話題作『星合の空』EDでソロデビューを飾るbless4の末っ子AIKIさん 「誰のためのものでもなく、私のための歌」と感じた、その理由とは?
『創聖のアクエリオン』シリーズでアニメファンに親しまれている兄妹バイリンガルグループ・bless4。末弟であり、ダンス&ボーカルのスペシャリストであるAIKIさんが、TVアニメ『星合の空』のエンディング主題歌でソロデビュー。10月30日(水)にシングルをリリースします。
TVアニメ『星合の空』は、赤城和樹監督が紡ぐ完全新作オリジナルアニメーション。廃部寸前の男子中学ソフトテニス部の活動を通して、少年たちが成長していく青春ストーリーです。ED「籠の中の僕らは」は、そんな少年たちの多感な心情を爽やかに届けています。
この曲をもらったときに、「誰のためのものでもなく、私のための歌」と感じたと教えてくれたAIKIさん。その背景を探っていくと、AIKIさんの音楽に対するモットーが浮かび上がってきました。
「歌わせてもらえることがすごくありがたい」
──AIKIさんがおひとりで取材を受けられることって、これまであったんでしょうか?
AIKI:ひとりで受けたことはあまりなくて、これで3回目なんです。ソロデビューにまつわるインタビューをこの取材の前にさせてもらっていて、その前は……ずいぶんと前になるんですが地方の新聞に取材してもらいました。兄妹4人で取材を受けることが多いですね。
──では今日は色々なお話を聞かせてください。まず、ソロデビューにあたってのお気持ちからお聞かせください。
AIKI:まだ実感が沸いてないのが正直なところです。bless4として兄弟4人でデビューをしたのが私が11歳の時で、こういった業界で17年活動をしてきて。今後、bless4の活動で「籠の中の僕らは」をひとりで歌わせていただく機会が出てくるとは思いますが、基本的にbless4としては変わらないと思うんです。だからソロという実感があんまりないんですよね。
──本格的にソロにチャレンジしてみようと思われたキッカケがあったんですか?
AIKI:そこはお兄ちゃんから話してもらったほうが分かりやすいかもしれません(笑)。
──お隣にいらっしゃるbless4のAKASHIさん(※)ですね(笑)。
AKASHIさん…bless4のメンバー(長男)であり、AIKIおよびbless4の所属する川満アート・テイメント代表取締役。「お兄ちゃん」の愛称で親しまれている。この日の取材に同行していた。
AKASHI:突然すみません、“お兄ちゃん”です(笑)。2012年に発表したAKINO&AIKI from bless4名義の「月光シンフォニア」(『アクエリオンEVOL』ED)から少しずつAIKIのソロの話が決まっていった感じなんです。その後、AIKI&AKINO from bless4のシングル「月のもう半分」(『魔法使いの嫁』の後期ED)を経て、本格的にデビューが決まっていきました。だから本人が「絶対にソロをやる!」と意気込んだわけではなく、自然な流れで決まっていった感じですね。from、withとか、そろそろファンのかたは混乱されているとは思うんですが(苦笑)。
AIKI:(笑)。パフォーマンスすることが大好きなのでスタイルはあまりこだわってないんです。歌わせてもらえることがすごくありがたいので頑張ろうと。
──ソロではありますけど、bless4と名前についていることで兄弟の絆も感じる。それってすごく特殊なことというか……。
AIKI:そうだと思います。どこにいっても一緒なんでね。仲はすごくいいと思います。
AKASHI:でも、いつもついてくるからAIKIは嫌がってるかも。……冗談です(笑)。
「籠の中にいるんだって気づくときが来る」
──デビュー曲「籠の中の僕らは」をもらったときはどんな印象がありましたか?
AIKI:デモ音源を聴いたときの第一印象は「ものすごく爽やかな楽曲だな」と。青空や青春を送っている学生の姿も浮かんできました。でも、その爽やかな想像に自分が混ざったときに違和感があって。自分と、爽やかな曲。そのイメージが合わなかったので、どういう風に表現していこうか少し悩みましたね。
──AIKIさんの歌声はポジティブで爽やかな印象があったので、ご本人としてはミスマッチと感じていたというお話は意外です。AIKIさん自身はご自身の声はどんな風に分析されているんです?
AIKI:最近はJ-POPも聴いていますが、ゴリゴリのHIP HOP、ディープなR&Bを好んで聴いていたので、客観的なイメージと自分が思っている自分のイメージが食い違ってるところがあるのかもしれないですね。
声としてはクリアな声質だなと思うんですが、ハスキーなところがあって。今回の曲ではそれを入れないようにしました。『星合の空』というアニメの主人公たちが中学生なのでハスキーというのは……。
──声変わりの時期ですもんね。
AIKI:そうそう。だからもうちょっと爽やかにいきたいなと思って、そこは意識しました。
──曲が声からはじまっていくのも爽やかな風が吹く印象があります。声からはじまっていくのって勇気がいりませんか。
AIKI:確かにそうですね。ごまかせないので(笑)。でも私のイメージとしては、くさっぱらで横になりながら空を見上げて「飛びたいところを見つけた!」と思うんだけど、実は自分が籠の中にいたことに気付きはじめるというストーリー。だから歌からはじまるのは自然な流れなのかなと思っているんです。
──ああ、なるほど。そして「実は自分が籠の中にいたと気づく」のは、年齢問わず誰にでも起こりえることですよね。
AIKI:日々生きているなかで自分が籠の中にいるというのは、あまり考えたことがないと思うんです。でもよくよく考えてみるとプレッシャーという籠のなかにいたり、克服できないトラウマの中にいたり、自分はできないんだという思いこみがあったり、周りからの意見によって殻に閉じこもってしまったり……そういった籠の中にいるんだって気づくときが来る。
曲の主人公もいざ立ち上がってみると籠の中に入ってたということに気付いて、そこから成長していく。そういうイメージを想像しながら歌いました。
──レコーディングはいかがでしたか?
AIKI:なるべく笑顔を浮かべながら歌うようにしました。歌詞のなかにある<期待と不安の数だけ膨らむイメージ>を思い浮かべながら歌ってしまうと少し声が暗くなってしまうんですよね。大変なこともありながらそれに向かって走っていく……という青春の歌なので、常に口角を上げて歌いました。ちょっとほっぺたが疲れました(笑)。
歌うことが好きなのでレコーディング自体は好きなんですよ。ブースのなかに入るまでは緊張します。歌いだすと楽しいんですけど。
──ライブもそういうものです?
AIKI:それと似たような感じかもしれない。ステージの横でスタンバイしてる時間は緊張して、ステージに上がれば忘れてしまう。
──それこそ「籠の中」から解き放たれるような感覚ですか。
AIKI:そうですね。自分を表現することってすごく大事なことだと思ってるんです。歌う機会に恵まれてステージに立つときは、すごく幸せな気持ちを感じることができる。僕の場合はそこで解放できます。さっき“声変わり”の話があったじゃないですか。それこそ変声期には、ステージの上でも籠のなかに閉じこもってしまっていました。当時はステージ上に立っているときが一番ツラかった。でもその時期を経て、失敗しても、間違っても、そのせいで籠の中に入らないようにしようと。そんな私だけど、自分なりの一生懸命をぶつけるしかないのかなって最近思うんです。
──最近なんですね。何かキッカケがあって考えるように?
AIKI:う~ん。辿っていくと……私はもともと自分の気持ちを喋らないタイプの人間なんですよ。
AKASHI:え。初めて知りました。
一同:(笑)
AIKI:知ってるでしょ!(笑) それで2、3年前までは心が閉じていて。やっとそれをオープンにして、友人にも本音で、自分の気持ちを素直に話せるようになりました。24歳のとき2年間ロサンゼルスに住んで、そのときの経験は大きかったですね。いろいろな方と会って文化の違い、さまざまな表現方法を見て学んだことがあって。見に来て下さる人たちと真摯に向き合うためにはもっと自分を出さなきゃいけないんだと。音楽、家族、友達、見に来てくれるかた、もっと深いところで繋がりたいという思いがではじめました。
──必然的に歌、表現方法も変わってきますよね。
AIKI:はい。曲に深く入り込めるようになりました。もともとがカッコつけなんですよ(笑)。あまり悪いところを見せたくない、八方美人のようなところがあって。でもそれって同時に本音も隠しちゃうんです。ダサくてもカッコわるくてもいいから体当たりでコミュニケーションをしようと心がけてからは、歌がもっと楽しめるようになって、歌詞とひとつになることができるようになりました。
──ということは……AIKIさん自身もつい最近まで籠の中にいたということなんですね。
AIKI:そうです。だから「籠の中の僕らは」のタイトル、歌詞を目にしたときに「これは誰のためのものでもなく、私のための歌だ」と最初に思いました。しかもこの曲のおかげで、私も苦手だったことをひとつ克服できたんですよ。
──どういうことです?
AIKI:私は沖縄出身なので「いつもビーチに行って泳いでる」というイメージを抱かれていることが多いんです。でも実際は金づちでまったく泳げないんですよ(苦笑)。それもひとつの籠なのかなと思うようになってプールに行って泳いでいるひとたちを観察して。その日のうちにクロールで25メートル泳げるようになりました。
──すごい!
AIKI:そのあと平泳ぎ、犬かき、いろいろと試して、泳げるようになって。この曲のおかげなんです。そういうパーソナルなエピソードがありました。
──友達に語り掛けているような、そんな想いを感じる声だなと思っていたんですが、それはAIKIさんのさまざまな経験、気づきがあってこそなんですね。
AIKI:ああ、そうかもしれない。日常の籠を重くとらえることなく、もう少し軽くとらえて「チャレンジしてみれば?」と爽やかに後押ししている曲なので、聴いてくれたひとのキッカケになればいいなと。
──AIKIさんが特に気に入られている言葉はありますか?
AIKI:全部好きなんですけど、特に二番の「綺麗でなくていいから」、あと「正解なんて分からないんだ」という歌詞ですね。カッコつけの自分にとって、「間違ってもいいからやってみよう」は苦手でした(笑)。で、人の前で失敗したくないから結局やらない。それってすごく勿体ないことだと思うんです。プールで大人が泳ぎの練習していたのも、はたから見たらダサいしカッコわるいことかもしれないんですが、やってみれば、成長していける。そういったメッセージ性があるので、そこはすごく好きです。
MVではソフトテニスに挑戦! 実は球技が苦手……!?
──『星合の空』は中学校のソフトテニス部が舞台ですが、AIKIさんはソフトテニスに思い出などありますか?
AIKI:パフォーマンス、武術以外、スポーツはあんまり得意じゃないんです。球技が全般的にダメで。力を入れすぎてしまうので、以前テニスをやったときもボールがあちこちにいってしまってゲームにならず、15分で終わりました……(笑)。
──ミュージックビデオでOB役としてソフトテニスに挑戦されるシーンがあったのでてっきり……。
AIKI:ソフトテニスをやるのは二回目だったので……あのシーンを見ると恥ずかしくなります(笑)。メインで映っている2人は役者さん以外の学生さんはテニス部に在籍している生徒さんなんですよ。みんな和気藹々としてて微笑ましかった。男の子は少し照れていましたが(笑)。私は部活をしたことがないので、キラキラした感じが眩しかったですね。
──AIKIさんの自然体の表情も印象的でした。
AIKI:兄弟がよくお世話になってる監督なんです。細かい指示はなく「フィーリングでぶつかってけ!」って感じだったので、自由に楽しくやらせてもらいました。学校の雰囲気も感じれられて新鮮な撮影でしたね。そのとき見た学校の風景を思い浮かべながら、2曲目の「さなぎ」は作っていったんです。
「さなぎ」誕生のエピソード
──「さなぎ」はAIKIさんが歌詞を書かれています。ミディアムテンポのすごく優しい曲ですね。
AIKI:そう、優しい曲。もらったデモテープを聴いたときにシンセの音でメロディが入ってて、最初に思ったことは「メロディがたくさん詰まっているな」と。だから歌詞をつけるのが難しそうだなと思いながら聴いていたんですが、いろいろなイメージが思い浮かんで。それがライオンが子どもを崖から落として強くさせる“獅子の子落とし”や、生まれて間もなく立つ鹿、生まれた瞬間に泳ぐイルカ……といった風景だったんです。
──生物のエネルギーですね。
AIKI:そう。動物は生まれた瞬間から生命力が強い。でも人間は違う。生まれたときから人に頼ることしかできなくて、環境に左右されながら、思い出や記憶に支えられ成長していく。それって「さなぎ」のようだなと思ったんです。そこからこの曲のコンセプトが生まれました。なつかしさを感じながら、過去と今をつなげて聴いてくれたらいいなと思いながら書いていきました。
──「籠の中の僕らは」は痛みや苦しみも含めて青春感のある曲ですが、そんな成長期を振り返っているのが「さなぎ」……という解釈であってますか?
AIKI:そうですね。「籠の中の僕らは」は、もうちょっと大変な時代を表現しているんですが、「さなぎ」ではさりげなく過ぎていった日々が私たちを成長させてくれたってことをフォーカスしようかなと。
──さなぎって改めて調べたら昆虫にとってすごく大事な時期なんですよね。
AIKI:そうなんです。さなぎのことって普段の生活ではそこまで意識しない方が多いと思うんですが、調べたらすごく興味深い。自分を溶かして液状化する昆虫もいるとか。虫にとっての感覚はまた違うかもしれないですけど、考えただけでも痛い(苦笑)。さなぎって成長を待っている時間……というイメージでしたけど、中ではそんなドラマが起こっていたんだと驚きました。まるで人生のようだなと。
──<二十歳の自分に宛てた手紙たちも>という一節があります。これは何か思い出があったりするんです?
AIKI:成人式など節目のタイミングでタイムカプセルを開けることが多いと思うので、20歳にしたんですが、私が小学生高学年のとき、18歳の自分に手紙を書いたことがあるんです。なぜ書いてたのかは憶えてないんです。でも残念ながら15歳のころに開けてしまいました……(笑)。好きな女の子の名前が書いてあったりとか、すごく面白い内容でしたね。あと、沖縄の小学校に行っていた時期があったんですが、そのとき友達からもらったゴム製のバンドが入ってて。破れてしまっていたんですけど、見るだけでそのときの記憶がよみがえって。そういった感情もこの曲に入れたいなと思って、<小さくなったシャツ><思い出のゲーム>というワードを入れました。
──音楽にもそういった魔法がありますよね。
AIKI:そう! それも入れたかったんですけど、音に合う場所が見つからなかったんですよね。全編日本語で作ったのは初めてということもあって、苦戦したところもありました。
──日本語にはあえてこだわったんですか?
AIKI:なんとなく英語じゃないなと思っていて。自分のなかから英語の歌詞が出てこなかったです。だから自然に。
──「籠のなかの僕ら」も日本語ですし、そういう意味でも新しい一面を見せた作品ですね。ところで両曲ともコーラスが印象的で。これはAIKIさんの曲ならではなのかなと。
AIKI:ありがとうございます。コーラスはメインと思って歌ってるんです。それでがっつり目に聴こえるのかなと。レコーディングの場所によっては「コーラスはコーラスらしく歌いなさい」と言われるかたもいるんですけど、それを無視して(苦笑)、強く歌ってしまうんです。
──でもAIKIさんにとってはコーラスも立派な楽器ですもんね。
AIKI:そうです! そのつもりで歌っています。
AIKIさんの目指す場所
──ところで先ほど「自分を表現することってすごく大事なこと」とおっしゃっていたじゃないですか。それはぜひ読者の方にも伝えたいメッセージだなと思いまして。話はかぶってしまうかもしれないですけど、もう少し話を聞いてもいいですか?
AIKI:私たちアーティストにとっての表現の方法は音楽ですが、日々いろいろなところに表現する場所ってあると思うんです。例えば、カラオケに行って歌うとか、絵を描くとか、スポーツをするとか、それもひとつの表現方法で。自分を表現することは、すごく大切なことだと思います。
──昔からそういうことを思われていたんですか?
AIKI:いえ、それに気づいたのもここ最近ですね。それこそ2年前くらいかなぁ。例えば誰かに「AIKIとはどんな人ですか?」と聞かれたときに答えられないなと思ったんです。「私って誰なんだろう?」と。当たり障りのないことは言えますけど、自信をもって「私はこういう人間です」といえないなと。それってアウトプットをしてないから分からないのかなと思ったんです。自分を表現していくと失敗も正解も分かるし、自分自身の好きなものもハッキリ言える。それが実となって芯が固まっていく。そうして自分が分かっていくと、もっと周囲に色々なものを発信出来るのかなって。
──では私から「AIKIってどんな人なんでしょうか」と聞いても良いでしょうか。
AIKI:(笑)そこですよねぇ。それはですね……。私自身がさなぎなんです。模索中なんですよ。自分の性格は分かりかけてきているところなんですが……いろいろ試して、振り分けて、合うものを探している。
最近私が座右の銘にしている言葉は、とあるかたのおっしゃっていた「本当のカッコいいは、カッコわるいの先にしかない」というもので「カッコつけ」の僕は痺れてしまいました。泥まみれになって失敗して、そこからカッコいいものが生まれる。私もそういう人間になりたいなと思ったんです。今から数年後にはカッコよくなりたいなと。
──今も十分にカッコよくて輝いていると思うんですが……。
AIKI:いえいえ。たくさん挑戦して失敗して、カッコいい人間になっていきたいです。今は途中です。そんなカッコよさを目指しながら、この曲たちを表現していきたいです。
──ライブで聴ける日が楽しみですね。
AIKI:近いところだと、11月15日にクラブチッタ川崎で行うbless4全国ツアーの「RISING SUN」公演で「籠の中の僕らは」を歌う予定です。この日は初めて生バンドの演奏が入るんです。ぜひ楽しみにしていてください。
──ありがとうございました!
[インタビュー・逆井マリ]
CD情報
1,320円(税込)
発売日:2019/10/30 発売
≪収録内容≫
01.籠の中の僕らは/作詞・作曲:Motokiyo/編曲:河合英嗣
02.さなぎ
03.籠の中の僕らは(instrumental)
04.さなぎ(instrumental)
アニメイト特典:L判ブロマイド(アニメ絵柄)
ライブ情報
bless4 2019 TOUR『RISING SUN』
11月15日(金)川崎クラブチッタ 開場17:30 開演18:30
【チケットのご購入】http://eplus.jp/bless4