音楽
やなぎなぎ5thアルバム『エメラロタイプ』インタビュー

過去の想いをつなぎ、繊細に力強く、その先へ。“やなぎなぎ”が描き出す未来への設計図|3年ぶりのNEWアルバム『エメラロタイプ』ロングインタビュー

 

オープニングは過去の自作曲を驚きの形でアレンジ

──今作に参加されているクリエイターの方々がものすごく豪華ですね。

なぎ:アルバムのコンセプトを “未来を描くもの”と決めたときに、未来の自分の知らない音も一緒に描くとしたら、こんなメンバーが良いなぁって。私の中の大好きを集めたような感じです。

──ではそれぞれの曲についておうかがいさせてください。1曲目の「Re」はインストナンバーで、どこか懐かしい雰囲気があるなと思ったんですが……。

なぎ:「Re」はイントロダクションとして、私の自作曲の音データを集めてリミックスをしたんです。今まで私の曲を追ってくれるかたは、そうした事情を知らなくても「懐かしい」と思ってくれるかもしれません。

──え!?  全曲ですか!? 気付かなかったです。

なぎ:でも本当にバラバラにしてるので(笑)。なかにはキックのアタックだけとか、鈴の音一回とかそういうものもあるんですが、自分で作曲したものはほとんど入れたと思います。最初に出てくるのは、「concent」の音なんです。

──なるほど……! でも自作曲って150曲近くになるのでは? それを1分10秒に綯っていったのがすごいですね。

なぎ:それくらいあると思いますね。ソロデビューしてからのものなので少し数は減るかもしれませんけども。まずステムデータを年代別に並べて、「この曲はどの音を使おうかな」ってセレクトして開いては読み込み、開いては読み込み、っていう(笑)。

少しピッチを変えたものもあるんですが、大体はそのまま使っています。ベストを出したあとだったこともあって、自分を振り返りここから再出発するぞって気持ちで「Re」というタイトルをつけました。

──今作の歌詞に過去の曲を思い出す言葉もあったんですが、それも意識されていたのでしょうか。

なぎ:そうですね。振り返ったことが多かったので懐かしさのあるワードが出てきたり、改めてこの言葉って良い言葉だなって思って使ったりしています。

──2曲目の「asterhythm」の作曲・編曲を手掛けられたSerphさんは、エレクトロニカアーティストとして、さまざまな音楽を作られているかたですよね。

なぎ:そうなんです。今年9月にはディズニーのカヴァーアルバム『Disney Glitter Melodies』を出されていて。私はSerphさんの紡ぐエレクトロニカがすごく好きで。自分のラジオで流させていただいたり、ライブの会場のBGMにも使わせていただいたりしていたんです。

私がこの自粛期間中にYouTubeに「あの子は次亜塩素酸の匂い」という曲を遊びで投稿して。そのステムデータを一時的に公開していたんですが、そのステムデータを使ってSerphさんがリミックスをしてくださったんです。「あれ、Serphさん!?」って(笑)。それでお礼のメッセージを送って「もしよかったら、何か一緒につくりませんか?」と。

実はこのご時世ということもあって、この曲は一度もお会いせずに完成してしまったんです。最初に私からアルバムのコンセプトを伝えて。Serphさんとはアルバムの導入になる部分を作りたいなと思っているんです、ということをお伝えしていたんですが、Serphさんの思うように作ってくださいと。それでデモをいただいたような感じでした。

未来を予想させるところから広大な宇宙にまでテーマを広げていただいて……だから音にはスペイシーなところや、遠くに飛ばしていくような感じ、さらにキラキラ感もあったりして。

──伸び伸びとしたハイトーンがとてもエネルギッシュで、どこか切なくて、ボカロっぽさも個人的には感じたりして。

なぎ:ああ! なるほど、確かに。歌的には高い声なんですけど、この曲の広さ、遠くに飛ばしていくような感じは、この高さがないと魅力が半減しちゃうなと思ったんです。だからそのまま歌わせていただいたような感じでした。

でも最初は「高すぎるかな?」と思って。仮歌をSerphさんに送ったときに「無理に歌っているように聴こえたら下げようかなと思うんですけど」というご相談をしたところ、Serphさんから「この高さでいくのが切なくてすごく良い」というお言葉をいただいたので、このキーで自信を持って歌おう!と。

──このタイトルは、星群を意識されて名づけられたんでしょうか?

なぎ:そうですね。ただ、もともとの綴りはちょっと違って小惑星を示すような言葉で。そこに拍子のリズムのスペルを入れて少しだけ変えたような感じでした。

──キラキラした切なさから「宝石の生まれるとき」 (TVアニメ「宝石商リチャード氏の謎鑑定」オープニングテーマ)への流れっていうのは、なぎさんのなかでイメージされていたものだったんでしょうか。

なぎ:最初から意識していたわけではないんですが、「宝石の生まれるとき」の最初に流れてくるピアノの音色がはじまりを予感させるものだったので、絶対に後ろのほうではないなと(笑)。「asterhythm」で遠くへ行ったあと、ピアノの音で引き戻してもらえるようにと思って、この順番を選びました。

※「宝石の生まれるとき」インタビュー

──3曲目「今日もデジは猫のふり」の作詞・作曲・編曲を手掛けられたササキトモコさんとは初めてのコラボレーションですよね?

なぎ:そうですね。ササキさんも私が大好きな方でよく拝聴させていただいていました。特に『ROOMMANIA#203』というゲーム内の架空のユニット・セラニポージの楽曲が可愛くて好きだったんです。

ササキさんは歌詞はものすごくステキで、特に「スマイリーを探して」の切ない物語が好きで。ササキさんの考える未来、設計図で曲を書いていただいたらどうなるのか聴きたくて。それでお願いさせていただきました。

──編曲で共作されている蓑部雄崇さんも数多くのゲーム曲を手掛けられてきたかたで。ここからもうゲームがひとつ生み出されそうな、壮大な物語です。

なぎ:そうなんです。蓑部さんも巨匠で、ここから何かが生み出されそうですよね(笑)。

──<月海に魚の骨をうずめたり まぼろしの猫座をみつけにいったり>など言葉の一つひとつが可愛くて。なぎさんの作詞とはまた違った色があって、それがまたエメラルドのカットのように美しく光っているなと。

なぎ:すごく可愛いですよね。もう本当にステキすぎるなと思いました。<おじいが残した宇宙船があるんだ>って歌詞を読んだときに物語をここまでステキに曲に落とし込めるんだなあって。私がやると上手にできないような気がするんですけど、ササキさんだとものすごくドラマチックに聴こえるからすごいなって思いました。

──5曲目の「voke」は“声”という意味ですよね。

なぎ:そうですね。声のもとになっている、祖先のようなイメージです(笑)。

──まさにその言葉通り声からはじまっていく曲で、kzさんが作曲・編曲を手掛けられています。

なぎ:kzさんは昔から知り合いで、一緒にガッツリ作ったのは「empty」という曲ですが、そのあと私の「link」で私の声のカットアップを作っていただいたり、特典につけていたカヴァー曲のアレンジをやってもらったり、ちょこちょことご一緒していたんです。

やなぎなぎ カップリング集「memorandum」インタビュー(「link」の話はこちらで)

kzさんは音楽面でも、ひととしても尊敬していて。ものすごくセンスよく音作りをされる方で、かつ、身近で相談もできる方なんです。今回は声を印象的に使った曲にしたいなと思っていたので、それをkzさんのセンスでカッコ良い曲にしたいと相談をしていました。

──制作の経緯も気になるところです。

なぎ:まず私がテーマになりそうなイメージ詞書いて、そこからイメージを膨らませていただいて。私の作業場にきてもらって、そのイメージをすり合わせていったような感じでした。kzさんがいろいろなものを持ち込んでくださって。

言葉で伝わるか分からないのですが……私の和音の声を取り込んで、鍵盤で弾くと私の声が出てくるっていうソフトを使いました。それでまず“なぎシンセ”を作ったんです。

──“なぎシンセ”興味深いです……!

なぎ:(笑)。それで、その場でテンポも決めて。簡易的にkzさんがリズムを打ち込んでくださって、私の声の鍵盤を弾いていく、ってことをして。「あ、こっちの方向が良いな」とか話し合いながら、音と歌詞の方向性を決めていきました。

──「voke」は言葉遊びも印象的ですが、そうしたお話もされたんですか?

なぎ:テーマを決めたときから、声や言葉でとことん遊ぶ曲にしようと思っていました。歌詞も“声遊び”のようなものにしたいなと思っていたので、それで素直に声を出せない子の物語にしようと。

──こうした状況下のなかで、話しながら音楽を作るってなぎさんにとっては至福のときだったのではないでしょうか。

なぎ:もう本当に楽しかったです(笑)。人と会う機会もあまりなかったので、感染対策に十分に気を配りつつだったんですが、お茶を飲んで、クッキーも食べつつ作業していたので、心が洗われましたね。

──ザ・なつやすみバンドが手掛けた6曲目「Special Pack!」もそうした楽しさが弾けるような曲です。

なぎ:ザ・なつやすみバンドさんとは、8年前くらいに対バンをしたことがあって。そこからずっと交流が続いていたんです。なつやすみバンドさんの10周年にお祝いのコメントを出させていただいたり、ライブにも呼んでくださったりしていて。

なつやすみバンドさんのライブってとにかくハッピーなんです。バンドの皆さんのグルーブがすごくて、見ていて幸せになるんですよね。その幸せをこのアルバムにおすそ分けしてもらいたい!と思って、「一緒にやってくれませんか?」とお願いしました。

──作詞はなぎさん、中川理沙さん、MC.sirafuさんの名義になっていますが、3人で共作というのも珍しい形ですね。

なぎ:結果的に3人になったという感じなんです。「歌詞があったほうが曲を書きやすいんです」とおっしゃっていたので、私が最初にサビのフレーズを書いて送った感じでした。で、曲を戻していただいたときに、中川さんとsirafuさんがその言葉を広げて書いてくださった詞があって「これじゃなく、変えていただいて大丈夫です」と言っていただいたんですが、それがめちゃくちゃ良かったので「ぜひこれで!」と。

──楽器のレコーディングもとても盛り上がったんだろうなぁと。

なぎ:そうですね。この曲は全部生楽器なので、特に豪華です。楽器録りもなつやすみバンドのみんなで行い、私もおもちゃの小さなグロッケンで参加させてもらって。私もちょっとだけバンド感を味合わせていただきました(笑)。

──なぎさんはものづくりの職人のように、普段は一人で黙々と作業されていることが多いでしょうから、楽しかったんだろうなぁと。

なぎ:そうなんです(笑)。それで混ざらせていただきました。スティールパンの録音も拝見させていただき、楽しかったです。演奏はもちろん、コーラスもかわいいのでぜひ注目していただきたいです。

──7曲目の「芽ぐみの雨」 (TVアニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完」オープニングテーマ)でハッとするような気持ちになり、8曲目の「out of the blue」へ。渡辺 シュンスケさんによるソロ・プロジェクトSchroeder-Headzが作曲・編曲を手掛けています。

なぎ:シュンスケさんはsupercellのときに鍵盤を弾いていただき、間接的にご一緒したことがあって「シュンスケさんの鍵盤すごく良いなぁ」って感じていました。

土岐麻子さんの「264 Keys ~三鍵盤ツアー、再び。~」に参加されていたり、ご自身もアーティストとして活動されていて。Schroeder-Headzという名義では鍵盤と打ち込みの融合をされているんですが、私は特に「Sleepin' Bird」という曲が好きで、聴いたときに衝撃を受けたんです。それで鍵盤と打ち込みの交じり合う感じで、ぜひ書いていただきたいなとお願いをしました。

「アウトサイダー」は実は『俺ガイル』の……

──ところで、なぎさんが作詞・作曲、釣俊輔(agehasprings)さんが編曲をされた9曲目の「209415」ってどういう意味なんでしょうか?

なぎ:数字自体に深い意味はないんです。この曲のコンセプトがAIや、ヒューマノイドで。知能のある機械はどこからが感情と呼べて、人間と呼べるのか、あるいは人間はどこからが人間なのかな……と考えていくなかでできた曲で。

それで無造作につけられた製造番号のようなものをイメージして「209415」と、それこそ無造作につけました。釣さんにはデモを送らせていただき「ノイズを入れていただきたいんですが、だんだんと目覚めていくような曲なのでノイズを少しずつ減らしてみたらどうかなと思っているんです」というお話などをさせていただき、ステキなアレンジをしていただきました。

──10曲目の「アウトサイダー」はおなじみの北川勝利(ROUND TABLE)さんが作曲・編曲を手掛けられています。エモーショナルでカッコいい曲ですね。

なぎ:実はこの曲、『俺ガイル』のときに「芽ぐみの雨」より前にいただいた曲だったんです。

──ほお!

なぎ:それで「めちゃくちゃカッコいいですね」という話をしていて。『俺ガイル』の曲としては「もう少し爽やかでポップな路線がいいね」って話になったんですけど、「めちゃくちゃカッコいいんでぜひアルバムで使わせていただけませんか?」ってお願いしていたんです。もう「これ、私が歌わせていただいていいんですか?」って思うくらいステキな曲で。そのときはアルバム用に温めておこうねって話になったので、作詞は後からしたような感じでした。

──最後が英語で終わっていく感じもまた新鮮で。英語のなかにある<落ちてゆける>という言葉が、他のサビよりもさらに際立っているように感じました。

なぎ:英語のつぶやきが最後に入っています。この曲には「fall down」という仮タイトルもついていて。「ラーラララ」って感じの仮歌も入ってたんですけど、「落ちてゆく」って部分だけは言葉で入っていて(笑)。しかも「落ちゆく」って部分が歌のなかで高音に行くのが面白くて。だから歌詞も「落ちていきながらも浮上していく」ような曲にしようと思って書きました。

──ギターを弾いているのは北川さんですか? すごくハードな展開で。

なぎ:ソロやメインを弾かれているのは松江(潤)堀崎翔さんというギタリストのかたです。もうどうなっちゃうの!?ってくらいハードですよね(笑)。

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