映画『ジョーカー』BD&DVD発売記念:吹替版 主人公アーサー役 平田広明さんが語る作品の魅力/インタビュー
アメコミの設定を使いつつ、リアルな怖さ。アーサーの感情のピークが絶妙!
――『ジョーカー』という作品の印象は?
平田:(『バットマン』関連でいえば)ジョーカーよりもリドラーのほうがお付き合いがあるんですよね。何回か演じているので。今回の監督・脚本のトッド・フィリップスは独特なアプローチだなと思いました。
『バットマン』のゴッサムやジョーカーという名前や設定は借りているけど、すごくリアリティのドラマを描いていて。アーサーが病気を患ってから孤独になって落ちていくさまはリアルで怖ささえ感じました。
1つすごいなと思ったのは、何か事象が起こって、対立関係になり、刺したり、銃で撃つところがピークになる作品は多いけど、アーサーの場合はその後にピークがくるのもリアルで。
地下鉄でエリート会社員たちに襲われて、銃で次々と撃つんですけど、逃げる最後の1人を討ち終わった時、死んでいるのはわかっているのに追い撃ちして。
終盤でマレーを撃った時も1発撃った後に、2、3拍置いてからもう1回撃って、その後に所在なげにダンスのステップを踏んでいるところに彼のピークを感じて「怖い」と。
あれはたぶん台本の指示ではなく、ホアキンの中にジョーカーが降りてきたのかなと感じます。病室で母親を枕で圧迫死させた後に吐く息の白さも何度も見返しましたが、ピークは殺した後のため息なんだろうなと思うんです。
これはアメコミの『バットマン』のジョーカーの話だよと振っておきながら、「何だ!? このリアルな怖さは!」というところが、僕がハマったポイントでもあります。
普通の男を普通に演じる難しさ。際立つホアキンの芝居の上手さ
――これまでホアキンの吹替を何度か担当されていますが、今までの作品と今回の『ジョーカー』のホアキンの違いは?
平田:何1つ思い出せませんでした。ここ最近、立て続けにテレビで放送されましたが、それも脇役だったし。でも彼が若い頃から「芝居がうまいな。くそ~!」と思いながら見てました。
そして今回、熟成するとこんなお芝居できるようになったんだと衝撃でした。
皆さんは彼のどこに衝撃を受けるんだろう? 笑うシーン? ブチ切れて殺すシーンなの?
僕はとても静かに日常を送ろうとしている彼やTVを見ていて番組に呼ばれた妄想をするシーンとか、病気も狂気も関係ない良きアーサー、そんな何の取り柄も華もない男にリアリティを持たせるのは難しいと思うんです。「普通」っていったい何? って。
気が小さくて、優しい部分を強調するでもなく、貧困層の一市民としてのリアルを見る人に感じさせた時点で映画は成功していたのかなと。何でもないお芝居を何でもなくできるのは極みだなと思うし、それに声を当てる側としては難しくて。
――どれだけ表現できたと思いますか?
平田:満足度は低いです、いつも。
何でもないシーンを、何でもなくやっているつもりでも客観的にはわからないので、音響監督に「大丈夫でしたか?」と聞くと「大丈夫だよ」と。
でも気になって何度も確認したら「じゃあ、聞かそうか」と言われて「いいです」と。自分の芝居を見直すのはテンションが落ちるので。
面会シーンでぼそっと「ツラい。もうたくさんだ」というセリフも、まだ序盤なのに、彼の芝居が凄すぎて、お客さんにまだ見てもいないツラいシーンの数々を妄想させ、感情移入させてしまう。
ホアキンは表情込みだけど、こっちは声だけなんだぞと。僕はただ、何でもないセリフが彼の上質な芝居にうまくのっかってくれよと祈るだけです。