【アニメスタジオの今と未来】ボンズ・大薮芳広プロデューサーに聞く、『僕のヒーローアカデミア』の製作者視点の楽しみとは?【連載第1回】
デクのキャラクターデザインは変わってきている!?
ーー『ヒロアカ』の大ヒットを受けて何か変化はありましたか? また、人気作に携わる重大さや楽しさを教えてください。
大薮:『ヒロアカ』のような長いスパンの作品だったり、全国放送や夕方帯の作品にこれまでありがたいことに何度か参加させていただいていまして、特に制作デスクとしての一番最初の作品が『鋼の錬金術師』だったんです。
これは大ヒットして反響もすごくてとっても嬉しかった思い出があります。ただ、それ以上に当時はなかったSNSなどを通じて、今はファンの方からリアルタイムにダイレクトな反響をいただくようになって。これがすごい事だなと感じています。
これまで数字でしか見れなかったものが、周囲の反応で実感できるようになったし、国内だけでなく海外のファンとも繋がって共有しているのが非常に大きいですよね。
例えば、劇場版第1作目はロサンゼルスで先行上映させていただいたんです。
ちょうどオールマイトが海外留学するストーリーで、当初、オールマイトはアメリカの架空の場所に留学予定だったんですが、スタッフと話し合って「ロスにしよう! カリフォルニアだ!」と決まりました。すると上映中に「ロス」とオールマイトのシーンが流れた瞬間に会場が一気に盛り上がりました。
海外のファンのみなさんも熱狂度合いがすごくて、「僕たちのアニメが劇場になって、ここで最速で見られるんだ!」という感じがありました。熱狂具合が、輸入してきた作品を観て楽しんでいるような雰囲気ではないんですよ。
今は日本国内だけでなく海外の方とも、一緒に楽しんでいる感じがあるし、タイム差なしで共有できるんですよね。それが今の幸せです。
またスタジオの体制だけでいうと、作品の認知度が上がると自分から参加したいというスタッフが多く現れるというのも。今のアニメ業界にとってはすごくありがたいことだと思いますし。
ーーそれはすごい……! スタッフの反応も変わるのではないでしょうか?
大薮:これだけ人気の作品になると、詳しく説明しなくても「その作品、知っています」という方も多くて、共通言語が増えますね。
普通は制作途中から入ってもらうと、頭から説明しなければいけないんですけど、やっぱり「轟くんはこうだよね」「デクはこうだよね」みたいに、ちゃんと共通言語で最初から話しながら打ち合わせが組めるというのはすごくいいことだと思います。
ーーそういうことも含め、大きな作品に関わることの大変さは他にもありますか?
大薮:長崎さんと『ヒロアカ』を立ち上げるときに考えて話していたことで、『ヒロアカ』って堀越先生がネームとかをしっかりと作られていて、時系列もしっかり練られているんですよ。
なので、まずは原作をちゃんと踏襲して、視聴者が見て違和感があるモノは作らないようにしよう、というのが一番最初の考え方だったんです。
漫画とアニメって表現方法が違うので、まったく同じコマにはならないと思うんですよ。
もちろん、漫画で印象的なシーンは同じように作りますが、漫画のコマとは外れた表現方法をしても視聴者から「なんか違う」と思われないように作るのが大事なんです。
漫画は見開きに大きいコマがあったりするのですが、前のコマとの間を端折っていても最後の一コマだけで魅せることができます。漫画ならではの色々と時間をジャンプしているところもあるんですが、アニメだと一方向に時間は進み、もどることはできません。
そういったことを含めて、段取りを組みなおしているので、やっぱりちょっとポーズが違ったり、セリフを整理していたりすることもあるんです。そういったところが漫画を読んでいる方に対して違和感にならないような作品を作っています。
そんな事もあって長崎さんと僕が初めて堀越先生とお会いしたときに、「違うメディアということは認識してください」「違う表現方法になってしまうんですけど、それでもいいですか?」とお話したら、先生はむしろ「漫画のコマはそのまま使わないでほしい」と。
嬉しかった反面、それはそれでハードルが高いんですけどね(笑)。そんな話をさせてもらってからは、ずっと大事に思って作っています。
ーー同じ『ヒロアカ』だけど違う『ヒロアカ』を作っているということなんですね。
大薮:そうですね。アニメの表現方法で『ヒロアカ』を作っているということですね。
ーー先ほども少しお話にありましたが、『ヒロアカ』のように長く続いている作品ならではの裏話をもう少しお聞きしてみたいです。
大薮:実は、キャラ表も更新して5期からデクの描き方を大きく変えました。それまでも少しずつ変えている部分はあって、1期と2期にかけて一般人だったデクがトレーニングをすることで体が大きくなっていくので、5話くらいで一回変えているんですよ。
雄英に入学したくらいの時は、一年間のトレーニングの後なので身体つきが違うんです。これは、馬越さんの修正の中で変更しています。
2期からは少し筋肉の付き方を変えていて、キャラ表を更新するのも時間がかかるので、馬越さんの修正集を見ながら各自で確認していました。ただ5期にまで来るとさすがに馬越さんが最初に作ったキャラ表と今の馬越さんの旬の絵が違ってくるんですよ。
しかも、堀越先生のキャラクターの描き方もより洗練されていっているので。スタッフは「どのラインなんだろう?」って間を取りながら描いていました(笑)。
でも、3〜4年もやっていると作画監督さんがキャラ表を見なくても描けるようになったし、スタッフそれぞれの味も出てきて良くなりましたね。
ヒーロースーツだけではなく、表情や筋肉の付き方も変化しているので注目していただきたいです。
ーーなるほど。これだけ続いている作品だと、スタッフのみなさんもキャラ表を見なくても描けるようになるものなんですね。
大薮:なっちゃいますね。でも慣れてきた頃にヒーロースーツが新しくなるんですよ(笑)。「ここで!?」と現場は大慌てです。
ちょっと宣伝が入ってしまうのですが、ボンズから原画集を出しているので、ぜひ1期と2期のデクの違いを確認してみてください。
ーーまたズバリ、ご自身が感じる『ヒロアカ』シリーズ最大の魅力はなんでしょうか?
大薮:……なんですかね。簡単に言うと週刊少年ジャンプの王道作品といいますか。デクだけではないんですが、何もなかった少年が努力して仲間たちと切磋琢磨することで大きな力を得ていく、より大きいことを成し遂げていく、というのが全てだと思うんです。
『ヒロアカ』のいいところは、長いシリーズなのでデク以外の成長を描けるのもいいなと思っています。
「ヒーローとはなんぞや?」ということを、実は登場人物たちが多様性を持って考えていて。一番わかりやすいのはデクですが、爆豪はまた考えが違う。
なんでヒーローになりたいのか、ヒーローになるためにはどうすればいいのか、それを絶えず考えて努力しているところに青春を感じるんです。
ーーヒーローの多様性についてはすごく伝わってきます。
大薮:そうですね。5期になると1-Aのメンバーだけじゃなく、1-Bのメンバーたちも出てきます。物間寧人とかすごいんですよ。物間が「僕はやっぱり絶対的な能力を持っている主人公にはなれない」というところから自分のヒーロー像を作り上げるのは、それはそれですごいですよね。
そういった意味でも、『ヒロアカ』のすごさはハズレキャラがいないんところなんですよね。みんなすごく魅力がある。
5期の前半では、1-Bの子たちのバックボーンも見えていきます。ひとりの成長を取り上げてもいいし、周りの子たちの成長を見てもいい。仲間がいるから強くなれるというところが週刊少年ジャンプの王道らしくて、やっぱり面白さがブレないんですよね。そこがすごいです。