『アニソン大賞』選考員・DJ和氏とアニメイト松原正泰氏が語る!『平成アニソン大賞』&『令和アニソン大賞』の舞台裏と、激動の時代におけるアニソンのあり方【インタビュー:前編】
楽曲を選ぶ中で重視したポイント
――そこから実際に集まって、選考からノミネート、各部門の楽曲を表彰するといった流れになっていくわけですが、どんなところに苦労したのでしょうか。
松原:いやこれはもう、本当に大変でしたね。もちろん楽しかったんですけど(笑)。平成という長い時間において、正直、アニメを没頭して観ていた時期もあれば、忙しくなってアニメをあまり観れていない時期もありましたし、観ていたとしても覚えてないもの、忘れちゃったものもやっぱりあって。
とりあえずどんなものがあったのか、という一覧を出した時は「うわー、すっごいわ~」と「ここから選ぶのか……」という両方の感情がありました。
しかも、けっこう(締切が)タイトだったじゃないですか(笑)。
DJ和:そうですね(笑)。たしかに渡されてからそんな時間なかったですよね? 一か月もなくて、2週間ぐらい?
松原:うわ~~……と思って。10年区切りでやっていったんですけど、「10年って広いな」と。すごい面白かったし、「あー、あったあった!」って思いながらやりましたけど、かなり過酷でした。
DJ和:僕も記憶だけで「まあこれは入るよね」とすぐ出てくる曲と、ちゃんと振り返って年数を調べてみると「あ、こっちの年代に入る曲なんだ」みたいなこともあったりして。
年代が変わると賞もまた変わってくることが多かったので、どの曲をどこに入れるのかもすごく考えましたし、賞を与えたい曲が多すぎて絞っていく作業にものすごい時間がかかりました(笑)。
リストアップしていくのは、どんどん挙げていくだけなので楽しく、すんなりいったんですけど、絞る作業は苦しすぎてやめたくなるというか(笑)。賞とかコンクールの選考委員は毎回こんな苦労をしてるんだな、と思いました。
松原:最初の絞り込みがけっこう大変でしたね。
DJ和:曲をとにかくいっぱい挙げていって、それをエクセルに出してから絞る、みたいな。
松原:出しましたね。店舗で売れた曲とか、店頭で盛り上がった曲、ということも加味する必要があると思ったので……。
DJ和:あ、そのデータも出して!?
松原:引っ張り出しましたね(笑)。どれほど売れたのか、みたいなデータも照らし合わせて、苦悶しながらやりました。
DJ和:本業の合間にそんな大変な作業をやっていただいて、本当申し訳ないです(笑)。
僕は枚数をあまり気にしてなかったなあ。肌感覚で「これは売れたよね」とか「たぶん売れてないけど、アニソンファンからは知名度もあるし、信頼されてる曲だよな」というのは分かるんですけど、松原さんはそれに加えてちゃんとしたデータも入れていったんですね。
松原:「これ入れたいよなあ、店頭で売れたんだっけ?」みたいなものもあって。調べてみると「ああ~、そう……そうなの……」って思ったりとか(笑)。
DJ和:それによって各賞の3曲の中に入ってくるかどうかも決まってくるわけですものね。
――ちなみにアニメイトのお店がオープンしたのが1983年ということですが、松原さんがアニメイトに入られたのは何年ごろなのでしょうか?
松原:僕は中途で入ってるので、社歴は10年くらいですね。
――となると、1989~1999年の1グループ目なんかは世代的にドンピシャなわけですね。
松原:そうですね。自分の思い出深いところはやりやすく、そうじゃないところはまったくノーチェックではないにしても、深く知っている作品の割合が低くなるので、「外してないものはないかな」とチェックして「あ、これも話題になったやつじゃないか」となることが多かったです。
――ほかのアニメイトのスタッフさんにも意見などは伺ったのでしょうか?
松原:聞きました聞きました! 「どう思う?」とか「この時代で好きなのあった?」とか。あとは当然、僕がアニメイトに入る前、店舗で盛り上がってたのかどうか、みたいなところも聞いていきました。
――和さんはどのような選考を心がけましたか? DJ的に盛り上がる曲を選んだのか、それとももう少し俯瞰で、その時代の世相を反映していったりなどもしたのでしょうか?
DJ和:DJ目線すぎると、踊れたり、みんながオイオイできる曲が多くなっちゃう傾向になるので、そのあたりのバランスは考えましたね。たとえば「Agapē(※5)」はDJ的に言えば、盛り上がる方向の曲ではないけれど、やっぱり入れないといけないですし。
※5 Agapē/歌:メロキュア TVアニメ『円盤皇女ワるきゅーレ』劇中歌
松原さんのように「売れた、売れない」は知らないこともあってあまり気にしていなかったので、僕が意識したのは本当に自分の感覚ですかね。「この曲は確かにみんな好きだし」というような。
たとえば、冨田さんは作る側、プロデュース側の観点から選ばれたと思うんですけど、僕はもっと単純にリスナー側として「この曲ヤバい、この曲掛けたい」と感じてDJをやっている人間なので、“受け手側”としての感覚を大事にするというか。DJはみんな受け手側なので、周りのDJの受け取り具合みたいなものを意識して絞り込みました。
あとは、その当時の盛り上がりですかね。2010年以降は特にツイッターの反応やYouTubeでの再生回数なども考慮しました。
DJの場でよく聞いた、クラブでよく聞いたというのも観点のひとつにあるかもしれませんね。特に1989~2000年ごろの曲は、昔なので数字ではなかなか人気が見えづらいところもあるので、そういったことを加味しています。
基本は「○○年に放送されたアニメ」と「○○年にリリースされたアニソン」で検索して作品名をひたすらメモする、というのを繰り返して、そこから「これとこれだったらどっちだ?」みたいなトーナメント方式で残していく、みたいな(笑)。
松原:劇場版とOVAとTVシリーズと……、みたいな。
DJ和:ひとつの作品を見つけると、そこから「いろいろあるな!」ってなるんですよね(笑)。
松原:年代ごとに僕も出しましたね。
――ちなみに、松原さんの作成した資料がこちらにあるのですが……。
DJ和:(松原さんの資料を見ながら)わ~、ちゃんとしてる。制作会社まで書いてある(笑)。
松原:全何話みたいなものも入れてます。というのも、放送開始と終わりによっては誤魔化せるからですね(笑)。「放送開始年的にはこっちのグループだけど、終わった年的にはこっちのグループだから」みたいな。最悪こっちに逃げれる! というように(笑)。
DJ和:こういうデータ作りは僕にはなかなかできないですね~……。