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冬アニメ『地縛少年花子くん』安藤正臣 監督インタビュー

冬アニメ『地縛少年花子くん』安藤正臣監督インタビュー|緒方恵美さんと話し合った花子くんのかっこよさの秘訣や、原作の画風を再現する上でのこだわりとは?

第5話「告白の木」で作っていた“アニメオリジナルの1カット”

——花子くんの本音というと、第5話「告白の木」では少しその辺りが垣間見られたような気がしました。前半ラストの校門の柵越しに寧々ちゃんを引き寄せるシーンです。

安藤:そうですね。そもそも花子くんのアイディンティティの基準は、タイトル通り“地縛”にあると思うんです。花子くんはそこから動けない、変われない、歳をとれない。

僕自身、どこか大人になれない、モラトリアムな感覚から抜け出せないでいるところがあるので、花子くんのそういう部分にも共感しているかもしれません。

アニメの業界にいることも大きな理由かもしれませんが……携わる作品が学園ものが多いので、常に学校から卒業できていない気分で(笑)。

一同:(笑)。

安藤:でも、寧々ちゃんはもうすぐ大人になれるんですよ、きっと。

——というと?

安藤:モラトリアムな時間をモラトリアムな空間で過ごしている寧々ちゃんは、子供と大人の端境にいると思うんです。

子供の気分を充足して甘やかせてくれるのが花子くんの存在であって、それはいつか卒業してしまう予感がします。

それこそ、花子くんの悲しさや切なさを完全に理解してしまった瞬間、寧々ちゃんはモラトリアムの空間の住人ではなくなるんです。

花子くんに対する理解が深まるほどに、花子くんとのお別れが近づいている。そこはいろいろな作品に共通することだと思います。

学生から社会人になるように、子供から大人になる境を感じたことがある人だったら、“郷愁”みたいなものを感じる要素があるのではないでしょうか。

——ドラマ性を感じますね。

安藤:まさに、第5話の「告白の木」でいうと、門を挟んで抱き合っているシーンにドラマ性を非常に感じました。

先ほど、原作のコマ割りをそのまま表現していると言いましたが、1カットだけ原作にないコマをこのシーンに用意していたんです。

遠くのほうに街並みが見えて、畑を挟んで画面の手前に門があるという1カットなんですけど、そこではより人間と怪異の境界線を強調する方向で考えました。

夕陽が射している向こうの街並みはまだ光が射していますが、カメラが引き始めるとともに、門を境にした手前側(花子くんがいる側)だけに赤黒い影が強く射してくるんです。

未来に進もうとしている寧々ちゃんに対して、花子くんは「泣き止むまでここにいなよ」と言いますが、それは寧々ちゃんに対する思いやりに見せかけた自分の願望。花子くんは寧々ちゃんを抱きしめてここにいてほしいんです。

——花子くんの気持ちを考えるともう……。

安藤:ただ、成長しないということは”死”に近いことだから、明るい景色に見せかけて手前には赤黒い影が射してくるという感じにしました。その1カットだけアニメオリジナルです。

——花子くんがその場に縛られていることが強く伝わりますね。

安藤:原作の絵でも、人間と怪異の境目としては陰と陽を感じていました。

あと、花子くんが囚われているという意味合いでは、花子くんを飾り枠で囲って、枠の外には出られない檻の中の少年という表現を意識しています。

今までデザインとして見えていたものが、話が進むにつれて、飾り枠が囲まれている内側の人間という表現に自然と見えてくるんです。

最初は飾り枠でしかないんですけど、話数が進んでいくにつれて “これはこういうことなのかな?”と意味があるように感じられると思います。

——確かに! ストーリーの理解が深まるほど、”こういうことだったんだ!”という部分があります。

安藤:なので、序盤のほうは誤解だらけです(笑)。たとえば、僕の場合、途中で出てくる七峰桜(CV:安済知佳)は花子くんに居場所を奪われた本当の花子さんじゃ? と思いながら原作を読んでいました(笑)。

原作もののアニメを作っていると、作業を進めるうちにどんどん原作が好きになります。

もっけの存在と寧々ちゃんキャスティング秘話

——寧々ちゃんについてもお伺いしたいと思います。

安藤:寧々ちゃんは振り回されたいんですよね。

一同:(笑)。

安藤:たぶん、寧々ちゃんは見る人によってさまざまな解釈ができると思います。寧々ちゃんのワガママな部分や、カッコいい男の子だったら誰でもいい素直なところとか、まさに“恋に恋している女の子”です。

理想と現実とのギャップに苦しんでいないまだ幸せな時期で、モラトリアムの中にいて願望がいっぱいあって、その願望に突き進んで失敗する主人公。そんな寧々ちゃんを救ってくれるスーパーマンのような存在が花子くんの立ち位置ですよね。

ただ、“恋愛ものではない”ということで、アニメキービジュアルでは、寧々ちゃんの両隣に花子くんと光くんがいますが、“三角関係のラブコメに見えないように”というオーダーがありました。

まだ恋愛という感情がよく分かっていないような、おそらくもっと幼い感じだと思います。だからこそ、3人の空気感がそこまでギスギスしていないですし、そういうところではあいだいろ先生の絶妙なさじ加減があるので、アニメでも気をつけるようにしています。

話が進むとついドラマ性を感じる進展を求めてしまって結論に近づきたくなりますが、あいだいろ先生目線の世界観のバランスが強烈なので、その目線を意識していますし、僕はそれが“もっけ目線”だと思っています。

 

——もっけ目線(笑)。

安藤:あいだいろ先生の立場はもっけです(笑)。もっけのつぶらな瞳のように客観的で何も興味ないように見えて、それでもキャラクターの側にいる。

なので、僕自身もそれぐらいの距離感で変に肩入れしないようにしなければ、という意識はありますね。自分ももっけにならなきゃいけないんです。

一同:(笑)。

安藤:そして、もっけの声優にならなきゃいけないんです! なぜもっけをやらせていただけないのか……。

——(笑)。確か、もっけのオーディションを受けられたんですよね。

安藤:落ちましたけど(笑)。やっぱりあの素晴らしいお三方の声優さん(吉田有里、森永千才、金澤まい)には勝てないですね。

——あいだいろ先生も一緒にもっけのオーディションを受けられたとか!

安藤:あいだいろ先生にももっけのオーディションを受けていただいて「完璧だ!」と思いました。

時間とスケジュールが許すならあいだいろ先生にやっていただきたい! と申しましたが、NGとのことで……本当に完璧でした。

——オーディションといえば、鬼頭さんは寧々ちゃん役に決まってとてもびっくりしたとおっしゃっていました。

安藤:寧々ちゃんは下手に演じてしまうとどうしても嫌な感じが出てきて難しいところなのですが、鬼頭さんが演じるから可愛く思えてくるところがあると思うんです。

これはあくまで個人的な意見ですが、寧々ちゃんは自分の大根足に傷ついていても、どこかで大根足以外は良い、“この大根足がほっそりしていれば、私はいけるはず”と思っているんじゃないかと思っています。

第4話で寧々ちゃんが抱く自分の理想像が出てきたときにそういう部分が少し見えてきますが、そんなことを一切気にさせないキュートさを鬼頭さんが表現されていました。鬼頭さんの地声は寧々ちゃんの声と全く違うのでびっくりしますよね。

——本当に同性から見ても寧々ちゃんは可愛いです。

安藤:寧々ちゃんは分かりやすいキャラクターなので、分かりやすい演技をする声優さんを選ぼうと思いがちですが、そうしてしまうと男性に対する媚びが強く出てしまいます。

ですから、絶妙なバランスの演技で可愛さを崩さない鬼頭さんをキャスティングさせていただきました。

原作者あいだいろ先生がアフレコ現場で涙ぐんでいたシーン

——第6話からは原作ファンにも人気が高い土籠先生が登場しています。

安藤:最高のイケメンに仕上がっていますよね。津田健次郎さんの演技が本当に素晴らしい。

アフレコ現場で、緒方さんと津田さんがあまねと先生の立場で会話しているシーンのやり取りに関しては、何のディレクションもありませんでした。

緒方さんもあまねのときは、花子くんの1枚のベールに隠れている本音を残した演技ではなく、もっと素直に心に迷いのない少年で演じやすかった、とおっしゃっていました。

また、あまねの想いを正面からストレートに受ける津田さんのお芝居もあって、見学にいらしていたあいだいろ先生も涙ぐんでいらっしゃいました。原作ファンから見て第6話の土籠先生、いかがでした?

——もうたまりませんでした!

安藤:うわぁ~津田さんの声だぁ~って、僕もたまりませんでした(笑)。最初のおどけた土籠先生も可愛かったですね。

——はい! 貴重な花子くんの過去回でもあったので、個人的に注目していました。

安藤:そこも本当に難しいところなんです。花子くんの何に惹かれるかといえば、やっぱりミステリアスな部分。女の子から見て男の子の分からない不思議な部分という、底知れない権化のような存在だと思うんです。

過去が見えるようで見えない、感情だけは伝わってくるけれど具体的に何があったのか分からない。そこがなかなか見えてこないという点で表現の難しさがありました。

そこも緒方さんと話し合いを重ねた部分でしたし、花子くんを演じる際に苦労されているところでもあると思います。

結論が何なのかハッキリと教えてくれない、あいだいろ先生の中でも花子くんの分からない部分が未だにいっぱい残っているんじゃないかな、と思います。でも、そこが魅力になっているんですよね。

その部分は作画や演出、演技という点で難しいところではありますが、自分はいち視聴者の目線で原作を読んで、そこで受け取った花子くんのフィーリングさえなぞっていけば、その先に答えがあるだろう! と。素直な印象をなぞっていければ自然と答えが見えてくるだろうと思っています。

——花子くんはまだまだ謎だらけですが、そこが様々な想像を膨らませる要素にもなっているんですよね。監督と緒方さんで花子くん像の捉え方が違うように、いろいろな捉え方ができると思います。

安藤:そうですね。ままならない男の子の理解できない部分というのは、あくまで女の子の目線で見た底知れない部分であって、目線の違いでしかないんです。

男の自分から言ったら、花子くんはそんなに複雑なところはないんじゃないかな、と思うこともありますが、逆に男性から見た女性に対する憧れや変に崇高にしてしまう部分もある。男女ともにお互いの分からない部分に惹かれるところがあるんですよね。

分からないからこそ惹かれるというキャラクターの権化が、花子くんという気がします。あまねになると素直な感情が出てくるので、そういう側面をうまく表現されているのが本当に巧みだなぁ、と。

結論を出さないまま、本音に近づいていくような感覚がして、それはあいだいろ先生の恐ろしいところだと思います。

——回を重ねるごとに情報は増えているのに、逆に分からなくなる感じがします。

安藤:6話の土籠先生の話では何の結論も言っていない、不思議な謎かけが増えただけですよね。なのに、納得してしまうというところがこの作品のすごいところだと思います。

(C)あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん」製作委員会
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