劇場版『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編Paladin; Agateram』島﨑信長さんインタビュー|1部第六章から劇場版[HF]、『月姫』まで、TYPE-MOONの魅力を語り尽くす
藤丸立香が、大勢の英霊に信頼される理由とは
ーー藤丸立香といえば、いろいろな英霊達から厚い信頼を寄せられています。彼が信頼や好意を寄せられる要因はどこにあると考えられていますか?
島﨑:何事にもニュートラルだからじゃないかなと思っています。思想の偏りとか偏見みたいなものがなくて、ありのままに相手に接することができるというか。これはそのニュートラルさによるものだと思うのですが、彼の周りにいる英霊達は個性の固まりみたいな人たちばかりなんですけど、藤丸は相手によって自分の色を変化させている印象があるんです。
これが、もし藤丸の方も強い個性をもっていたら、どこかでぶつかり合わないといけない場面も出てくると思うんです。その結果、より絆が強くなるということもあるかもしれないけど、藤丸の場合はどんなに尖った英霊と相対しても、尖った部分を受け止めつつ、うまくハマれる柔軟さがあるなぁと。
ーー確かに、様々な英霊と仲良くなれるのがすごいところです。
島﨑:これは少し世界観設定の話になりますけど、そもそも『FGO』では、人理焼却によって世界全体が危機に陥っている状況なので、英霊が元々協力的なんです。聖杯戦争では、マスターと英霊がお互いを利用しあうこともありますが、カルデアを取り巻く状況って、人理を守護する英霊が果たす本分の役割に近いところがあって、自然と協力しあう流れができていることにも助けられているのかなと。
また人理を救うため、自らを投げうってひたむきに頑張る藤丸の姿を見て心を動かされた英霊も多いと思うので、例えばもし藤丸が聖杯戦争に参加して、個人的な願望のために戦っていたなら、今ほど円滑に信頼関係は築けなかった気がします。中にはひねくれた人もいますが、やっぱり皆基本的に英霊なので、善良な一般人が一生懸命に頑張っていたら、力を貸してあげたくなるんじゃないんでしょうか。
あとは、藤丸自身が歴史や英霊に対して深い知識をもっているわけではないので、恐縮しすぎたりしないのもいいところなのかなと思います。もし彼が生粋の魔術師だったら、王様や神のようなサーヴァントに対して変に距離をとったり、臣下のような関係性になってしまいそうだなと。
ーー『Fate/Zero』の遠坂時臣とアーチャーのような。
島﨑:そう、あの関係になると、「うまくやろう」という考えが先に来て、自然とお互いの距離も開いてしまうと思うんです。藤丸はそのあたりの感覚が一般人に近く、ちょっと天然でのほほんともしている一方、結構ズケズケとした物言いをすることもあり(笑)。ただ、それに悪意がないことは相手にも伝わっているし、どんなにすごい英霊に対しても、神や王としてではなく、一人の個人として向き合うことができるのが、彼のいいところなのかなと思っています。
ーー映像化が行なわれた第六・七章は、『FGO』の中でも比較的物語が進んだエピソードになりますが、キャラクター同士の距離感について苦労された部分はありますか?
島﨑:その点については、僕自身が『FGO』をプレイしていて良かったなと思いました。それまでの旅であった出来事を知っていて、藤丸がそれまでに抱いてきた感情であったりを想像することができていたので、自然と距離感や関係性を表現できたような感覚があります。
藤丸については、先程も言ったようにニュートラルで、良い意味で幅やブレがあるキャラクターなので、事前に「こう演じよう」みたいな方向性を固めすぎると、逆に彼っぽさが失われてしまう気がしていて。情報だけをインプットしておいて、そこから湧き出る自然なリアクションだったり感情だったりを表現する方が良いのかなと考えていますね。
ーーそういった意味では、島﨑さんにとっては比較的自然な感覚で演じられるキャラクターだったのでしょうか。
島﨑:そうですね。情報が自分の中にあるので、困ることも少ないですし、ゲームではプレイヤーの数だけマスター像があって、藤丸はそれとは違った独立した存在になっているので。
さらに言ってしまえば、同じ藤丸立香でも、関わるスタッフさんの違いがあって、例えばキャメロットとバビロニアの藤丸立香が完全に同じかというと、ちょっと違うと思うんです。それには見え方といった部分も影響していて、例えば劇場版のキャメロットではベディヴィエールの視点をベースに進行するので、藤丸自身は変わっていなかったとしても、自然と違うように見えることもある。
事前に演技を固めすぎていない分、パッションで演じている部分もあるのですが、彼自身いろいろ考えるんだけど、最後は気持ちや感情を優先させるところがあるというか、藤丸自身もパッション型だという印象があるんです。
彼は基本的には物事についてよく考えていて、自分が無茶な行動をすると、マシュに余計な負担が掛かってしまうというリスクも十分わきまえているのですが、それでも咄嗟に身体が動いてしまう時もある。なので僕自身も、ある程度は考えるようにしながらも、最終的には感情の部分を大切にするように演じています。