誠実に作品と向き合い使命感を持って挑んだ「千夜想歌」でバンドの新境地を切り拓く――『魔道祖師』オープニングを飾るCIVILIAN・コヤマヒデカズさんインタビュー
ボーカロイドプロデューサー・ナノウの顔を持つ、コヤマヒデカズさん率いる3ピースロックバンド・CIVILIAN(シヴィリアン)が、ニューシングル「千夜想歌」をリリースしました。
TVアニメ『魔王学院の不適合者』、『将国のアルタイル』など、さまざまなアニメーションの主題歌を飾ってきたCIVILIAN。今回の「千夜想歌」は、世界でシリーズ累計110億回再生を突破している大ヒットファンタジー『魔道祖師』のアニメ日本語吹替版のオープニングテーマです。「この壮大な作品の始まりの歌として、魏無羨と藍忘機、その他作中の様々な人物の心情に触れた結果、生まれたのがこの曲だった」と語るコヤマさん。どのように楽曲を紡いでいったのかインタビューで深堀りしていきました。
白と黒、光と影といった相反する感情をテーマに
――アジア圏で大人気となっている作品『魔道祖師』の日本語吹き替え版オープニングのお話をいただいたときはどのような印象がありましたか?
コヤマヒデカズさん(CIVILIAN Vo./以下、コヤマ):おっしゃっていただいた通り、もともとアジア圏で大ヒットしている作品なので、日本にもファンのかたがたくさんいらっしゃる状態だったんです。
お話をいただけたことがまずうれしかったんですが、『魔道祖師』のファンの方たちにも気に入っていただけるものを作らなければなと。「絶対に良いものにするぞ!」と気合いが入ると同時に使命感が生まれたような感じでした。
――オープニングを作るにあたって、本家(中国語版)アニメのOP「酔夢前塵」もお聴きになれたと思うのですが、どのような印象を持たれましたか?
コヤマ:事前に聴かせていただきました。日本のアニメのオープニングの場合、元気の良い曲やテンポの速い曲など派手に始まることが多いと思うんですが、いろいろとお話をおうかがいしたところ、中国の方はゆっくりとした音楽を好まれる傾向があるそうなんです。
本国版OPのようなゆったりした曲調は、中国の方々にとって、日本でいう歌謡曲のような感じで、すごくスタンダードなものなんだそうです。早速文化の違いを感じて新鮮でした。
――そういったお話は本国の制作チームにうかがったんでしょうか?
コヤマ:はい。まず「どういったものにしたいか」といったお話をさせてもらっていて。日本語吹き替え版のオープニングは、これから『魔道祖師』を見る方々、これから好きになる方がに刺さるものを作ってほしいとのことだったので「本国版のOPとはまったく違うものにしよう」と思ってました。
「本国版のOPが絶対」という方たちがいらっしゃるのも承知の上だったんですが、精いっぱい自分たちでできることをやって、良い曲を作れば絶対に分かってもらえるだろうと。最初は賛否両論あるのかなと思っていたんですが、回を追うごとに「日本版のオープニングも良いね」といった声が増えてきて、本国の方から英語でメッセージをいただくことも。うれしく受け止めてます。
――ロックバンドの曲でありながら、琴と笛の音色が入っていたり、メロディがしっとりとしていたりと、ゆったりとしたイメージがあって本国のエッセンスも意識されたのかなと思っていました。でもものすごくBPMが遅いかといったらそうじゃないので、そこはバンドならではのテクニックがあるんだろうなと。
コヤマ:そう思っていただけたらうれしいです。本国のオープニングに比べるとテンポが速くてロックバンドの曲にはなっているんですけど、メロディは急ぎすぎないように意識しました。
――では具体的に曲の製作についてうかがっていきたいと思います。CIVILIANの楽曲は作詞がコヤマさん、作曲はコヤマさん、純市さん(Bass)、有田清幸さん(Drums)というクレジットになっています。皆さんでどのように曲作りを進めていかれたんでしょうか?
コヤマ:曲を作るときはタイアップに関わらず、自分ひとりでドラムとベースのアレンジを済ませたデモをパソコンでざっくり作るんです。それをメンバーに聴いてもらって「もっとこうしたほうが良いんじゃないか」といろいろとアドバイスを受けて、最終的に3人でまとめていくという流れで作ってます。
――最初にアレンジまで作られるというのが、ボーカロイドプロデューサーでもあるナノウさんならではという感じがします。
コヤマ:ありがとうございます(笑)。ナノウとしての経験はすごく活かされていますね。
――じゃあ今回の曲も例外なく、コヤマさんが最初に全体像を作られたのでしょうか。
コヤマ:そうですね。今回は全体の曲の構成、メロディ、歌詞が完全に決まっている状態でした。まず自分が思う『魔道祖師』のテーマ、世界観を解釈して、思いつくままに歌詞を書いてみて。そのあとはアニメのスタッフさんたちと相談しながら作っていきました。
――コヤマさんの解釈された『魔道祖師』の世界観はどのようなものなのでしょうか。
コヤマ:『魔道祖師』は観る人によって印象の変わる作品だと思うんです。だから、あくまで僕から見た『魔道祖師』ではあるんですが……『魔道祖師』のテーマは「人間の善悪は誰が決めるの?」というものなんじゃないかなと。
例えば主人公の魏無羨(ウェイ・ウーシエン)が自分の正義感に従って、善だと信じて行っていたことも、他の人の視点から見ると悪と捉えられていて。見る側面によって、一つの物事が善にも悪にもなる。人間の行う行動の善悪、「この人は良い人悪い人」って結局誰が決めるんだろうと考えることが、テーマのひとつかなと。そのため、白と黒、光と影といった相反する感情をテーマに据えて歌詞を書いていきました。
――実際歌詞にも<善と悪 白と黒が混ざり合った世界で>という言葉がありますね。
コヤマ:そうですね。そこはアニメのスタッフさんも気に入ってくれたようで「ぜひ入れてほしい」と言ってくれて。あと遊び心で、キャラクターの漢字を歌詞に入れたんです。
――<どうしたって忘れられなくて><羨む想いを><離れた心を繋いで>の部分ですね。お名前ではありませんが、個人的に<笑顔だけが揺れている>のくだりは特に心が震えます。
コヤマ:ああ、そうですね。今ちょうど過去を放送しているところなので、その先を知っている身からすると、あの2人が仲が良くしてればしてるほど――。
――「ああああ」「ううう」と変な声が出ますね……!
コヤマ:(笑)。『魔道祖師』のファンの方々からも「歌詞の内容がしんどすぎて無理じゃあ」といった声をいただいています(笑)。