アニメ映画『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』監督&脚本担当のディーン・デュボア氏インタビュー|世界で愛されるアニメ作品において“最も大切なもの”とは?
『ボス・ベイビー』や『カンフーパンダ』など数々のヒットシリーズを世に送り出しているドリームワークス・アニメーションが壮大なスケールで描く『ヒックとドラゴン』シリーズ。
その最新作となる『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』が2019年12月20日(金)に公開となります。
第1作目は本作の主人公である人間“ヒック”とドラゴン“トゥース”の運命的な出会い、第2作目はドラゴンを軍隊として率いる悪者“ドラゴ”との戦いが描かれました。
そして12月20日に劇場公開となる第3作目は、「人間とドラゴンの共生」というシリーズを通したテーマを軸に、新たな聖地を求めて旅立つ壮大なアドベンチャーストーリーとなっています。
シリーズの最終となる本作について「最初に思い描いた物語の通りに最後まで駆け抜けることができた」と語る監督&脚本のディーン・デュボア氏。
本作の魅力はもちろんのこと、日本のアニメーション映画における印象や世界で愛されるアニメ作品において“最も大切なもの”など、アニメ映画の奥深さについてお伺いしました。
ドラゴンたちが象徴するものは“自然の美しさ”
——『ヒックとドラゴン』の原作はヒックがドラゴン語が話せることでドラゴンとの意思疎通ができていますが、映画では表情や仕草でドラゴンの心情を描いています。第3作目で工夫された点があれば教えてください。
ディーン・デュボア氏(以下、ディーン):僕らが選んだアプローチはとても大きい挑戦ではありましたが、言葉を交わさなくても人間とドラゴンがコミュニケーションをどうすれば取ることができるのかと、掘り下げることができました。
でも、僕は監督であり脚本家でもあるので、少しずるい部分もあります。たとえば、トゥースを含めたドラゴンたちのセリフを書いているんです。
それを音響デザイナーのランディ・トムさんに渡しているので、ドラゴンの発する音には人間の反応と近いものや彼らの気持ちが入っています。
——監督自身、特に印象に残っているシーンはありますか?
ディーン:たくさんありますが、今1つ思い浮かんできたのは、トゥースと今回初登場するメスの“ライト・フューリー”がする求愛のダンスです。僕たちはそれを“ファーストデート”と呼んでいます。
劇中でトゥースが砂場に絵を描くシーンがあるのですが、その絵を“ライト・フューリー”が踏んでしまうんですね。そのときのトゥースの唸り方が、僕が飼っているフレンチブルドッグがやらかしてしまった表情にすごく近くて。そのシーンが1番印象に残っています。
ちなみに、これが僕のトゥースです。
(愛犬のフレンチブルドッグの写真を見せてくれる監督)
——すごく可愛いですね!
ディーン:キュートでしょう! “アンガス”という名前です。
——監督と愛犬が築き上げている絆と同じように、本作も人間とドラゴンの絆がすごく伝わってくるよう内容でした。率直に作り終えた感想をお伺いしてもよろしいでしょうか?
ディーン:すごく誇らしくてホッとしています。僕たちが続編を作ることになったとき、最初に思い描いた物語の通りに最後まで駆け抜けることができました。
もちろん、この世界やキャラクターにお別れをするのは悲しいことですが、より悲しいのはシリーズ三作を作っている間にファミリーとなったスタッフたちとお別れをすることです。
でも、今は新しいキャラクターや物語に向き合うことにワクワクしています。
——また、本作で描かれる人間とドラゴンの共生が、現代の“多様性のあり方”とつながっているように感じました。その点について、監督自身、絶対に譲れないものはあったのでしょうか?
ディーン:僕の中では、映画をまるまる2本かけて人間たちとドラゴンたちは一緒にいるべきなんだと描いた後、3作目で人間たちとドラゴンたちが別れる物語というのがゴールで、僕の譲れない部分でした。
それを成立させるためには、クリエイティブ面で大きな挑戦でもありましたが、絶対に妥協はしたくなかったんです。
もちろん、“いつまでも幸せに一緒に暮らしました”というストーリーにもできますし、むしろそのほうが簡単に作ることができるかもしれません。
けれども、私たちが住む世界を反映させたとき、まだまだ人間の中ではたくさんの問題を抱えています。
"その問題にしっかりと向き合い解決していかなければ、この自然という美しいものが私たちの元に戻ってきて繁栄することはない”ということを描きたかったのです。
この映画の中でドラゴンたちが象徴するものはデリケートでマジカルな“自然の美しさ”。人間が破壊的な争いをしているうちは、彼らは私たちのもとには戻ってこないでしょう。
悪者グリメルの「CV:松重豊」がキャラクターとぴったり!
——声優についてお伺いしたいのですが、オリジナルでは『ゲーム・オブ・スローンズ』でドラゴンに乗っていたキット・ハリントンさんがドラゴン乗りのエレックを担当しているほか、ケイト・ブランシェットさんやジェラルド・バトラーさんなど有名なハリウッドスターの方々が出演されています。彼らとのエピソードや思い出などがあれば教えてください。
ディーン:1つ、お気に入りのエピソードがあります。『ヒックとドラゴン2』の脚本を手がけ始めたときに、とても強くて複雑な女性であるヒックの母親役を誰が演じられるかと思った際、映画『エリザベス』(1998年公開のイギリス映画)のケイトのイメージが頭の中に浮かび、彼女の声を聞きながらキャラクターを描き進めていました。
そして、2010年度のアカデミー賞の授賞式で彼女とお会いしたんです。僕も『ヒックとドラゴン』でノミネートされていて、そのときに「『ヒックとドラゴン2』にあなたの役を描きました」と伝えたら、ケイトが「3人の息子が大好きなの! 2作目があるなら内容を教えて?」と、その場で説明会が始まりました。
授賞式ということもあり、美しいドレスを着てヘアーもアップできれいな姿のケイトでしたが、突然ドラゴンのような動きを始めて(笑)「スケジュールが空いているから脚本を送って」と言ってもらって。
この話はとてもハリウッド的な話で、自分の中でもお気に入りのエピソードです。
——ちなみに、日本語吹替版はお聞きになりましたか?
ディーン:すべてではありませんが、映像を送ってもらって絵と一緒に聞かせていただきました。実は、先ほど、今回の映画で初登場するグリメルの声優・松重豊さんの写真を見せてもらって、外見がすごくキャラクターと似ているな、と。
声のパフォーマンスも完全にマッチしていると思いました。ユーモアであり、醸し出す怖さがあり、ぴったりです。
——ヒロインのアスティを演じている声優の寿美菜子さんは『ヒックとドラゴン』の大ファンで本人のブログにもたびたび話題に上がっています。
ディーン:すごく嬉しいです。まだチャンスがなくて声を聞けていませんが、日本語吹替版を1回全部聞いてみたいです。
日本のアニメーションはすごく“勇敢”
——1作目はクリス・サンダース氏と共同で監督をされていましたが、2作目から監督&脚本をおひとりで担当されています。共同と1人で行うことの違いは何かあるのでしょうか?
ディーン:一緒に監督を務めるパートナーがいるときは自分のアイデアを認めてくれたり、ボスに自分のアイデアを通したいと思って説明しに行くときは大きな力になったりしてくれます。
けれども、自分1人で行うときは自問自答しなければならない。たとえば、1つの選択に自分がこだわっている場合、この選択が果たして正しい選択なのか、あるいはただ自分が好きだからなのか……。
そういう意味では、1人で監督するほうがより自分に対して正直でなければならないですし、自分のアイデアに対して自信を持たなければなりません。
僕の場合、自分の周りに同じ感性を持っている方やそれぞれの分野で才能を持っている方で固める方法を採っていて、そうすれば、いろいろな側面の心配をせずに、僕自身はストーリーを描くこととストーリーを守ることに集中できます。
——日本においても世界で活躍されるアニメ監督がたくさんいらっしゃいますが、日本のアニメーションについてどのように思われていますか?
ディーン:すごく“勇敢”だと思います。想像力があふれていますし、ある種、すごく先駆けていると思うんです。
日本では監督がアニメーションというものを多様性のあるストーリーの形としてリスペクトしている。それが米国ではだいたいが子供のエンタメだと思われてしまいます。
勇気を持って多様なストーリーについて模索しながら、さらに“大人のテーマ”を掘り下げているところは、世界中のアニメーターやフィルムメーカーたちに大きなインスピレーションを与え続けている部分です。
多様性でいえば、たとえば『東京ゴッドファーザーズ』や『となりのトトロ』、『パプリカ』、『AKIRA』『火垂るの墓』など、本当にパワフルなストーリーだと思いますし、日本のアニメーションは驚く形で感動させられるんです。それはすごく素晴らしいことだと思います。