劇場編集版『日本沈没2020』湯浅政明監督インタビュー|多くの反響を受けたNetflix版からいかに映画化したのか? そして監督が伝えたかったメッセージとは
これまでの『日本沈没』とは違い、家族の視点、小さなスケールで。またアニメでできるリアルな映像も模索
――『日本沈没』はこれまでに映画やTVドラマなど何度か映像化されていますが、初めてのアニメ化であり、「一国が跡形もなく沈む」という誰も想像できない事態を映像で表現するにあたって、どのように物語を作り上げられていったのでしょうか?
湯浅:子供の頃に『日本沈没』というタイトルを見て「日本が沈むってどういうことだろう?」と思っていましたが、詳しく描かれているだろう小松左京さんの原作も当時は読んでいませんでした。
後に映画版(1973年公開)を見ましたが、その時はプレートテクニクスについて図の説明もありましたが、ただの仮想パニック映画と捉えていました。
TVドラマ化(1974年)されたのも好評で、形を変えてもう一度映画化(2006年公開)もされました。それらがある中で再びアニメ化するにあたっては、またスペクタクルを見せるのはちょっと違うかなと。
小松さんが原作を書かれた時代と違い、今は数年前に大きな震災も経験していて、地震のメカニズムも理解している方が多いと思います。
日本だけが沈む物語というのは、何らかの象徴的な状況のセッティングであると思うし、浮き彫りになるであろう差別や人種問題、日本人であることの意味を考えるためにも日本が沈没する恐怖よりも、多様な個人の小さな視点から、その状況で考えら得る事に着目しようと思いました
またエンタメとして毎回飽きさせないように意識しました。あとできるだけリアルな映像が必要だと最初に思いましたが。色々ありながらも、現場ででできる形を極力模索しながら制作していきました。
――『日本沈没』以外で小松左京さんの作品を読まれたことはありますか? またご自身が感じる小松さんの作風やイメージは?
湯浅:小さい頃に読んでいましたが、すごく大人な作品だなと思っていました。
SFというと、学者肌で世間知らずな主人公であるイメージがありますけど、小松さんの作品は哲学的な意味合に進む作品が多いし、『日本沈没』でも小野寺は浮名を流すではないですけど、恋愛についての描写にも重点がおかれていて。
テーマ的にも大きく、人物描写も大人っぽくて、しゃれた感じだなという印象があります。
日本沈没後のビジュアルは新たな土地の隆起や最先端の国として生まれ変わるニュアンスも
――本作で描かれた沈没後の日本のビジュアルはどんなイメージで作られたのでしょうか?
湯浅:沈没した後、再び新たな土地が隆起する設定で、新島が出来るときより、更にアグレッシブにそこには人が集まり住み、メガフロートで広くしたり、港も早く形作られるのかなとか東京タワーのような電波塔がなじむのかな、エネルギーは太陽光だろうなとか想像して。
ともすればまったく新しい最先端の国として生まれ変わる予感もあるような、そんなニュアンスを含めて描ければと考えました。
――現代社会が崩壊した後ということで、どこまで時代感を出してもいいのかというバランスも難しかったのでは?
湯浅:作品上では8年後の世界も描かれていますが、そこまで未来のお話でもなく、作り始めたのも2018年でメインも2年後のことだったので、少し進んでいるイメージでいつも制作しています。公開後も数年間は古いものとして感じない作品であればなといつも思っています。
キャラは平等に描けているかを意識。歩役の上田麗奈さんは自然さや少女らしさで満場一致で決定
――キャラクターを構築する上で意識した点や難しかった点は?
湯浅:やっていくうちに段々とわかることも多かったんですけど、性別やカテゴリー化なしに自分たちで判断するようなキャラクターを中心にして、それに縛られている人や縛られない人、縛られていないと思っている人を平等に描けているのかは意識しました。脱カテゴリーが作品自体のテーマの1つでもあったので。
――歩をはじめ、キャスティングのポイントは?
湯浅:自然な演技ができる人、そしてかわいくて、すっとんきょうな演技もできる人がいいなと思って、オーディションで選ばせていただきました。
歩役の上田麗奈さんは最終的にみんなで声や演技を聞いて決めました。上手くぴったりな声質の方は他にもいらっしゃいましたが、自然さや少女らしさの点で上田さんがズバ抜けていたので、満場一致で決まりました。
あと英語を使うキャラクターが多かったので、極力出来る方にお願いしたり、ラップするシーンもあったので、キャスティングの際はそれも考慮して決めました。
――収録時にキャストの方にアドバイスやお話をされたことは?
湯浅:イメージと違うところは説明しましたが、これから起こることをしゃべらないようにしていたので、誰がいつ退場するかも知らなかった状態だったと思います。
それがキャストの方には難しかったかもしれませんが。ブースの中で、キャストさん同士で相談したり、助け合っている姿がみうけられました。