結城アイラ『聖女の魔力は万能です』OP主題歌「Blessing」インタビュー|「誰かを癒す曲になりますように」願いを込めて。エヴァーグリーンな歌声が世界を優しく包み込む
もしも朝と夜が恋に落ちたら……?
――カップリングに収録されている「トレノワール」は、「Blessing」とは対になるような雰囲気の曲です。「トレノワール」ってどういう意味なんでしょうか?
結城:フランス語なんです。「トレ」は“とっても”、 “ノワール”は黒。「Blessing」が木漏れ日の光が差し込むような朝のイメージの曲だったので、「トレノワール」は夜の雰囲気の曲にしました。私は曲を作るときにタイトルから作ることが多いんです。
夜はフランス語だと“Nuit”(ニュイ)って言うんですけど、それだと少し馴染みがないなと思って、黒を夜に発展させて“Noir”に。『聖女の魔力は万能です』の楽曲がヨーロッパテイストなので、そこに寄せて、フランス語を入れたいなと思っていたんです。
実はフランス語を入れるのは夢だったんですよね(笑)。学校がフランス語学科で(笑)。だからフランス語で何かやりたいって思いがあって、今回その夢が叶ったような感じです。
――そうだったんですね。「トレノワール」は結城さんの原点であるジャジーなテイストです。世界観を夜にした理由について、改めて教えていただけますか?
結城:全体的にはジャジーで、ソウルやAORを感じるような雰囲気なんですけど、歌詞の世界は夜の世界にしたくて。もともと「朝と夜がもし恋に落ちたらどうなるんだろう?」って思ったところから始まったんです。
朝と夜って光と影のような存在じゃないですか。近くにいるのに一緒にいることはできない。だからこの曲の2人も一緒にはいられないんですけど、背中合わせにお互いのぬくもりがあれば、ここに愛はあるよねっていう……ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかは、聴く人によって変わる作り方にしました。この曲にはコロナの状況の中で、私なりのメッセージも入れたくかったんです。それで<誰だってひとつはあるでしょう? 自分しか知らない孤独>って言葉を入れて。
――その言葉すごく響きました。
結城:ありがとうございます。人と会えなくなったことで、ひとりの時間が増えた方も多いと思うんです。みんないろいろなことを考えたと思うんですけど“孤独”と感じる部分はひとそれぞれ違うから……。
他人から見て「あの人は楽しそうだな」と思っても、知らないだけでその人なりの孤独もあるかもしれない。心の中にも光と影があるけど、そのふたつがあるから心って成り立つんじゃないかなって。きっと光だけの人っていないと思うんです。影があるからこそ光がある。影があることも悪いことじゃないってことを言えたらいいなと思っていました。
あと<変わるために サヨナラが><変えるために 要るのなら>という言葉も、今だからこそ入れたかった言葉です。今までの常識とはサヨナラしたことで新たな価値観が生まれると思うんじゃないかなって。それこそオンラインライブが定着したこともそのひとつだと思うんですが、一方で電子機器に頼りたくない方もきっといて。でも電子機器を使わないと時代に追いついていけなくなったり……そんなことを思案しました。
昔からあることを大切にしながら、価値観をアップデートさせていく勇気が今の時代に大切なんだろうなと思い、この言葉を選びました。例えばセイちゃんのように「その場で頑張らなきゃいけないんだ」って思ったら、切り替えて「ポーション作ろうかな」「野菜育ててみようかな」って考えることができる、そういう前向きさって生きていく上で大事なんだろうなって。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』から学んだ愛
――アイラさん自身はどう思われていますか? 変わっていくことに対して怖さのようなものはないですか。
結城:私はどうでしょう…。何が起きても何とかなるさタイプですね。少し前までは「変わりたくない」って気持ちが強かったように思うんですけど……今は変わることに対して恐れないでいたいです。それこそ、曲のテイストも昔と今とでガラッと変わってますし(笑)。私が昔歌っていた打ち込みの曲が好きな方はこの曲を聴いて「もしかしたら変わっちゃったのかな」と思うのかもしれないんですが……でも全て私なので受け入れていただけたら嬉しいなって。もともとジャジーなテイストは好きですしね。
――石川智久さんのアレンジがまたステキですね。
結城:そうですね。少し曇り空っぽい、美しい雰囲気で。報われない恋の雰囲気にすごく似合ってて。個人的には、朝と夜には報われてほしかったですけど。
――まるでフランス映画のような物語です。この曲には“L'amour”(愛する)という言葉がありますが、お話を聞いてやはりアイラさんの根底にあるものは“愛”なんだなと感じました。以前もおうかがいしたんですが、アイラさんにとっての愛について、今改めてどのようにお考えになられているか教えていただけますか?
結城:前回のインタビューで、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で愛について考えさせられる機会をもらえたことが、自分の音楽人生においてキーポイントになったように思っていますというお話をさせていただいたと思うんですが……それまでは<愛してる><愛>って言葉を歌詞に入れることに対してそこまで自信がなかったんです。そこまで大きなことを言ってしまって良いのかなって。
でも恋よりも愛のほうが多様性があって、もっともっと気軽に使って良い言葉なんじゃないかなって思いました。「恋と愛ってどう違うんだろう?」と思うことがあるんです。恋は心が下にあるから下心もあるものってよく言うように、「この人を自分のモノにしたい!」って欲望もあると思うんですけど……愛は欲望が絡まない、まっすぐなものなのかなと。
昔は外国の方たちがライブで「アイラブユー!」「愛してるよ!」って言ってることに少し違和感があったんですけど、今はその言葉をみんなに対してすごく言いたいです。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』からも学ばせてもらったんですが、小さな愛してるでも伝えたほうがいいって思ったし――このコロナ禍、明日どうなるか分からないじゃないですか。いろいろな人に愛してるを伝えたいって素直に思ってます。
■『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で愛について考える機会をもらえたことがキーポイントに──結城アイラ7年振りミニアルバムで音楽人生を振り返る