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- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
ーー『時をかける少女』や『サマーウォーズ』のお話が出たので、お聞きします。監督の過去作が本作で影響を与えてる部分などはあるのでしょうか?
細田:作品には連続性というものがあって。ずっと「面白い映画とは何か?」「今まで作られていなかった映画をどうやったら作れるのか?」って考えていくと、テーマにも連続性ができてきます。
『時をかける少女』からの連続性として、今回の『竜とそばかすの姫』っていうものがあると思います。
『サマーウォーズ』は言うに及ばず、インターネットという連続性がある。
それを形を変えて描いています。例えば、家族の問題や子供や若い人が成長していく過程をどうやって形を変えて描けるかを基本的にずっと考えているからです。
『おおかみこどもの雨と雪』だって『美女と野獣』っぽいんですよね。狼男と少女の恋愛っていうのは『美女と野獣』みたいですよね。『美女と野獣』のその後みたいな(笑)。
『バケモノの子』も、『The Boy and The Beast』っていう英題でしたからね。同じなんですよ(笑)。
だから、そういう意味でもやっぱり連続性があるんですよね。今回はかなり最初から銘打って現代の『美女と野獣』だ、恋愛ものだってやっていますけど、昔からやってるんです(笑)。やっぱり『美女と野獣』の影響が大きいからなんですよね。
ーーよほど、『美女と野獣』という作品は監督のルーツなんですね。
細田:うん。もちろん他にもルーツのものはいっぱいあるんですよ。『ミツバチのささやき』とか『七人の侍』とか『あしたのジョー2』とか。
そういったいろんなモチーフを自分の中に落とし込んだら、どういう映画になっていくんだろうって思うところもあります。
そして、自分の作品がモチーフになることもあるんです。『竜とそばかすの姫』は、『時をかける少女』の「一人の女の子を巡って、二人の男の子がいる」という要素が含まれています。
他にも川沿いを歩くシーンもあったり。『竜とそばかすの姫』は、高知が舞台なんですけど、学校の行き帰りに大きな川があるんです。鏡川っていう川なんですけど。やっぱり、川がある町っていうのは映画的ですよ。絵になりますね。
東京だとなかなか描けませんからね。『時をかける少女』のときは無理やり荒川の方に行ってそういう画を作りました。東京の川だと深く掘ってある側溝みたいなのが多いですから。
いいなぁと思うのは、金沢の犀川とか京都の鴨川ですよね。やっぱり青春期に川沿いを誰かと歩くことがあったら良いですよね。
高知の鏡川もそんな理由があったので選びました。青春を語る上でも、舞台立てとしてもこの町は最高だなって思ったんです。
ーー監督の「スタジオ地図」でのご活動も10年になります。これまでの活動を振り返えられていかがですか?
細田:「スタジオ地図」のいいところは、主体性があるところなんです。基本的に外部から発注があってそれを作る会社じゃないこと。
誰にも頼まれていないのに企画して、みなさんにプレゼンして、協力していただいて、一緒になって作るっていうスタイルなんです。
その分、「何を作るべきか?」という部分からスタートできるので、映画そのものに対して敬意を払えるところがあると思うんです。こういうスタイルじゃないと『おおかみこどもの雨と雪』や『未来のミライ』なんて作品は絶対生まれないわけで。
夏休みのアニメ映画で、おおかみの子どもと未亡人の家族を描く映画なんて、有り得ないじゃないですか(笑)。
ーー確かに!(笑)
細田:でしょ(笑)。普通だったら絶対有り得ないわけ。『サマーウォーズ』をみんなに観てもらえたから作れる映画なんですよ。プロットだけ聞いたらこんな企画、通りませんよ(笑)。だけど、そんな映画が作れるスタジオなんです。
僕は、まだアニメーション映画で作られてない映画がいっぱいあるんじゃないかと思っているんです。
惑星大崩壊! カタストロフ! みたいな、いかにもアニメだからこそ描けるのもアニメの醍醐味ですけど、そうじゃない今まで描けて無いことだってあるはずなんです。
『時をかける少女』もまさにそれで、「アニメにして何になるんだ?」って散々言われましたから。しかもそんなものを単館で上映して、「何のお金にもなりゃしない」「これでお前は最後だ」って何度言われたことか。
でも、『時をかける少女』がなければ『サマーウォーズ』もなかったわけだし、そう考えると挑戦はすべきですよね。失敗して次の作品が作れなくなったりすることもあるかも知れませんが、それも含めて「映画」なんです。そして、作ったとしてもいろんな緊急事態宣言が起こるんです。
ーーここ2年は映画業界も苦しいときです。
細田:映画っていうのは常にそういうリスクに晒されてるんです。それでもやっぱり、そういう中でも面白いものとか今まで見たことが無いもの作れる可能性があるんだったらチャレンジする。そんな意味で「スタジオ地図」をやっているんでしょうね。
ーーファン的にも、個人的にも、監督には生涯現役で作り続けてほしい気持ちはあります。ご自身はどう考えていますか?
細田:生涯現役でやるかはわかりません。映画を作るのは楽しいんですけど、作っているときが一番楽しいんです。完成するとつまんなくなるっていうか。
映画作りの楽しいこともしんどいこともいっぱい体験していますけど、まだ映画っていうのがどういうものか自分の中で把握できてるわけではないので、勉強していい映画が作れたら良いなとは思っています。
やっぱりいろんなことを試す機会がもっと必要だなと思うんです。一過性の金儲けに走っちゃうとなんか時間の無駄っていう気がしちゃう。お金が儲かっただけみたいな感じのもつまんないので。
それよりはもうちょっと表現の幅を広げるような事ができたら、僕のあとに映画を作る人も、もちろん観る人も、いろんな感情でアニメーションや映画を楽しめるんじゃないかなと思うんです。
ーーファンのみなさんはそれを楽しみにしているのだと思います。
細田:そういうふうに言ってくださると、勇気付けられますよね。すごくチャレンジな企画をいつも考えていると、「果たしてこれ誰が求めているんだ?」という気持ちになることもあるんです。
今回だって自分は『美女と野獣』っていうものに対して、すごく強い使命感を持っていますけど、他の人は知ったこっちゃないですからね。
ということは思いつつも、うまくできたら作る意味があるんじゃないかと思いながらやってるんですよ。
[インタビュー/石橋悠]
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
(C)2021 スタジオ地図
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2021年7月16日(金)全国東宝系にて公開
自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。
<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。
数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。
現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。
もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。
■監督・脚本・原作:細田守
1967年、富山県出身。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社し、アニメーターを経て演出(監督)になる。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督としてデビューを果たす。
その後、フリーとなり、『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)を監督し、国内外で注目を集める。11年、プロデューサーの齋藤優一郎と共に、自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)でともに監督・脚本・原作を手がけた。
最新作『未来のミライ』(監督・脚本・原作)は第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出され、第91回米国アカデミー賞の長編アニメーション映画賞や第76回ゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞にノミネートされ、第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞した。
■企画・制作:スタジオ地図
■製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網 共同幹事