SNSで話題&重版出来! 新世代ダークヒーロー鬼譚『桃源暗鬼』が生まれた意外な背景が明らかに!? 最新4巻発売記念 漆原侑来先生インタビュー
むか~しむかし、あるところに、鬼と桃太郎がいました。自らの凶暴性を自覚するがゆえにひっそりと暮らしていた鬼たちでしたが、鬼の危険性を察知した桃太郎が鬼を攻撃しました。そこから抗争することうん千年……『桃源暗鬼』は、桃太郎と鬼の因縁が密かに続いている世界が舞台です。
漫画家・漆原侑来先生の、新世代ダークヒーロー鬼譚『桃源暗鬼』(週刊少年チャンピオンで連載中)。SNSでも話題を呼んでいる本作の4巻が6月8日(火)に発売! 最新刊の発売を記念して、漆原侑来先生にオンラインでお話をうかがうことができました。
単行本でお馴染みの担当編集のダーニャさんにも参加いただき、『桃源暗鬼』が生まれた背景やイケメンぞろいのキャラクターについて、最新刊の見どころなどを教えていただきました。
「桃から生まれた桃太郎」。では『桃源暗鬼』はどこから生まれた?
――少年チャンピオンに本作を持ち込まれたことをきっかけに連載がスタートになったとのことですが、持ち込みに行かれたきっかけを教えていただけますか?
漆原先生(以下、漆原):少年チャンピオンに掲載されているヤンキー漫画が好きだったんです。『クローズ』、『WORST』、『クローバー』、『ナンバデッドエンド』、『ナンバMG5』などが自分の中のどストライクで。それで電話をさせてもらったことがきっかけです。
――単行本で最初に持ち込みに行かれたときの雰囲気を書かれています。持ち込みに行ったその足で、そのまま担当編集のダーニャさんに誘われて飲みに行かれたとか(笑)。
漆原:まさかその日のうちに飲みに行くとは思わず(笑)。帰りの記憶がないくらい飲みました。でも最初は緊張していて。ネームを読まれる=けちょんけちょんにされるって気持ちでいたので……。
ダーニャさん(以下、ダーニャ):いやいや。もうネームの時点から異才を放っていたというか。他作品と比べるものではありませんが、一線を画していたというか。クオリティがとても高くて驚きました。基本的には、『桃源暗鬼』の設定は当時と変わらずなんです。最初は喫茶店で話していたんですが「これはそのままお仕事の話しなきゃ」と思い「急ぎで仕事を切り上げてくるんで、このまま飲みに行きましょう」って。
漆原:あの時は楽しかったですね(笑)。
――持ち込みにいかれた時点で4話分まで描かれていたそうですね。
漆原:そうですね。正確にいうと最初に持っていったのは3話分で、掲載時にそれを分割したような形です。
――誰もが知るおとぎ話の世界がベースとなった『桃源暗鬼』は、どのようにして生まれたのでしょうか。
漆原:最近難しい漫画が多いように感じているんです。漫画の専門用語が入れても止まらずにさらっと読めてしまう漫画ってあるじゃないですか。そういうものに憧れていたんですが、私の場合は性格的にどうしても気になってしまって、専門用語の説明を入れたくなってしまうんですよね。「あ、自分には難しい漫画を描く才能がないんだな」って(苦笑)。
それで「漫画初心者の方にも分かる漫画を作ろう」と思って、だれもが知ってる桃太郎の世界を舞台にした漫画を描くことにしたんです。物語の流れ、設定もシンプルだと思います。難しい漫画を描けないんだったら中途半端なことはせずに、めちゃくちゃ分かりやすい漫画を作ろうと。
―― 一般的には桃太郎が正義とされていますが、鬼がヒーローで、桃太郎が悪……という立ち位置にした理由はなんだったんでしょう?
漆原:実は最初にネームを切ったとき、桃太郎が主人公だったんです。
ダーニャ:そうだったんですか? それは知らなかったです。
漆原:それで一回書いてみたんですが、よくよく考えたら『最遊記』というすごい漫画があるじゃないですか(笑)。自分は『最遊記』も大好きなんですよ。で、「これって同じことをやってるだけじゃないか」って思って、少しひねりを入れたんです。それに鬼の方がピンチになりやすいので、描きやすいところもあるんじゃないかなと。それで鬼を主人公にしたような感じです。
――なるほど! また『桃源暗鬼』にはたくさんのイケメンが登場しますが、キャラクターを作るにあたって意識されたことはあるんでしょうか?
漆原:単純にイケメンを描くのが好きなんですよ(笑)。イケメンをたくさん描きたいなと思っておりました。
――イケメンを描くのが好きというのは昔からですか? それとも何かきっかけがあって?
漆原:高校時代からです。学生時代の環境が少し特殊で。その後美容師をやっていたこともあって、イケメンを目にする機会が何かと多かったんですね。ただ私は人前に出ることが苦手だったので、美容師は向いてなくて辞めてしまうんですが(苦笑)。
あと、BLが好きなことも関係しているのかなと。中村明日美子先生が大好きなんです。特に目の描き方は中村先生の影響を受けています。
――中村先生の作品にはどのように出会ったんですか?
漆原:偶然だったんです。23歳、24歳くらいの時だったと思うんですけど、たまたまヴィレッジヴァンガードに行ったときに中村明日美子先生の漫画が置いてあって。BL作品とは知らず、絵が好きだったので買ってみたんです。そこからいろいろと読むようになりました。
『桃源暗鬼』を彩る個性豊かなキャラクターたち
――ここからは3巻までに登場した主要キャラクターについておうかがいさせてください。まずは主人公の一ノ瀬四季から。四季は“脳みそ根性野郎”と呼ばれるような、熱さを持っています。
漆原:そもそもヤンキー漫画を描きたかったので、主人公の四季にはヤンキー気質を入れたいなと思ったんです。今まで読んだヤンキ―漫画の影響から生まれた主人公ですね。ただ正直言うと、四季がいちばん動かしにくいキャラクターなんですけどね……。
――へぇ! その理由をうかがいたいです。
漆原:自分の要素があまりないんですよね。完全に性格も真逆なので……。あと、こういう主人公ってどうしても正論を言わなきゃいけないじゃないですか(笑)。自分の性格上、正論が言えないんですよ。なんていうんですかね……意外と周りの空気を読んでしまうというか。自分の意思をズバッというタイプじゃないから、(ズバッと言える主人公に対して)ちょっとした憧れもあるんです。「ここでこのセリフを言う四季って正しいのかな」って毎回悩みながら書いています。
――例えば3巻にはと芽衣(鬼の両親を持つ子ども)を抱きしめながら「俺が! この先笑って暮らせる世界にしてやる!」と叫ぶシーンがあって。今のお話うかがって、ものすごく悩まれて生み出された言葉だったんだろうなと。
漆原:そうですね。私はそういう場面でも遠くで見ている第三者的な立場なので(笑)。「こんなセリフ言えたらカッコイイな」と思いながら書いたところですね。
――今のお話を聞いてダーニャさんが少し驚かれている様子ですが……。
ダーニャ:あ、はい。というのも、5巻以降に収録の話になってしまうんですが、四季の言葉は優しいし、熱いし、でも冷静に見つめてるところもある。読んでいて「いよいよのってきたな」と思っていたところがあったので、今お話を聞いていて、少し意外に感じましたね。先生の中でうまく感情をのっけているんだろうなと思っていたので。
漆原:いや~……毎回めちゃくちゃ悩むんですよ(苦笑)。性格的にいちばんノリノリで描けるのは、手術岾(きりやま)ロクロなんです。いちばん自分に似てます。
――鬼側のロクロは3巻の最後の重要なキャラクターですね。SNSの反応を気にしていたり、病みぎみだったりと、現代的な性格といいますか。でも私もそういうタイプなので、すごく分かります。
漆原:不安症でネガティブで。でもあのキャラクターが主人公っていうのは難しいので(笑)。以前富樫先生の本を読んだときに『HUNTER×HUNTER』の「(主人公の)ゴンが動かしにくい」といったことが書かれてあったので、動かしにくくても主人公で良いんだなと腑に落ちたところがありました。
――絵的な部分ではいかがですか?
漆原:最初は描きやすいと思ったんです。でも髪の毛の構造を理解していくと「めちゃくちゃ描きにくいな」と(笑)。
――他のキャラクターも髪形・装飾品などを細部までこだわられていて。美容師の経験があるからこそ髪形は気になるポイントなのかもしれませんね。ちなみに四季の髪形はどんなところが難しいと感じられているんでしょうか。
漆原:最初に後ろに流れるような髪形にしたんですが、最近「あれを前にしておけばよかった!」と思うことが多くて。絵を描いていくなかで少しずつ画力が上がっていくうちに、その違和感が膨らんでいって。アップのときは髪の毛にトーンを使うんですが、真ベタのときにうまく流れが出せなくて書き直すことも多いです。とは言え、主人公の髪形は変えられるものではないので、慣れるしかないなと思いつつ(笑)。
――四季が「舎弟にしてくれ…」と頼み込むほどの強さを持つ、鬼の学校「羅刹学園」の教官・無陀野無人(むだのないと)は描きやすさという点ではいかがですか?
漆原:実は無陀野も髪形を描くのが難しいキャラクターです(笑)。髪の毛を耳に掛けてるんですが、顔の角度によっては掛けてる側がうつらないことがあって。横から見ても髪の毛を出すべきか、出さないべきか、いつも悩みますね。そこは盲点でした。いまちょうど描いてる原稿で無陀野が結構動くんですが、激しい動きのときは横の髪も垂らしてしまおうと。
――無陀野はローラースケートを履いていたり、仕込み傘を持っていたり、また、合理的でありながらも優しい一面も持ち合わせたキャラクターです。どのように生まれたのでしょうか?
漆原:先生という立場の人間だから合理的なキャラクターのほうが良いだろうと。ローラースケートは……かかとにローラーが入ってるローラーシューズってあるじゃないですか。私の弟が中学生のとき、どこに行くにもあれを履いていたんです。慣れてくるとめちゃくちゃ速いんですよね(笑)。キャラクターを考えてるときに「そういえば、あれを履くと移動が速いな」と思い出して。体力使わずに早く動けるなと思って履かせました。実際、コンクリートは走りにくい場合もあるんですけど、見た目のインパクトを重視しています。
傘に関しては……実は「雨過転生」(うかてんせい)という技(作中で「血触解放」と呼ばれる技)を先に思いついて。雨に関した技だと傘を持っていたほうが印象的だろうし、最初にキーアイテムを持っていたほうが後々いろいろな理由付けもできるかなと思って、傘を持たせることにしたんです。
――皇后崎迅(こうがさき じん)は、鬼側の中で頭ひとつとびぬけた実力を持つ、少し影のあるキャラクターです。最初は四季との折り合いが悪かったものの、意外な共通点も明らかになり、少しずつ打ち解けていきます。
漆原:主人公の四季がああいうキャラクターなので「対比させたほうがいいな」という安易な考えから生まれました(笑)。とにかく四季とは正反対で、結構な過去を持っていて。それを象徴するかのように身体中が傷だらけ。設定は考えているんですけど、まだ本編では書けていないので、これからという感じですね。四季と少しずつ打ち解けていく感じが読んでいて面白いんじゃないかなと思ってます。
――これから先のお話で、皇后崎の過去が明らかになっていくのでしょうか。
漆原:そうですね。皇后崎に関しては今後過去が分かっていく回が出てきます。
――楽しみにしています。3巻で大活躍する花魁坂京夜(おいらんざかきょうや)はいかがですか? 3巻のおまけのページに「描く時のポイントは前髪の分け目と流れをどううまくごまかすか」と書いてありましたが(笑)。
※花魁坂京夜:鬼機関・京都支部の援護隊総隊長。教官・無陀野の同期。
漆原:自分がその時描きたいイケメンを描いてしまったがゆえに、めんどくさい髪形になってしまったんです……(笑)。イケメンを考えている最中はすっごく楽しいんですよ。でもそれを毎週描くとなった途端に絶望します(笑)。
――(笑)。少しチャラいところもある京夜ですが、治療に関しては一流という、あのギャップが魅力的です。
漆原:身近に医療に携わっている方がいるんですが、命が身近にある方って……仕事の時は冷静でありながら、普段はユニークな方が多いように感じていて、そのギャップにドキッとするなって。それで「命のやり取りをしているときに飄々としているイケメンって良いかも」と。3巻ではあまり彼のことを描けなかったので、これから先、ちょいちょい出していきたいなと思っています。
――では、「桃太郎機関」側のキャラクターについてもおうかがいできればと思います。桃太郎機関の中心人物・桃宮唾切(つばきり)は冷酷なキャラクターです。
漆原:桃太郎と四季たちが戦うにあたって「この世界では桃太郎ってこういうヤツなんですよ」という印象を与えられたらなという思いから生まれたキャラクターです。中途半端に良いヤツだと複雑化してしまうので。
――悪を悪として描き切るというか。私は唾切のパートナー的存在である桃草蓬(ももくさ よもぎ)が好きなんですけど、彼女は良心のようなものは持ち合わせているのでしょうか。
漆原:私も蓬は好きですが、鬼に対しての良心はこの2人は持ち合わせてないですね。そこを持ち合わせちゃうと、ちょっとイイヤツになってしまうので。
――なるほど。蓬はムチムチとした体格もかわいいですね。服もかなりセクシーで。
漆原:漫画に出てくる女の子、全員ムチムチしていて(笑)。(鬼側の)屏風ヶ浦帆稀(びょうぶがうら ほまれ/小柄なキャラクター)を描いたときはムチムチではなかったんですけど、蓬のペン入れをしたときに「ムチムチに描くの楽しい!」と目覚めてしまって……。
――作品を描き進めていくうちに、先生としても新たな気付きがあったんですね。そして、唾切、蓬は「アグリ」と呼ばれる謎の怪物を引き連れていますが……先生が好きなイケメンでもムチムチでもないですね(笑)。
漆原:アグリは描きにくいです。表情も大して分からないし、イケメンじゃないし、ムチムチでもないし(笑)。毛のボサボサ感を毎週描くのが大変ですね。
※アグリ:桃太郎機関が生み出した犬・猿・雉の集合体怪物。
――今はどれくらいのペース配分でネーム、作画を進められているんでしょうか。
漆原:1日半くらいでネームを切って、残りの全てを作画に費やしているような状態ですね。ありがたいことに絵を褒めていただくことが多いんです。絵のクオリティは下げられないなと思い、絵に力を入れてます。
――アシスタントさんは何人くらいいらっしゃるんですか?
漆原:レギュラーで2人ですね。だから自分で描くページも多くて。大きなページだったり、背景だったりをアシスタントの方にお願いする感じです。
――能力(血蝕解放)を使うシーンや重要なシーンでは、まるっとページを使うことが多いですよね。ページを丸々使うって結構勇気のいることのように感じるんですが、どうなんでしょうか。
漆原:自分の場合はコマ割りを小さくすると不安になってしまうんです(笑)。絵を大きく見てほしいという気持ちがあって。ネームの段階でも大きくコマを取っているので、打ち合わせのときに「ここの部分はもう少し分割してもいいんじゃない?」と提案されることもありますね。