春アニメ『かくしごと』村野佑太監督インタビュー|ハートフルに振ることで新しい感動がある。その意外性こそ久米田康治ファンが惹きつけられるポイント
ギャグ物は呼吸のリズムや台詞への直感など、役者さんの経験値がモノを言うことが多い
ーー墨田羅砂(CV:安野希世乃)についてお願いします。
村野:非常に優秀なアシスタントですね。漫画家を目指しているわけではないはずですが、久米田先生も「こういう人が最終的に一番出世する」と言っていました。アシスタント達は話数によって客観的立場に立ったり先生に丸め込まれたりと各々役割に変動があるのですが、羅砂だけはキャラクターとしての底が知れないように配慮しました。先生に付き合ってバカなことをやっている時でも、割とどこかで冷静に俯瞰で見ている雰囲気を失わないよう大事にしています。
羅砂のキャスティングは個人的に一番難しかったですね。漫画を読んでいる分だと、ふんわりした印象で喋るのか、しっかりしたお姉さんのように喋るのかの判別がつきにくかったんですよ。久米田先生からも特にキャスティングに対する声の要望はありませんでしたので、オーディション一人一人を何回も聴き比べて熟考しました。
そんな中、安野さんの演じる羅砂には声に一番余裕があったんですね。割といっぱいいっぱいになる事が多い可久士に物言う立場として、この声で柔らかくツッコむのは面白いだろうなと決めさせていただきました。結果的に、安野さんのふんわり声にすっかり魅了されてしまい、当初全然別のニュアンスにしようと考えていたナレーションの声までお願いさせていただくことになりました。
ーー筧 亜美(CV:佐倉綾音)についてお願いします。
村野:可久士を除くと一番の格言メーカーです。羅砂同様先生の行動を冷静に見ていますが、実は誰よりもノリがよかったりするので、そのギャップ感も彼女の魅力だと思います。アニメでは次回予告に格言めいた台詞や叫び台詞を使用することが多いんですが、気を付けないと亜美の台詞ばかりになってしまうんですよ。決して口数多いキャラではないのですが、一言の重みがあるキャラなんでしょうね。
亜美は、最初から自分の中でこういう声だろうと明確なビジョンがありました。オーディションの際に全員の名前を伏せて聴き比べて、「100%違和感がない」と思えたのが佐倉さんの声でした。佐倉さんご本人も久米田作品のファンだということで、亜美を捉えるのはとても早かったですね。アフレコ中、笑い声一つにしても、この場面でどう演じたら面白いか、そしてそれがちゃんと亜美らしいか……というのを瞬時に判断されていて感動しました。
ーー六條一子(CV:内田真礼)についてお願いします。
村野:可久士以上に勘違いが暴走しがちで、非常に久米田作品らしい人物だと思います。主にコミカルシーンに多く登場することになるのですが、教師としての鋭い目線も持ち合わせていて、可久士でも気付けないような姫の本質を直感的に理解出来る人です。意識したのは勢いの良さですね。振り返るのも走るのも、丁寧に中割りして作画するよりも勢いでバッと動かすことが多くなるよう心掛けました。
一子先生は、羅砂と同じくらい選考に迷いました。当初は「可久士にミーハーな人」と「姫の教師」としてのどちらの声質を立てるべきかに最後まで悩んでいました。教師として子供達の事を考えるしっかりものの良い先生なのに、可久士が絡むと崩れ出すのが玉にキズ、という先生像にしたら、残念感も強く出て面白いかなあと考えていたのですが、内田さんのコロコロ変わるテンションの芝居が面白くて、そっちに自分の解釈が引っ張られていきました。
よくよく考えてみたら、常時刺又を持ってるような人ですしね。内田さんに引っ張られておいてよかったと今は本当に思います。7話での可久士とのすれ違いの応酬などは本当に面白く演じてくださっていて、アフレコルームの中で皆吹き出していましたね。
ーー収録現場をご覧になった感想は? また最初の収録などでキャスト陣に声をかけたことはありますか?
村野:最初の収録では「新しい気持ちでお願いします」とお伝えしました。久米田作品のアニメ化となるとどうしても『絶望先生』を連想してしまいますが、これは別の作品なので真似をする必要は全くありません、と。収録の印象としては、神谷さんは一度CMでも可久士を演じられていますし、以前別作品で久米田作品に出演されている佐倉さんなどは、スルッと久米田節特有の言葉のリズムを掴まれている印象でした。それ以外も皆さん実力ある方達ばかりでしたので比較的すぐアジャストしていたと思います。
ギャグ物は役者さんの経験値がモノを言うことが多いんですね。呼吸のリズムであったり台詞への直感であったりが非常に大事になってくるのですが、皆さんお上手で、収録中笑わされることもしばしばありました。
ーー作中でお気に入りのキャラを挙げるとすれば誰ですか?
村野:担任の六條一子先生ですかね。可久士以上に思い込みが激しい人物なのですが、教師としての視点は時に鋭く、子供達のことをよく考えているいい先生です。こういった二面性を持つキャラは好きですね。ギャグ物という視点で見ても展開に勢いと意外性を持ち込んでくれるので、そういう意味でもやりやすくて好きな人です。