冬アニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』あおきえい×碇谷敦×小玉有起が7〜10話を振り返る|「津田さんのお芝居は僕のイメージを軽々超える」
キーパーソンはどのように決まった?
――対マンも登場する9話は、碇谷さんがコンテ演出を担当されたんですよね。
碇谷:そうです。シナリオを読んだとき「これは!」と思って、あおきさんに「9話はコンテと演出をやらせてほしい」ってお願いしたんです。
4話は仕方なく……というわけではないですが(笑)、人がいないのもあり流れてやらせてもらって、9話は「どうしてもやりたい!」と。
――やりたかった理由って何なのでしょうか?
碇谷:格闘シーンがあるからです。僕、昔から格闘技が大好きなので、いわゆるアニメ的な、戦いながら喋るような格闘にしたくなかったんですよ。
今のアニメって、どれだけリアルな作品でも格闘となると急にジャッキーアクションになるので、今回はリアルにやってみたいなと。
上手くいったかどうかはわからないですけどね。すごく地味になっちゃったなとは思っています(笑)。
――いえいえ、トラウマになるようなすごいシーンでした。
碇谷:そうなっていたら嬉しいです。具体的には、リアリティのある技にこだわりました。無駄なパンチが一切無い、であるとか。
あとは、結構早めに決着がついていたんですが鳴瓢は銃を使うので、相当ボコボコにされないと「銃でとどめをさせるなんてずるい!」となりそうかなと思い、必要以上にボコボコに(笑)。
本当は歯とかも折ってやろうと思っていたんですが10話に響いてしまうのでやめて、対マンの歯を折りました。
――腕が折られるシーンは思わず目を覆いました。
碇谷:気持ち悪いですよね、あのシーン。
あおき:音もかなりリアルなんですよね。だから余計に。
碇谷:あのシーンは、実際に骨が折られた格闘技の試合を観て参考にしました。意外とポコッといくんですよ。
――そうして、生々しい格闘に仕上げたんですね。ほかにも、難しかったシーンなどあれば教えてください。
碇谷:飛鳥井木記ちゃんと鳴瓢が病室で話しているシーンは難しかったですね。木記ちゃんはベッドに座っていて鳴瓢は車椅子なので、とにかく動きがないんですよ。
だからどうしようかなと思いあおきさんにも相談したんですけど、あおきさんは10話のコンテ演出で同じ様に木記ちゃんと鳴瓢に頭を抱えていました(笑)。
――それは、絵変わり的にということですよね。
小玉:振るカメラがない!ってことですね。
あおき:「すごい喋ってんじゃーん」って思いましたもん。僕も(笑)。
――今お話に出た飛鳥井木記ですが、宮本侑芽さんに決まった経緯は?
あおき:もともと本堂町のオーディションに来ていただいたんです。その段階から生っぽいお芝居をされる方だな、いいなと思って。木記の役をお願いしました。
――飛鳥井木記には生っぽさが必要だったんですね。
あおき:出番が多いですし、“津田さんと組んで負けない感じ”を狙わないといけないんですよね。実際に掛け合ったときのバランスはオーディションではわからなかったですが、10話を見たとき、きちんとお芝居できているなと実感しました。
あと鳴瓢椋は、やはりオーディションで来ていていいなと思い島袋美由利さんに決めました。
――では、対マンこと勝山伝心はどのように決まったんですか?
あおき:メインキャラクターのオーディションに来ていた杉田智和さんの声が良くて、お願いしました。杉田さんって、人を喰ったようなお芝居もすごくお上手なんですよね。
だから、勝山伝心のような変態チックなキャラクターも、きっとおまかせできるなと思いました。
碇谷:アフレコで舞城さんが「勝山伝心は“対マン”を楽しんでいるんです」って言っていたんですけど、それを聞いた杉田さんは「ヒョゥ!」みたいな声を入れてくださいました。
小玉:「ヒャハハ!」って言っていましたもんね。
碇谷:だから顔変えましたもん、あとで。
――『イド』ではおなじみ、芝居にあわせて絵を変える手法ですね。
碇谷:はい。魅惑的なお芝居でしたし、声自体にも色気がありますよね。
あおき:勝山伝心って連続殺人犯ですけど、小玉さんの原案の時点ですごくおしゃれなセーターを着ているんですよね。
小玉:金持ちですし、シュッとしていますよね。
碇谷:家もすごく大きいですからね。でもあのセーター、素肌の上に着ているんですよね。闘技場で闘っている最中、鳴瓢がインターホンを鳴らしたから。急いで服をきて家の外に出てきたんですよ、あれ。
あおき:しかも、ファールカップには「VS」って入っていますからね。あれが面白くて。
小玉:カッコいいじゃないですか(笑)。
碇谷:よく描き忘れちゃうんですけどね(笑)。
津田さんのお芝居に感動
――では、10話で印象深いシーンというとどこでしょうか?
碇谷:やっぱりあのシーンじゃないですか? 鳴瓢が電話をするシーン。
あおき:曲と写真を使って過去を見せる、というシーンですよね。自分でコンテを切った回だったんですが、あのシーンがどう映るのか正直よくわからなかったんです。観た人は「泣けました」「すごくよかったっす」と言ってくれるんですけど……自分はよくわからなくて。
――そうなんですね! 自分で描いたからこそでしょうか。
あおき:はい。無感動でした(笑)。
碇谷:でも、この前久々に観たらやっぱり泣けましたよ。
小玉:僕もあのシーンは泣けますね。完全に泣かしにかかっているじゃないですか。
あおき:僕は全然泣けないっすよ!
一同:爆笑
碇谷:「この流れ、俺が描いたし!」みたいな(笑)。
小玉:まあね、あのシーンを観て毎回あおきさんが泣いていたらおかしいですよね(笑)。
碇谷:あ、でも、鳴瓢の独房の壁にたくさん写真が貼ってあるじゃないですか。あれ、何個描いても埋まらなくてすごく苦労したんですが、それをあおきさんが10話で使ってくれたんですよ。写真の中の風景を回想にしてくれて。あの苦労が報われたなと思いましたよ。
小玉:確か、そこで使いましょうみたいな話にもなっていましたよね。
碇谷:あ、そうでしたっけ。
あおき:シナリオに指定はないんですけど、10話のそのシーンで使えるかなとは思っていました。
小玉:いいですよねあの演出。写真、ぜひポストカードにしてもらいたいです。
――あ、いいですね!
碇谷:でもあれ、解像度が低いんですよ。描き直したい気持ちはあるんですけれど。
あおき:時期的にもだいぶ前に描いたやつだからね。
碇谷:1話にインする前に描いていましたからね。ずいぶん昔の絵ですし描き直そうかな。
――ぜひ観てみたいです。
あおき:でも1枚描き直したんですよね。3人で写っている、小玉さんが原画をやってくれた……。
碇谷:そうそう、あの写真から回想シーンを動かすので、アニメ用に描いてくれって話になって。
小玉:そうなんですか?
碇谷:でも、10話で、ですよ。
あおき:3話の時点ではそのまま使わせてもらっています。
小玉:そうなんだ。なんかちょっと違うなとは思っていたんですよ。
碇谷:そのあとで動くので、変えざるを得なかったんです。トレースしているようなものですけど。
小玉:あと、僕が描いたものではないですけど、3人で寝そべっている写真も描き直しされていましたよね。
碇谷:そうですね。あれは、昔の絵だなぁと気になったので。
小玉:昔の絵も好きでしたよ。でもすごいですね。細かいところまで描き直している。
――本当に手間が掛かっていますね。
あおき:あと、回想シーンに関してはもうひとつ裏話があるんです。舞城さんに追加でシナリオを描いてもらったんですよ。
変則的なんですが、コンテが上がった段階で「ここに合うシナリオを書いて」ってお願いしたんです。会話の内容が欲しくて。そうしたら、舞城さんから小説みたいなすごく長いやつがあがってきたんですよ(笑)。
小玉:短編ですね。
あおき:そうそう。すごく良いけど、これは逆に使えないなと思って結局使いませんでした。ただ、Blu-ray BOX下巻の特典になるので、楽しみにしてほしいです。本当に泣ける短編になっています。
小玉:僕も読みました。本編を観たあとだとグッと来るでしょうね。
――10話も津田さんのお芝居が見事でしたね。
あおき:そうでしたね。
小玉:アフレコのときも、ヤバい泣いちゃうって思っていました。
あおき:津田さんのお芝居は安定していて、10話くらいまでくるともう全部おまかせしていましたね。さすがだなって思いながら聴いていました。津田さんにお願いしてよかったなと改めて。
――あおき監督のなかにもある程度芝居のイメージはあるんだけれど。
あおき:はい。もちろん絵コンテも描いているのでイメージはしているんですけど、津田さんはそれを軽々超えてきます。
碇谷:このシーンも例にもれず、芝居を聴きながら描き直していました。