『キラッとプリ☆チャン』シリーズ構成・脚本 兵頭一歩さんに聞く、やりがいに溢れたプリ☆チャンとの3年間|語っても語りつくせないほどのエピソードがある――【インタビュー】
3年間かけて池畠監督から引き出した、ある言葉
――『プリ☆チャン』シーズン3の中で特に印象深かったことはありますか。
兵頭:シーズン3はとにかく要素が多く、これが最後のシーズンになるという気負いもあって、正直構成作業はかなり難航しましたね。特にシーズン3の後半はすごく悩みました。でもそれは何か答えを見つけるための悩みではなくて、悩んだだけの積み重ねが画面に活きるような、作品を豊かにするための必須作業だったように思います。
そんなときに監督から出てきたのが、Twitterにも書いた「『プリ☆チャン』はテクノロジー賛歌でもある」という言葉だったんです。冒頭の方でも話させていただいたように、監督から言葉を引き出すのが自分の仕事ですから、それを聞いたときには「もしかしたらこれは、3年かけてやって来たからこそ引き出せた言葉なんじゃないか」と思いました。
それは「初めて聞いた、最初から言ってくれれば良かったのに!」ということでは決してなく、「ああ、そうだ。プリ☆チャンって確かにそうでしたよね」と確認し合えたと言うか、言葉にしてもらったことで認識がクリアになって、全部が腑に落ちた、という気持ちです。そこで現在の形の最終話をやり切る踏ん切りがつきました。
ただ最初の話に戻りますが、そこにいたるまでのシリーズの組み立て方には、本当に悩みました。やはり小さい子が楽しめるようにするため、構成もまずはわかりやすくする努力が必要です。たとえば緻密に伏線を張ろうとしても、大人のように、忘れずに追いかけてもらうことはなかなかできないから、その手を使うことができない。これは子供向けを馬鹿にしているわけではなく、子どもに真摯に向き合うがゆえの方法論です。また、あるキャラクターの描写をクライマックスでいちばん感動的にするために、そこにいたるまでのつらい時期を先に積み上げたりするのは作劇上の定石です。でも、つらくて楽しくない時期が長すぎるとそもそも観てもらえなくなってしまうかもしれないし、それを我慢して観続けろと言うのも子どもたちにとっては酷なことです。そういったことを考えた上で、物語としてシリーズを盛り上げて行くのは本当に難しい。こういったシリーズのつくって行く醍醐味でも確かにあるんですが、テクニカルに割り切らなければいけないことも多く、もどかしいこともしばしばです。
――そんな中でシリーズを構成していくというのが兵頭さんのお仕事でもあると。
兵頭:そうですね。シーズン3の構成に関しては、最初にマスコット、中盤にアリス・イブ、最後にソルル・ルルナとはっきりブロックごとに分けていて、これは物事を一つずつ丁寧に解決してから次のお話へ、と展開をわかりやすくするための手段でした。だから大人の目から見ると「最初から出ているのに、アリスとイブの話がなかなか始まらない」とか「いきなりルルナが暴走し始めた」と、いろいろ気になるところが出て来るかもしれません。もちろん今となっては言い訳でしかなく、もっと別の上手いやり方があったのかもしれませんが、そこは子どもたちの観やすさを最優先にしたいと考えていました。
しかし前半をまるごと使って、キラッCHU、メルパン、ラビリィのマスコッツをじっくり描けたことは、結果的に良かったと思っています。プチからプリティーマスコット、そしてアイドルマスコットとなってデビューするまでを3人分キッチリ描けたことで、ものすごく愛されるキャラクターになってくれたと思います。さらに意外なところでいうと、中盤のルルナがあんなに愛されるキャラクターになったのは想定外でした。自分としては、悪役としてすべてが解決するまでは嫌われ役になるのもしょうがないと思っていたのですが、“マスコットの偉い人”として監督が面白く魅力的に描いてくれたおかげで、ずいぶん予定が狂いました(笑) こういうように、想定した以上の効果が出るというのは、このシリーズの楽しいところでもありますね。
――それこそ森脇監督が「プリパラは“こんなはずじゃなかった”の連続。どれだけ考えても物語は運命のように決まっていく」といったことをおっしゃっていたのをお見かけしたことがあります。
兵頭:本当にその通りだと思います。森脇さんがおっしゃっている運命というのは……あらかじめ決まっているようなもののことを言うのではなく、みんなで考えて考えて、やっと導き出された“運命的なもの”を指しているのかなと。こんなはずじゃなかったんだけど、これで良かった、こうじゃなきゃいけなかったと最終的に思えるのは、いくつもの分岐点で、その都度キャラクターたちと真摯に向き合ってきたからこその自信だと思います。「それでもキャラクターの運命を決めたのは自分」―――森脇監督の言葉は、そんな責任と自負を背負う覚悟を示したものだと思いますし、自分もその気持ちを忘れないようにしたいなと思いました。
――話はそれるんですが「こんなはずじゃなかった」という意味では、新型コロナウイルスの影響で、シーズン3が始まった直後、約1ヵ月新作の放映が中断したこともありました。
兵頭:単独として初めてのライブ「Hello! プリ☆チャンワールド」(2020年7月18日開催)も完全配信になってしまいましたからね。でも、アニメ業界の中ではいち早く完全配信のライブを実現できたことには大きな意味があったと思うんです。現場で見られないことは残念だったんですけど、一方で『プリ☆チャン』らしくて良いなとも思いました。動画配信をテーマにしていた『プリ☆チャン』が本当に生配信ライブをやったというというのは、運命的だなと。打ち上げができなかったのことは寂しかったですけどね(笑)。『プリ☆チャン』シリーズ終了の打ち上げも「(コロナが)落ち着いたらやろう」とずっと言ってるんですが、いまだに実現できていません。でも必ずどこかのタイミングでやりたいです!