映画
劇場アニメ『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』監督×プロデューサー対談

難解と言われても敢えてお客さんに背伸びしてもらいたかった|映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』伊藤智彦監督&武井克弘プロデューサーロングインタビュー

『SAO』が3DCGアニメとして作られていた可能性も?

――本作はいわゆる「セカイ系」的な要素も入っているように感じられます。「セカイ系」の意識はあったのでしょうか。

伊藤:そこはまったくしてないですね。むしろ「セカイ系」と言われてしまうことが遺憾とすら思っているくらいで。なぜかというと、本作は「SF」だからです。

登場人物が少ないのは、3Dでキャラクターを作るのは大変だからという物理的な問題ですし、主人公の決断が世界を変える、といったアプローチはとっていないので、僕としては「セカイ系」と言われる理由がよく分からなくて。そういうカテゴライズは余分な情報でしかないと思っています。

武井:皆さんいろいろな解釈をしてくださっていると思うのですが、実際に打ち合わせでは一度も「セカイ系」という言葉は出していなかったですね。

伊藤:じゃあ果たして『インセプション』が「セカイ系」なのか、という話です。『シャッターアイランド』はひょっとすると「セカイ系」なのかもしれませんが(笑)、(セカイ系とは)言われないですよね。

そう考えると、皆さんカテゴライズしたがっているのかな、と思います。自分の知らないものを出されたので、見知ったものに置き換えたがるのかなと。

「セカイ系」というジャンル分け自体ほぼ日本でしか使われないものですし、日本の視聴者はもう少し広く視野を持ってもいいのかなと。

武井:確かに、無理にカテゴライズせず、純粋にありのままに映画を楽しんでほしいという想いはあります。

伊藤:それだったら、「『インセプション』っぽいカット出しやがって!」とかツッコミを入れてもらった方が気が楽ですね。

そこまで数が多いわけではないですが、それについては意識してやっているので。「ゴゴゴ……」ってきたら『インセプション』っぽいでしょ、みたいな(笑)。

武井:人間、分からないものが来ると、ある種の恐怖を感じるじゃないですか。なので分かりやすいところに落とし込みたくなるのかなと。

だとすれば、僕らは「新しい物語の形」を提示できたんだと思います。『HELLO WORLD』に対するお客さんの反応はその証拠とも言えますし、そういう意味では手応えを感じました。

――「この物語(セカイ)はラスト1秒でひっくり返る――」というキャッチコピーはある意味大きなネタバレだと思うのですが、これはどういった経緯で決まったのでしょうか。

武井:伊藤監督と僕が当初から狙っていたのは、最後の答え合わせだけが楽しみではない、90分間のうちに魅力がたくさん詰まったバラエティ豊かな映画、という作品コンセプトでした。

あのコピーはその真逆で、宣伝効果、インパクトを狙うため、ある種観方を狭めてしまったようにも思います。

――伊藤監督としては複雑な想いもありましたか?

伊藤:実は僕はあまり深く考えてなかったです(笑)。こういう風に見えるんだな、くらいの感覚で。

武井:あれで興味をもってくださった方もいると思うので、もちろん一概には言えないのですが……。

伊藤:プロモーションとして、奇をてらったフックもなしに大勢のお客さんを呼べるのは、宮崎駿監督や新海誠監督とか、本当に限られた監督とスタジオだけですからね。

――本作のキャラクターを始め3DCGが全編に渡って使用されていますが、伊藤監督としても初めての経験だったと思うのですが。

伊藤:背景に関しては2Dの部分も多いのですが、ここまで3DCGの比率が高い作品は初めてですね。

ただ実は今回の制作前に、Netflixで配信されている『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』のコンテを描いていたりなどしていたので、本作に向けての下準備は事前に整えていました。

▲『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』キービジュアル

▲『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』キービジュアル

――本作に向けてのノウハウの取得も万全だったと。

伊藤:ええ。なので、特別困った部分とかはなかったのですが、強いていえば背景モデルを作れるところと作れないところの差みたいなものがあったので、アングルの設定にはやや苦心しました。

あとはどうしてもメインキャラ以外はモデルの作りが甘くなってしまうので、あまりアップにしないほうが良いだろう、ということは意識していました。

比較的、3DではNGとされるようなアオリのカットもありましたし、そういったところは(スタッフに)頑張ってもらいました。

――手書きとの違いというのもあまり感じませんでしたか?

伊藤:手書きだったら10分で終わるようなカットに、ものすごく時間が掛かるということもありました。そこは新人が担当していたのですが、慣れていない人がやると、何てことがないシーンのちょっとした動作でも不自然さが出てしまうんです。

そこを慣れた人がやると、うまい具合に硬さがとれた、スムーズな動きに仕上げてくれる。やはり3Dでも、アニメーターの腕の差というのは出るんだなと改めて感じました。

――世界観の設定も、3DCGと相性の良い構造になっていると感じたのですが、そこも意図した部分なのでしょうか?

伊藤:そこに関しては、結果的に上手くいったという形でしたね。

ただ俺の中では狙っていた部分があったのも事実で、実は『SAO』の時も、当初は「(全編)3Dでできませんか」という提案をしていたんです。

その時は「キャラクターに対して3Dだとなかなか愛着を持てない」という理由で断られてしまったのですが、今の技術ならそれも可能になったかな、と今回制作してみて感じましたね。

武井:伊藤さんがやりたがっていた『オーロラの彼方へ』のような時間がもたらすドラマに、僕がグレッグ・イーガンの『順列都市』的な仮想現実の設定を加えてはどうかと提案したのですが、実はその前から「今回の映画を3DCGでやる意味ってなんだろう?」というのは考えていました。

伊藤監督といえば『SAO』ですから、そのフィルモグラフィー的な相性も意識しつつ、仮想現実の世界を3DCGで描いて、そこに感情移入してもらうという構造を作ることができれば、内容としても表現としてもCGを使う理由が成立するだろう、という狙いはありました。仮想現実ものを提案したのはそういう理由もあるんです。

――『SAO』といえば、本作にも『SAO』にも通じる要素が垣間見えたのですが、意識はされたのでしょうか。

伊藤:大人のナオミがアルタラ内に行くシーンは、コンテにも「リンクスタート」と書いてありますし、自覚的にやっている部分はもちろんありますね。

もちろんふたつの作品世界が繋がっているわけではありませんが、純粋に僕自身の演出のテクニックとして見せ方を似せていて、気づいた人が反応してくれればという位置づけです。

――偶然ではありますが、仮想現実というテーマがちょうど今放送されている「アリシゼーション編」と重なっているのも興味深いなと。

伊藤:仮想現実だけではなく、脳の情報を補てんするという意味でも「アリシゼーション編」で描かれている内容に通じるなというのは、実は議題にも出ていました。

「アリシゼーション編」の放送と同じ時期かもと、少し狙ってやった部分もありますね。幸いなことに、まだ『SAO』ファンからのお叱りの声は届いていな同じいので、そこはありがたいなと。

 

(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会
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