映画『マロナの幻想的な物語り』日本語吹き替え版:小野友樹さん×平川新士さん×夜道 雪さんインタビュー|ヨーロッパのアニメの魅力、そして、物語に触れ感じたこととは――
3人のマロナの飼い主をそれぞれどう演じていたのか、そして映画をみて感じたこと
――3人はそれぞれ、マロナの飼い主を演じていますが、どんなキャラクターで、どのように演じましたか?
小野:僕の演じたマノーレ自身は、朗らかな優しい性格で、曲芸師としての腕は確かな人間だと思います。マロナ自身も、おそらくマノーレのことが好きなんだろうなという描写があったし、マロナの思い出の中でも一番幸せだった時期なんだと思います。
演じるときに最初に言われたのは、普通でいいということでした。過度な芝居や色を付け過ぎなくても大丈夫と。なので方向性を決めるために何パターンか録っていったんです。まずは大きく芝居をしたもの、次にあえてしないもの、そしてその真ん中。その中で、真ん中のちょい下くらいのものに、時折ワンポイントで芝居を入れる感じに落ち着いたんですけど、完成した映像を見て、ディレクションしていただいた理由がはっきりと分かりました。絵とのバランスをすごく考えてくださっていたんだと思います。
平川:イシュトバンは工事現場の監督をやって生計を立てているので体格が大きいんです。自分は少し小柄なので、こういう体格の人ってどういう風に生きてきたんだろうって、まずこの人の生き方に興味が沸きました。すごくおおらかで、マロナに対しても優しく、頼りがいがあるんです。僕のような若造ではなかなか頼りがいがある感じを出せないなと思ったので、それをどうやって出そうか、というのを考えて演じていました。
夜道:ソランジュは、マロナに出会ったときは小さな女の子なんですけど、そこから成長して、思春期が来て、また少し落ち着いて大人になるという流れがあるんです。本当にリアルで、私がそうだったんじゃないかな?って思うくらい少女らしい子でした。
思春期の頃って、心では大事に思っているのに、本当はこんなこと言いたくないのにと思っていても口では強く言ってしまったりするんですよね。優しい言葉も照れくさくて強く言ってしまったり。心とは真逆の演技をしたので、それを分かっていただけるようにお芝居することを意識しましたし、ソランジュを演じるときは、そこがいちばん大事なんじゃないかなと思いました。
――マロナ役ののんさんの声は、この物語にとって、とても重要なものになっていたと思います。声を聞いてみていかがですか?
小野:音として聞いた感じ、とつとつと語っていく感じがオリジナルの雰囲気に近い印象を受けました。アニメーションで、ワンちゃん、しかも女の子となると少しかわいらしい感じになると思うんです。でも、それとはまた少し違うんですよね。心情をひとつひとつ置いていく、吐露していくような感覚というか。のんさんが主人公を演じた映画「この世界の片隅に」は、その素朴さがいいなぁと感じながら観させていただいたんですけど、この作品でも犬の心情を汲み取りながらのんさんなりに演じていらっしゃるのが印象的でした。
平川:すごくぴったりでした。少女な感じもあるんですけど、どこか大人びたところがあるんです。そこがすごくお芝居でも表現されていて、素晴らしいなと思いました。僕たちは飼い主側で、実際にマロナの声を聞けているわけではないんですが、完成した映画を観たとき、こんな風に思って、こんな風に一緒に遊んだりしていたんだなぁと、あらためて感動したし、マロナのことがますます好きになりました。
夜道:私は、アニメのキャラっぽい声をやることが多いですし、そういう演技を聞く機会が多いのですが、のんさんは女優をやっている方なので、すごくリアルな声というか、飾っていない声だと思いました。それでもストレートに伝わってくる天性の声の持ち主なんだなと思いました。作らずにああいう透明感のある声を出せて、しかもマロナにハマっていたので、本当にすごいなと思いました。
――ちなみに3人は、ペットを飼われているとのことなので、ペットとの印象的な思い出を教えてください。
小野:「わん丸」くんはまだ1歳なんですけど、マロナと雰囲気は似ている感じがあるんですよね。思い出となると、「わん丸」くんを思って作った曲があるんですよ(笑)。その歌をライブで歌ったり、サンリオさんとコラボして、「わん丸」くんの上にシナモンが乗っかっているストラップを作ったりしたので、生後数ヶ月でシナモンとコラボしたすごい犬なんです。
平川:ファンシーラットって人懐っこいところもあって、小さい頃は手の平サイズなんです。だから体の上を走らせてみたり、あと耳たぶを吸ってきたりするんです。それがすごくかわいくて! そのくらい愛情を向けられる存在がペットだと思うし、自分がしんどいとき、落ち込んでいたときに、察してくれてるのかなって感じで見上げてきたりするので、そこで元気になるんですよね(笑)。
夜道:今は一人暮らしで、子猫を2匹飼い始めたんです。実家でも猫を3匹飼っていて、一番最初にうちに来た猫に思い入れがあるんです。中学生の頃なんですけど、私が演じたソランジュも思春期でいろいろ悩みを抱えていたんですけど、私もちょうど思春期で、学校に馴染めなくて行けない時期があったんです。そのとき見かねた両親が子猫を連れてきてくれて、支えになればということで黒猫を飼ったんです。その猫も甘えたり、ツンとしたりするんですけど、その子のおかげで頑張ろうと思えたし、今やっている芸能のほうで頑張ってみたいと思うようになったので、その子がいたから今の自分がいるんじゃないかなと思います。犬と猫で違うんですけど、そういうところはマロナと重なってしまったんですよね。
――映画を見て、どんなことを感じましたか?
平川:やっぱり衣食住は大事だなと思いました。ちゃんと毎日食べるところがあって住むところがあるというのは、放浪するマロナを見て大事だなと思いました。あとはいろんな人のもとを転々としなければいけない境遇を見ていると、自分のことを助けてくれる人、居場所になってくれるような人が自分の周りにいてくれるって幸せなことなんだなと、あらためて感じました。
夜道:マロナって人間の言葉が理解できるんですけど、実際の犬も人間の感情を分かっている部分はあると思います。今は、ペットを飼っても捨ててしまうとか、悲しいニュースも多くあるので、ひとつの命として動物を大事にしたいなと思わせてくれる映画でした。そういう面でも誰かに響いてくれればいいなと思います。
平川:こういうアートな表現の仕方の作品を観ることで、そういうメッセージがより深く心に刻まれるんじゃないかなって、個人的には思いました。
小野:うちの「わん丸」くんをより大切にしようと思いましたね。犬を飼っているからこそ、映画が伝えたいこと描きたいこととはちょっと違う、副産物的な感情になるのかもしれないですけど、いろんな人間がいて、いろんな接し方がある中、マロナの人生を通して、あらためて動物の視点から見ると、飼われた以上は飼い主がすべてなんですよね。そこで大切にしてもらえるかどうかもそれぞれなので、だからこそ、先程も言った、自分のワンちゃんを大切にしたいな思いました。
[取材&文&撮影・塚越淳一]
作品情報
タイトル: マロナの幻想的な物語り
英語タイトル: Marona's Fantastic Tale
仏語タイトル: L'extraordinaire voyage de Marona
監督: アンカ・ダミアン
脚本: アンゲル・ダミアン
キャラクター・デザイン: ブレヒト・エヴェンス
背景美術: ジナ・トーステンセン / サラ・マゼッティ
音楽: パブロ・ピコ
プロデューサー: アンカ・ダミアン / ロン・ディエンス(『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』) / トマス・レイヤース
(2019年 / ルーマニア・フランス・ベルギー / フランス語 / DCP / 92分)
提供: リスキット / マクザ厶 / 太秦 / カルタクリエイティブ
配給: リスキット
後援: ルーマニア大使館
協力: キャトルステラ / Stylab / げんべい商店
日本語版キャスト
マロナ:のん
曲芸師マノーレ:小野友樹
イシュトヴァン:平川新士
ソランジュ(幼少時):原 涼子
ソランジュ(少女、大人):夜道 雪
イシュトヴァンの母親:笹島かほる
イシュトヴァンの妻:南條ひかる
医者:川上晃二
獣医:浅水健太朗
イシュトヴァンの妻の友人1:拝師みほ
イシュトヴァンの妻の友人2:武藤志織
ソランジュ母:駒形友梨
ソランジュ祖父:弦徳
通行人1:林 瑞貴
通行人2:福山あさき
ストーリー
血統書付きで差別主義者の父と、混血で元のら犬だけど美しくて博愛主義の母との間に生まれたマロナは、同時に生まれた9匹の末っ子で、「ナイン」と呼ばれていました。このハート型の鼻を持つ小さな犬は、生まれてすぐ彼女の家族から引き離され、曲芸師マノーレの手にわたります。マノーレはこの小さな犬にアナと名付け、アナにとっても、幸せな日々が訪れたかに思えましたが……