声優・石川由依『UTA-KATA Vol.1 ~夜明けの吟遊詩人~』再演レポート|朗読と歌と音楽――映画を見終わったかのような心地よい余韻に浸れる朗読劇
声優・石川由依さんによるソロプロジェクト『UTA-KATA』。2020年1月から2月にかけて、東京・京都・札幌で開催された『UTA-KATA Vol.1 ~夜明けの吟遊詩人~』の再演が、10月25日(日)、前回の東京公演と同じ会場、新宿ガルバホールから無観客・配信限定で行われた(アーカイブ配信は10月31日まで)。その模様をレポートする。
朗読と歌と音楽による旅路――映画を見終わったかのような心地よい余韻に浸れる朗読劇
大きなグランドピアノの前に座った伊藤真澄が譜面台に楽譜を広げる。そして、石川由依はゆっくりと登場すると、静かにグランドピアノの前の椅子に腰を掛けた。すると、ぼやけていた映像が鮮明になり、幻想的な会場を映し出した。そして、石川の声が静寂を優しく破る。その声に瞬間、体が震えた。
声優のお芝居は、アニメでは見慣れているけれど、こうやってじっくりと声だけを聴くことはそうはない。だからこそ、その最初の発声に、よく分からない感動が押し寄せてきたのだと思う。ドラマCDともまた違う、朗読劇特有の“ライブ感”。今回は配信のみでの再演となるが、その“ライブ感”を、音質や画質にできる限りこだわって届けたいという制作スタッフの熱意が伝わってきた。
声に続き、ピアノの旋律が会場に響き渡る。石川は、その美しい音色をバックに物語を読み進めていった。主人公は13歳の少女・コーデリア。まだ家族から離れたくない少女に、コーデリアの母は、外に奉公に出てくれないかとお願いをする。そうして始まった母と娘のテンポのいいやり取り。ここではコーデリアのモノローグもあるので、すでに3つの声を使い分けている。そこに、コーデリアを奉公先まで送り届ける役を買って出た、もうひとりの主人公、吟遊詩人のアウローラ・フィーニスが現れる。今度は中性的なカッコいい声だ。声の切り替えが淀みなく、物語にぐいぐいと入っていける。
母が娘を送り出すシーン。母の本当の想いと素直になれない娘の想い。そしてそれを飄々と見守りアドバイスをするアウローラ。一方で感情的なお芝居をしているのに、一方で冷静なお芝居をする。あらためて、声優の“凄さ”を目の当たりにした瞬間だった。そして、コーデリアを素直にさせる歌をアウローラが歌う。お芝居から歌へ、美しく心に響く歌ったかと思えば、再び感情的なお芝居へ移行していく……。
技術的にすごくハイレベルのことをしているのだが、見ているときは、それを感じないくらい物語に入り込んでいるので、このシーンは、ただただ涙をこらえるだけになってしまった。そして、母と別れたあと、目的地までの道程でコーデリアは、家族を想う村人や埋葬人、そして商人たちと出会い、彼らとアウローラのやり取りを近くで見ながら、少しずつ成長していく。その中でアウローラとの信頼関係も強くなっていくのだが、その2人の距離感を、声だけでなく表情も変化させながら、とても大事に演じていた。また途中、コーデリアが「花染めに想いを」という歌を歌うシーンがあるのだが、アウローラとはまた違う、透き通った歌声を聴かせてくれたのが、とても印象的だった。
今年の1月、同じ会場で観客を入れて公演をしたときは、石川はグランドピアノの前から動かずにお芝居をしていたのだが、この日は雰囲気のある新宿ガルバホールの壁をすべて使い、石川自身が移動しながら物語を紡いでいった。配信ならではの演出だったし、コーデリアの旅の場面が切り替わるごとに実際の景色が変わり、不穏な雰囲気のときは、照明もそのような色になるなど、より物語に没頭できるような演出がなされていたのは素晴らしかった。
そして、この世界観を描くのに、欠かすことができない大きな存在が伊藤真澄だ。物語のBGMとして、石川のお芝居の呼吸に寄り添うように、ピアノをメインにいろいろな楽器で音楽を奏でていく。歌のときは伴奏&コーラスとして盛り上げていった。
『UTA-KATA~夜明けの吟遊詩人~』。これは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の原作者・暁佳奈が生み出した物語なのだが、2時間の公演があっという間に感じるほど、ストーリー的に面白く、そこに登場する人間ひとりひとりがリアルで、優しく温もりがあった。それを石川の朗読と歌、そして伊藤真澄の演奏を中心に、演出で彩りを加えながら表現した公演は、まるで映画のように、頭の中に映像が出来上がっていく稀有な体験ができるものだった。
最後に歌ったのは、石川由依も作詞に参加した「泡沫の祈り」(作詞:石川由依、安藤紗々 作曲:伊藤真澄)。この曲は、物語の一部として歌われてきたそれまでの歌とは違い、この『UTA-KATA』のテーマソングとして作った曲だという。今回のタイトルにVol.1とあるように、ゆっくり時間をかけてでも続けていきたいプロジェクトだとアフタートークでも語っていたのだが、大きく感情が揺れ動き、最後は少し切なさが残った物語の最後に、心地よい余韻に浸らせてくれたこの曲を、次、また違う物語の最後に聴きたい。そう心から思ったステージだった。
[取材&文・塚越淳一]
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■石川由依、歌×朗読で織りなすソロプロジェクトの全貌に迫る|インタビュー
CD情報
石川由依 1stアルバム「UTA-KATA 旋律集 Vol.1 ~夜明けの吟遊詩人~」
発売日:2021年1月13日
価格:【初回限定盤】6,050円(税込)
【通常盤】4,950円(税込)
仕様:【初回限定盤】CD+DVD、限定特別ジャケット、豪華ブックレット(石川由依ロングインタビュー・プロデューサー インタビュー・UTA-KATA Vol.1参加音楽クリエイター インタビュー)、特別ケース
【通常盤】CD+DVD
レーベル:Harmonic Force
取扱店舗:全国アニメイト・アニメイト通販 ※アニメイト独占販売
CD収録内容
M01:吟遊詩人 作曲/ 編曲:伊藤真澄
M02:たからもの 作詞:安藤紗々 作曲/ 編曲:伊藤真澄
M03:雨よ雫よ 作詞:安藤紗々 作曲:星銀乃丈 編曲:伊藤真澄
M04:アウローラ 作曲/ 編曲:伊藤真澄
M05:暗闇のためのレクイエム 作詞:安藤紗々 作曲:momo 編曲:伊藤真澄
M06:Harvest Song 作詞:安藤紗々 作曲:島みやえい子 編曲:伊藤真澄
M07:花染めに想いを 作詞:安藤紗々 作曲:下川佳代 編曲:伊藤真澄
M08:獣退治 作詞:安藤紗々 作曲:島みやえい子 編曲:伊藤真澄
M09:心情 作曲/ 編曲:伊藤真澄
M10:泡沫の祈り 作詞:石川由依、安藤紗々 作曲/ 編曲:伊藤真澄
DVD収録内容
石川由依 UTA-KATA Vol.1~夜明けの吟遊詩人~
公演日:2020 年1 月11 日
会場:ガルバホール
出演:石川由依、伊藤真澄(ピアノ)
脚本:暁 佳奈(ヴァイオレット・エヴァーガーデン他)
詳細:完全収録(昼公演と夜公演の両方を用いて編集)
▼アニメイト通販での購入はこちら!
グッズ情報
取扱店舗:池袋本店、京都店、札幌店、三宮店、アニメイト通販
グッズラインナップ
●B2ポスター
発売日:2021年1月13日
価格:1,000円(税込)
●パンフレット
発売日:2021年1月13日
価格:3,000円(税込)
●ポストカードセット
発売日:2021年1月13日
価格:1,000円(税込)
※グッズは前回公演会場で販売されたものと同一です。
石川由依さんプロフィール
8歳で初舞台を踏み、幼少の頃から舞台・ミュージカルで主演を数多く務める。声優としては、2007 年にTV アニメ「ヒロイック・エイジ」ディアネイラ役でデビュー。
主な出演作に「進撃の巨人」ミカサ・アッカーマン役、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」ヴァイオレット・エヴァーガーデン役、 ゲーム「NieR:Automata」2B 役他多数。