アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』乾 和臣役・斉藤壮馬さんインタビュー|島﨑信長さん演じる理央と対比の効いた和臣の掛け合いや、由奈役・鈴木毬花さんのひた向きさに刺激を受けた収録
和臣を演じるにあたって、唯一「あまり声を低くしないで」と言われたディレクション
――原作を一気に読み終えてしまったとのことですが、読んでいる間はキャラクターに感情移入して読んでいたのでしょうか?
斉藤:俯瞰してというか、和臣がどう感じているんだろうというベースもあったんですけど、振り返ってみると、一番共感するのは朱里ちゃんかなと思いますね。
和臣は原作でも捉えたと思ったらスルリとかわしていくキャラだと思っていたので、良い意味で翻弄されましたし、朱里ちゃんと和臣が2人とも回り道をしながら徐々に近づいていくようなもどかしさに、読んでいて熱中しました。
――原作の咲坂先生とお話される機会もあったそうですが、その中で印象に残ったエピソードがあれば教えてください。
斉藤:咲坂先生はキャラクターたちについて、我々が感じたままにやってくださいというような、すごく寛容なスタンスでいてくださったんですけど、和臣については先生ご自身も、「捉えどころがない人だと思われるだろうな」と仰っていました。
実は、僕があるインタビューで「(和臣の)感情を1つに決めすぎないように演じてみました」というようなことを言ったんです。
例えば「今、100%悲しみしかない」という状態は普段、あまりないだろうと思っていて、怒りや悲しみ、喜びとかも少しない交ぜになっているような状態があって、主に声に乗る成分は1つかもしれないけど、それを数学的に、厳密に決めすぎないようにしようと。
見てくださった方が、シーンの流れでいろいろな受け取り方ができるようなセリフがあっても良いんじゃないかみたいな話をしたら、先生が「確かに、それはそうかもしれない」と仰ってくれました。
和臣は、本当はやりたいことがあるけど、なかなか1歩を踏み出せない、普段から抑圧されている状態なので、彼の表に見えている部分と内面で本当に思っている気持ちが、「いつも100%同じなわけではないというのが、和臣という人だと思います」と。
それは、原作を読みながら僕も感じていたことだったので、役者としてもいち読者としても、しっくりくるなと思いました。
――オーディションでは、理央も受けていたと伺いました。和臣に決まったと聞いた時は、どんなお気持ちでしたか?
斉藤:役者として、声質の特徴として、理央の方がイメージしやすいキャラクターではあったので、和臣役でご縁がありましたとお聞きした段階では、正直「和臣というキャラクターをつかめているな」という確信みたいなものはまだなくて。
実際に他のお三方のお芝居を聞いて、現場で新しいものが生まれるかなという気持ちもあったので、自分の頭の中だけでイメージを固めない方がいいのかなと思いつつも、今まであまりご縁がなかった方向性の役どころではあったので、声優としてもすごく良い意味でチャレンジングな配役をしていただけて、うれしいなと思いました。
――現場で役を作り上げていったのでしょうか?
斉藤:そうですね。和臣は、本当はどう感じているのかがパッと見わかりにくいがゆえに、少し探ってみたくなるというか、追い掛けたくなるというか。
「今、どう感じているの?」というミステリアスさや、もっとこの人のことを知ってみたいと思わせる要素があるのかなと感じる部分があります。
初めて原作を読んだ時は、朴とつとした印象があったので、いわゆるイケメンボイスというより、等身大な男の子の空気を持った声質の人なのかなと思っていたんです。
普段、声色を作るところから役作りをすることはそんなにないんですけど、今回は原作を読み込んでいたこともあって、「自分の中でも低めの音を使おう」という意識が最初にありました。ちょっと肩に力が入っていたのかも。
でも、現場に入っていただいたディレクションは、「あんまり声を低くしすぎないでほしい」というものでした。それは、作っている感じが表に出すぎてしまうと、4人のナチュラルな会話劇というところに余計な情報が入ってしまうからなのかなと思ったんです。
なので、自分のナチュラルなトーンの中で低めな方を使ってはいるんですけど、あまり声色を決め込もうみたいなことはなかったです。
キャラクターの内面に関しては、黒柳監督と音響監督の長崎(行男)さんが基本的に「一度、感じたままやってみてください」というように、我々が最初に一度イメージしたものを聞いてくださる現場で。
全員で一度持ち寄ってきたものを出し合って、そこから微調整しましょうという作り方だったので、ディレクションもあまりなく、すごく楽しかったですね。