『ケンガンアシュラ』鈴木達央さんインタビュー｜アフレコ現場は声の拳願絶命トーナメント!? 座長が語った“役者道”に男が漢に惚れた話

座長・鈴木達央にしか話せない話

――今回の『ケンガンアシュラ』では、作品の座長という立場だったわけでもありますが、キャラクターとの向き合い方になにか変化はありましたか。

鈴木：キャラクターの向き合い方はあまり変わらなかったんですが、ブース内での立ち居振る舞いは正直全然違いましたね。

最初はめちゃくちゃ肩肘張っていましたし、「どうやって座長やったらいいんだろう？」と本当に悩みました。

後半は、自分の中で答えが見つかりました。なんだかんだで解消されたんですけど、そこに至るまではもがいていましたね。

いい焦燥感というか、形は違えど王馬とのシンクロもできるので、（焦りを）そのまま出そうとは思いました。

――役者として全ての作品を大切にしていることは重々承知の上で、今のお話を聴くだけでも、鈴木さんにとってこの作品は特別だということが伝わってきます。

鈴木：そうですね。座長として動かなければならないうえに、芸歴が僕の倍以上あるようなベテランの方もたくさんいらっしゃいました。

ありがたいことに僕の良く知っている方々が、片っ端からバンバン参加されていたんですけど（笑）。そういう意味ではものすごく助かりました。「タツがいるじゃん！　タツの現場についに来たよ！」って言ってもらえたりするんです。

俺自身が普段先輩方に生意気なことで、可愛がってもらえた作品でしたね。「お前、頑張ってんな。座長のところにちゃんと付いていったるわ」というような。

僕を座長として見てくれた先輩たちには、本当に感謝しましたね。

――現場にはいい空気が流れていたのですね。

鈴木：はい。そこは間違いないです。もちろん中には初めましての方もいらっしゃったんですが、座組みに入ってしまえば同じ『ケンガンアシュラ』のチームですから。積極的に話に行って、今はお会いすればしっかり話ができる程度に仲良くなりました。

それが座長としてのひとつの利点かな、と思って心がけましたね。不安を抱えている方がいらっしゃったら「大丈夫です、僕が分かる範囲でご説明します！」と言ってお話したりとか。

まあ、そんな感じでアフレコの裏話はいろいろありますよ（笑）。ベテランでもなかなかできないような体験ができましたね。

――そうそうたる方が揃っていて、新人の方がいたら萎縮してしまうと思います。

鈴木：ははは（笑）。まず喋れないと思います。アフレコが終わるとだいたいみんな喫煙所に行くんですけど、そこに本当に体格のいいオヤジたちが集まっていて（笑）。

「あーでもない、こーでもない」と話したり、あと皆さん格闘技も好きなので「あの時のアレがさ」「この前の試合見たかよ」みたいな話をしていました。

一同：（笑）。

鈴木：「声で殴り合いができる人を片っ端から呼んだ」という飯田さんや岸監督の言葉通り。

そういう方々が本当に集まったので、ともすればナメられるんですよね。ですので、僕も果敢に行きました。

収録が終わった後にご飯とかにも行くんですけど、すぐ帰りそうな雰囲気の大典さん（楠 大典さん　ムテバ・ギゼンガ 役）やみんなを捕まえて「飲み行きましょう！」って（笑）。

別件の仕事があるにも関わらず皆さんよく集まってくれて、本当にありがたいなと思いました。

――それだけ作品に熱を持って接していたということですよね。素敵な現場だと思います。

鈴木：途中で分かったんですが、「座長ってみんなにしてもらうもの」なんだなって。これはすごく感じました。

特に『ケンガンアシュラ』という作品は、チョーさんの演じる山下一夫と王馬が一蓮托生でずっと闘っていくわけですけど。

チョーさんにはすごくお芝居面で助けていただいたし、引っ張っていただいているのを感じて。

毎回、台本を読んできているはずのに、山下一夫が初めて体験していると感じられる演技なんですよ。

例えば、落ち込んでる時は本当に落ち込んでいて。王馬としてちゃんと自信をつけさせなきゃっていう気持ちに自然となれるんです。

王馬として「ちゃんと助けなきゃ」という気持ちになれる空気を毎回チョーさんに作っていただいて。改めてアフレコって助け合いなんだなと強く感じられました。肩の荷がすっと降りた時があって。そこからすごく気が楽になりました。

――なるほど。

鈴木：自分が頑張ったものは周りに伝染していったり、皆がそれをちゃんと受け取ってくれて。

憎まれ口叩いていても、最後は座長の俺にパスを渡してくれる、肩を持たせてくれるというか。それが本当に嬉しかったですし、アフレコってすごく面白いなと思いました。

それと同時に「怖いな」とも思いました。めちゃくちゃ見られているなと。

――詳しく聞かせてください。

鈴木：メディアの形が変化したこともあって、（声優の）有名無名とかが見えるようになったと思うんです。

これは良い悪いの話ではないし、変な意味に捉えられると嫌なんですけど……。知名度や浸透具合は俺のほうがあったりしても、出演者の方の中には俺より仕事している人なんて山ほどいて。

でも、アフレコではそんなもの本当は関係なくて。

『ケンガンアシュラ』にはそういった空気、「しっかりやらなきゃ認めねえ」という雰囲気がありました。

まさに拳願絶命トーナメントじゃないですけど、息抜いたらすぐパクッとやられるみたいな。とても刺激的な現場でした。