野上武志×才谷屋龍一×伊能高史×葉来緑×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会! 作家の挑戦と作品の懐の深さで築かれた、これがガルパンコミック史!【中編】
ガルパンコミック史
――ざっとガルパンコミック史として、こんな感じでまとめてみました。年月日は基本的に、単行本の発売日になっています。
――あくまでも個人的な見解ですが、現状で第三世代まで数えられるかなと思います。第二世代は前期と後期に分かれていて、1ページ目と2ページ目が境になります。
第一世代はもちろん、才谷屋先生の最初のコミカライズ、通称無印こと『ガールズ&パンツァー』から始まります。
才谷屋:懐かしいですね。
――中でも、TVアニメでは描かれなかったアンツィオ高校戦をコミカライズ独自で描いたというのが、後の広がりにつながった気がします。『リトルアーミー』という、みほの過去を描く作品も当然、様々な影響を与えたと思いますが。
才谷屋:そうですね。
――キャラクターを面白おかしく見せることに特化した『もっとらぶらぶ作戦です!』も合わせて、いろんな切り口で場を耕していったことで、ガルパンコミックの自由な雰囲気が生まれた感じがあります。
最初のコミカライズにまつわる制作秘話は、前回の座談会の際に伺いましたが(TVシリーズ開始前から始まった『ガルパン』初コミカライズ)、最初に手掛けた者として、現在のガルパンコミックの広がりはいかがですか?
才谷屋:それはもちろん、よく広がったなって感じはありますよね。
吉田:才谷屋さんの無印がなかったら、本当になんにもないんですよね。無人島に杭を立てた最初の人ですよ。
『ガールズ&パンツァー』
才谷屋龍一/原作:ガールズ&パンツァー製作委員会
株式会社KADOKAWA MFコミックス フラッパーシリーズ
全4巻好評発売中
――こうした盛り上がりを受けて始まった『リボンの武者』から、第二世代の幕が開いたと思います。
野上:以前もお話しした通り(『ガルパン』スピンオフコミック『リボンの武者』はこうして作られた! 野上武志が『ガールズ&パンツァー』『リボンの武者』のキャラ原案画を一挙公開!!【後編】)、TVアニメに出た学校や、同じ時代の主人公は使わない、主要キャラは出てこないという条件付けをされて、「そんな作品を作れる人間が、この日本のどこにいるんだ!?」「お前しかいない!」「俺しかいないのか!? じゃあやるか」っていう。
才谷屋:あははっ! そうですね。
野上:全3巻くらいでケンカを売って止めるつもりで、一番ピーキーなやつを描いたんですけど、お客さんの懐が大きかったのと、アニメのスタッフさんたちがこういう狂犬を上手く使ってくださったおかげで、なんとか続いてるなっていう感じですね。
――戦車道をスポーツとして描いているアニメに対して、グッとミリタリーに寄せた強襲戦車競技(タンカスロン)を題材にしたことで、ここまでやっていいんだという先例をどんどん作っていった先駆者という感じがします。
野上:それは結果的にそうなったのであって、当初の状況では「戦車道ではない、タンカスロンという10トン以下の戦車で戦うレギュレーションを用意された」中で、じゃあどうするのというのを必死になって考えたわけです。
そうやって、外部から戦車道を見るようなものをやるのであれば、ルサンチマン(弱者が強者に抱く恨みや嫉妬)の物語になるだろうし、私自身も『ガルパン』以前から萌えミリをやってきた人間として、ルサンチマン的な感情もあって。
それがうまく同期した状態で、想いを作品に突っ込んでみて、「戦車道なにするものぞ! アニメなにするものぞ!」というつもりでケンカを売っていただけなんですけどね(笑)。
むらかわ:意趣返しだね(笑)。
野上:そうしたら、いつの間にか「あ、こんなこともできるな」と。清く正しい戦車道の中で、街が壊れるとみんなが喜んでいる。
じゃあ、主人公が戦車に乗らないで村をひとつ燃やすのも、もちろん許容されるべきだよね。
▲『リボンの武者』第5巻より野上:という、ちょっとブラックな話が最初の段階で頭に浮かんで、その瞬間に『リボンの武者』の方向性、主人公の方向性が決まった感じです。アンチヒーローだなと。
才谷屋:あれ、砲撃じゃなくて、弓矢でシュボッ! ボワ~ッ! ですもんね。よく考えたらすげーなって。
野上:まず、ひとつ目ね。ふたつ目は、窓ガラスをパリンと割って――
才谷屋:あははははっ!
▲『リボンの武者』第5巻より野上:戦車で壊したら喜んでるけど、女の子がやったらどうするのよって言ったら、ま~怒られましたね!
一同:あははっ!
野上:そうやって毒を入れてしまうのが、私の悪い癖ですね。
吉田:怒られた一方で、言わないけど心の中で喝采を贈ったヤツらもいると思うんですよね。「そうか、ここまでやってくれるんだ!」って。
才谷屋:矛先がどこに向くかっていう(笑)。
吉田:「こんなことはけしからん! 不謹慎だ!」って言うほうが楽なんですよ。「これ面白いな!」って思ってるヤツらは、賢いから黙ってるんです。
伊能:遠藤さん(フラッパー編集部)に聞いたら、『リボンの武者』第12巻は売り上げが前巻よりグッと伸びたみたいですよ。
野上:あれは単純に、『最終章』第2話の公開でみんなが『ガルパン』に帰ってきたときに単行本が発売されたから。ツイッターを見ていると、「なんか違和感があるんですよね。あっ、11巻買い忘れてる!」っていう。
――あ~。
野上:そういうオチっぽいです。どうしてもマンガって、アニメの宣伝効果に比べれば、本屋に単行本が出ていること自体が知られていない。アニメの訴求力に比べると、マンガというのはきついなと。
葉来:そもそも本屋がだいぶなくなっちゃって、少ないですもんね。
才谷屋:昔は2万件あった本屋の数が、今は7千件だから。
野上:まぁ仕方ありません。そんなのは15年前からわかっていたことです。
伊能:だからアニメイトタイムズさんにいっぱい宣伝してもらいましょう!
一同:よろしくお願いしま~す!
▲ファインモールド製 1/35スケール プラモデルR『ガールズ&パンツァー リボンの武者 九四式軽装甲車 チーム鬼 スーパー改&無人砲塔仕様』2台セット――でも『リボンの武者』が評価されて、こうしてプラモデルで商品化もされているわけじゃないですか。
才谷屋:いやぁ、凄いですよね!
――作家のみなさんにとっても、勇気づけられるのかなと。
才谷屋:羨ましいですよ! パッケージに『リボンの武者』って書いてあるんだもんね!
野上:正直、いまだに何が起こっているかわからないんですよ。この2輌の戦車が出てきた「大鍋(カルドロン)編」は、おそらくアニメのほうでは描かれないであろう「戦車道とは? スポーツとは? 武道とは?」という話に対して、かねてから思っていたことを突っ込んでみましたというエピソードなんです。
その中で、この2輌の戦車を出すことは直前まで考えていなかったし、言ってしまえばうちのスタッフの松田重工先生に「すいません、こんな感じで適当に」って丸投げして作ったデザインだったんですよ(笑)。
むらかわ:あ、そうなんだ。
才谷屋:松田さんだったんですね。さすがですね!
野上:これはぜひ書いておいてください! うちの作品は、松田重工先生のおかげで成立しております!
才谷屋:僕がアシやってるときから巧かったですからね。
野上:マンガ業界の至宝!
▲『リボンの武者』第4巻より吉田:黒森峰女学園の学園艦が、雲を掻き分けて進むカットは凄かったですね。学園艦の近くにタンカーみたいなのがいて、「この巨大感!」と思って。あれはかっこよかったですね。
野上:そう。学園艦っていうものも、アニメのほうではけっこうオミットされているところがあるんですよ。だからコミカライズのほうで可能な限りフォローアップというか、「嘘をつける」かなと思って。
吉田:あの高さ、400mくらいありますよね。
才谷屋:喫水線の下まで入れたら600mだよね。
吉田:海上に400mの巨大なもんがあるとか、凄いことになってると思いますよね。
野上:本当にあったら大陸棚に入りませんからね。
むらかわ:大洗の港に着けられないだろっていう。
吉田:海岸から停泊している学園艦を見たら、船尾のほうは水平線の彼方で見えないですからね(笑)。
――そして『リボンの武者』の直後に『激闘!マジノ戦ですっ!!』が始まるわけですね。
才谷屋:1か月後でしたね。野上さんの『リボンの武者』が動いていたのは知ってたから、どっちが先に出るかなって感じで動いてはいたんですけど。
――この時期『リトルアーミーⅡ』も合わせて、オリジナル系がどんどん発表されたのが第二世代だと思うんです。
才谷屋:『ガルパン』というコンテンツをまだ広げられる、自分の中で描きたいお話があったので、やりたくてしょうがないみたいな感じだったんですよ。
あと、黒髪の隊長を出したかったんです(笑)。
一同:あははっ!
才谷屋:みほとまほも、どちらかといえば茶髪じゃないですか。アンチョビが銀髪に近い緑。カチューシャ、ケイ、ダージリンは金髪。そうなると、ブルネットの隊長がいない!
この頃はまだ『劇場版』もアナウンスされていないから、西(絹代)の情報も何もなくて。「じゃあちょっとブルネットの隊長を出したいな。とりあえずフランス!」っていう感じで。そういう欲求のほうばかりが強かったですね。
野上:『マジノ戦』は才谷屋先生節がめっちゃ光る作品だなと思っています。
才谷屋:あっ、ありがとうございます!
葉来:あそこから「ドロドロ」という戦車の効果音を輸入させていただきました。
吉田:エンジン音ですかね。
▲『激闘!マジノ戦ですっ!!』第1巻より――そうした、ほかの先生方の作品から影響を受けたものは、何かありますか?
葉来:『はじめての戦車道 BLITZ』にもエクレール様を描かせていただいたり。
才谷屋:あっ、ありがとうございます!
葉来:自分の中ではTVシリーズや『劇場版』といった「公式」の中に、『マジノ戦』とか『リボンの武者』も入っていますので。自分なりに統合して、存在している感じですね。
野上先生の『リボンの武者』にもエクレール様は出てきてますし。『ススメ』が続いていたら、コミカライズキャラも出したかったですね。
▲『リボンの武者』第9巻より野上:そこはコミカライズでオリジナルキャラを許容していただけたというのがひとつ。次に、コミカライズ作家間でキャラクターの貸し借りが気軽にできたというのも非常に大きいのではないかと思います。
才谷屋:そうですね。
野上:その結果が『最終章』第2話の、エクレール様の公式昇格と!
才谷屋:ありがたいですね! OVAの『これが本当のアンツィオ戦です!』でも、カルパッチョが入ったりとかしてましたし。
伊能:いいですね。野上さんもバレー部チームとか歴女チームとかをデザインされているじゃないですか。どうですか、自分がデザインしたキャラクターが動いたり活躍したりっていうのは?
野上:なんていうか、よくわからないですね。
才谷屋:たぶん野上さん的には、デザインを渡してアニメで動き出したら手から離れてるから、今となってはあまり感じてないんじゃないですか?
野上:『リボンの武者』で、自分がかつてデザインし、アニメのほうでリファインされたキャラクターを描くときのほうが緊張しますよ。
才谷屋:そうですよね。
野上:全然うまく描けませんもん。
才谷屋:自分もカルパッチョは最初、髪が別の色だったんですけど、『アンツィオ戦』の後に自分がもう一度描くときになったら、「……ちょっと待てよ」って(笑)。
野上:描きにくいですよね(笑)。
才谷屋:描きにくい!(笑) 前と同じじゃないんですよ、全然。やっぱり別のキャラクターになってますよね。
野上:しかも、なまじ自分が描いた覚えがあるからこそ、コレジャナイ感が出てくるわけですよ。
一同:ああ~。
野上:読者の人には一発で見抜かれて、「野上、歴女チーム描くのめっちゃ下手やな!」って。ですよね~(笑)。
吉田:キャラ原案とアニメの絵のイメージは違うわけですからね。それはしょうがないですよ。
葉来:逆にやりづらくなりそうですね、確かに。アニメの絵のほうも進化してますし。
才谷屋:島田フミカネさんと杉本(功)さんの絵だって違うんですから、本当に。