『キラッとプリ☆チャン』シリーズ構成・脚本 兵頭一歩さんに聞く、やりがいに溢れたプリ☆チャンとの3年間|語っても語りつくせないほどのエピソードがある――【インタビュー】
兵頭さんと池畠さんとの関係性 「実はもう10年くらいのお付き合い」
――池畠監督とのお付き合いはいつからなんでしょう?
兵頭:東映アニメーションで制作された『ロボットガールズZ』(2014年放送・シリーズ構成担当)でお会いしたのが最初でした。『ロボットガールズZ』は大先輩である黒田洋介さんからお話をもらい参加することになったんです。それが10年前くらいですね。話してみたら実は同じ大学の出身だったり、自分が働いていたサンライズにも在籍していたことがあったりと共通点が多くて。なんというか……監督とは、今の自分を成すリソースが似通っている部分が多いんですよね。
――例えば、他にはどんなところが?
兵頭:好きなものへの感じ取り方が似てるなと。ありていに言うと笑いのツボが同じというような感じで「あのアニメのあそこが面白かった!」「そうですよね!」って。実際には照れくさくて聞いたことはないんですが、もしかするとそういう部分でやりやすいと思ってもらえたのか、よく声をかけていただけるようになりました。
――『プリ☆チャン』にお声掛けされたのはどのようなタイミングだったんですか?
兵頭:ちゃんとは覚えていないんですが、『プリ☆チャン』が始まる10か月前くらいの、夏だったように思います。タツノコプロのアニメーションプロデューサーである金子(未来)さんからメールをいただいたんですが、最初はなぜこんなキラキラした可愛いアニメの仕事が自分に来たのが分からなくて(笑)。詳しくお話を聞いたら「池畠さんからご紹介いただきまして」と。そこで普通なら「ああ、そうですか、よろしくお願いします」となるのですが、そのときの自分の第一声は「え、(こんなキラキラした作品を)あの博史池畠がやるんですか!?」でした。監督の“芸風”はもちろん知りすぎるほど知っていたので、失礼ながら「正気ですか?」と(笑)。
でも、前作の『プリパラ』シリーズを森脇真琴監督がやられていることを思い出し、すぐに「なるほど!」と納得しました。池畠監督の森脇監督へのリスペクトっぷりは昔から知っていましたし、力量はもちろん、池畠監督なら新しいプリティーシリーズをつくってくれると信じることができましたから。こりゃ面白いことになるぞ、と(笑)
――そういった経緯があったんですね。オファーを受けて、率直にどう思われましたか?
兵頭:脚本家になる前、サンライズ制作のロボットものである勇者シリーズの現場で業界のキャリアをスタートさせたこともあり、素直に「玩具ものをやれるんだ、嬉しいな」と思いましたね。脚本家になってからも何度か玩具ものを書いた経験もあるし、そのやりがいも知っていましたから。
――じゃあ二つ返事で?
兵頭:はい。ただプリティーシリーズの最新作という意味ではプレッシャーや不安もありました。前作の人気も知っていましたし、年に数回リアルなライブもある。おもちゃ売り場やゲームコーナーで稼働する筐体では、小さな子たちがカードを使ってコーデを考えて遊ぶ。物語以外にもたくさんのことを考えなきゃいけないのがこのシリーズなんですよね。具体的な例を挙げると、まず困ったのは「オレ、今までコーデって気にしたことない!」ということ(笑)。慌てて若い女性のみなさんに「最近はどうなの?」って聞いてまわると「最近小さい子の間にはプチプラメイクが流行ってて」と返って来て「プチプラ!? なんですかそれ」と、そこからのスタートでしたね(笑)。
けれど長いシリーズなので、現場に入ればそういう方面でのオーソリティばかり。たくさん助けていただきました。タカラトミーアーツさん、タツノコプロさん、シンソフィアさん、みなさん「こうやってやっていきたい」というビジョンもハッキリしていて、だからこそ自分のやるべきことも明確でしたね。「この現場だったら自分の好きなこともやれそうだし、ライターとしてもう一段上に行けるんじゃないか」と思った記憶があります。そういう意味では本当に頼もしく感じました。
――今振り返ってみると「一段階上に行けた」という手ごたえは感じられていますか?
兵頭:どうなんでしょうか。ただ昨今、同じタイトルが3年もの間ずっと放映され続けるっていうのは珍しいんですよね。そんな作品のシリーズ構成をやらせていただけたのは、何ものにも代えがたい経験です。ファンやスタッフのみなさんからの応援もあって、最後までやり切れたことで自信にもつながりました。
――以前出版された『スクライド・アフター 完全版』の巻末でも、「この作品を経て、書き手としても男としても変われた気がする」といったことを書かれていたと思うんですが、やはりそういった感覚というのは作品毎に感じられるものなのでしょうか。
兵頭:(爆笑しながら)そんなところまで読まれてるんですか、ありがとうございます。『プリ☆チャン』から話はそれてしまいますが、『スクライド』の小説版は、ファンの皆さん、サンライズの友人や、谷口(悟朗)監督、黒田(洋介)さんたちおかげで、10年という時間を経て、やっと完結させられたという経緯があります。
『完全版』の発行時、谷口監督は「10年という蓄積は(兵頭という男に)いかなる糧を与えたのか。私が、そしてファンの人達が待ち望んだ答えがここにある」という帯のコメントを贈ってくださいました。その言葉をもらってからというもの、自分は「時間をかけて取り組んだ後には、相応の変化や成長を見せなくては」と考えるようになりました。
だから『プリ☆チャン』に関しても、「3年間やり切った、満足!」じゃなくて、「『プリ☆チャン』があったからこういうモノが書けるようになった」と言えることが、ファンやスタッフのみなさん、お世話になった方々への恩返しになるのかなと思っています。『プリ☆チャン』の3年でいかなる糧を得たのか、それを示して行くのがこれからの課題です。
――この3年間、兵頭さん自身の糧になったことって、経験以外には具体的にどのようなことだと思いますか。今思う範囲で構わないのですが……。
兵頭:いろいろありますけど、子どもたちの夢に少しでも関わることができたかもしれない、という実感でしょうか。自分がお世話になったライターさんや知り合いのライターさんに、娘さんがいる方たちがいて、そんなみなさんから「ウチの子が『プリ☆チャン』のファンで」という話を聞くとすごく嬉しく思いました。「どうしてもカードスリーブが手に入らないんだよ」と聞けば、「わかりました」と季節外れのサンタクロースをしたこともありましたね。その際、「キミは確かに子どもに夢を与える仕事をしている」と言われて、泣きたいくらいに感動しました。
――余談なんですが、私の子どもも『プリ☆チャン』が好きで、一緒にアニメを見ているんです。「今日脚本家の方にお話を聞くんだよ」と言ったら「あのお話って作られたものなの?」と。もちろんアニメーションということは分かってるんですけど、一緒にオンラインでライブも見たこともあって、現実とアニメとの境目があまりないというか。
兵頭:ああ……そのお話は『プリ☆チャン』冥利に尽きます。時々現実離れした無茶なこともするんですけど、基本的に地に足の着いたリアリティのある世界観というのはずっと意識していましたから。そういう小さい子からの感想というのは本当に貴重でありがたいです。
ネットを通じたりして目に入って来るのはどうしても年齢が上の方からの意見になってしまいますから。もちろんそれもありがたく受け止めているんですが、本来のユーザーである小さな子たちからの意見は、なかなか届いて来ない。だから実際に親御さんからの話をうかがえるのはとても嬉しいです。
知り合いのライターさんで小学生のお子さんがいる方がいるんですが、そのお子さんも『プリ☆チャン』をずっと観てくれていて、最終回を迎えたときには、親御さんであるライターさんご本人からメールをいただきました。「我が子は『プリ☆チャン』の「どんな性格や考え方も、全部ステキでオッケーなんだよ!」というメッセージを純粋に受け取り前向きになってくれたようです」と書かれており、本当に震えるほど嬉しくて、感動しました。
――ひとりの子どもの人生がいい方向に向かうってめちゃくちゃ嬉しいことですね。
兵頭:また別の話なんですけど、プリパラ&プリ☆チャンのライブに、お子さんと一緒に参加された脚本家さんがいたんです。コロナ禍の前、まだ打ち上げなどが出来ていた頃だったので、公演後、舞台裏にも一緒に行ったんですが、そこではi☆Risの方々がその子に向かって、キャラクターそのままに「今日はありがとー!」「誰推し?」と、優しく話しかけてくれたんですよ。めちゃくちゃ感動的じゃないですか? こんなのもう、小さい子はメロメロになっちゃうよ、一生忘れないよ、と(笑) プリティーシリーズに限らず、子どもを相手に作品をつくるってこういう部分が大事なところだし、醍醐味なんだよな、と再確認しました。
キャストのみなさんに「舞台や子どもの前ではこうして欲しい」とお願いしているわけでもないのに、自然とみなさんの中にキャラクターが生きている。それこそがプリティーシリーズの強さです。役者として、1年、2年、それ以上、同じキャラクターを演じ続けることって昨今のアニメ業界ではあまりないことだと思うんです。しかもライブではパフォーマンスもしなくちゃいけない。
だからこそ「このキャラクターが私なんだ」という自負は、他の作品よりもより強くなるのだと思います。ライブでは、毎回ステージ上で役者さんたちがキャラクターそのものの掛け合いをするじゃないですか。台本もない、もちろんすべてアドリブです。毎回本当に驚かされます。あれは生半可な取り組み方では、決して実現できるものではないですよ。
――キャラクターに寄せているというより、本当に“キャラクターのまま”という雰囲気ですもんね。作詞家の松井洋平さんとのインタビューでも話題になったんですが、プリフェスでみらい役の林 鼓子さんがこれまでのことを振り返る場面がありました。兵頭さんはどのような思いで聞かれていたんでしょうか。
兵頭:いろいろな思いを感じましたね。『プリ☆チャン』の3年間は中学・高校の3年間のようだったとTwitterにも書きましたけど、林さんの場合はリアルに高校3年間ずっと『プリ☆チャン』だったわけですから。
依田:1話目のアフレコの時は中学生でしたからね。
兵頭:高校3年間って人生のなかでも大切な時期だと思うんです。林さんはその時間の多くを『プリ☆チャン』に費やしてくれたわけです。これから林さんがどういう人生を歩まれるかは分からないですけど、「私、高校のころに『プリ☆チャン』って作品をやっててさ」と、ずっと笑って話せるようにしたいなというのは、自分の願いとしてずっと持っていました。