夏アニメ『ピーチボーイリバーサイド』はなぜシャッフル放送を取り入れたのか? 原作ファンをがっかりさせないための制作意図を上田繁監督に聞く【スタッフインタビュー】
原作のファンをがっかりさせたくない!! 上田監督のアニメ化にかける熱いポリシー
――オリジナル展開というアイデアは?
上田:オリジナル展開の意見もありましたが、僕は絶対にやりたくなかったんです。これは僕が漫画やアニメのファンだった子供のころから感じていました。やっぱり漫画で描かれているままのアニメを見たい! 尺が足りなくてオリジナルを描き足すのは仕方ないし、決して悪いことじゃないですが、『ピーチボーイリバーサイド』はコミックがその段階でも第6巻まで出ています。尺は十分に足りているので、オリジナルの展開を入れるのは嫌だったんです。しかも、完結していないお話なのに、アニメで結論を付けたくありません。だからといって、バッサリと中途半端なところで切るのは難しいです。
――原作のファンからしたら、至極当然の意見です。
上田:しかもシャッフルをすると、ちょうどお話の終わりにするのに最適なシーンがあるんです。
――では、シャッフル放送によって、すべての問題がクリアーに?
上田:そうなんですよね。それしか考えが思いつきませんでした。他のやり方ですすめるとしたら、再構成するしかないと思います。原作者サイドのみなさんは寛容で、「好きにやっていいです。オリジナル展開も構いません」と言ってくださっていましたが、僕がやりたくなかった。
――監督の作品愛が伝わってきます。
上田:それに、シャッフルの手法はアニメではよくやることです。『涼宮ハルヒの憂鬱』とかね。アニメ界では前例もあるので、視聴者さんは混乱せずに見られると思います。
――ですが、シャッフルにすると作業の労力は増えませんか?
上田:きちんとした原作があるので、そんなに大変ではありませんでした。それに、脚本は放送順ではなくて時系列に沿って作っています。制作とアフレコ収録はシャッフル順でしたけどね。
――時系列に収録しないと、声優さんたちは迷いませんか?
上田:はい。それも意図的にやっています。キャストのみなさんにも、視聴者さんと同じようにシャッフルを体感していただき、演技に乗せてほしかったんです。だから何人かのキャストさんは早い段階で僕のところに来て、「なんでシャッフルしてるんですか?」と不思議がっていました。意図を伝えちゃうと迷ってくれないので詳しくは伝えられませんでしたが、「意図はあります」とだけ伝えました。
――上田監督の作戦は成功ですね。
上田:もちろん不満ではなく、ずっと疑問に思っていたみたいです。ただ、その疑問が欲しかった。すべて収録が終わってからきちんと説明させていただいたら、みなさん納得してくれました。なので成功したと思っています。
――シャッフルに放送されると、原作ファンも「次にどの話が放送されるのか?」を楽しめますね。
上田:そういった楽しみ方もあると思います。シャッフルの理屈があるんです。原作ファンのみなさんも、最後まで見たらその理屈に気づいてくださると思います。
テレビのオンエアは原作の第2話から!dアニメでは時系列版も配信決定
――伺いにくいのですが、序盤だけでも放送順をお聞かせいただけませんか?(笑)
上田:どこまで情報を出していいのかわかりませんが……では序盤の序盤だけ(笑)。僕たちはテレビで放送される話数を「OA第○話」と呼んでいます。アニメ第1話(OA第1話)は「時系列の2話」で、アニメ第4話(OA第4話)は「時系列の1話」で放送されます。それだけではなく、実はもうひとつ仕掛けを用意しているんです。
――もうひとつの仕掛けですか?
上田:アニメ配信サービスの「dアニメ」さんでは、「オンエア版」とは別に「時系列版」も配信するんです。
――えええ!?
上田:なので原作の流れのまま見たい方は、dアニメの「時系列版」を見ていただきたいです。dアニメのユーザーさんは、別の楽しみを味わっていただけます。おもしろいことに、すでに見たスタッフのなかで「シャッフル版の方が理解しやすかった」と言ってくれた方もいました。
――それも、さきほどの「多様性」を体現した結果ですね。
上田:要素が多い作品なので、彼にとってはシャッフル版がわかりやすかったのでしょう。ひとつひとつを読み解きながら楽しむ作品なら問題ないけど、テレビアニメは12話完結です。なので、アニメとして観るのならシャッフルのほうが理解しやすかったのかもしれません