今夢を追いかけている人、もしくは夢を諦めかけている人たちに向けた応援歌のような映画――『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督×松尾亮一郎プロデューサーインタビュー【前編】
オリジナルキャラクター・アラン誕生の秘密とは?
――気になったことのひとつが、劇中劇(ジーンが監督として撮った映画)の『MEISTER』です。杉谷庄吾【人間プラモ】先生はお任せするスタンスだったとのことですが、それは劇中劇に関してもでしょうか?
平尾:そうですね。
松尾:なにひとつ「こうして欲しい」といったリクエストはなかったです。
平尾:劇中劇のストーリーは原作1巻の情報しかなく、劇中劇とジーンくんがリンクするようにしたいと杉谷さんにお話させていただいた以降は、こちらで預からせていただきました。
――そうなのですね。原作よりもさらに具体的なシーンが出てくるので、てっきり先生とすり合わせたのかと勝手に想像していたのですが。
平尾:普通に考えるとそうですよね(笑)。でも、杉谷さんからは「お任せします。こちら側から口を出すことはしないです」とだけで。それがむしろプレッシャーというか(笑)。
アニメーション化するにしても、最終的に原作モノは原作者のものだと思いますので、それを預かる気持ちなんです。返す時は無傷で、できればプラスしてお返ししたい。でも、杉谷さんはそういうスタンスでしたので、こちらでポンポさんへの思いを作品にさせていただく感じで進めました。
――何も言われないで任される方が、逆にプレッシャーを感じますよね。
平尾:でも、全く何もなかったわけではなくて。(オリジナルキャラクターの)アランくんは最初の提案書から盛り込んでいたのですが、そのお話をした時に「このキャラクターだったら、もともと漫画に出そうと思っていたキャラクターのデザインが使えるのではないか」と言っていただきました。
大阪で会ってから、東京に戻ってきて1週間ぐらいで杉谷さんが描いたアランの原案が届いたんです。それを足立さん(キャラクターデザインの足立慎吾さん)に描き起こしてもらいました。
――劇中劇もそうですが、松尾さんからのアイディアもあったりするのでしょうか?
松尾:脚本打ち(脚本の打ち合わせ)の場でみんながいろいろな意見を言うことはありましたけど、明確に僕がこのシーンをこうしました、という意識はないですね。
平尾:そうですね。脚本打ちには松尾くんや富澤さん、KADOKAWAの方たち、担当編集の方もいらっしゃって、シナリオを読んで気になるところや、ここはおかしいのではといったところなど忌憚ない意見をいただきました。
例えば、アランくんは、もともと僕の最初の脚本段階では、「ジーンに触発されて、自分もやりたいことをやるために会社を辞める」というストーリーだったんです。でも、皆さんの意見をすり合わせていった時に、「辞めないほうがいい」「ジーンを助ける役を担った方がいいんじゃないか」と意見をいただいて、今のような展開になりました。
松尾:こちらからアイデアを出したという意味ではワイプでしょうか。
平尾:そうですね。今回の映画ではワイプを結構使っているのですが、そのきっかけをくれたのは松尾くんだったと思います。コンテを描いている時に、ふっと「最近、ワイプって見ないんだよね……」と言いながら去っていったから、それだ! と思って(笑)。
最後のギリギリまでこだわった美術、丸1年かかった劇伴製作
――実際の制作過程で、特に苦労した部分やこだわった部分をお聞かせください。
平尾:全部が全部苦労したので一概には言えないですが、その中で特に頑張っていただいたのは美術と劇伴です。僕が大変にしたんですけどね(笑)。皆さんにご迷惑をおかけしたんじゃないかと思います。
――具体的にはどのようなことでしょうか?
平尾:作品の舞台であるニャリウッドはアメリカのハリウッドをモデルにした架空の世界で、ジーンやナタリーにとって夢を叶える街ですよね。そういった街はやっぱりキラキラした印象があって欲しい。だけど、眼に痛い画面にはしたくない。
なので、今回は“美術監修”という形で僕と監督助手の三宅寛治さんが入りました。あげていただいた美術はもちろん素晴らしいんですけど、そこに世界観を加えていく作業を本当に最後の最後のギリギリまでしていて。そこが苦しくも楽しい作業でしたね。
そして、劇伴に関しては、挿入歌も含めて丸1年ぐらいかかっているんですよ。
松尾:松隈さん(音楽の松隈ケンタさん)と関係者試写でお会いした時に、「どれくらいかかったんでしたっけ?」「(大げさに)2〜3年かかった気がしますよね(笑)」と話したぐらいで。コロナ禍で直接会えなかったこともあるとは思いますけど、リモートで何回も何回もやり取りして気づいたら丸1年経っていました。
平尾:この作品の音楽は、A・B・C・Dとパートが進んでいくにつれて重厚になっていくんです。物語が緩やかな変化をしながら重層的というか、複合的になっていきますので、音楽もそれに合わせて複雑で重厚なものにしたい……でも、1本の映画として音楽の統一感は欲しい。
それで「この楽器の音が気になるからもうちょっと下げて欲しい」とか、本当に細かいところまでやり取りを重ねました。松隈さんは相当大変だったと思いますが、打ち合わせではいつもニコニコしてくださって、申し訳なかったと思いますね。
――音楽も全体を通して映画っぽいといいますか、盛り上げ方が毎週のアニメとは違うと感じました。
平尾:一番大きいのは、厳密な意味ではないですが、結果的にフィルムスコアリング(※)になったことですね。ほぼほぼ出来上がった絵に合わせて音楽の抑揚をつけていきました。音楽を映像に合わせようとすると、本来の曲調からキャラクターの感情に合わせて上げたり下げたりしなきゃいけないので、結構大変なことなんですよ。
※映像に合わせて音楽をつけていく手法