音楽
土岐隼一 1stミニアルバム『True Gazer』インタビュー

土岐隼一さん1stミニアルバム『True Gazer』インタビュー|土岐さんが好きな60~70年代の洋楽テイストを詰め込んだ全収録曲を解説

表題曲「True Gazer」は自身史上初の歌始まりの曲!? こんな時だからこそ明るく力強い曲

――アルバム名の『True Gazer』と、同名のリードチューンどちらが先に決まったのでしょうか?

土岐:まず表題曲のイメージをお伝えして、何曲か候補曲を作っていただいた中から決めたのですが、その歌詞の中に「True Gazer」という言葉が入っていたので、この曲にピッタリだなと曲名にしました。そしてアルバムの表題曲として作ったので、アルバム名も同じにしようと一気に決まっていった感じです。

あと、ゆくゆくはミニアルバムの曲と紐づいたリーディングライブをやる予定なんですけど、各収録曲がシーンごとにリンクした内容になっていて。その総括するタイトルにもなっています。「True Gazer」とは「真実を見つめるもの」という意味ですが、一貫したテーマにもなっています。今はまだ詳しいことがお伝えできないのですが、続報をお待ちいただければと思います。

――では1曲目に収録の表題曲「True Gazer」についてご紹介お願いします。

土岐:僕の今までの楽曲はイントロの後に歌い始める形で、楽曲の雰囲気を感じていただいてから歌声が始まり、「Party Jacker」もブラスバンドやドラムの軽快なリズムからスイングジャズっぽいイントロに続いて歌と、まず音楽の雰囲気を味わっていただいた上で歌に入っていたので、1曲くらい僕の声から始まる形で、サビスタートというのもあってもいいのかなと。

あと制作を始めた時期は世の中が暗い方向に進んでいたので、このミニアルバムはどこまでも明るく、自分の気持ちをアゲられる疾走感と前向きになれる曲をたくさん入れたいと思って。だから表題曲はそういう雰囲気が前に前に出た、メッセージ性が強いものにしたいという希望と、サビ始まりは一致していたのでこの形になりました。

 

――ギターとブラスが強めに効いているグラムロック風のサウンドだなと思いました。

土岐:ブラスバンドロックとでもいうのかな。そういう楽曲は今も耳にしますが、過去の楽曲の影響を受けたり、インスパイアされているわけで。今もあるサウンドだから懐かしさと今っぽさが混在する、いい着地点で作れたと思います。ちなみにブラスは「Party Jacker」と同じミュージシャンの方が演奏してくれました。

――音を重ねていく傾向が強い今、今回の収録曲は打ち込み音が少なく、生音でシンプルに聴かせるサウンドになっているのも新鮮でした。

土岐:「Adolescence」でもピアノが打ち込みっぽく聴こえますが、実は60~70年代の電子オルガンを使っていて。今回は楽器面でのこだわり、レトロさも特長ですが、若い方たちにも響くように今風のアレンジも加えるというバランスもうまく取っていただきました。

1ワードですべてを表わしている曲頭の「衝動のまま」。攻撃的な歌詞も多用

――歌詞は「不穏なムード蹴散らして」や「試練のない夢を 夢と呼べるか」など一貫して力強いメッセージやパワーワードが並んでいます。

土岐:ぐいぐい前に突き進んでいくようなサウンドだったので、作詞のRUCCAさんにメッセージ性の強い、アゲアゲな歌詞をお願いしました。99%はいただいた歌詞のままですが、曲頭の「衝動のまま」だけ僕からの要望で代えてもらいました。

元の歌詞も素敵でしたが、サビの歌始まりなので、1フレーズだけでこの曲すべてを表現したくて。歌詞全体が「自分の心がおもむくまま、エモーショナルにやりたいことをやろうぜ。どんな状況でも楽しんだもの勝ち」というテーマを1フレーズでと無理なお願いをしたところ、翌日にこの1ワードを送ってくださって、「これしかない!」と。一発目からこのフレーズを歌えて気持ちよかったし、お気に入りです。

――雄々しく、「限界を唄うつもりか」や「大見得(おおみえ)切ればいい」など古風な言い回しが多い中、「その程度の圧じゃ」や「乗り越えた先 ギラる」など今風の表現もミックスされているのもおもしろいですね。

土岐:「ぶん投げろ」や「呼べるか」など、聴いてくださる方に直接届くような、今までにない攻撃的な歌詞を多用してくださったので、僕も今までにない表現の仕方をしないといけないとレコーディングも挑戦でした。聴いてくださる方には頭を空っぽにして、ガツンと刺激と気合が入ってもらえれば。

 

ブリティッシュロックがベースの「Adolescence」は青春のシーンを切り取った甘酸っぱい曲

――2曲目の「Adolescence」は軽快なサウンド感で気持ちがウキウキするような。

土岐:ブリティッシュロックをベースに、今風にしたのがこの曲です。ギターや電子オルガンなど用いて、サウンドプロデューサーやミュージシャンの方のこだわりが詰まっています。疾走感があるサウンドだからこそ、甘酸っぱい歌詞でも成立するかなと、10代終わりから20代にかけて、大人と子供の間にいる人たちに向けて、伝えたいメッセージを歌詞に入れてもらいました。

――タイトルは「思春期」や「青春」という意味で、歌詞を今風にとらえると知り合った女の子との初デートで過ごした楽しい時間を歌っているような。最後の「きっとまた逢いましょう」も含めて。

土岐:聴いてくださる人がどんな世代だったとしても「こんなことあったな」と共感したり、思い出せる歌詞だと思うんです。僕よりも上の世代の方がよく、「学生時代って楽しかったよね」と言うのを耳にします。バカなことをしたり、合コンやデートで失敗したり、友人や彼女とつまらないことでケンカしたり。当時は落ち込んだり、後悔することも多かったはずだけど、今では笑い話になっていて。

だからその瞬間を精一杯楽しんでほしいと特に若い人たちにこの曲を通して伝えたいなと思っています。口にすると照れくさいけど、この曲調だからこそ言えるかなと。歌詞の中に「アオキハル」とあるけど、青春を表す英単語はたくさんあって、「Adolescence」は青春時代をフォーマルな言い方をしたものみたいで。大人と子供の境界線にいる人に向けてという意味でもピッタリかなと。

あと歌詞中に「瞬間最高感度」や「瞬間最高純度」など現実的にはない言葉だけど、ニュアンスや意味は伝わる言葉もふんだんに盛り込まれているので、自分の感覚でとらえてみてください。それがきっと正解です。

 

イーグルスの名曲をインスパイアした「Mr. Innocence」は全英詞曲に挑戦!

――「Mr. Innocence」を初めて聴いた時、イントロのギター、パーカッションの音など雰囲気からイーグルスの「ホテルカリフォルニア」を連想しました。

土岐:大正解です! 収録曲のいくつかは具体的な曲名を出して、オマージュした曲をお願いしています。その中の1つで、上がってきた曲を聴いたら古き良き洋楽のイメージ通りでした。歌詞は最初は日本語詞だったのですが、テストで歌ってみたら、スタッフから「全部英詞にしてもいいんじゃない?」とご提案いただいて。キャラクターソングではたぶん全部英詞の曲を歌う機会はないと思うので、いい挑戦になると思い歌わせいただくことになりました。でもRUCCAさんの日本語詞をそのまま英訳するのではなく、作編曲してくださった三谷秀甫さんが雰囲気を踏襲しつつ書き起こしてくれました。

――「innocence」=「純粋」の意味にふさわしく、ラストの「you’re the one I had always loved」など青春の甘酸っぱさやほろ苦さを歌った内容で、サイモン&ガーファンクルの曲みたいだなとも思いました。

土岐:僕のラジオ番組『Time with You』で1コーラスだけ初披露した時、「歌詞が気になります」とたくさんの方に言っていただいて。父親の車に乗っていた時に洋楽がよく流れていたけど当然英語の歌詞なんて意味がわかるわけもなくて。

でもメロディを構成するパーツと考えて、意味はわからないけど音の響きや流れがいい曲だなと思っていました。この曲もメロディ自体が叙情的でポエティックなので意味がわからなくても聴き心地がいいなと思ってもらえるだけでいいんです。

僕が英語を習い始めた頃、好きだった洋楽の曲をあとで調べてみたら意味もなく、とりとめもないものだったりすることも結構あるし、この曲もメッセージ性があるけどひと言ひと言に特別な意志がのっているわけではないので。歌詞を調べたり、読み込んでいただくのもいいし、皆さんそれぞれが見つけたものが正解です。ただ雰囲気を楽しんでもらえればいいなと思っていますし、僕自身は自己満足してます(笑)。

 

「明日の在処」は壮大なロックバラード。歌い方も初めての新機軸!?

――「明日の在処」はロックバラードですね。

土岐:「Mr. Innocence」と同じく洋楽をオマージュした曲があります。レッド・ツェッペリンの「天国への階段」という曲がすごく好きで、最初は静かなところから始まって、後半に行くにつれて、歌声も音色も増えて壮大になっていくんです。

だからこの曲も終盤になるとすごく壮大になって。歌詞は日本語ですが、日本語として正しく発音するよりもいい意味で崩した、英語の発音にも聴こえそうな、ちょっとルーズな歌い方をしています。声優の仕事は正しく音声を伝えるのが仕事ですが、アーティストやボーカリストの方には声が1つの楽器のように聴こえる方がいて、いつかそのような歌い方もできたらいいなと思っていたところにこの曲をいただいたので挑戦してみました。

――泣きのエレキギターが、雰囲気があっていいですね。

土岐:そうなんです。当時のサウンドというか、今とは違って、ちょっと響きが強くて、スライドバーを使った奏法をする人は今あまりいないけど、そこにもこだわってくださって。楽器や音数は少ないけど、1つひとつが際立っていて、どの楽器も声も主役という。「True Gazer」も「Adolescence」もギュっと詰まったサウンドだったからこそ、この曲がいいスパイスになっていると思いました。

――歌詞は『「わがままかい」もっと居たいよ』や「きっと君の笑顔忘れ去るような日々が来はしないから」とせつない過去を感じさせつつ、新たな一歩を踏み出していく内容で。

土岐:歌詞の解釈は聴いてくださる皆さんにお任せするとして、思い返すと今まで明るくゆったりした曲はあったけど、ここまでローテンポのバラードって歌ったことがないなと。キャラクターソングでバラードはあったけど、洋楽テイストだとまた違うので新鮮で。僕が好きな洋楽にもバラード曲が多くて、サイモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」とかイーグルスの「デスペラード」もそうだし。歌ってみて一番しっくりきた楽曲かもしれません。

若い頃は「明日にかける橋」をカラオケで歌ってもこれじゃない感があったけど、声優として様々な経験をさせていただいて、スキルや引き出しが蓄積された今だからこそ歌いやすかったし、表現しやすくて。自分でもビックリしたし、感慨深かったです。

 

「KEY」は「もっと楽しもうぜ」と明るくエールを歌い、聴いた後には突き抜けた心地よさも

――「KEY」はブラスが高らかに響く中で歌い出し、サビはエモく、気分が高揚しました。

土岐:明るい雰囲気のアルバムにと言いながらも「Mr. Innocence」や「明日の在処」が落ち着いた曲だったので、最初と最後は底抜けに明るい曲にしたくて。「True Gazer」と方向性は似ているけど、音色や疾走感、雰囲気はちょっと違っていて。イメージで例えると「True Gazer」が「赤」なら、この曲は「水色」で。今を楽しんでいる人たちに「もっともっと楽しんでいいんだよ」とエールを送る歌詞と曲調になっています。

――今の状況下だからこそ、「見つめた先が正面 迷わず走るだけでいい」などストレートな歌詞が響くのかもしれません。

土岐:このアルバムでは堅苦しさをなくしたいなと思っていて、小難しい言葉ではなく、1~2フレーズでわかる言葉で「楽しもうぜ」と表現したくて。「ソーダ水くらい 単純明快に」とか、「夏夏しく」とかRUCCAさん節もたくさん入っています。

それに負けないくらい、サウンドも透き通っていて、曲と歌詞の作用が相まって、どこまで突き抜けるような気持ちいい曲になったと思います。「明日の在処」で締めるのもいいけど、この曲で終われて僕も満足感や爽快感でいっぱいです。1枚聴き終わった「ああ、楽しかった!」って。

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