誰かを救うつもりではなく “自分を救う音楽を作る”から始まった――『素敵な大人になる方法』新世代ボカロP・傘村トータさん 自身初となるインタビューで、音楽に閉じ込めた想いに触れる
動画投稿サイトにて公開されたMVの総再生回数は、なんと36,000,000回(!)。ReoNaさんへの楽曲提供でも話題の新世代クリエイター・傘村トータさんが、待望のボカロ・アルバム『素敵な大人になる方法』をリリース。
これまで発表してきた曲の中から厳選した楽曲(16曲)に加え、物語調の「明けない夜のリリィ」シリーズの書き下ろし「おはよう、僕の歌姫-Happy End Ver.-」を収録した本作。始まりを飾るのは<誰か僕を救ってくれ 生きてることはきつすぎて>という研ぎ澄まされた言葉だ。そのリアルな心情と温かなピアノのメロディが、傷ついた心を癒したり、時には鼓舞したりと聴き手の心と痛いほど共鳴する。
しかし、元々は誰かを救うつもりではなく “自分を救う音楽を作る”ところから始まったという傘村さん。自身初となるインタビューで、楽曲に込めた想いを教えてもらった。
初めてボカロに触れたときは「意味が分からない(笑)」
――今回は初めてのインタビューということで、まずはボカロとの出会いはいつだったんでしょうか?
傘村:中学生のときですね。友だちに「機械が歌う曲があるらしいよ」って。でもそう言われても意味が分からない(笑)。「機械が歌うとは?」って。
――そうなりますよね(笑)。
傘村:それで実際に聴いてみたんですけど、やっぱり分からない(笑)。初めて聴いたのは、絵本『人柱アリス』(歪P)だったんです。物語調のダーキーな曲で、いろいろな声が出てきて。それで、もうちょっと調べてみようと思って「これは編集ソフトなんだ」「言葉を入れたら初音ミクが歌うのか」と少しずつ分かってきたような感じでした。
――ご自身で作り始めたのはいつからだったんですか?
傘村:中学生のとき、歌手のLiaさんにハマっていて。LiaさんのボーカロイドのIAちゃんが出ると知って「これは買おう! やるなら今だ!」って飛びついて買ったんです。
――それまでも作曲はされていたんでしょうか?
傘村:音楽教室で作曲は少しやっていたんです。だからそこまで抵抗はなくやってみようと。でもパソコンが古かったので思うように動かなくて。ハモりを作ったら落ちてしまったり、再生ができなかったり(笑)。そういう感じでした。
――トータさんにもそんな時代があったとは。
傘村:ありました(笑)。今思うと初めてのことだらけで面白かったです。それでパソコンのメモリを増やして、やっと動くようになって「あ、使えるかも」って。
――そこからはどのように、ボカロと触れ合っていくのでしょうか。
傘村:IAを使って曲は作っていたんですが、基本的には他の人が作ってくれた歌詞にメロをつけるという感じでした。piapro(ピアプロ)というサイトがあるんですが、そこは歌詞や絵、曲を自由に投稿できる場所で、よく活用していました。
でも活動を続けていくうちに、「自分で歌詞を書いてみようかな」「人の歌詞を探すほうが大変だな」って(笑)。それで「全部自分でやろう」と思い、傘村トータとして活動をするにあたっては全部自分で作るようになりました。
――傘村トータとして本格的に音楽活動を始めたのは、何かキッカケがあったのでしょうか?
傘村:キッカケとしては……SEKAI NO OWARI Fukaseさんのボーカロイド『VOCALOID4 Library Fukase』がちょうど発売した時期で。それを買って使って「あ、これを出そう!」って。今振り返ると、節目節目でボーカロイドを買ってますね(笑)。新しいモノを買ってテンションが上がってそのまま乗って作ってしまうって感じで。それが初投稿の「しゃぼん玉花火」(2017年)です。今回のアルバムには入ってないんですが、ニコニコ動画とYouTubeには動画があります。
――今作を聴けばわかる通り、トータさんは多種多様なボーカロイドを使っていますよね。
傘村:簡単に欲しくなってしまうんです(笑)。「この声はかわいい」「この声はカッコいい」「これを取り入れたら面白くなるに違いない」とか。
――じゃあ、いい意味でこだわりがないというか。
傘村:そうですね。楽曲が活きるボーカルであればこだわらないです。
――実際に自分で歌詞を書き始めてどのような感触がありましたか?
傘村:もともと文章を書くこと自体は好きだったんですが、歌詞にすると「なんかうまくいかないなぁ」って思っていたんです。でも傘村トータとして投稿しはじめたら、コメントやSNSに「歌詞が良い」って書いてくれるひとが出てきて。「あ、もしかしていけるのでは?」って。そういう意味では、周りの人が自信を与えてくれたような感じです。
――全部の歌詞に言えることなんですが、難しい言葉や分かりにくい比喩がなくて、とても伝わりやすい言葉を選ばれている印象です。そこは意識されていることなんでしょうか?
傘村:解説がないとどういう曲か分からないものは好きじゃないんです。誰にでもわかって、でも、みんながうまく言葉にできないこと。それを誰にでもわかる言葉でというのは意識しています。