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『竜とそばかすの姫』齋藤優一郎インタビュー|【アニメスタジオの今と未来・連載第3回】

【アニメスタジオの今と未来】スタジオ地図10周年企画・齋藤優一郎さんに聞く『竜とそばかすの姫』|現代を描き続けることで「変わらないもの」と「変わるもの」【連載第3回】

ガラッと変えるべき10年

ーーこれも細田監督にお聞きしたのですが、今回<U>をはじめとしたインターネット上の仮想世界はどのように作られていたのでしょうか?

齋藤:細田さんの思考実験の流れの中で、いろいろな人たちに取材をしました。「インターネットの未来はどうなるのか?」についてです。

その中で5Gの規格を作ったNTTドコモの永田聡さんに取材をしたんです。永田さんは今、6Gの開発を行っていると聞いています。そのときの取材で興味深かったのは、話題が技術論にならないことでした。技術者の方に取材すると、デバイスやテクノロジーの話になると思うけど、全然そんなことはなくて。

特に面白かったのは永田さんが言った「5Gでできなかったことがあるんです」という話題です。「何ができなかったんですか?」と聞いたら「人間を幸せにできなかった」と言うわけです。

ーー深いですね……。

齋藤:「私たちは技術者であり研究者なので、“こういう技術を使ったら社会にこういう影響を及す”ということを考えているんです」と。

例えば、5Gを使えば様々な現場でロボットやドローンを遠隔操作できるようになったり、遠隔で医療技術を世界中にシェアできるようになったりします。

新しい技術ができた結果、ビジネスや社会の仕組みが変化するので、「こういう風に使ってください」と合わせて使い方を提言する事が自分の仕事なんだ、と永田さんは仰っていました。

でも、5Gで繋がった先の行動やコミュニケーションの先でどうなるのか、どんな価値観が生まれるのか、果たしてそれが人を幸せに出来るかというところまで、至っていないのではないかと仰っていました。

5Gによって便利になることは多いけど、それが結果として“人の幸せに繋がるのか”という部分まではまだ到達出来ていない。

そんな話をされている永田さんを見て、技術者というよりはまるで社会学者のような、もっというと、ある種の人類の道標を作っている人のような感覚を得て、とても僕は感動してしました。細田さんもとても面白がっていました。

細田さんが描きたいのは、2009年公開の『サマーウォーズ』以降のインターネットが「こういう所がアップデートされて、<OZ>との違いはここで」という事ではないんです。この世界を否定するのではなく、現実の世界もインターネットの世界もその両方を肯定することなんです。

ーー永田さんのお話も大変興味深いですね。その他にもかなり取材を行ったのでしょうか?

齋藤:いろいろな方に取材に行きましたね。永田さんに紹介してもらった方をはじめ、10人くらい取材しましたけど、どれもすごく面白かったですよ。他にも本作に登場するボディーシェアリングを研究されている工学研究者の玉城絵美さんなどにもお話をお聞きしました。

ーーそういった取材が作品のテーマを支えているんですね。

齋藤:本作はコロナ以前に始めた企画ですが、まさかこのよう世界的な社会の大きな変化が起こるとは当然予見すらしていませんでした。ただ、いみじくも、この映画のひとつのテーマ、「生きる」とか「生きろ」とか「生きて」とか「誰かと一緒に生きたい」「共に生きよう」とか、「もう、ひとりじゃない」んだとか、そういったものって、とても現代的なテーマになったんじゃないかって思うんです。

最近もフランスの知人から半年以上ぶりに映画館や商業施設が開いたという話を聞きました。なんとなく僕の感覚では、経済的が困窮してきているから開けたんじゃないか?と思ってしまいましたが、実はそうではないと。

日本と違ってロックダウンがあまりにも長く厳しく、人との接点がなくなり、多くの人々が精神的に参ってしまったり、悲しい事例がすごく多くなったからなのだそうです。もちろんワクチン接種の進みというのは大きいとは思うのですが、そう言った人の気持ちの状況を改善するためにも、商業施設だけでなく、映画館、文化的な事業を再開することを決めたのだと聞きました。

僕たちはこんな変化がある前から作品を企画し、作り始めましたが、見えにくいこれからの未来で、どうしていくべきなのかという答えの1つが『竜とそばかすの姫』にはあるんじゃないかなって思っています。

ーーその思いは必ず届くはずです。それではそろそろお時間なので最後の質問を。今後、齋藤さんがスタジオ地図でチャレンジしてみたい事や構想をお聞かせいただければと。

齋藤:これは個人的にもスタジオ地図的にも、もっと言うとアニメーションスタジオそのものに関わる話かもしれませんが、大きく変わらざるを得ないということです。いや大きく変わっていくべきとポジティブに思っています。

それは作品が要求する事とかマーケットが要求する事とかよりも、時代が大きく変化してきているからです。

いずれにせよ「『おおかみこどもの雨と雪』だけは作ろう」と緊急避難的な措置で始めて、10年やってきましたが、創設の精神は保ちつつも、アニメーションスタジオとして役割や機能、新しい定義づけを行っていく必要がある、そう思っています。どうせ変えるなら5年後、10年後を見据えて大きく変えるべきだなと思います。

映画が現代を描くもので、映画自体が現代だとするんだったら、現代が変わってきているなら我々も変わらなくてはいけない。しかも大きく。

これからスタジオ地図が5年、10年とやり続けていくのであればガラッと変わる、ガラッと変えるべき10年になるだろうなと思っています。

[インタビュー/石橋悠]

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アニメ映画『竜とそばかすの姫』作品情報

ストーリー

自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。

<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。

現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。

もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。

スタッフ

■監督・脚本・原作:細田守
1967年、富山県出身。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社し、アニメーターを経て演出(監督)になる。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督としてデビューを果たす。

その後、フリーとなり、『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)を監督し、国内外で注目を集める。11年、プロデューサーの齋藤優一郎と共に、自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)でともに監督・脚本・原作を手がけた。

最新作『未来のミライ』(監督・脚本・原作)は第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出され、第91回米国アカデミー賞の長編アニメーション映画賞や第76回ゴールデングローブ賞のアニメーション映画賞にノミネートされ、第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞した。

■企画・制作:スタジオ地図
■製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網 共同幹事

公式サイト
スタジオ地図公式Twitter
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1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。

この記事をかいた人

石橋悠
1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。

担当記事

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