『佐倉綾音の伝え方』優しい声のコミュニケーション論
自分のためだけじゃなく、誰かの幸せのために生きてほしい
ーー佐倉さんがラジオパーソナリティのお仕事にやりがいや嬉しさを覚えるのはどんなときですか?
「声優やアニメの地位の向上と発展」ということを考えながらずっとお仕事をしているので、普段ラジオを聴かないという方が聴いてくださったり、「3歳の子どもと聴いています」というメッセージをいただけたりすると、そこに少しでも貢献することができたのかなと思えて、すごく嬉しい気持ちになります。そして普段から聴いてくださっている方々がいるからこそ、そういうことを感じられるんだろうなと、とても感謝しています。
あとは、パーソナリティの相方のファンが増えるのは嬉しいですね。それは、私の功績ではなく、勝手な親心なんですけど。
ーー近年は後輩声優の方と番組を持たれる機会が多かったかと思いますが、相方さんがパーソナリティとして成長したなと感じる瞬間はありましたか?
例えば、コーナーの締めの言葉がスムーズに展開できたときには、ラジオのバランスやテンポが分かったんだなと感じますね。それをするためには、あらかじめ台本のページをめくっておいて、締めの言葉を頭に入れておく必要があるんです。
面白い話ができるかどうかは、人間性や語彙力、喋り方にも影響されますし、ありとあらゆる手段で人を楽しませることはできるので、その中で何を選び取るのかは自分次第で。そういう意味では、上手ではないことでリスナーさんを笑わせることのできるパーソナリティも出てくるかもしれない。でも、それはそれで素敵だと思うんです。
そのことを理解したうえで、後輩には人を傷つけず、自分が傷つかずにラジオをやっていってほしいなと思います。
ーー最後に、これからラジオパーソナリティになる後輩声優やコミュニケーションで悩んでいる方々へのメッセージをいただければと思います。
マイクがまわり始めたら急に面白くなる人ってあまりいないんですよ。普段から人のコミュニケーションに敏感であることはもちろん大切なのですが、一番は“心が折れないこと”だと思います。
パーソナリティとして日常的にアンテナを張っていると、結局は自分の人生を見つめ直すことになるんです。そういったときに、どれだけ“諦められるか”と“前を向けるか”。そして、“後ろを向いているときでも人を楽しませられるか”。
自分がどれだけ辛い気持ちであったとしても、ラジオの収録は必ずやってくる。そんな中で人を笑顔にさせる努力をするというのは、とても大変なことで。
でも、誰かのために行動できる人の周りには、力になってくれる人が必ずいるはずなので、自分のことを大切にしてくれる人を周りに探しておきながら、“どれだけ他人のために動けるか”。これはラジオパーソナリティのみならず、全てのコミュニケーションに通ずることだと思います。自分のためだけじゃなく、誰かの幸せのために生きてほしいです。
編集後記
「声優」という職業を因数分解したとき、「声の役者」としての側面はもちろん、「“優しい声”で何かを伝えるプロフェッショナル」という面もあるのだと、今回の佐倉さんへのインタビューの中で感じた。
現在、新型コロナウイルスの影響で生活が一変し、多くの人が今までにないストレスを抱えて生きている。そんなときだからこそ、自分の発信する言葉が誰かを傷つけるものとなっていないか。自分の言葉で誰かを励ますことはできないか。そんなコミュニケーションに宿る優しさを、私たちは再確認すべきなのかもしれない。
インタビュー・文:吉野庫之介