『異世界チート魔術師』原作者・内田健先生インタビュー|「楽しい」からこそ、ここまで書き続けられた
――本作以外にも、多くの異世界系作品がアニメ化されていますが、先生が考える異世界系作品の魅力とは何でしょうか?
内田:自分ができなかったことを、キャラクターに代わりにやってもらえる、ということでしょうか。
というのも……子供の頃って、修行したりしませんでした?
――ああ、やっていました(笑)。ごっこ遊びの延長で。自分たちの子供の頃は、ちょうど格闘系のアニメやゲームがブームでしたから。
内田:僕の子供の頃も、『ドラゴンボール』(※4)や『ダイの大冒険』(※5)とかが連載されていた、週刊少年ジャンプの黄金時代だったんです。
今思い返すと、皆小学校とか幼稚園の頃は、かめはめ波とかアバンストラッシュの修行をやっていたなと(笑)。
大人になっても、男子って大なり小なりそういうのに憧れる面があると思っていて。僕にとっては、そういう主人公が修行を経験して強くなっていくという展開を作りやすかったのが異世界ファンタジーだったんです。
※4 『ドラゴンボール』
1984年~1995年にかけて、週刊少年ジャンプで連載されていた、鳥山明先生の大人気コミック。7つ集めることで願いが叶うドラゴンボールを巡る、主人公・孫悟空の冒険を描いた作品。単行本の発行部数は全世界累計で2億5000万部を超え、現在も『ドラゴンボール超』などの新作アニメが作られるなど、幅広い世代に愛され続けている。かめはめ波は、悟空の師匠にあたる亀仙人が編み出した技で、悟空やクリリンら多くの亀仙人流の弟子達に受け継がれた。
※5『DRAGON QUEST -ダイの大冒険』
ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズの世界観をベースにした、三条陸氏が原作・稲田浩司氏作画を担当したファンタジーコミック。勇者に憧れる少年ダイが、旅の途中で出会った仲間たちと共に大魔王ハドラーの侵略に立ち向かう、ゲームと大幅に異なる独自性の強いストーリーが人気を博した。アバンストラッシュは、ダイの師匠にあたるアバンが生み出した必殺技で、ダイにも受け継がれている。
――第一巻では、修行のシーンをかなりじっくりやっているという印象を受けたのですが、そういった思い入れが込められていたと。
内田:そういうことです。修行的な話で印象に残っているのが、『ドラゴンボール』で、ビーデルが舞空術で飛んでいるのをミスター・サタンが見て、自分も飛ぼうとして落下する話で。
当時は爆笑していたんですが、今思うと自分の娘が空を飛んでいるシチュエーションは、なかなか笑えない状況ですよね(笑)。ミスター・サタンは格闘技の世界チャンピオンなのに、自分の人知を超えた力を娘が身に着けたという。
――スキルやステータスといったゲーム的なパラメーター表現が出てこないのも、他の「なろう」系の異世界ファンタジーとの差別点なのかなとも感じました。
内田:特別その部分にこだわりがあるわけではないのですが、一度数値化すると、その数値の変遷をずっと管理し続けないといけなくなりますよね。
その管理が楽しいという作者さんもおられると思うんですけど、おそらく自分はそれをずっと続けていたら、途中で嫌になりそうだなと思ったんです。
その代わりに、それぞれのキャラクターの魔力量だけを最初に大まかな数値を出して固定化し、その中でどうやりくりしていくかという方向性に絞りました。
しっかりと作者が扱えるならいいと思うのですが、自分には数値を管理するのは少し負担が大きいなと感じたので、細かい数字をあまり出しすぎないようにしよう、というのは少し意識していますね。
――本作の主人公である太一は、スペックだけでいうと世界に敵がいないとってもいいほどのチートスペックの持ち主なのですが、実力で大きく劣る敵側が、頭を使って太一たちを苦戦させるシーンが結構多いというのも印象的でした。
内田:「主人公が最強である」という前提は揺るがないのですが、最強=苦戦しないということにはならないよなと思っていて。
たぶん、自分のこの考えの下地になっているのは、『ドラゴンボール』の孫悟空なんです。
悟空って、誰に聞いても作中最強クラスのキャラクターだと言うと思うのですが、作中で苦戦しないかというとまったくそんなことはなくて、ギリギリの勝負をしながら勝っていきますよね。
それと同じで、例え世界最強だとしても、苦戦したらダメだということはないだろうと。
もちろん、「最強のはずなのに苦戦するのはおかしい」という意見ももっともな話で、例えばアーノルド・シュワルツネッガーがひたすら無双するお話には爽快感がありますよね。
ただ、そういうのを求めている方には少し本作は合わないのかなと。