『月夜のグルメ』漫画担当・奥西チエインタビュー|原案担当・舞城王太郎から届くプロットに“日付”が記されている意味とは?
舞城王太郎らしさを出すためにしていること
――原案の舞城さんからは、どんな形でプロットが届くのですか?
奥西:テキストで来ます。小説をちょっと簡単にしたような文面がコピー用紙1〜2枚くらいで届くので、それをもとにこちらでネームにして、コマを割るという流れでやっています。
――言わば、原案の方が書いた物語を託されるわけですが、そう言う場合どんなことを大切にされますか?
**奥西:お話のポイントとなる部分が毎回必ずあるので、それを外さないようにしています。それをどう表現するかは、ページ数の関係や食べ物の見せ方によって変わりますけれどね。
例えば……喫茶店に行く回(第32夜「喫茶店」)で表現したいところは“昭和のレトロな雰囲気”だったので、この回に登場する瓶ビールやサンドイッチにはレトロな趣きを出しました。
なので、店に入る前、朔良が歩いている商店街自体もちょっとレトロな雰囲気に仕上げました。
――確かに、軒を連ねるお店はどれも少し古めかしくて、朔良も雰囲気を楽しんでいましたよね。それが前フリだったと。
奥西:そうですね。そしてその次の回(第33夜「土用の丑の日」)ではうなぎを取り上げているのですが、土用の丑の日という文化や風習も感じてもらいたくて、雑学も入れ込んでいます。うなぎそのものの美味しさはもちろんですけれど。
――土用の丑の日だという雰囲気や知識が、うなぎをより美味しくみせることってありますよね。ただ、それを8ページで表現するのって難しそうです。
奥西:いえ、もともといただくプロットがすごくまとまっているので、ネームにする作業はそこまで難しくありません。どこに盛り上がりを置くかというのも、読めば一目瞭然ですしとても助かっています。舞城先生、さすがだなと。
――では、「描くのが難しい」と感じた回はありますか?
奥西:やっぱり初回ですね。最初にすり合わせをしたとはいえ、まだ全然イメージが捉えられていませんでしたし、原案の方と一緒に漫画の読切を何度か作ったことはあったのですが、原案の方と一緒に連載することは今まで経験がなかったので、何もかも手探りだったという意味では初回が難しかったと思います。しんどかったですし、不安でした。
――そこから何度か繰り返していって掴んでいった。
奥西:はい。10話あたりから、段々とキャラクターの動きが自分の中で矛盾しなくなってきました。今も掴みきっているかというと難しいですけれど、なめらかになってきているのは確かです。
――ちなみに、どのようにして“原案・舞城王太郎”らしさを残していますか?
奥西:やはり文章がすごくきれいなので、プロットから引用していることが多いです。キャラクターも自分では生み出せない凛としたイメージがあるので、そこは立ち姿や表情、言葉遣いなどで素敵に描けるようにと思っています。
――あと、最初のほうにお話で出たガヤの描き方も特徴的ですよね。太字で。
奥西:お酒を飲んでいるときって、声が大きくなるだろうなと思ったのでそうしました。逆に、外を歩いているときはあまり目立たないようにして、お店に入った瞬間の賑やかさが表現できればと思っています。