想像よりはるかに心がえぐられるナンバーだった「ミミック」――絶望系アニソンシンガーReoNaが<想像するだけ>という言葉に込めた想いとは|インタビュー後編
絶望系アニソンシンガー“ReoNa × 『SAO』”による、あまりにも力強い主題歌をパッケージしたシングル「ANIMA」が7月22日(水)にリリースされた。
今作には、TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』2ndクールのオープニング・テーマ「ANIMA(読み:アニマ)」と、家庭用ゲーム『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』のオープニング・テーマ「Scar/let(読み:スカーレット)」のWタイアップソングに加え、「雨に唄えば」、「ミミック」という新たなナンバーが収録されている。
先に掲載となった “前編”で、「ANIMA」、「Scar/let」、「雨に唄えば」については話してもらっているが、このときは(3月上旬)はまだ「ミミック」が収録前。そのため、「ミミック」が「トウシンダイ」(2ndシングル「forget-me-not」のc/w曲)を思い出させる、絶望に寄り添うミドルバラードであること、ReoNaの綴ったメモとフランツ・カフカの代表作『変身』がテーマになっていることなどを教えてもらうに留まっていた。そして後日、実際に完成した「ミミック」は、想像よりもはるかに心がえぐられるナンバーであった。
改めて話を聞きたいと伝えたところ、奇しくも、神崎エルザ starring ReoNaとして「ELZA」リリースした7月4日に時間をもらうことができた。「ミミック」についてはもちろん、アプリゲーム『アークナイツ- 明日方舟 -』中国版 1st アニバーサリー主題歌「Untitled world」、さらに「雨に唄えば」や、こえにっき、昨年のワンマンライブや全国ツアーのエピソードについても言及。ReoNaの足跡を辿るようなインタビューとなった。
□インタビュー前編:聴き手の魂を揺さぶるReoNaの新曲「ANIMA」
<想像するだけ>、その一言の葛藤
──「ミミック」が本当に素晴らしい曲で、改めてインタビューのお時間をいただくことになりました。ありがとうございます。
ReoNa:こちらこそ、ありがとうございます。
──「ミミック」の制作は、ReoNaさんのメモをハヤシケイ(LIVE LAB.)さんに渡したところからスタートしていったんですよね。
ReoNa:そうです。制作にあたってケイさんから、世間に訴えたいことや、伝えたいことはないかと聞かれて、普段私が言葉にならない感情を書き留めているメモをお送りしたんです。わたしがTwitterにあげている「こえにっき」の前身のような内容です。こえにっきは私の想いを届けるものとして綴っているんですが、そこに至るまで、消化しきれていないものや、言葉にできないものもあって。
以前「こえにっき」で<両手で持ち切れるものの数にはどうしても限りがある>と伝えたことがあるのですが……本当は全てを持ちたいけど、やはり限りがあるので、気づいたことを少しずつ言葉にして。自分の拾い上げたいことや持ち上げたいもの、過ぎていく時間などについて、ひたすら書き溜めています。
2018.5.8 #こえにっき #声日記
— ReoNa (@xoxleoxox) May 8, 2018
両手で持ち切れるものの数にはどうしても限りがあるのが悲しいね
大事にしなくてはいけないね pic.twitter.com/qK9jQCCGi1
──「過ぎていく時間」といえば、ReoNaさんは「時間=命」と捉えているとおっしゃっていて。「雨に唄えば」では<いつか時間がすべて 洗い流してくなら世界はなんて優しくて悲しいんだろう>という言葉がありましたが、ReoNaさんにとっての「過ぎていく時間」ってどういうものなのでしょうか。
ReoNa:時間は傷を癒すものにも、痛みを忘れさせるものにも、思い出にしてくれるものにもなるけど、ただ過ぎるだけの時間って……逆に傷を膿ませてしまったり、トラウマにさせてしまったり、そういう怖さもあるものだと思っています。傷が時効になるかなんて、傷を負った本人しか分からない。全部が全部、時間が解決してくれたかといえばそうじゃない……。私自身が「時間」というものに追われ、生き急いでいたこともあったので、時間は自分のなかで大きなテーマにもなっているものなんです。だから、時間について書き綴っていくことも多いです。
──そういったことを書いたメモを渡して、ケイさんはなんとおっしゃっていたんでしょうか。
ReoNa:「人に見せるようなものじゃないんですけど」と前置きしたうえでお渡ししたところ、「いや、これでいこう」と。それで、最初のワンコーラスが完成して。「とんでもないものが届いた」というのが、率直な感想で。ケイさんの手に掛かるとこういう言葉になるんだと感動したことを覚えています。しかも、フルサイズで完成した歌詞には、ケイさんが新しく意味を加えてくれて。フランツ・カフカさんの『変身』を題材にして、言葉を紡いでくださったんです。私自身が「全部を拾いたがる」ことに対して、別の角度から「全部は持ちきれないんだよ」という言葉をもらったような感覚もありました。
──<抱えきれないほど詰め込んだ鞄 押しつぶされてもう 立つことさえつらいよ>という言葉からスタートしていきますしね。前回の取材のときにも『変身』が題材になったとうかがっていたので、あれから読んだんですが……本当に不条理なお話ですよね。特にはじまりが強烈なインパクトです。
ReoNa:「朝起きたら、自分の姿が一匹のとてつもなく大きな毒虫になってました」という破壊力のあるイントロダクション。本当に、ありとあらゆる理不尽が詰まっているお話です。でも不幸って突然降ってくるものじゃないですか。虫になるというのは極端な形ですが、抗えない理不尽さはすごくリアルだなと。今まさに、この現実に重ねることができるようにも感じています。
──小説のなかで、特に印象的だった場面はありましたか?
ReoNa:場面……とは違うかもしれないんですが、主人公のグレゴールがもがかないことが印象的でした。本気で現況を打破しようと悩んだり、窓から外に出ようとしたり、そういうことをせず、虫である自分をただ受け入れていて、まさに<想像するだけ>の状態。だからこそ、ケイさんの書かれていた<想像するだけ>というワードが刺さりました。時間は過ぎていくけど、想像できる自由が残されている。そう考えることもできるなと。
でも最初はなかなかイメージがつかめなくって。悲しい、苦しい、いやだ……悲観的な感情をたくさん拾い上げてしまって、ものすごく暗いお歌になってしまったんです。レコーディング中、もう一回言葉を読んで。<想像するだけ>って、決して「想像しかするない」わけじゃない。<想像するだけ>という言葉に“ただ寄り添えば良いんだ”ってところに気づいて、そこにたどり着いてからはすぐに歌うことができました。これは本当に余談なんですが……このお歌を歌って感じたのが、妹、両親にとっても絶望の物語だなと。妹に重ねたら、彼女なりの絶望に寄りそえるお歌にもなっているんじゃないかなと思いました。
──ああ、確かに。そして最後は、その妹が美しく成長していること、娘に婿を探さなきゃいけないという両親の思いで締めくくられていますね。
ReoNa:そうなんです。あの小説のなかにも、時間があって、未来があって。あの家族の未来は、私たちからすると<想像するだけ>なんですよね。そういうことも考えさせられました。でもこれはあくまで私が感じたことで。どんなことを考えるかは、聴いたかたの想像にゆだねたいなと思っています。
「絶望してとは言ってない」
──日々綴っていたメモが発端だったとのことで、曲を歌うにあたっては、ReoNaさん自身も、改めて過去と向き合われたのではないですか。
ReoNa:そうですね。「ミミック」には、「トウシンダイ」「SWEET HURT」……ReoNaとして紡ぎ続けてきたお歌が足跡としてあって。前回「Null」で、自分自身の過去を紐解くシングルを発表しましたが、その上でこの「ミミック」という楽曲が生まれていて。改めて「絶望系(アニソンシンガー)とは」という意味を含めることができた曲になっているとも思います。
──「絶望系アニソンシンガー」とは、今のReoNaさんが言葉にすると、どういうものでしょうか。
ReoNa:絶望“系”というのが、自分のなかで大切なんです。“絶望アニソンシンガー”じゃない。絶望してほしいわけでも、させたいわけでもない。絶望に寄り添いたいという願いを込めてるんです。私はこれまでもこれからも、作品にも、お歌を受け取ってくれる“あなた”にも、寄り添いたいし、共感したいし、共感してほしい。前回お話させてもらった “寄り添う”というキーワードがあってこその言葉だと思っています。
──編曲を手掛けられているのは黒須克彦さんです。「Scar/let」の荒幡亮平さんに続き、ライブでおなじみのメンバーが楽曲作りに参加されています。
ReoNa:お二人ともライブやイベントでご一緒してきて、お世話になってきて。今回のシングルで、新しい音を彩って頂きました。ケイさんの作られたお歌のデモは、ギターの弾き語りが多いんです。だからこそ、どう彩られていくか、変化していくのか毎回楽しみで。いつも楽器のレコーディングから、自分のお歌をレコーディングするまで、ずっと横で見させてもらっているんですが……このほの暗い楽曲が、黒須さんのアレンジによってどんな形になるんだろうかとワクワクしていました。
全ての録音が終わって、TD(トラックダウン)の現場で聴いたときに、言葉を優しく包み込むような音色だなと。温度の低い温かさ、優しさを感じるピアノからはじまっていって。黒須さんにとっての「ミミック」はこういう音なんだなと思いました。