声優・松野太紀さん主催『朗読劇タチヨミ-第七巻-』キャストインタビュー|初出演の佐藤聡美さんが、常連キャストの岸尾だいすけさんに戦々恐々!? 新しい挑戦の公演を迎える『朗読劇タチヨミ』の魅力に迫る!
数々の朗読劇出演者の岸尾さんにとって『タチヨミ』に勝る朗読劇はナシ!!
――ここからは皆さんにお聞きしたいのですが、現在、声優・俳優問わず、いろいろなタイプの朗読劇が行われるようになっています。声優として、出演者として、朗読劇や『タチヨミ』の魅力、今後の可能性はどんなところにあると思いますか?
松野:『タチヨミ』に関していうと、同じ組み合わせの配役はなくて、毎回、日によって出演する人数もキャストも違うので、1日しか出ない人もいれば、ずっと出ていただく人もいたりして、男女比も全然バラバラなんです。
同じ演目でも、キャスト、配役が違うと、同じような見え方ではないのが面白さであり、1つ『タチヨミ』のウリな部分です。
男性だから男性の役をやるとは限らないこともあって、もともとあった作品を歌舞伎バージョンに全部作り変え、女性の役を男性が演じるとか、キャスト全員男性ばっかりとか。(岸尾さんの方を見て)そういうのもやってもらったよね。
岸尾:はい、2回くらいあったと思います。あと、宝塚みたいに女性だけの逆バージョンもありました。
松野:そうだね。朗読劇の枠にとらわれず、でもとらわれて……みたいな形で、やれることをしています。
声優さんは、人間だけじゃなく動物を演じたり、雑貨や器物まで演じたりするじゃないですか。普通の俳優さんは、やっぱり人物を演じるので、それ以外のモノをやる面白さとか、『タチヨミ』の中では、どんどん声優さんならではのことをやるというのが面白いかなと思っています。
岸尾:朗読劇や『タチヨミ』の可能性はまだまだあると思いますが、僕の中で『タチヨミ』は、完成しているという意味ではないですけど“朗読劇の最終形”なんです。
僕はいろいろな朗読劇に数多く出ていて、その時は「最高の舞台でした」と言いますよ。もちろん、致し方なくね(笑)。
松野:致し方なくって(笑)。
一同:(笑)。
岸尾:本心では、次元が違うくらい面白いので、『タチヨミ』に勝てる朗読劇はないと思っています。
『タチヨミ』が、1回として同じキャスティングでなく出来て成功するのは、やっぱり実力がある声優さんたちが集まっているからこそなんですよね。もし実力がないなら、松野さんの演出でバランスを取ることもできますが、そこまでの時間もないので、うまくバランスは取れなくて。
本番は、当日1時間前に決まったキャストで、リハもなく、ほぼ瞬発力での一発勝負なんです。それでもバッチリ決まるのは、『タチヨミ』のスタイルだからこそできることだし、僕も伝統芸能と言って過言ではないと思う“声優の技”が合わさってでき上っているなと。
『タチヨミ』には、無限の可能性がありつつも、形としては最終形で完成していると思います。
また、先ほども言いましたけど、人間の集中力は20分が限界だと思いますし、『タチヨミ』はオムニバスで7~8演目あり、1演目20分くらいの長さです。僕がアドリブとかしまくって、40分くらいに延びてしまう回とかもありますけど(笑)。
佐藤:えぇ~!?
松野:本当にそうなんですよ。一応、上演時間を決めているんですけど、(岸尾だいすけ次第)って書いておかないと……。
一同:(笑)。
岸尾:『タチヨミ』が大好きすぎて、面白すぎて、やり過ぎてしまうんですよ。
松野:でも、(神妙なトーンで)面白いんです。だから、あえて短く作品を作ってもらうこともあるんです。わざと3分くらいの内容にしてもらっても、15分くらいになっちゃうことがあって、「え~!」みたいな。それを見越して演出しないと、時間が読めないこともあります。
岸尾:もちろんコンパクトに、筋書き通りにやることもできますけど、松野さんも「いいよ」と楽しんでくださるので……昔は全くそんなことなかったんですけどね。
佐藤:(笑)。
松野:いやいや。
岸尾:昔はかなり?られていたんですけど、今は信用して貰えて、自由に芝居をさせてもらえているのはありがたいです。とにかく『タチヨミ』は魅力だらけで語り尽くせないのですが・・・
あと、オムニバスなので、笑いや泣きがあったり、ホラーがあったりコロコロ変化して、お客さんの感情もジェットコースターみたいに変化して、付いてくるのが大変だと思うんですけど、もし役に扮した衣装だったら、更に感情がとっちらかってしまうかもですよね。
(自身の服装を指して)ちなみに今日は『タチヨミ』の取材に合わせて、本番と同じ全身黒を着てきたんです(笑)。
佐藤:そうなんですか!?
岸尾:余計なものがなく、舞台も服装も黒一色だと、次の話にスムーズに移行できるというところも、本当に考え尽くされていますよね。
松野:それは、声優さん、役者さんの語りだけで舞台をお見せするということなので、役の扮装ありきではなく、服装すらも観に来てもらっているお客様に想像してもらいます。
キャストの皆さん自信がある方なので、上手なら衣装は気にならないと思いますし、その役の服装に見えてくると思うんですよ。それくらいの力がある人たちばかりなので、色が黒だったら、すごいドレスでも着物でも何を着ていてもいいですよという感じです。
もう1つの魅力が、作家陣にもあると思います。僕はずっと、小劇場などのいろいろな舞台にも出ていたりしたので、その時に劇団の作家さんや放送作家さん、元芸人さんなど、いろいろな方とお知り合いになりました。
すごく面白い脚本を書くのに、なぜ世の中に出てこないんだろうと思っていた人たちを温めていたというか、思うところがあって。長編を書くのは苦手なんだけど、逆にコントみたいな、キュッと短く、タイトに、面白い話を書くのが得意な人たちで、作家さんのタイプもそれぞれ違うのが面白さの1つかもしれません。
岸尾:作品が7本あったら、7人の脚本家さんが書いてきて、話が全然違いますよね。
松野:切り口が全く違うので、観た人は「次はどんなの? 次は?」となってくれていると思います。
――ちなみに、観客側が感じられる魅力について主にお話いただいていると思うのですが、出演している側の、キャストだからこそ『タチヨミ』から感じられることはありますか?
岸尾:まず、普段は共演できない、素晴らしい大御所声優さんと『タチヨミ』では共演できてしまうので、キャスティングの妙が素晴らしいと思いますよね。
僕もいい世代になってきたので、現場で僕が最年長ということも多々あって、それに驚きつつも慢心せず、自分よりフレッシュだったり、自分が持ってない若い子たちの技・演技も勉強させて貰ってます。それは良い事だと思ってます。
でも、熟練された、どう頑張っても届かないような。それでも憧れる先輩方と一緒に、舞台の上でお芝居を演じられる。それが出来るのは『タチヨミ』だけなので!なんて贅沢な舞台なんでしょう!そしてその素晴らしいお芝居に食い下がろうとして、僕は余計なアドリブをしてみたり(笑)。
佐藤:ふふっ(笑)。
岸尾:芝居では勝てないけど、笑いは「俺が取るぞ!」みたいな。
松野:あはははは(笑)。
岸尾:和気あいあいとはしていますが、自分としては諸先輩方とガチで戦っていたりもするので、そういうことができるのも『タチヨミ』ならではですね。役者としてかなり経験になりますし、とても楽しいので。今後の自分につながっていくんじゃないかと思えるのも『タチヨミ』しかないです。
他の朗読劇の中には、やっぱり僕が最年長だったり、演出家さんも僕より若くて、僕が「こうした方がいいんじゃない?」と意見を言うこともあったりするんです。
僕はそうやって自分が口を出すような事なく、演者に集中したいんですよね。その点『タチヨミ』は松野さんがしっかり仕切ってくださいますし、他の演者さんが百戦錬磨なので、僕がとんでもないことをしても何とかしてくださる安心感があるので。
一同:(笑)。
岸尾:シュガー(佐藤さんの愛称)も絶対やり切ってくれると思うので(笑)。
佐藤:えぇ……っと(困惑)。
松野:(佐藤さんに)大丈夫、大丈夫。朱ちゃん(神田朱未さんの愛称)とかは、(岸尾さんの)アドリブが終わるまでずっと待ってる。あえて、果敢にトライしないで、「気が済んだ?」って話を戻してくるからね。
佐藤:そういうパターンもあるんですね。
一同:(笑)。
岸尾:どうにもならなかった時は、本気で怒ります。
松野:本番中に怒っていたことあるからね、本当におかしかった(笑)。
佐藤:面白い(笑)。
岸尾:それが気持ち良くて、またやってしまったり。
松野:それが見たくて、また組み合わせちゃったり。
一同:(笑)。
『タチヨミ』の魅力は、松野さんによるキャスティングにあり!?
――佐藤さんは、先ほど「声の表現」の場としての捉え方もされていましたが、朗読劇に感じる魅力とは?
佐藤:普段やらせていただいているアニメのアフレコだと、絵があって、それに合わせた演技をして、アドリブも「絵がこうなっているから」…という決められた枠みたいなものがあると思います。
でも、朗読劇はそういったものがないので、岸尾さんのように、どれだけアドリブを入れても自由だし、役者のさじ加減で作品に味付けしたり彩ったりできるけれど、うまくはまらないと味気ないものになってしまう怖さがあって…私はその怖さが好きなんです。
先輩方の胸を借りる場面もたくさんあると思いますが、こうしたいなとか、こう見せたらお客様が喜んでくださるかなとか色々チャレンジできたら楽しそうですよね。作品への理解とか諸々どこまで突き詰められるか、どこまで掘っても「まだ掘れちゃう!」みたいなところも、すごく面白いなと思っていて。
それに、お2人の話を聞いて、『タチヨミ』の面白いポイントは、共演して、間近で芝居を見ているからこそわかる、その人それぞれの良さをどういう風に生かそうかと考えて決める、松野さんのキャスティングだと思っています。
外部の朗読劇にお邪魔したりすると、制作の方が配役を決めたりするんですけど、役者さんがキャスティングする面白さが絶対あると思うんですよ。
普段どういう風に見られているんだろうとか、逆に、この役をどうしてほしいんだろうみたいな。宿題じゃないですけど、そういうのも与えられたりするのかなと。
松野:します!
一同:(笑)。
佐藤:楽しみです(笑)。岸尾さんみたいに、松野さんがプロデュースする『タチヨミ』だから出演するという先輩もいらっしゃって、いろいろな信頼感を築き上げられてきた中に新参者がお邪魔する緊張感とワクワクがあります。
でも、そうやってみんなが作ったものを、ぜひ声優を目指している人に観てほしいなと、お二人のお話を聞きながら思いました。もちろんファンの方にも観ていただきたいですけど、「これが声優だぞ」と見せられる舞台なんだろうなと。
松野:アドリブをかますところとか。
岸尾:たぶん、俺が声優を目指している人だったら、「無理だ」って諦めます。
一同:(笑)。
佐藤:でも、もしかしたら、そこに可能性を感じて、面白いと思って飛び込んできてくださる方もいらっしゃるかもしれないので。
松野:ほら、(佐藤さんは)いい子だよね。
佐藤:そんなことないです。朗読劇には、アニメーションだけじゃできない、いろいろな可能性、ワクワクが詰まっているなというのを感じています。
――今、声優を目指している方に観てほしいとありましたが、アドリブに関して言うと、アドリブだとハッキリわかるところもあれば、声優を目指して勉強している方でもアドリブなのか台本通りなのか、判別できないようなところもあるんじゃないかと思うのですが……。
岸尾:僕のは……わかると思います。
一同:(笑)。
松野:でも、どこまで台本通りなのかアドリブなのかを知りたい人がいるみたいで、台本を販売しないのかという人もいて、アドリブかどうかを確認してもう一度見たいと思う人もいるみたいですね。
――そういった要望に応えて、台本を販売することはあるんですか?
松野:ないですね。どこがアドリブかバレたら可哀想かなって(笑)。
一同:(笑)。
岸尾:僕なら、バレても大丈夫ですけど。
松野:じゃあ、みんな台本でセリフを確認しながら、舞台観ているかもよ。
岸尾:えっ、台本読みながら!? それなら、もう書いてあること読まないです。
一同:(笑)。
松野:観客みんなが読みながらっていうのは、新しいね(笑)。
岸尾:さすがに、読みながらはないと思いますけど(笑)。台本を販売している朗読劇はありますよね。
松野:そうなの?
佐藤:そうですね、結構売っています。
岸尾:やっぱり、欲しがる人が多いんですよ。
松野:じゃあ、欲しがるくらいが丁度いいんだよ。全部丸出しにしてもね……。
岸尾:そうですね、裏方ですから全部はちょっと。
松野:とか言って、今度どーんと台本売ってたりしてね。
一同:(笑)。