「すずさんにカメラをずーっと向けっぱなし」で作られた映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』|片渕須直監督インタビューで語られたアニメへの提案と多様性
もっといろんなアニメーションがあってもいい
――多数派を占める商業的なアニメはたくさんあると思いますが、監督が作る作品はまた違った印象を受けます。こういった違いをどう思われますか。
片渕:最近特に、アニメーションにバリエーションが少なくなってきたな、という印象を受けますね。僕の作品は、もっといろんなアニメーションが作られていいんじゃないのかな、という提案でもあります。
だけど、高校生が主役であることが多い今のアニメの主流と同じ、うちの主人公18歳だよっていう(笑)。次の作品も16歳とかかもしれない。でもまた、全然違う世界の16歳はこうだよ、みたいな。
同じ年頃の女の子の主人公を使っていても、こんなものも作れるんだよ、という風に思って観ていただけるといいかな、と思います。
――監督としてはどちらも差がない、アニメーションなんだという気持ちでしょうか。
片渕:むしろ逆で、もっと差があっていいなって。いろんなものがあっていいと思うし、物心ついた時からアニメに親しんでいる、僕ら50代の古強者が観てもいい作品があってもいいわけで。
『この世界の片隅に』もそういう人にも観てもらえるな、と思っていたのですが、驚きだったのが、僕らよりさらに上の世代の方、70代、80代のお客さんが多くて。
そういう世代のほうにまでアニメーションが広がるのって面白いし、アニメーションってもっと威力が発揮できるものなんだなと思います。
――ありがとうございました。
[取材:内田幸二/文章:若林啓二郎]
作品情報
作品概要
国内外で高い評価を受け、2016年の公開から1日も途切れることなく900日以上にわたり上映が続けられている映画『この世界の片隅に』。本作はそんな『この世界の片隅に』に、原作の魅力的なエピソードの数々を散りばめた新作です。すずを取り巻く人々の「さらにいくつもの人生」がより深く描かれることによって、私たちは知ることになります。すずの中にあったほんとうの感情を。そして誰もが誰かを想い、哀しくも優しい秘密を抱えていたことに。たおやかな温もりに満ちた新たな物語が、この冬、深く沁みわたります―
ストーリー
ここではひとりぼっち、と思ってた。
広島県呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれて、新たな生活を始める。昭和19(1944)年、日本が戦争のただ中にあった頃だ。戦況が悪化し、生活は困難を極めるが、すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいく。ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていくすず。しかしその中で、夫・周作とリンとのつながりを感じてしまう。昭和20(1945)年3月、軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われる。その日から空襲はたび重なり、すずも大切なものを失ってしまう。そして昭和20年の夏がやってくる――。
キャスト&スタッフ
声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 牛山茂 新谷真弓/花澤香菜/ 澁谷天外(特別出演)
原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊) 企画:丸山正雄 監督補・画面構成:浦谷千恵 キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典 美術監督:林孝輔
音楽:コトリンゴ プロデューサー:真木太郎 監督・脚本:片渕須直 製作統括:GENCO アニメーション制作:MAPPA 配給:東京テアトル 製作:2018「この世界の片隅に」製作委員会 ikutsumono-katasumini.jp (C)2018こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会