「ただそばで寄り添う曲も、ひとつのメインテーマなんじゃないかなって」15周年を越えて訪れた気持ちの変化と新しい音楽づくり──移籍第一弾アルバム『momentbook』をリリースするMay’nにインタビュー
デビュー当時の思いを切り取った曲から半蔵門線をイメージした曲まで!?
──では、他の新曲についてもおうかがいさせてください。「SUMMER DREAM」は歌への思いを乗せたサマーチューンで、h-wonderさんが作曲と編曲を手掛けられています。
May’n:夢に憧れていた時代の歌を作ってみようかなと思ったんです。自分の大切な瞬間を切り取ったアルバムにしたいと思ったとき、あまり切り取ってこなかった歌詞の世界も書いてみたいなって。
これまでは、悩んでいたこと、うまくいかないなって思っていたことを歌にすることがどちらかと言えば多かったので、初めて夏フェスに行って「こういう大きなステージに立ってみたい!」って思った瞬間や、夏フェスでのトキメキやワクワク、音楽に触れたときの気持ちを曲にしてみようかなと思いました。
h-wonderさんは、デビュー前からずっと憧れていた作家さんなんです。倖田來未さん、BoAさんなど、ポップ・ディーバと呼ばれる方々のクレジットを見ると必ずh-wonderさんのお名前があって。ホリプロのオーディションでも、倖田來未さんの「COME WITH ME」というh-wonderさんが作曲・編曲を手掛けられた曲を歌っていたこともあって、数年前から「大事なタイミングでh-wonderさんにお願いしたい!」と漠然と思っていました。この曲のテーマが決まったときに「今こそh-wonderさんだ!」と。当時h-wonderさんが作るファンクな楽曲や、ホーンセクションを使った楽曲に憧れていたので、それをお伝えして作っていただきました。
──そうしたら念願叶ってという感じだったんですね。
May’n:そうなんです。h-wonderさんとの最初の打ち合わせはリモートで、「初めまして」からのスタートだったんですけど、「私h-wonderさんのあの曲が好きで!」「オーディションでも歌って!」といちファンとしてお話ししていて(笑)。レコーディングもh-wonderさんにディレクションしていただけるなんて……!と。
──歌声はどこかフレッシュな雰囲気ですが、これはあえてだったんですか?
May’n:そうです。甘酸っぱさ、若々しさのようなものは意識してテイクを選んでいます。当時の気持ちの歌詞だったからこそ、今のMay’nではなく「少し年齢を落として、10代のような気持ちで歌うのもありなんじゃない?」って話から少し(年齢感を)下げて歌いました。「ここ、少しテンション上がりすぎかもしれないから、もう少し落として」とh-wonderさんが何度もおっしゃっていたんですが「多分、私はh-wonderさんとご一緒していることにテンションが上がってしまっているんです!」と(笑)。またひとつ夢が叶ったなと思う瞬間でした。
──ディレクションもそれぞれの曲の作家さんが行ったんですか?
May’n:基本的には作家の皆さんがしてくれています。h-wonderさんをはじめ、Rin音さん、向井太一さん……私が憧れていた方々に楽曲をお願いして、皆さんが快くオッケーしてくださって。私自身の“好き”を詰め込むことのできたアルバムになりました。
──3曲目「place roulette」は作曲と編曲をRin音さん、Taro Ishidaさんが手掛けられていますね。
May’n:私がいま大好きなアーティストで、日ごろから作品を聴かせていただいているんです。ぜひご一緒したいとオファーさせていただきました。「place roulette」は、デビュー当時の自分が夢に向かって悩んでいたときの気持ちを歌にしたいなと思っていて。悩んでいるときって立ち止まってる自分が嫌だったり、「前に進みたいのになんで後ろに下がってしまうんだろう」って思ってしまったりするんですけど、自分次第で道は広がっていくし、実は後ろと思っている道も、前進かもしれないなと。
曲を作るにあたって先に歌詞のイメージが欲しいということだったので、「私はこういう歌詞を書こうと思っています」と短編小説のようなものをRin音さんに送らせていただいたんです。「芽依14歳。私はいま渋谷にいる」的な(笑)。
──それ読みたいです(笑)。アルバムにつけてほしい!
May’n:(笑)。
──ところで、なぜ渋谷からのスタートなんです?
May’n:名古屋から上京後、自分のキャリアが渋谷からスタートしているんです。オーディションの最終審査の場所が(ライブハウスの)渋谷クラブクアトロで。そこで夢を掴んで、夢の入り口に立って。渋谷への憧れもありながら、「美容院や買い物に行ってみたい!」と表参道にも憧れていて。それと同時に、当時所属していたレーベルが青山一丁目にあったので青山一丁目に行くことも多かったんですね。渋谷から始まり、表参道、青山一丁目に行くっていう──いま振り返ると、(路線図で表すと)紫色の電車の半蔵門線で自分のキャリアは始まったんですよ(笑)。
──渋谷、表参道、青山一丁目……まさに半蔵門線の路線図通り!
May’n:そうなんです(笑)。でもなかなか順風満帆とは行かず、お仕事が少なくなって、レーベルのある青山一丁目に行ける機会が減ってきて。「表参道の美容院も高いからなかなか行けないかもしれないな」って思ったときに「私、全然前に進んでないな」と。
そんな中で、May’n名義に変わるキッカケとなったTVアニメ『マクロスF』のお話をいただいたんですが、その場所が池尻大橋だったんです。マクロスと池尻大橋はまったく関係ない場所なのですが(笑)、たまたまマネージャーさんと池尻大橋にいたときにそのお話を受けて。だから私の中で池尻大橋は思い出の場所なんです。
──また半蔵門線つながり!(笑) 渋谷の隣ですね。
May’n:そうなんですよ!(笑) 池尻大橋方面に向かうと、半蔵門線は田園都市線という名前に変わりますけど、紫色の電車には変わりなくて。
表参道方面をまっすぐに見ていたら池尻大橋は後ろになるんですけど、後ろと思っているほうを向いたら前になる。自分次第で、360度、道は広がってるんだなって。そこから、東京の路線図を思い浮かべて、「路線図をテーマに曲を書いてみたいです」ってお話をしたら「路線図ってすごろくみたいですね」って話になって。
そうしたらRin音さんから「人生をすごろくに例えて曲を作るのはどうですか?」というご提案をいただいて。「place roulette」というタイトルもRin音さんが最初につけてくれたんです。私の中では「パープルルーレット」ですね(笑)。東京以外の人から聞いたら分かりにくい話で申し訳ないんですけども(苦笑)。コロナが落ち着いたら、ぜひ皆さん東京に遊びに来てください!(笑)
──(笑)。<ベル鳴り響き 行き先は遥か遠い 拝啓、未来の私へ>と言っていた当時のMay’nさんが、後半では今のMay’nさんとして<ベル鳴り響き進む道 私次第 背景 あの日の私で 不安混じらすいつもの歌声を愛している>と振り返っているのも感慨深いですね。
May’n:あそこはこだわった部分のひとつで。<拝啓、未来の私へ>という言葉は、あえて同じ音で別の言葉に変えています。今の私から過去の私に「大丈夫だよ」って言ってあげられるような曲になったなと。
──<不安だらけの今日の歌声を許していて>という言葉もありますが、当時の自分を抱きしめて許すことって、実はすごく大切なことですよね。
May’n:当時は自分自身を悔んだり、大丈夫かなって思ったり……悩んでいた当時の自分に大丈夫だよって言ってあげられる歌を作れたというのは、すごく大きなことだなと思ってます。人生を振り返ると、小さな後悔、反省っていっぱいあって。だけど、今の自分を思うと……「今に辿り着いてるからいいや」って思える今がちゃんとある。すべてを肯定してあげられる今の自分だからこそ歌える曲になったなと新曲を聴いていると特に思います。
今、そういうモードなのかもしれないですね。「Walk with moments」もそうでしたし、「未来ノート」もオーイシマサヨシさんが作ってくれた曲ではあるけど、自分自身の気持ちとして歌わせてもらえていますし。
──そこから一転、5曲目「Real Lies」(作詞:May'n 作曲:向井太一・CELSIOR COUPE 編曲:CELSIOR COUPE)は、このアルバムの中では毛色の違う曲ですよね。R&Bテイストのドキッとするような恋愛の曲で「place roulette」とのギャップにも驚きました。
May’n:「Real Lies」は最初に向井太一さんがデモを送ってくれたんですが、デモの中で向井さんがメロディを歌ってくださっていて。それが「ライライライ」と歌っているように聴こえて、「ライ、ライ……ライズ!?」って(笑)。それで嘘をテーマに歌詞を書いてみたいなと。音から引き寄せられた曲だったんです。
──Real(本当)とLies(嘘)というのは真逆の言葉ですが、この言葉をつなげた理由というのは?
May’n:デモの向井さんの声がすごくステキで。ステキだったからこそ「こういう人に嘘をつかれても騙されちゃうよな」って思ったんです。でも騙されたと分かってても過ごしてしまったとしたら、それは誰かに騙されているんじゃなく、自分自身が自分のことを騙してるのかも……って想像が広がって。「Real」(本当)と「Lies」(嘘)って相反する言葉ではあるんですけど、嘘がたくさんある世界をリアルと思ってしまう瞬間ってあるかもなと思ったんです。向井さんの声でデモがこなかったら、この世界観は生まれてなかったと思うのですごく感謝しています。
──偶然から物語が生まれていったんですね。
May’n:「音楽制作って楽しいな!」って思いました。今まではライブを経て生まれた感情で曲を作っていくことが多かったんですが、楽曲からインスピレーションを得て生まれた新たな引き出しがあって。自分自身も刺激が多い制作でしたね。
──6曲目「イリタブル」はいまの時代背景も感じる曲で。<天気のせいにして
ラクさせてよ、ねぇWi-Fi重たいせい渋滞ハマったせい ブタクサ飛んでるせい>、あーすごく分かる!って!(笑)
May’n:うれしい!(笑) これは私の人生のモットーでもあるんです。頑張ってる人、全部ひとりで抱え込んでしまう人に、「そんなに自分のせいにしなくていいんだよ」「抱え込まなくていいんだよ」「たまには誰かのせいにしちゃいなよ!」って伝えたいなって。時々、第三者May’nのようなものが現れて「良いんだよ、逃げちゃいなよ!」って囁くんですよ(笑)。
──第三者May’n(笑)。俯瞰で見られたときに現れるんです?
May’n:そうですね。中林家の教えでもあるんですけど、小さいときからいるんです。こういう「逃げちゃいなよ!」ってメッセージって、誰かにとっては正解だけど、誰かにとっては違う場合もある。だから声を大にして伝えるメッセージではないのかなと思うと、今まで歌詞にできなかったんです。
でも最近は、誰かひとりでも受け取ってくれる人がいるんだったら届けたいなと思えるようになったし、これで「分かる!」と思ってくれるひとがいるなら、その人のために歌を届けたいなって。実際、友だちにもよく言う言葉なんです。私自身も普段から体調管理やケアには気を付けていますが、いくら気を付けてても、湿度や天気で喉に影響があって。時には、頑張れなかった自分を攻めるのではなく、天気のせいにすることで自分が救われても良いのかなって。「良いんだよ、良いんだよ!」って。
私自身が……あんまり怒りや悲しみを前に出してこなかったタイプなんです。もちろん人前ではそういう感情は出さないほうが良いとは思うんですけど、他の人には言わなくても、自分自身はちゃんと気付いてあげなきゃなって。「私もたまにはイライラするんだよ」「この間こんな嫌なことがあってさ」って音楽なら伝えられるんじゃないかなって。人生を重ねてきたからこそ、自分の感情を素直に表に出すことができました。
──今だからこそ綴ることのできた曲なんですね。ところで、その第三者May’nって、よくマンガやアニメに登場する天使と悪魔のような、そういうイメージなんでしょうか?
May’n:ああ~確かにそうかもしれない! 天使と悪魔だったらどっちなんだろう?(笑)チビMay’nが具現化されたような感じです。