影のある芝居、魂の叫び。役者・石川由依さんについて“推しを知らない”男が書いてみる【推し声優語らせてください・連載第3回】
UTA-KATA
大切な手紙は大切な時に読みたくなる。僕にとって「UTA-KATA」はそんな時間だった。
石川由依さんのソロプロジェクト「UTA-KATA」は、2020年1〜2月にかけて「UTA-KATA Vol.1 ~夜明けの吟遊詩人~」東京・京都・札幌で開催されていた朗読劇だ。
「UTA-KATA」は石川由依さんが贈る一人芝居であり、コンサートのような構成となっている(公式の説明欄には「一期一会の朗読劇」とある)。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の著者である暁佳奈さんが手がけたオリジナルストーリー。少女と吟遊詩人の旅、心の触れ合いを通じて物語は進んでいく。
このソロプロジェクト「UTA-KATA」が本当に素晴らしい。
知っている方も多いと思うが、石川由依さんは役者としてもそうだが、歌唱力も一級品だ。
「UTA-KATA」では物語の転換シーンに歌が用いられている。これがどれも全て心にグッと来るのだ。
ここでは2曲紹介しよう。
まずは、「雨よ雫よ」。日照りが続く土地の人々の前で、吟遊詩人が一晩のご恩の前払いをするために歌った曲である。
(作中で)実際は神様でもなんでも無いので、雨乞いをしたところで効果があるとは思えない。主人公の少女もそんな皮肉めいた言葉を頭に浮かべていた。
ただ、椅子から立ち上がることこそないが、身振り手振りを入れながら歌い上げる石川さん(吟遊詩人)の歌を聴いていると、「本当に雨が降るのではないか」という説得力がある。
吟遊詩人が“歌い終えた直後”に、雨は降らなかった。ただ、村人たちは穏やかな顔になっていたという。
歌で状況が好転したわけではないが、歌を聞いたことで人々の目の前の景色は変わってくる。少しだけ前向きになれる。
こうした朗読劇もそうだろう。だから、世の中にはエンターテインメントが必要なのだ。
もう一曲紹介するのは、「泡沫の祈り」。
朗読劇のクライマックスで歌唱されるこの曲の作詞は石川由依さんと安藤紗々の共作となっている。
※この曲は詳細を書くとネタバレになりすぎるので、ぜひDVDを購入の上チェックしていただきたい。
「泡沫(うたかた)」。
人生を生きていると、儚く消えてしまうような出来事が数多くある。楽しいことよりも、辛かったり悲しかったり。そういったことの方が多いのかもしれない。
ただ、それが「泡沫の祈り」となっても、誰かを大切に想うことを忘れてはいけない。そんな人と人とのつながり、忘れてはいけない気持ちを歌った一曲が最後に鳴り響いて「UTA-KATA Vol.1 」は幕を閉じる。
このコラムを書くために改めてDVDを見返したのだが、非常にいい時間になった。きっと、あなたにとっても大切な一枚になると思うので、ぜひきいていただきたい。