釘宮理恵さん「せめて空を」インタビュー|7年10ヶ月ぶりのミニアルバムは優しいサウンドが包まれているとっておきのお手紙
1998年の声優デビューから途切れることなく数多の作品に出演し続けている釘宮理恵さん。その可愛らしい声は、現在でも多くのファンを魅了し、声優界でも憧れの存在になっている。
ここ最近で釘宮さんを知った方は知らないかもしれないが、実は記事のタイトル通り、7年10ヶ月前に一度だけ個人名義でミニアルバム「kokohadoko」をリリースしている。
当時の2012年と言えば、様々な声優・アーティストが成熟してきたタイミングでもあった。「ここにきてようやく釘宮さんも!」と思ったが、アニメイトで買ったCDを聴いて驚いたのを覚えている。
全編を通してまるで心のそばに寄り添ってくれるような、そんな優しいサウンドだった。そして今でも定期的に聞きたくなる、耳に残る歌声だった。
「2020年4月8日に待望の新ミニアルバムをリリース!」と聞いて心が踊ったものだ。
前置きが長くなった。今回はそんな釘宮さんにミニアルバム「せめて空を」についてたっぷりお話を伺った。あの独特な世界観はどのように生まれているのだろうか? そこを聞いてみたい。
釘宮さんはインタビュー中に“普段”という言葉を多用していた。それは釘宮さんの“普段”でもあり、このミニアルバムを聴く皆さんの“普段”でもあるのかもしれない。
「premier」があったからできたミニアルバム
――ミニアルバム発売おめでとうございます。やはり気になるのが、前作から7年10ヶ月ぶりのリリースということです。なにか理由があったのでしょうか?
釘宮:ゆったりと、ずっとやっていただけなんです。前作の「kokohadoko」が2年くらいかかってできたものなので、「今度は半年ぐらいで一枚出しましょう」というコンセプトで、前作が終わってからすぐ始まりました。
一曲録ったあとに、スタッフの方が異動になってしまい、そこらかある程度時間がたったのちに、別のスタッフさんが付いてくださることになり、お互いにイメージの擦り合わせに、時間をかけて話し合いをしていたので、あっという間に時間がかかったのだと思います。
――二曲目以降を収録したのには時間がかかりましたが、最初の一曲は録り直しはしたのでしょうか?
釘宮:録り直してないです。ほかの曲との調整だけしてもらって。ミックスだけやり直しました。
――それはすごい。ちなみにどの曲でしょうか?
釘宮:1曲目の「premier」です。
――そうだったんですね! 流れで聴いてもまったくそんな感じがしませんでした。
釘宮:そうなんです(笑)。
一同:(笑)。
釘宮:すごいですよね。時間がけっこう経っているので、音の感じも時代に合わなくなってしまう心配もあったんですが、スッと寄り添ってくれて。いい曲で良かったなと思います。
――前回のミニアルバムから自分の中で変わったな思うところはありますか?
釘宮:実はそんなになくって。私のこういう音楽を個人でやらせてもらうこと自体にものすごく感謝しているというのがまず大前提としてありますし、ちゃんとしたものを作りたいという気持ちもあります。
さらに今回は、ちょっとでも違うなと思ったら、立ち止まって考えさせてくれたんです。「こういうところが自分の気持ちとずれてるんです」という誤差レベルのことをひとつひとつほぐしていく、丁寧なやりかたを許してもらえる環境でやらせてもらえたので、余計に一生懸命に、真摯に向き合ってきました。
私自身、純粋にモノだけで勝負しようとしているところがあるので、「この様な作り方を許可して頂けれるなんて」というありがたい思いでいっぱいです。
――確かに、昨今これだけ長い時間をかけて作らせてもらえるのは珍しいと思います。
釘宮:本当にそうですよね!
――プロジェクトに時間をかけながらも着実に進んでいき、途中で頓挫しなかったのもすごい点だと思います。そのモチベーションはなんだったのでしょうか?
釘宮:やはり「premier」を録っていたのがありますね。私はこの一曲がものすごく好きだったので、このままなかったことにしてしまうのが悲しいなあという気持ちがあったのと、一枚目のアルバムを出した時に、知識がないなりにいろいろな曲にふれさせていただき、選ばせていただいたり、歌わせてもらい……。
そこに至るまでの制作の過程がすごく楽しかったのが大きいですね。
アニメや吹替えの出演やラジオなど、普段の仕事って直接の接点ではないというか、音楽ならもっと、役を通してじゃない“自分”が入るのかなと思っていて。普段はあまり表に出るようなタイプではないんですが、もっともっと私が純粋に入っているものを聴いて、応援してくださっている方が楽しく過ごせたらなと思います。
――音楽はアニメの役とは違い、自分が前面に出る割合が大きいですよね。なおさら今回は、与えられたものではなく、自分でやりたいという気持ちが大きいものが揃っているんですね。
釘宮:そうですね。自分発信のものになっています。私の発信の仕方の傾向かもしれないのですが、メッセージ性の強い、具体性のあるものはやりたくないと思っていて。
例えば、川のせせらぎや森の音みたいな環境音楽、日常生活で流れていても嫌じゃない、さりげないものがやりたいと思っていたので、そういう曲がやりたいとお伝えして作ってもらった曲が揃っています。
気付けばあっという間に終わってしまって、また頭から聴き直したりして。それでも全然疲れなかったのは、そういう意図があったからなんですね。
釘宮:そうですね。引っかかることなくずっと聴いていられるような、落ち着いているときに聴いてもらえるようなものになっています。アゲたいときに聴くものじゃないとは自分でも思うんですけど、やっぱり落ち着きたいときも人それぞれのタイミングであると思いますし、そんなときにこのアルバムを思い出してもらえたら嬉しいです。