法
――超実写版『ライオンキング』はVRを使用しての撮影と聞きましたが、なぜVRを使用したのか、その理由をお聞かせください。
ジョン・ファヴロー氏(以下、ファヴロー):『ジャングル・ブック』(16)でたくさんいろんなことを学んで当時はモーションキャプチャーで撮影していたのですが、時間の経過と共にゲーム界で消費者にさえ使えるような新しいテクノロジーが登場しました。それを使えば新しい撮り方が出来ると思ったからです。
――まるでアフリカの大地にいるような動物のリアルさに驚きました。アニメーションならではの動物同士のドラマは実際の動物の関係性とは違う部分があると思うのですが、動物の生態のリアリティをどこまで落とし込んだのでしょうか?
ファヴロー:新しい作品をつくるときは、どの作品の場合も監督が選択をしていかなければなりません。今回の作品では、どのくらい人間味を持たせるかというレベルを選択する必要がありました。
私自身は自然界をとても美しいものだと思っていますし、自然というものを映すことが出来ることはとてもマジカルなこと。
しかし、そこから少し外れてしまう、つまり人間的なものを作りすぎてしまうとそのマジックが失われてしまう感じがして、見ている方が混乱するかと思います。
――アニメーションならではの文化と友情を描くことの間で、特に意識したことはありましたか?
ファヴロー:アニメーションの場合は人間的なものを作ることもいいと思いますが、今回は実写ですし、私は自然ドキュメンタリーが好きなので、人間的なものを作りすぎないようにしました。
(人間的なものが少なくても)音楽や編集が素晴らしければ同じように心を動かされるように、実際に観客がそれにしっかり引き込まれてくれていることがすごく嬉しいです。
――そういう意味では、撮影方法として使われたブラックボックスシアターテクニックが大きなポイントだと思います。その撮影方法を使用したのは映画としては初めてだとお伺いしました。
ファヴロー:はい。自然な形でナチュラルな映像が撮れるのでこういう手法にしました。
通常でしたらアニメーションでの声優さんの声というのは、大きい音でエネルギッシュに演じてもらうものなのですが、今回はナチュラルにしたかったので、自然に話せるような環境を用意したく、それがブラックボックスシアターだったのです。
――なるほど。キャスト全員を呼びみんなで撮影(収録)することが監督のこだわりだったようですが、全員が集まることによって効果は違うものなのですか?
ファヴロー:そうですね。アニメーションは通常アニメーター達が声を聴いてイメージしたり、アニメーター達自身の顔を鏡で見ながら表情を作ったりして、それを参考にして動かしていきます。
ピクサーや宮崎駿さんらの作品にはこのやり方はぴったりなのですが、今回は自然ドキュメンタリーのような(実写の)映画だったので、役者同士の間や、目を合わせるタイミングといったものなどを、アニメーターさん由来のものではなく、役者さんのパフォーマンス由来にしたかったのです。
これからの世代に重要なものが“サークル・オブ・ライフ”にある
――ズバリ、今『ライオン・キング』を実写化した理由とは?
ファヴロー:ディズニーは若く新しい観客に向けてこのタイプのリメイクを多くしていますよね。
観客の皆様も素晴らしい物語であれば映画、実写、アニメーション、そして舞台といろんな形でそれを見たいと思ってくださっています。
僕自身は『ジャングル・ブック』のカートゥンを見て育った世代なのですが、それぞれの世代に響く物語というものがあり、その良いメッセージをまた新しい形で次の世代へ届けられるからです。
――幅広い世代から愛されている『ライオン・キング』の監督を務めるにあたり、1番大切にしたこと、軸となるテーマはありましたか?
ファヴロー:オリジナル版のレガシーを大切にしました。この作品に初めて触れる若い観客もいますが、オリジナル版への思い入れが強い方が本当にたくさんいます。
オリジナル版のファンの方はセリフを全部覚えている方もいて、彼らの記憶の中にあるものが少しでも無いと「あれ、ない!」とガッカリさせてしまう可能性だってあるので。
新しいものにしつつも、昔のファン達が大切にしている作品との関係や記憶を損なわないような作品にするよう心掛けました。
――個人的に、ムファサとシンバが息子と父でいるとき、“王”として接しているときのギャップに心を打たれました。この2頭の関係性をどのように描こうとしたのかお聞かせください。
ファヴロー:私自身も父親で、子供たちが成長するにつれてすごく思うのは、ストーリーテラーの仕事というのは知恵を次の世代へ継いでいくものではないかということです。
神話やそれらからインスピレーションを受けて作られたディズニー映画の素晴らしさは、そういうところにあると思います。
子供たちが大人になる中で、いろいろある人生の準備が何か出来るような作品・ストーリーを作っていくことが大切ではないかと思うようになって、そのことのひとつには生死あるいは死生観みたいなものもあるわけですよね。
子供にとってはヘビーなトピックで、幸いにも若い時にそういうことに直面しなくて良い人が多いですが、そういったものを学べるような物語が必要だと思っています。
――そんな監督の想いが含まれている中、『ライオン・キング』の中で1番感銘を受けたことはあしたか?
ファヴロー:その中で“サークル・オブ・ライフ”という考え方です。自分や家族だけではなくコミュニティー、ひいては世界、自然の全てというものが自分と繋がっているんだという考え方が好きで、特にこれからの世代にとってはすごく重要なことだと思っています。
環境破壊などいろいろあって、世界や自然がそのままあるかどうかすら分からないですから。
ムファサがシンバに「全てのものがどこかで繋がっているんだ。だから我々は王としてそれを守っていかなくてはいけないのだ」という風に伝えるあの言葉が僕は大好きなんです。
そして、全て自分でコントロール出来るから早く大人になりたいと思う幼いシンバもいろんなことを学んで、最後には自分が父になる。“サークル・オブ・ライフ”が続いていく素敵な話だと思っています。
――また、今回エルトン・ジョンとティム・ライスが描き下ろした「ネバー・トゥー・レイト」という新曲のエンディング曲も素晴らしく、1度聴いたら大好きになりました。
ファヴロー:私もすごく大好きな曲です。前の作品のファンにとっても新しいご褒美的なところがあるし、特別な曲だと思っています。
個人的にも元々彼のファンだったので嬉しかったです。今回、オリジナル版のエルトンの立ち位置にあたるのがビヨンセですよね。
「ギフト」という『ライオン・キング』に関するアルバムを作ってくれました。そこから思うのは、やっぱり良質なストーリーというのはいろんなアーティストにいろんなインスピレーションを与えてくれているということ。
素晴らしいアーティストが曲を書いてくれるとか、アーティストではなくても『ライオン・キング』に触れた子供が絵などを描いて、それをSNSにアップするなど、気持ちが繋がるような強いストーリーというものはそうやっていろんなものを生み出してくれる。
そういうアーティストとコラボレーションすることが僕は大好きなんです。
――超実写版『ライオン・キング』は自然界で生きる私たちに大切なメッセージを届けてくれる作品だな、と改めて感じました。この作品を通して、監督が伝えたいメッセージを教えてください。
ファヴロー:私たち人間がここにいるのには理由があるということ。だからこそみんなで同じ責任を分かち合っているし、お互いに相互依存しているというように思っています。
人間はより大きなもののピースの一つなんだという感覚もとても大切なことだと思いますし、『ライオン・キング』はおとぎ話・寓話でもあるので、どの文化の物語にも応用できるところがとても好きなんです。
やはり皆が繋がっているからこそ持てる強さというものもあると思うし、今こそ地球上である意味成功した種である我々人間は、地球に対してもいろんな影響を起こすことが出来るわけなので、そのことをしっかりと考えないといけない時に来ているのではないかと思います。
『アイアインマン』の製作中、参考にしたのは日本のアニメ作品!?
――監督が手がけたMCU作品の『アイアンマン』や、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』も大好きです。超ビッグプロジェクトとご自身が作られる小規模作品のバランスをどういう風に捉えているのかぜひ教えてください。
ファヴロー:あるレベルに届いて自分の好きなものを作れるようになった時に、それまでやってきたことをやらなくなったり忘れたりすることもあると思いますが、私は自分の出発点を忘れたくないと思っています。
例えばNetflixの『The Chef Show』は全部自分で料理して撮影して制作費も出しているんですよ。
大きな作品というのは全部自分が出資することが出来るわけではないし、逆に自分が料理する作品に何百億円もかけるわけにもいかないので、それぞれに違った責任が伴ってきます。
いつどんな時にどの作品を作るかということはもちろん考えてはいるのですが、大好きなのは新しいパズルに挑戦することです。
最初の『アイアンマン』も『ジャングル・ブック』もそうだし、今はいろんなテクノロジーや進化もあります。
今はストリーミングサービスの『The Mandalorian』シーズン2を手掛けていて、どんものが作れるかなと考えるパズルが好きなんです。
妻も家族もやりたいことをやっていいよと言ってくれているし、有機的に自分のやりたいことや情熱を感じていることを企画として立ち上げているので、キャリア的にはベストでは無い時もあるかもしれないですね。
――ちなみに、私たちは日本のアニメや声優を紹介している媒体ですが、監督は日本のアニメをご覧になられたことはありますか? また、最近気になる日本のアニメや大好きなアニメ作品があればぜひ教えてください。
ファヴロー:昔のものを観ていて、『アップルシード』(※1)が好きでした。最近のものだと息子や娘に教えてもらっています。
80年代育ちで、日本の文化と言えば怪獣ものや黒澤明映画に1番触れた時期でしょうか。『スター・ウォーズ』などを観ているとジョージ・ルーカスが黒沢さんの話をするので、黒沢さんの作品を勉強します。
子供たちにもそういった作品を見せているくらいです。
※1:1985年に青心社から発行された漫画家・士郎正宗氏のデビュー作。化学兵器・生物兵器が使用されている世界を舞台に、女性主人公とサイボーグ化された恋人の活躍を描いたSF作品。2011年には全13話の完全新作アニメシリーズとしてTVアニメ化された。
――監督自身、日本のアニメや漫画から影響を受けることがあるのでしょうか?
ファヴロー:私自身が惹かれるものとしてはアニメというよりも映画のほうが多いかもしれませんが、アニメや漫画からもすごくインスピレーションを受けることはあります。
息子がクランチロール(日本のアニメ・ドラマ・漫画などのコンテンツを提供する配信サービス)でアニメをずっと見ているのですが、息子が教えてくれた『鋼の錬金術師』は2人して夢中になっています。
特に、日本のアニメ作品のビジュアルと神話性がすごく好きなんです。
息子にとっては新しい物語みたいですが、私はいろんな文化のいろんな部分や要素を使いながら伝統的に練り上げられている神話性が面白いなと思っています。
例えば『エヴァンゲリオン』が良い例で、ユダヤ教の要素を取り入れたりしているのですよね。
あとは『AKIRA』や『攻殻機動隊』やスチームパンク系も私はとても好きで、『アイアンマン』を作っている時にかなり日本のアニメや漫画を参考にしたんです。
私なりに漫画、アニメ、ヒーロー作品が持っているエネルギーみたいなものがあるキャラクターにしたつもりですし、シュールな要素が生きているのではないかと思っています。
余談ですが、ギレルモ・デル・トロに取材をしたことはありますか?
――アカデミー作品賞と監督賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督を務めた方ですよね。確か、自他ともに認める日本のアニメファンだとか…!
ファヴロー:息子が「日本文化と言えば彼だ!」と思っているほどです。今回東京に来るにあたってデル・トロにここに行け、あそこ行けと教えてもらいましたよ。
――そうなんですね! 思わぬところで裏話をお聞きすることができました。『ライオン・キング』は8月9日(金)より公開中です。ぜひ劇場でお楽しみください!
作品情報
8月9日(金)全国公開!
ストーリー
命あふれるサバンナの王国プライドランド。未来の王<シンバ>は、ある“悲劇”により父<ムファサ>を失い、王位を狙う闇に生きるライオン<スカー>の企みにより王国を追放されてしまう。新たな世界で彼は仲間と出会い、“自分が生まれてきた意味、使命とは何か”を知っていく。王となる自らの運命に立ち向かうために―
原題:The Lion King
全米公開:2019年7月19日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ジョン・ファヴロー
声の出演:ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ